この記事でわかること
- 死因贈与とはどのようなもので遺贈とは何が違うかがわかる
- 死因贈与は原則として撤回できるができないこともあるとわかる
- 死因贈与を撤回する時にどのような方法があるか知ることができる
財産を保有する人が亡くなった時には、その財産を相続により相続人が引き継ぐのが一般的です。
しかし、亡くなる前に死因贈与契約を締結していた場合には、その財産は贈与と同じように契約の相手方に引き継がれます。
この死因贈与とは、どのような契約なのでしょうか。
遺贈とどう違うのか、あるいは死因贈与を撤回することはできるのかといった点について解説していきます。
目次
死因贈与とは
死因贈与とは贈与契約の一種であり、財産を贈与する人(贈与者)と財産を贈与される人(受贈者)との契約によって成立します。
その特徴は、贈与者が亡くなって初めて贈与の効力が発生することです。
契約の締結は贈与者が生きている間に行い、実際の財産の移転は亡くなった時に発生するため、その間にタイムラグがあることに注意が必要です。
死因贈与と同じように、亡くなった時に財産の移転が発生するものとして、遺贈があります。
遺贈は遺言による財産の贈与のことであり、贈与者と受贈者の間に合意は必要ありません。
これに対して死因贈与は、必ず贈与者と受贈者の両者の合意が必要となります。
そのため、死因贈与は贈与者の意思だけで成立する単独行為ではなく、通常の贈与と同じく両者の合意がなければ成立しません。
死因贈与は撤回できる
贈与契約は、贈与者と受贈者の契約により成立します。
そのため通常の贈与では、契約書を作成している場合に、贈与者が勝手に贈与を撤回することはできません。
ただし、口頭で贈与を約束している場合は、贈与者が単独でその贈与を撤回することができるとされています。
一方、死因贈与の撤回については、遺贈の規定に準ずるものとされています。
遺贈は、財産を残す人の単独行為であり、何度でも遺言書を書き直すことでその内容を相続人の同意なく変更することができます。
死因贈与は遺贈によく似ていることから、この規定に準ずる取り扱いとなるため、贈与者が単独で贈与を撤回することもできます。
死因贈与を撤回できないケース
死因贈与は、贈与者と受贈者の契約により成立します。
しかしその一方で、死因贈与は贈与者の意思により単独で撤回することができます。
ただ、死因贈与契約の成立に関わるその他の条件から、死因贈与が撤回できないケースがあります。
具体的にどのようなケースでは死因贈与が撤回できないのか、確認しておきましょう。
負担付死因贈与が成立している場合
負担付贈与とは、財産を無償で渡す代わりに、受贈者に何らかの負担をしてもらう贈与です。
負担付死因贈与は、贈与者が生きている間に受贈者が何らかの負担を行い、その見返りとして亡くなった後に財産をもらうケースが多いです。
負担付贈与は、受贈者が行う負担と、贈与者から財産が贈与されるタイミングが一致しません。
特に負担付死因贈与の場合は、贈与者が亡くなった時に発生するため、受贈者の負担が先に行われることが多くなります。
そこで、受贈者が負担を行った後に、贈与者が死因贈与を撤回することができるのか、疑問が生じることとなります。
過去の判例では、受贈者が負担付死因贈与の負担として贈与者の療養看護を行ったケースで、撤回できるかが問題となりました。
この点について裁判所は、負担の全部またはこれに類する程度を履行していた場合、贈与を撤回できないとしました。
死因贈与であれば、本来は遺贈と同じように贈与者が一方的に撤回することができます。
しかし、負担付死因贈与の負担だけを受贈者にしてもらって、その後に贈与を撤回することはできないと判断しました。
死因贈与契約が裁判上の和解に基づいて成立した場合
死因贈与が、裁判上の和解によって成立する場合があります。
この場合、裁判上の和解は裁判当事者に対して強い強制力を持ちます。
そのため、裁判上の和解に基づいて成立した死因贈与契約を、一方的に撤回することはできません。
死因贈与は、贈与者が一方的に撤回できるというのが、基本的な考え方です。
しかし、死因贈与が成立した状況や原因によって、撤回することは認められない場合があります。
死因贈与により2号仮登記を行っている場合
死因贈与契約を締結し、不動産を贈与することとした場合には、条件付所有権移転の仮登記が行われるのが普通です。
この登記のことを、2号仮登記といいます。
2号仮登記を行うのは、死因贈与契約を締結していることを第三者にも知ってもらうためです。
土地や建物の登記は、第三者でも取得することができます。
その登記に2号仮登記が行われていれば、現在の所有者が亡くなった時に、その不動産を贈与される人がいることがわかります。
ところが、2号仮登記を行った後に、その死因贈与を撤回したいと考える場合があります。
この場合、死因贈与を贈与者が単独で撤回することは、負担付死因贈与や和解に基づいた死因贈与でなければ可能です。
しかし、2号仮登記を登記簿から抹消するには、受贈者に協力してもらう必要があります。
これは、登記は取引を行った双方が協力して行うものとされており、撤回した場合もまた協力しなければならないためです。
したがって、死因贈与を撤回することはできても、抹消登記ができないということのないよう、注意が必要です。
死因贈与を撤回する方法
遺贈を撤回する規定は民法にあり、いつでも遺言によって撤回することができるとされています。
しかし、死因贈与の撤回については、民法に直接的な規定があるわけではありません。
そこで、過去には裁判で死因贈与の撤回について争われたことがあります。
この裁判の中で、死因贈与は遺贈と同じように贈与者の意思を尊重して、撤回することができるものとされました。
贈与者の意思で、いつでも一方的に撤回することができることとされたため、簡単に撤回できます。
また、撤回の方法について特に決まりはありません。
一般的な贈与が口頭で撤回できるのと同じように、贈与者が口頭で一方的に死因贈与の撤回を伝えるだけでも、撤回は成立します。
ただし、口頭で死因贈与の撤回の意思表示をしたとしても、そのことを客観的に証明できない場合があります。
死因贈与の成立は、死因贈与契約書や2号仮登記によって明らかになりますが、撤回を口頭で行っただけでは証拠が残りません。
その結果、相続が発生した後に何らかの不都合が生じてしまう可能性もあります。
そこで、死因贈与の撤回を行う際は、書面により贈与者と受贈者が撤回に合意していることを明らかにしましょう。
遺言のような厳格な基準に基づいて、撤回の文書を作成する必要はありません。
ただ、贈与者と受贈者がお互いに死因贈与を撤回したことに合意していることを表す書面を作成し、署名押印するといいでしょう。
まとめ
死因贈与は、財産を所有する人が亡くなった時に、特定の人に財産を移転するものです。
その考え方は、遺言書によって財産を特定の人に引き継いでもらう遺贈と同じであり、ただ成立の過程が異なるだけです。
ただ、遺贈は遺言書を作成するという単独行為である一方、死因贈与は贈与者と受贈者の契約という違いはあります。
撤回する際には、死因贈与は遺贈と同じように贈与者が単独で行うことができます。
ただ、トラブルを回避するためには、死因贈与の撤回に関する書面を残しておくことも頭に入れておきましょう。