この記事でわかること
- 障害者を家族に持つ場合福祉型信託を利用できることがわかる
- 福祉型信託を利用する場合に特に注意すべき点を知ることができる
- 福祉型信託を利用する場合のメリットを知ることができる
家族信託を利用する場合、大きな理由には節税や遺産相続対策が考えられます。
ただし、理由はそれだけではありません。
子供が障害者である場合には、その子供が残された後も生活できるよう、家族信託を利用することもできます。
ここでは、障害者の子供を持つ人が家族信託を利用する場合の注意点やメリットについて解説します。
子供のためにどのような選択肢があるのか、何に注意しなければならないのかを確認していきましょう。
目次
障害者を対象にする福祉型信託とは
家族信託とは、財産を保有する人が委託者、その家族が受託者となり、財産の保有者以外の家族が財産を管理する制度です。
家族信託を利用する理由として一番多いのは、財産の保有者が認知症などになっても困らないようにすることです。
というのは、財産の保有者が認知症になってしまうと、その財産を本人も家族も自由に活用することができなくなるからです。
特に、相続対策として財産の処分や購入などをしようとしても、認知症となった人は自分で第三者と契約することはできません。
成年後見制度を利用することはできますが、この制度では財産を自由に処分することはできず、相続対策にはならないのです。
そのため、家族信託が徐々に利用されるようになっているのですが、障害者の子供がいる場合にも利用することができます。
精神障害、知的障害などの重い障害を持つ子供がいる場合、自分が先に死んでしまうと子供が残されてしまいます。
また、親が認知症となった場合でも、障害を持つ子供に対する十分な監護ができなくなる可能性があります。
最悪の場合、残された子供の生活が破たんしてしまうこともあるため、非常に大きな不安を抱えていることと思います。
そこで、子供の生活を守るために家族信託契約を締結しておくのです。
障害者を対象にする家族信託については、特に「福祉型信託」と呼ばれ、通常の家族信託とは異なる注意点があります。
家族信託を契約する場合の注意点
福祉型信託として家族信託を利用する場合の注意点は、節税や遺産相続対策として行う家族信託とは異なる注意点があります。
そこで、特に注意しなければならないのは誰を受託者にするかであるため、そのポイントを解説します。
障害のない子供(兄弟姉妹)を受託者にする
通常の家族信託の場合、財産を持つ親が委託者兼受益者、その子供が受託者となります。
こうすることで、親が認知症などになった場合でも、子供がこれまでと変わらずに財産の管理をすることができるのです。
ただし、福祉型信託の場合、障害を持つ子供が受託者となることはできません。
そのため、誰を受託者にするかで頭を悩ませるかもしれません。
障害を持つ子供のために家族信託を利用する場合、できるだけ障害を持つ子供と長く一緒にいる人を受託者とする必要があります。
そこで、多くの場合候補になるのが、障害者以外の子供です。
財産を持つ親が認知症になった場合や亡くなってしまった場合でも、その兄弟が受託者として財産の管理を行うことができます。
こうすれば、障害を持つ子供は受益者として、受託者となった兄弟から信託財産の収入を受け取ることができます。
そして、障害を持つ子供は、信託財産からの収入を施設への支払いにあてることができるため、生活が守られます。
障害を持つ子供の生活を兄弟が受託者として守るというのが、福祉型信託の基本的な形です。
信託監督人をつける
家族信託を行う際に注意しなければならないのは、受託者を信頼のできる人にすることです。
そうしないと、本来20万円の家賃収入があるにもかかわらず、10万円しか受益者に支払わないといった不正が起こります。
しかし、福祉型信託を利用する場合、受託者は兄弟姉妹から選ぶのが基本となるため、多くの選択肢があるわけではありません。
特に、受益者が知的障害者の場合、受託者が不正を行ってもその不正に気付かない可能性が非常に高くなります。
また、受託者となった人が本来は信頼のおける人であったにもかかわらず、不正の誘惑にかられる可能性もあります。
そこで、受託者が不正をしようと考えず、仮に不正が起こっても誰かが気づく仕組みを作っておく必要があります。
この場合に利用するといいのが、信託監督人の制度です。
信託監督人は、受託者が正しく受益者のために財産を正しく活用しているかを監督します。
たとえば20万円の家賃のうち10万円しか受益者に支払われなかった場合には、その不正を受託者に正すよう指摘することができます。
信託監督人は、家族や親族ではなく、弁護士や司法書士などの第三者がなるのが普通です。
そうでなければ、客観的な立場から不正を防ぐことができず、仮に不正があっても指摘できないためです。
専門家に信託監督人になってもらう場合、毎月1万円程度の報酬は必要になります。
しかし、この報酬を負担することで障害者の子供の生活を生涯にわたって守ることができるのです。
積極的に信託監督人の制度を活用すべきです。
信託銀行を受託者とすることもできる
障害を持つ子供以外に子供がおらず、受託者となる候補者がいないことがあります。
また、兄弟姉妹がいても誰も受託者になってくれないとか、信頼して託すことができないことも考えられます。
このような場合、兄弟姉妹以外の親族に受託者になってもらってもいいのですが、頼みにくいのも事実です。
そこで、受託者を家族や親族ではなく信託銀行に設定する方法も考えられます。
