この記事でわかること
- 不当利得返還請求とはどのようなものか知ることができる
- 相続が発生した場合における不当利得にはどのようなものがあるかわかる
- 不当利得返還請求の流れや手続きの注意点を知ることができる
不当利得という言葉は、普段あまりなじみがない方が多いかもしれません。
しかし、様々な場面で不当利得が発生することがあり、不当利得による利益や損失は、当事者間の争いの火種となりかねません。
不当利得により損失を被った場合、相手方に不当利得返還請求を行うことができます。
不当利得返還請求はどのように行うのか、その流れや注意点を解説していきます。
目次
不当利得返還請求とは
不当利得返還請求とは、不当利得を得た人に対してその不当利得を返還するように要求することです。
不当利得とは、法律上の原因なく、他者に損失を与えた結果発生した経済的な利益のことをいいます。
本来、得られるはずのなかった利益を得ているため、法律に基づいて返還しなければなりません。
不当利得が生じたことで損失を被った人は、不当利得を得た人に、その利得を返還するように求めることができます。
不当利得返還請求の時効
不当利得返還請求は、不当利得により損失を被った人が行使することのできる権利です。
この権利は、いつまでも行使できるものとしてあるわけではなく、以下の時効によって消滅してしまいます。
- ①権利を行使できると知った時から5年
- ②権利を行使できる時から10年
①は、不当利得により損失を被った人が、自身に損失が発生していると知った時からの期間が問題となります。
②は不当利得の発生原因となった行為が行われた時からの期間です。
①と②のいずれかの期間が経過すると、時効が完成します。
不当利得返還請求の適用要件
不当利得返還請求を行うことができるのは、どのような要件を満たした場合なのでしょうか。
4つの要件が定められているので、その内容を確認しておきましょう。
請求された人が利益を得ている
不当利得請求を行う場合、その請求をされた人は利益を得ている人となります。
法に照らして不当であったとしても、利益が発生していなければ請求するものはありません。
請求する人が不当利得により損失を被っている
不当利得返還請求を行う人は、他の者が不当利得を得たことで損失が発生したことが必要です。
自身に損失が発生していなければ、不当利得返還請求を行うことはできません。
損失と利益の間に因果関係がある
不当利得が発生したことにより、自身に損失が発生している状態である必要があります。
この因果関係がなければ、不当利得による損失を被っても、不当利得返還請求権は発生しません。
請求された人の利益に法律上の原因がない
請求された人に生じた利益が、法律上の原因のないものであることです。
法律に根拠のない利益であることから、返還するように請求することができるという考え方となります。
相続における不当利得の具体例
不当利得が発生する事例として特に多いのが、相続が発生した場合に相続人が不当利得を得るケースです。
どのような形で不当利得が発生するのか、その具体例をご紹介します。
被相続人の遺産の現金を使い込む
被相続人が亡くなった時に保有していた財産は、たとえ家族でも勝手に使うことはできません。
遺言書にしたがって引き継ぐか、遺産分割協議により相続する人を決定する必要があります。
また、遺産分割が成立するまでの間は、相続人全員の共有財産として取り扱われ、誰かのものというわけではありません。
そのため、被相続人が残した現金を、遺言などの指定もない人が勝手に使いこむと、それは不当利得となります。
遺産分割協議がまとまった状態でもない中で、何の権利もない人が遺産を使ってしまった事態です。
本来であれば遺産分割協議を行って、現金などの遺産を相続人で分けることができるはずです。
しかし、使い込みをした人がいる場合、遺産が目減りして遺産分割の対象となる金額が減ってしまい、他の相続人は損失を被ります。
そこで、現金の使い込みをした人に対して、他の相続人は不当利得返還請求を行うことができます。
被相続人の預金を勝手に引き出す
被相続人の遺産は、現金以外にも多くの種類があります。
中でも、預金の金額は現金の金額より多くなることが多く、またほとんどの相続で遺産となります。
ただし、預金は金融機関の窓口に行くか、ATMを利用しなければ引き出すことはできません。
ATMでは暗証番号も聞かれるため、誰でも引き出せるというわけではありません。
しかし、被相続人に極めて近い人であれば、ATMで預金を引き出すことが可能な場合があります。
そのような人は、生前から被相続人の信頼があるため、亡くなってからも預金を自由に引き出せると考えてしまうこともあります。
しかし、相続人が勝手に被相続人の預金を引き出し、自身のものとすることは、不当利得にあたります。
生前の被相続人に対する貢献などは、遺産分割の際に考慮すべきものであり、その前に勝手に引き出すことは認められません。
家賃収入を勝手に受け取る
被相続人の遺産は、現金や預金だけではありません。
不動産を所有しているケースも多くあり、その不動産も自宅だけでなく家賃収入が得られる物件ということもあります。
最終的には遺産分割の上、その不動産を引き継ぐこととなった人が相続登記を行います。
ただし、遺産分割が行われるまでは遺産は相続人全員の共有財産となり、そのことは不動産であっても同様です。
そして、家賃収入が発生する不動産の場合、遺産分割が成立するまでに発生する家賃収入もまた共有財産となります。
