この記事でわかること
- 弁護士費用が払えない場合の対処法がわかる
- 相続にかかる弁護士費用の相場がわかる
- 遺産相続でかかる弁護士費用の種類がわかる
目次
相続にかかる弁護士費用の相場
相続にかかる弁護士費用は、以前は日本弁護士連合会の報酬規程で定められていましたが、今は、個々の弁護士がその基準を定めることになっています。
そのため、法律事務所によって弁護士費用は異なります。
しかし、それでは費用の予測がつかないため、日本弁護士連合会では目安となる金額をホームページに掲載しています。
遺産分割請求 | 着手金 | 50万円(41%) |
---|---|---|
30万円(31%) | ||
報奨金 | 100万円(31%) | |
180万円(15%) | ||
遺言書作成と遺言執行 | 作成手数料 | 10万円(51%) |
20万円(30%) | ||
遺言執行手数料 | 40万円(27%) | |
100万円(20%) |
相談料
弁護士への一般的な法律相談は、1時間当たり5,000円から10,000円で、特殊な法律相談ではもっと高くなることがあります。
30分未満は無料、初回は無料としているところもありますし、相談後に依頼すれば初回無料というところもあります。
相談だけで費用がかかってしまいますが、弁護士は法律の専門家ですので、プロとしての知識や経験をもとに適切なアドバイスをもらえます。
着手金
「着手金」は、事件に着手する前に支払う費用のことです。
着手金の設定はさまざまで、定額の場合もありますし、財産評価額の何パーセントかを定めている場合もあります。
相続人が多く関係も複雑な場合や、資産が多く評価額の算定が困難な場合は、別途料金が加算されることもあります。
また、相談先によっては着手金は数十万円することもあり、かなり高額だと思うかもしれません。
しかし、簡単な事件でも、調査の手間、法律との適合、過去の判例と、そこに至るプロセスには相当な時間がかかります。
見積書でポンと数十万円と出されると、抵抗を感じてしまうかもしれませんが、根拠のある金額となっています。
報奨金
「報奨金」は、事件終了後に支払う費用です。
定額で設定している場合もありますし、「経済的利益の●パーセント」と定めている場合もあります。
成果に連動していますので、経済的利益が得られなければ、基本的に報酬金もゼロになります。報奨金は、いわゆる出来高払いです。
扱う金額が大きくなればなるほど、報奨金も高くなります。
こちらも高額に感じるかもしれませんが、報奨金はあらかじめ用意しておく必要はないので、その点は心配ありません。
その他の費用
弁護士費用には、先述した費用ほど高額にはなりませんが、他にもいくつか項目があります。
それぞれについて、説明していきます。
手数料
「手数料」は、書類作成や裁判所への申し立てなど、個々の業務に対して発生する費用です。
具体的には「遺言作成の手数料」、「遺言執行の手数料」、「相続放棄の申立手数料」などがあります。
書類作成は、情報を書き込んで完成するわけではありません。
例えば、遺言作成だけであれば、民法が少し理解できれば誰でも作成できますが、内容が複雑になればなるほど、関係する法律は多岐にわたります。
自分で作成してみたものの、効力を持たないものになってしまうと意味がないので、手数料を支払ってでも、専門家である弁護士にお任せするのが得策といえるでしょう。
日当
「日当」は、遠方に出張する場合に発生する費用です。
簡単にいうと、他の仕事ができなくなるための費用弁償にあたるものです。
実費
「実費」は、交通費、旅費、郵便料金、印紙代などで、事件にあたり、弁護士が負担した費用です。
実費には、戸籍謄本や登記事項証明書を取得する際の手数料も含まれます。
遺産相続でかかる弁護士費用の種類
次に、遺産相続にかかる弁護士費用の種類にはどのようなものがあるかについて解説します。
遺産相続でかかる弁護士費用の種類
- ・遺産分割の代理交渉
- ・遺言作成
- ・遺言執行
- ・相続放棄
- ・遺留分減殺請求
遺産分割の代理交渉
