この記事でわかること
- 現金や預貯金が相続税の課税対象となる財産に含まれることがわかる
- 現金を遺産分割したり生前贈与したりする方法を知ることができる
- 現金を生前贈与する時に注意しなければならないポイントがわかる
相続が発生すると、被相続人が保有していたすべての財産は相続税の課税対象となります。
もちろん、現金や預貯金も例外ではなく、その全額を相続税の計算に含めなければなりません。
現金や預貯金は自由な割合に分割することができ、また生前贈与などもしやすいため、相続対策に利用しやすいといえます。
しかし、相続の際にトラブルになることもあるため、注意が必要です。
ここでは、現金や預貯金の相続や生前贈与に関する注意点を解説していきます。
目次
現金・預貯金は相続税の課税対象財産に含まれる
被相続人が保有していた現金や預貯金は、相続税の課税対象財産となります。
現金については、被相続人が管理していた金額が相続財産となります。
一方、預貯金については被相続人の名義となっているものが相続財産となるのが原則です。
しかし、預貯金の中には名義は他人となっていても、相続財産に含めなければならない場合もあります。
たとえば名義は子どもの名前になっているものの、その実態は被相続人のものであり、被相続人が管理を行っていたものです。
このような預貯金を名義預金といい、名義は違っても相続財産にふくまれるのです。
現金を相続するメリット・デメリット
どのような人でも、相続財産に現金が含まれるのは当然のことといえます。
ただ、相続が発生する前にあえて現金を残しておく人と、あえて現金を残さない人がいます。
はたして現金を相続するのには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
現金を相続するメリット
現金を相続するメリットはいくつかあります。
まずは、現金は分割が容易であり、しかも公平に分けることができる点です。
各相続人の相続分が大体同じ金額になるようにしたり、法定相続分になるようにしたりするために現金で調整することができます。
不動産など簡単に分割することができない財産もありますが、現金であれば非常に簡単です。
また、現金は相続してからすぐに利用できる上、名義変更の手間がかからないのもメリットです。
不動産の場合は相続登記を行う必要がありますし、預貯金や有価証券も名義変更するまでに時間がかかります。
しかし、現金であればそのような手続きも不要なのです。
さらに、相続税の納税資金として使うことができる点も見逃せません。
現金を相続するデメリット
現金を相続するデメリットとしてあげられるのは、相続税の評価額の計算上不利になることです。
たとえば、不動産の評価額は時価のおよそ8割程度となります。
また、自宅の敷地のように、特例を適用して大幅に評価額を減額することができるものもあります。
しかし、現金の場合はこのようなメリットはありません。
そのため、現金のまま相続すると相続税の額が多くなることが多いのです。
遺産分割する方法4つ
遺産分割する際には、現金や預貯金だけでなく、すべての財産を相続人同士で分けなければなりません。
財産の種類によっては、1つの財産を2人以上で分けることができないため、遺産分割の方法を考えておく必要があります。
ここでは、遺産分割を行う際の4つの方法についてご紹介していきます。
現物分割
相続財産をそのまま形を変えずに相続する方法です。
たとえば、現金と預貯金は配偶者と子どもで半分ずつ、自宅は配偶者、有価証券は子どもといった形で分割します。
財産を相続した人は、名義変更さえすれば財産をそのまま利用することができるため、手続きは比較的簡単です。
ただ、不動産が相続財産に含まれる場合など、現物分割では均等に分割することができない場合も少なくなく、これらの場合には、この後紹介する分割方法を検討しなければなりません。
なお、現金を遺産分割する場合は、すべて現物分割に該当することとなります。
共有分割
1つの財産を2人以上の人で、一緒に相続する(共有する)方法です。
共有名義とすることができるのは、一般的には不動産のみで、日本では預貯金や有価証券を共有として管理することはできません。
遺産分割で相続人の相続分が均等になるように不動産を共有とすることは、かなり多くのケースで行われています。
しかし、相続後の管理や処分を考えると、トラブルになる可能性の高い分割方法といえます。
また共有不動産は、その後共有を解消できないまま適切に活用できず、塩漬けとなってしまうこともあるので注意が必要です。
換価分割
財産を相続する際にその財産を売却し、現金を相続人で分割する方法です。
分割するのは現金であるため、どのような割合にも簡単に分けることができ、公平な遺産分割ができます。
しかし、特に不動産の場合は、遺産分割を行う前に売却しなければならないという時間的制約を受けることとなります。
相続税の申告期限などを考えると、どうしても売り急ぐこととなるため市場価格より安くしか売却できないのです。
また、不動産の内容によっては、そもそも短期間に売却する相手を見つけることも難しい場合もあります。
代償分割
不動産のように簡単に分割できない財産をそのまま相続する人が、代わりに現金を他の相続人に渡す方法です。
多くの財産をもらった代わりに現金を渡して、できるだけ平等になるようにします。
換価分割に比べると売却の手間がなく、また売却により実質的に相続できる財産が減少することもありません。
ただ、相続財産とは別に現金を持っていなければ実行することはできないため、誰でも利用できるわけではありません。
現金を使って生前贈与する方法5つ
現金は登記などの手続きが不要で、簡単に生前贈与することができます。
