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寄与分とは相続が開始した場合において、相続人の中に被相続人の財産増加等に一定の寄与をしていた者がいた場合に、民法が定める法定相続分を超える財産の取得を認める制度です(民法第904条の2)。
本稿では、寄与分制度の目的、具体的な内容、および、寄与分が認められる要件について整理したいと思います。
寄与分制度の趣旨
法定相続分
寄与分を考える前に、法定相続分について確認しておきましょう。
法定相続分は、被相続人との関係によって一律に以下のように定められています(民法第900条)。
①配偶者は常に相続人になる
②第1順位の相続人は子供
③第2順位の相続人は父母
④第3順位の相続人は兄弟姉妹
配偶者と子供が相続人の場合には、それぞれの相続分は1/2
配偶者と父母が相続人の場合には、配偶者は2/3、父母は1/3
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者は3/4、兄弟姉妹は1/4
子供、父母、兄弟姉妹が複数いるときは、その相続分を按分する。
このように、法定相続分においては、相続人の被相続人に対する貢献度は一切考慮されません。被相続人の世話をしたり、事業に貢献したりした者も、全く被相続人の世話をしなかった者も、相続分は同じとなります。
寄与分制度の根拠
寄与分制度は昭和55年(1980年)の民法改正で新設されました。
しかし、長男が父親の営む家業を明確な雇用契約を締結することもなく手伝ったことにより家業が繁盛したが、次男は家業を全く手伝うことがなかったという場合に、父親が亡くなった時に、長男がその貢献分を全く評価されず、次男と同じ相続分子か認められないのは不公平であるという考えから、法定相続分という形式的平等の結果として生じる実質的な不公平を是正するために、被相続人への生前の寄与を相続の際に考慮しようとする制度として、民法第904条の2として、新たな規定が設けられたのです。
寄与分が認められる要件
それでは、寄与分が認められる要件を見ていきましょう。
共同相続人の一人であること
寄与分が認められるのは共同相続人に限られます。
相続人ではない者は、たとえ被相続人の生前に多大な貢献をしていても「寄与分」を主張することはできません。
ここで問題となるのは、被相続人の子供の配偶者です。
相続人の配偶者は相続人にはなりませんから、直接、自らの寄与分を主張することはできないことになります。ただ、判例は、相続人(上記の例では長男)の補助者として、長男の寄与分として考慮されるとしています。
・東京高裁平成22年9月13日決定は、脳梗塞で倒れて半身不随となった被相続人を相続人の妻が10年以上介護した事例で、妻の行為は相続人の補助者として行ったものであるとして、相続人に寄与分を認めました。
・東京高裁平成1年12月28日決定は、被相続人の長男が既に亡くなっていたため、その子供(被相続人の孫)が代襲相続した事例で、被相続人の介護をしていた長男の嫁(代襲相続人の母)の寄与を代襲相続人の寄与分として考慮できるとしました。
特別の寄与行為があったこと
民法第904条の2第1項は寄与行為として、以下のものを挙げています。
①被相続人の事業に関する労務の提供
②事業に関する財産上の給付
③被相続人の療養看護
④その他の方法
ただ、④で「その他の方法」としているとおり、これらは寄与行為の例示であり、寄与行為をこれらに限定するものではありません。具体的に見ていきましょう。
①「被相続人の事業に関する労務の提供」
被相続人が営んでいた事業に配偶者や子供が協力していた場合です。
自営業だけでなく、被相続人が会社の代表者を務めていた場合も、対象となり得ます。
<注意点>
この場合に注意が必要なのは、ただ、単に被相続人の事業に従事していただけではだめで、それが「特別な」寄与と認められる必要があります。
具体的には、
-
・労務に対する適正な対価が支払われておらず、実質的に無償に近い形であること
・相応の期間継続して労務提供がなされていたこと
が必要です。
逆に言うと、親子間等でも、雇用契約が結ばれるなどしてきちんと給与などが支払われていた場合や、その期間が短く夫婦・親子間の相互協力義務の範囲内と認められる場合には、「特別な寄与」とは認められず、寄与分も認められないのです。
<判例>
・前橋家裁高崎支部昭和61年7月14日
相続人である妻とその配偶者(婿養子)が長年にわたり被相続人の家業である養豚業に従事してきた事案において、寄与分が認められた。
・千葉家裁平成3年7月31日
相続人が、被相続人の家業である農業の後継者として農業に従事して労務を提供し、一部被相続人の扶養に当たった事例で、寄与分が認められた。
②「(事業に関する)財産上の給付」
相続人が、被相続人の事業に資金を提供していた場合です。
<注意点>
被相続人との通常の消費貸借等の場合には「特別の寄与」とは認められません。
「特別の寄与」と認められるには、銀行などからの借り入れができず、その資金提供がなければ倒産していたという状況下で、その資金提供のおかげで倒産を免れ、業績回復したといった特殊事情がある場合に限られます。
③「被相続人の療養看護」
療養看護とは病気の被相続人の世話をすることをいいます。
<注意点>
配偶者や直系血族は夫婦間の扶助義務(民法第752条)や、血族間の扶養義務(民法第877条)があるため、通常の療養介護をしただけでは「特別な寄与」とは認められません。
「特別な寄与」と認められるためには、長期間にわたり、通常の夫婦・血族関係を超えた介護等がなされたことが必要です。
<判例>
・盛岡家庭裁判所昭和61年4月11日
老人性痴呆で常時付添看護を要する状態であった被相続人の看護を、相続人が10年に渡って行った事例で、付添看護師に支払うべき費用を免れたとして寄与分が認められた。
・大阪家裁平成19年2月8日
被相続人が認知症となり、常時の見守りが必要となった事例で、相続人による介護について寄与分が認められた。