まず、遺産分割の代理交渉に対して費用がかかります。
「遺産分割」とは、相続財産の分け方の一つで、相続人同士が遺産分割を話し合って決めるのが、遺産分割協議と呼ばれるものですが、相続トラブルのほとんどは、遺産分割協議で起こります。
遺産を分割する際は、「配偶者2分の1、もう2分の1を子供たちで等分」といった法定相続分というものが考え方の基本になります。
しかし、相続人は「生前、私が主に介護をしたから」「あなたは生前贈与を受けていたから」「兄さんは事業承継しているから」など、さまざまな理由で自分の権利を主張します。
遺産分割協議でもめて協議がまとまらないと、次は家庭裁判所での調停になります。
弁護士に依頼すれば、法律的根拠から依頼者の寄与分を示し、依頼者の配分を主張してくれますので、それだけの資料を提出できれば交渉に有利なのは間違いありません。
それでもまとまらなければ、訴訟になります。
訴訟になれば、裁判官に資料を提出して、相当な配分を決めてもらうことになります。
そして、それでも納得できなければ、と争いは続いていきます。
費用としては、調停の申し立てで着手金約50万円、そこにプラスして報奨金が相続財産に応じて必要です。
遺言作成
弁護士に遺言作成を依頼すると、遺言作成の手数料がかかります。
相続人の関係が複雑な場合は、財産の配分が難しく、相続トラブルが起きないようにしなくてはなりません。
財産の内容や財産評価額の調査は専門的知識が必要ですので、財産目録と評価額、紛争予防のための配分の仕方などは、弁護士に依頼するほうがよいでしょう。
一般的な内容の遺言では約20万円で、資産が多いなどの理由から複雑な内容の遺言になるとそれ相当の金額になります。
遺言書には、いくつか種類があります。
遺言書の内容によっては、どういう遺言書が必要かを決めなくてはなりませんので、遺言書の種類も相談することもできます。
公正証書遺言は、公証役場で作成するため、公証人への費用も必要です。
また、公正証書遺言は公証役場で保管されますが、保管料はかかりません。
遺言執行
「遺言執行」とは、遺言の内容を実現させるための手続きのことです。
遺言執行には、預金の解約、保険の受け取り、株式等金融資産の名義変更、換金、不動産の移転登記などの手続きがあります。
一般的な相続であれば、相続人が行うことが多いですが、財産が多く、複雑な内容の遺言となると、一般の人が行うのは困難です。
遺言執行を依頼すると、弁護士がすべての手続きを代行するので、相続人は遺言のとおりに配分されるのを待つだけです。
金額としては、約20万円になりますが、遺言執行の金額を相続財産から差し引いて相続することが多いです。
それなら、事後に相続人に費用の請求が生じることもありません。
また、遺言執行は、遺言作成時にそのまま弁護士に遺言執行を依頼する場合が多いです。
相続放棄
相続財産はプラスの財産がほとんどですが、借金などのマイナスの財産も含まれます。
例えば、莫大な借金を残して被相続人が亡くなった場合は、他の財産を処分しても負債が残るということがあり、この場合、相続人はその借金の返済義務を負ってしまいます。
相続放棄は、相続により突然、了解しない債務を負うことのないよう、相続人を守るためのものです。
手続きは、裁判所への申立てになりますので、申立て費用が約10万円ほど必要です。
申し立て自体は難しいものではありませんが、財産調査が必要になると、一般の人には難しくなります。
そして、財産調査には別途料金が発生します。
相続人が、相続財産についてすべて正確に把握していればそれほど問題ありませんが、プラスの財産については把握していても、マイナスの財産についてはなかなかわからないものです。
マイナスの財産だけでなくプラスの財産もある場合は、限定承認という方法もあり、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いて相続することができます。
相続放棄をする場合は、相続開始から3か月以内に申立てをしなければなりません。