しかし、生前贈与の方法を考えておかないと、贈与税を多く支払う必要が出てしまい、そのメリットがなくなってしまいます。
そこで、損をしないように生前贈与を行うにはどのような方法があるのか、その方法をご紹介します。
暦年贈与を行う
贈与とは、保有している財産を他人にあげることをいいます。
通常、贈与を行うと贈与税が発生しますが、年間110万円という基礎控除があるため、110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。
ただ、注意しなければならない点もあります。
現金を贈与した場合、贈与したという事実を後から確認できないのです。
そのため、贈与していた場合でも相続が発生した時に贈与とは認められず、貸付とされてしまうことがあるのです。
親から子への貸付とされれば、その金額は貸付金という財産になるため、相続税の負担は軽減されないこととなり、メリットはありません。
対策としては、親子間であっても贈与契約書を作成しておくことが重要です。
また、贈与された現金を自身の預金口座に入れておくなど、自身で管理している状態にすることも大切です。
相続時精算課税制度を利用する
相続時精算課税制度を利用すると、生前贈与された財産についてはその種類に関係なく2,500万円まで非課税となります。
2,500万円まで非課税で贈与できるのであれば、大変お得な制度のように思うかもしれません。
しかし、この制度の利用には特に注意しなければならない点があります。
それは、相続時精算課税制度により生前贈与した財産はすべて相続税の対象になることです。
また、相続時精算課税制度を利用すると暦年贈与が利用できなくなります。
結果的に、相続時精算課税制度を利用しても、贈与税の支払いを先送りしているだけの結果となります。
本当に節税となるわけではないため、利用する意味があるのか事前によく考えてから利用するようにしましょう。
住宅取得等資金の贈与の特例を利用する
子どもや孫がマイホームを購入する際にその資金を贈与された場合、贈与税が非課税となる制度です。
住宅の種類によって、1,000万円を超える金額の贈与も非課税となるため、大きなメリットがあります。
子どもや孫がマイホームを購入する場合にしか使うことができないため、誰でも利用できるわけではありません。
しかし、他の贈与税の非課税制度と比較しても、制約がほとんどなく利用しやすい制度となっています。
そのため、マイホームを購入するのであれば、ぜひ利用したい制度といえます。
教育資金の一括贈与の特例を利用する
子どもや孫の教育費を贈与すると、贈与税が非課税となる制度です。
最大で、子どもや孫1人あたり1,500万円まで非課税となります。
ただ、子どもや孫に直接現金を贈与しても認められません。
信託銀行に教育資金のための口座を開設し、そこから学校の授業料や塾や習い事の月謝などを支払う必要があります。
将来必要となる教育資金を、前もって贈与しておくことができる点でメリットがあります。
一方で、利用にあたっては手続きが面倒なこと、残額があると贈与税の対象になることなどは注意が必要です。
生活費や教育費に使う
親が子どものためにお金を使うことは、贈与ではありません。
幼い子どもを扶養する義務を負う者として、ごく当たり前のことなのです。
そのため、子どもや孫に必要となる生活費や教育費をその都度負担していけば、贈与にならず将来の相続財産も減らすことができます。
子どもの生活費や教育費を払っているのに贈与になってしまうのは、必要な時に必要な金額だけを支払っていないからです。
たとえば、3年後に必要となる学費を渡してしまうと贈与になってしまいます。
先に紹介した教育費や結婚・子育て資金の一括贈与は、例外的に必要になる前に贈与しても非課税となります。
しかし、この特例を利用しないと多額の贈与税が発生してしまうのです。
現金で生前贈与するときの注意点
現金で生前贈与しても、贈与税がかからないような方法があります。
しかし、税務上の特例を利用するためには、決められた要件を満たさなければなりません。
そこで、そのような特例を利用できない場合でも、非課税となるような注意点を確認していきましょう。
生前贈与となるための要件を確認しておく
現金を生前贈与しても、贈与が成立していないと判断されてしまう場合があります。
そこで、確実に贈与が成立するような客観的な状況を作っておくようにしなければなりません。
贈与の契約書を作成し、もらった現金は贈与された人が管理するのが最低限必要となります。
連年贈与と判断されないようにする
連年贈与とは、一定の金額を贈与することを決めておき、毎年少額ずつの贈与を行うことです。
たとえば、1年あたり110万円の贈与を10年間行えば、合計で1,100万円の贈与を行うことができます。
10年に分ければ、基礎控除を毎年適用することができるため、贈与税はかからないこととなります。
しかし、最初に1,100万円を贈与するものと決め、分割で支払っているのであれば、最初に1,100万円の贈与をしたのと同じになります。
連年贈与とならないように、毎年契約書を作成しておくことや、毎年異なる金額を贈与することが重要です。
税務署の調査があっても、毎年必要に応じて贈与を行ったと説明できるようにしておきましょう。
まとめ
相続財産を減らすことが相続税の節税の第一歩です。
相続財産の額を減らす方法として、非課税の範囲内で生前贈与を行うことは非常に有効です。
しかし、手順を間違えてしまうと非課税となるはずの贈与が非課税にならないことがあります。
そこで、確実に非課税で贈与できる方法を実行することが重要なのです。
税務上の特例や暦年贈与の基礎控除を活用して、生前贈与を行うようにしましょう。