④「その他」
事業以外に関する金銭提供
被相続人が自己名義で不動産などの財産を取得する際に、配偶者や子供が資金を提供した場合
A.扶養行為
被相続人を扶養して、その生活費を負担したり、施設に入る費用を負担するなどした場合
・大阪家庭裁判所昭和61年1月30日
相続人である子が、被相続人である親に対して、18年間に渡って交際費を与えたり、財産管理費を負担し続けたという財産出資・管理型の事案において、相続財産の減少を防いで、その維持に貢献したとして寄与分が認められた。
B.財産管理行為
被相続人の財産を適切に管理したことにより、財産の減少を防いだり、財産の増殖を図った場合
・長崎家裁諫早出張所昭和62年9月1日
被相続人所有土地の売却に当たり、相続人が同土地上の家屋の借家人との立退交渉、同家屋の取壊し、滅失登記手続、同土地の売買契約の締結等を行った事例で、土地売却価格の増加に対する寄与を認めた。
財産の維持又は増加があったこと
寄与分が認められるには、実際に当該寄与行為の結果として被相続人の財産の増加や、維持された(=財産の減少を免れた)ことが必要です。
寄与分制度は、共同相続人の一部の行為によって、被相続人の財産が増え、または、その減少を免れたことに対する寄与・貢献を相続に際して考慮する制度ですから、寄与分が認められるためには、実際に相続財産が増加または維持されたという事実がなければなりません。
また、その寄与行為があったことによって相続財産の増加・維持が実現されたという因果関係がなければなりません。
仮に、寄与行為があり、また、相続財産の増加等があった場合であっても、それが寄与行為とは直接関係ない偶然の事由等によって生じたものである場合には、因果関係がないために寄与分は認められないことになります。
寄与分を主張すること
寄与分制度は、民法上の制度ですが、法律上当然に認められるものではありません
寄与分を有すると考える者が、自ら主張することによって初めて考慮されます。
寄与分の主張方法
遺産分割協議による主張
寄与分は、自らの寄与行為を行った者が、他の共同相続人に対して権利を主張することによって初めて検討されます。
寄与分の主張は通常は遺産分割協議においてなされるのが一般的です。この主張がなされた場合、共同相続人間で寄与分を認めるか否か、認めるとした場合にどの程度の寄与分を認めるかを協議・決定します。
家庭裁判所への申し立て
相続人間の協議で協議が整わない場合には、寄与分を主張する者は家庭裁判所に対して調停・審判を求めることができます。
この場合、家庭裁判所は、遺産分割調停・審判の中で、寄与分について判断します。
寄与分の算定の実際
実際に寄与分はどのように算定されるか、代表的な場合について、基本的な考え方を見てみましょう。
①労務の提供の場合
その労務に対して、賃金等を支払っていたらどの程度の賃金が支払われたであろうかという観点から算定されます。
寄与分額=寄与者の労務に対して通常支払われるべき給与額×労務提供期間
②事業への資金提供
基本的には出資等した金額を基準として金額を調整することになります。
ただし、不動産等の取得資金を提供した場合には、購入当時の価格に対する出資金の割合を、相続開始時における当該不動産の評価額に乗じた金額が基準となります。
寄与分額=相続開始時の不動産評価額×(出資額/購入時の不動産価額)
③療養看護の場合
療養看護を有料で依頼した場合にかかる費用が基準となります。
療養看護を依頼した場合における付添人の日当×療養看護日数
④扶養の場合
扶養した期間を通じてかかった費用のうち、相続分に応じて自らが負担すべき額を超えて負担した額が基準となります。
寄与分額=負担した扶養料×期間×(1-寄与者の相続分割合)
⑤財産管理等の場合
それらの業務を第三者に委託した場合にかかったであろう委託報酬の額を基準として算定することになります。
寄与分がある場合の相続額
最後に、寄与分が認められる場合に、実際に相続人が取得する財産額の算定について確認しておきます。次の順番で計算することになります。
①相続財産から寄与分として認められた金額を除外します。
②寄与分を控除した相続財産を、共同相続人において相続分に応じて遺産分割します。
③寄与者については、②で相続分として認められた遺産に対して、寄与分を加算した額が相続額となります。
具体的に数字を当てはめて見てみましょう。
被相続人の相続財産が2,000万円、相続人が妻、長男、次男の3名、長男に寄与分として400万円が認められた場合。
①相続財産から寄与分を除外します→相続財産2,000万円から寄与分400万円を引いた、1,600万円を相続財産として相続分を算定します。
②上記①で出された相続財産額を共同相続人間で、法定相続分に応じて分割します。
妻:1,600万円×1/2=800万円
長男・次男:それぞれ、1,600万円×1/2×1/2=400万円
③最終的な相続分は
妻は相続分の800万円
長男は相続分の400万円+寄与分の400万円=800万円
次男は相続分の400万円
となります。
まとめ
寄与分制度は、法定相続分として形式的に遺産分割をした場合に生じる実質的な不公平を調整する制度です。
ただ、実際には、寄与分の主張は他の共同相続人との利害が対立するため、相続人間の協議ではなかなかまとまらないことが多いです。
したがって、寄与分を主張するには、あらかじめどのような寄与行為を行ったのかを具体的に記録に残しておくなどして、他の共同相続人や家庭裁判所を納得させるだけの証拠を確保しておくことが必要です。
ただ、そのような証拠があったとしても、寄与分が認められるか否かは他の相続人や裁判所の判断次第であるため、不確定といわざるを得ません。また、それが認められた場合でも他の相続人との関係悪化の可能性もあるため、できれば、寄与分を期待するのではなく、被相続人にきちんと遺言等で遺産分割方法を指定してもらう等の対応をしてもらうことが好ましいといえるでしょう。