信託銀行が受託者となれば、受託者による不正が発生するリスクはほとんどありません。
また、親が亡くなった後の財産の管理を安心して任せることができるため、障害者の子供の生活も守られます。
受託者となる人の負担も軽減されるため、ほかに兄弟姉妹がいる場合でも選択肢となるでしょう。
ただ、信託銀行を活用する場合には注意しなければならない点があります。
それは、信託銀行が引き受ける信託財産は、基本的に金銭だけであることです。
不動産や有価証券がメインの財産である場合は、まずその不動産を売却して金銭に換える必要があるのです。
信託できる財産は金銭の限られるという制約があるとはいえ、多くの信託銀行では、利用料などの負担もなく家族信託契約をすることができるため、検討してみる価値があるでしょう。
家族信託を使うとどんなメリットがあるか
家族信託の利用が広がっている背景には、様々なメリットがあることがあります。
福祉型信託を利用する際に、親と子供にどのようなメリットがあるのか確認していきましょう。
親の認知症対策として有効である
障害を持つ子供がいる場合、親が急に亡くなった時だけでなく認知症になった場合にも大きな不安があります。
認知症となると子供の世話ができなくなるばかりでなく、預金口座からお金を引き出すことが難しくなることも考えられるためです。
そのような状態にならないように、家族信託を利用することが有効です。
家族信託契約を締結していれば、仮に認知症となっても財産を管理する人がいる状態となります。
障害者の子供以外の人を受託者として、財産の管理を行う人を別に定めておくべきなのです。
財産の世代間の承継がスムーズにできる
障害者の子供が安心して生活をしていくためには、常に周囲の人のサポートが欠かせません。
このような場合、サポートを行う人が誰になるのか、将来にわたって大きな不安を抱えている状態となります。
しかし、家族信託の仕組みを利用することで、親が管理できなくなった場合には受託者がその財産の管理を行うことができます。
また、次の受託者を指定しておくこともできるため、長期にわたって障害者の子供の面倒をみる人を決めておくことができるのです。
それまで面倒をみていた人が面倒をみられなくなると、誰がその役割を行うのかで揉めることが考えられます。
しかし、前もって決めておけば、急に不幸やアクシデントがあっても、困ることはないのです。
相続手続が生前に完了する
家族信託の契約を締結すると、相続が発生した時の信託財産の取扱いは、信託契約書に記載されています。
そのため、財産を保有する人が亡くなった時に、その財産の承継方法を決める必要はありません。
一般的に、相続で揉める一番の原因は、誰がどの財産を相続するかで意見が対立するためです。
財産の手続きについて生前に決めておけば、亡くなった後に発生する可能性のあるトラブルを防ぐことができるのです。
また、相続手続きを行う際に、判断能力が不足していると考えられる相続人がいる場合、成年後見人が必要となります。
ただ、成年後見人の選任には家庭裁判所での手続きが必要となります。
成年後見人には家族以外の人がなる場合もあり、相続人で自由に決めることはできません。
弁護士などの専門家が成年後見人となれば、毎月報酬を支払う必要があり、コストがかかります。
そのため、知的障害者が相続人となる場合には、家族信託を利用して裁判所での手続きを避ける方が、メリットが大きいのです。
財産の承継先を指定できる
財産を引き継ぐ人を家族信託の契約で決めておくことができます。
このことは、障害を持つ子供でも一定の収入が確保できることにつながります。
また、知的障害者が直接財産の管理を行うことは難しく、不動産などの所有者になることは現実的ではありません。
しかし、家族信託であればそのような子供が収入を確保しつつ、他の兄弟などが不動産の管理を行うことも可能です。
また、受託者が万が一先に亡くなったとしても、その次に受託者になる人も最初に決めておけば、不安も少ないはずです。
この点、遺言書による場合は、次の次の財産の承継者を決めることはできないことから、家族信託には大きなメリットがあるのです。
障害者の子供に家族信託は必須か
このように、家族信託には多くのメリットがあります。
そのメリットを生かして家族信託を利用することは、障害者の子供を持つ家庭には大きな意味があることです。
特に、精神障害や知的障害などにより1人で生活することがままならない子供を持つ親は、大きな不安を抱えていることと思います。
そのような場合に、家族信託を設定しておけば、親がいなくても経済的な不安がなくなります。
また、財産の管理を行う人をきちんと決めておくこともできます。
家族信託を利用せずに遺言書で財産を残しても、その財産を自分で管理できない状態になってしまう可能性もあります。
また、成年後見制度を利用した場合には、そのデメリットを大きく実感することでしょう。
どのような場合にも対処できる家族信託が、障害者の子供を持つ人には、必須とも言えるのです。
まとめ
家族信託には多くのメリットがあります。
このメリットは、どのような人にもあてはまるものですが、とりわけ障害者の子供を持つ家族にとっては大きなものです。
家族信託は、家族同士で締結する契約であるため、お互いに合意しなければ成立しません。
特に、受託者となる人は将来にわたって一定の責任と義務を負うこととなります。
委託者と受託者とでしっかりと話し合いを行い、将来に不安を残さないような家族信託契約を結ぶようにしましょう。