しかし、家賃収入を勝手に自らの懐に入れてしまうような行為が行われることがあります。
この場合、本来であれば家賃収入が得られたはずの他の相続人は、不当利得返還請求を行うことができます。
不当利得返還請求の流れ・必要書類
不当利得返還請求を行うのは、相続が発生した場合に限った話ではありません。
ただ、相続をきっかけとして不当利得が発生するというケースが多く、この場合、身内同士での争いとなってしまいます。
不当利得返還請求を行う際の流れや、その際に必要になる書類にはどのようなものがあるのか、解説していきます。
不当利得の証拠集め
不当利得が発生していることは、不当利得により損失を被った側がその証拠を集めて、証明する必要があります。
そこで、不当利得返還請求を行おうと考えている人は、まずはその証拠を集めるようにしましょう。
遺産を特定の人が勝手に使い込んだという場合、その使い込みが行われた証拠が必要になります。
たとえば預金を勝手に引き出したのであれば、預金通帳のコピーや取引明細などが証拠となります。
また、家賃収入を受け取った人がいるのであれば、受け取りの際の記録や、支払った人の保管する領収書などです。
ただ、現金については証拠となる書類がないことが多く、証拠集めも難しくなります。
保管されていた場所の状況や、預金から引き出された時の記録などを状況証拠として保管しておきましょう。
不当利得の金額の計算
不当利得返還請求を行う時は、いくらを請求するのか、請求する側で計算しなければなりません。
そして、その金額は合理的な計算によらなければならず、「少し多めに請求しておこう」といったことは認められません。
不当利得の金額は、すでに集めた証拠書類などに基づいて、客観的に計算する必要があります。
証拠書類がなければ請求できる金額も少なくなってしまうので、できるだけ証拠書類を集めるようにしましょう。
内容証明郵便による請求
証拠書類と請求金額の計算の準備ができたら、実際に不当利得を得ていたと思われる人に請求を行います。
この請求の方法については、法律で定められた方法はありません。
ただ、一般的には内容証明郵便を使って、請求を行うこととなります。
内容証明郵便とは、郵便物に書かれた内容を郵便局で証明してもらえるサービスです。
どのような内容の文書を送ったのか、その郵便は誰から誰に出されたのかといったことがすべて記録されます。
内容証明郵便を送付する際には、文書の原本の他に謄本2通を作成し、提出する必要があります。
内容証明郵便によって請求を行うと、この請求書は正式な請求であることが相手方に伝わります。
また、不当利得返還請求の時効が完成する期間を最長6ヶ月間猶予する効果もあり、非常に大きな意味を持ちます。
さらに、内容証明郵便は裁判の際に証拠能力を持つ文書とすることができる点も大きなポイントとなります。
相手方との協議・合意書の締結
内容証明郵便による請求に対して、請求先の人から何らかのリアクションが見られるケースがあります。
リアクションがある場合は、請求された側に、請求に基づいて何らかの解決を図ろうとする意図があると考えられます。
不当利得の返還について両者で話し合いを行い、返還する金額や支払い方法、支払い時期について、お互い合意を目指しましょう。
そして、話し合いを重ねて合意に至った場合には、合意書を作成して双方が署名押印し、保管しておきましょう。
その後、実際に遺産の返還が実行されれば、相続の手続きを改めて進めることとなります。
決裂した場合は民事訴訟へ
内容証明郵便による請求を行っても無視された場合、あるいは話し合いで決着できない場合は、民事訴訟を提起します。
裁判所での審理では、客観的な証拠に基づいて、自身の主張が正しいことを立証する必要があります。
裁判になった場合は自力で対処するのはほぼ不可能となるため、弁護士に依頼する必要があります。
不当利得返還請求を行う際の注意点
不当利得返還請求の流れについて確認してきました。
実際に不当利得返還請求を行う場合、どのような注意点があるのでしょうか。
長期化する場合は相続税の申告期限に注意する
不当利得返還請求についての争いは、長期化する可能性があります。
そのため、相続税の申告期限が相続開始から10ヶ月と比較的短いことに注意が必要です。
もし、不当利得返還請求のために遺産分割協議がまとまらない場合でも、相続税の申告は期限内に行っておく必要があります。
この場合、相続税の申告は法定相続割合により遺産を分割したものとして計算を行います。
その後、遺産分割協議が成立したら、改めて修正申告を行う必要があるので忘れないようにしましょう。
不当利得を証明するのは難しい
不当利得があったことを証明するのは、並大抵のことではありません。
書類を管理しているのは、使い込みをしたその本人であることが多いからです。
また、現金の使い込みなど、証拠がほとんど残っていない場合もあります。
証拠集めに苦労している場合は、弁護士照会の制度を利用することができます。
弁護士会を通じて調査の手続きを行い、遺産に関する調査を行うようにしましょう。
まとめ
遺産の使い込みは決して珍しい話ではなく、軽い気持ちで遺産を使ってしまう人はいます。
この場合、話し合いを行った上で使い込んだ遺産を返還してもらえることがあります。
しかし、話し合いでは解決しない場合は、裁判を提訴するところまで考えておく必要があるのです。
証拠書類や不当利得の金額の計算など、客観的な証拠をそろえて、主張が認められるように準備しておきましょう。