しかし、3か月を過ぎて新たな負債があることを知った場合は、その負債を知った時から3か月を期限とします。
遺留分減殺請求
遺言によって相続人の権利が侵害されるときは、相続人の権利を守るために「遺留分」があります。
遺留分とは、相続人が最低限の遺産を確保できるように設けられた制度のことです。
たとえば、遺言で他の相続人に多く配分され、自分の配分が減った場合や、遺言で遺贈があったため、自分の配分が減った場合があったとします。
遺言は故人の遺志ですので、不平不満があったとしても、それを故人に訴えて、取り下げることはできません。
しかし、相続する財産が、その遺留分よりも少ないときに、それを不服とした場合、遺留分減殺請求ができます。
費用については、「経済的利益の●パーセント」と定められていることが多いです。
遺留分減殺請求は、他の相続人に対して、遺留分減殺請求権を行使する意思を表示しなければなりません。
もちろん口頭で伝えても有効ではありますが、口頭では証拠が残りませんので、内容証明郵便で遺留分減殺請求権行使の意思表示を行います。
内容証明郵便には、約3万円かかります。
そもそも弁護士費用は誰が払うのか
弁護士費用については、「そもそも誰が払うのか」というのが問題になりますが、基本的には依頼者が負担します。
弁護士は、依頼者の権利を最大限守るよう業務を遂行します。
公平さを守る裁判所とは違い、弁護士は法令に従い、依頼者の主張を実現させるものです。
遺言で遺言執行者が指定されている場合は、依頼者は被相続人です。
遺言作成手数料については、遺言作成時に依頼者が支払いを済ませてあると思いますが、遺言執行は依頼者が亡くなってから行われるものですので、相続財産から差し引く場合が多いです。
遺言執行の費用は、相続財産の評価額から算定することが多いので、費用を算定するためには評価額を決定しなくてはなりません。
資産を時価で評価しなくてはならないので、遺言作成時に相続財産の評価額はわかりませんので、あらかじめ遺言者が支払うことはできないのです。
遺産分割協議の代理交渉、遺留分減殺請求は、依頼した相続人の権利を守るものですので、依頼した相続人自身が負担します。
また、相続の手続きそのものを弁護士に依頼することもあります。
相続人がみな高齢者で、相続の手続きが困難なことも考えられます。
その際、相続人全てが了解している場合は、相続人それぞれに費用を案分するか、相続財産から差し引くこともできます。
弁護士費用が払えない場合の対処法2つ
弁護士費用について解説してきましたが、決して安いものではないので、すぐに払えないという場合もあるでしょう。
ここからは、高額な弁護士費用が払えない場合の対処法を2つご紹介します。
弁護士に分割払いや後払いを交渉する
報奨金は経済的利益に応じて費用が発生しますが、着手金については、本人があらかじめ用意しなくてはなりません。
着手金は、額が大きいと払えないことも考えられますが、そのことをきちんと弁護士に相談すれば対応してくれます。
分割払いであれば、最初に用意するお金も少なくて済みますので、依頼のハードルも低くなります。
また、報奨金がある程度目途が立つようであれば、着手金と報奨金の配分を変えることもできます。
着手金を減らして報奨金を増やすことで、費用の額に変わりはないものの、依頼しやすくなります。
自身の置かれている状況をきちんと説明すれば、親身になって対応してくれるはずです。
民事法律扶助制度を利用する
弁護士を依頼しようにも経済的に余裕がなく、弁護士費用を支払えない場合は、民事法律扶助という制度を利用できることがあります。
民事扶養補助とは、日本司法支援センター(通称:法テラス)が実施していて、無料相談や弁護士費用の立て替えを行ってくれる制度です。
民事法律扶助を利用するメリットの一つは、弁護士費用を安くできることです。
民事扶養補助は、経済的理由で弁護士に依頼できない人のための制度ですので、一般的な相場よりも低額で、生活保護受給者は、無料になります。
もう一つのメリットは、弁護士費用を分割払いできることです。
ただし、民事法律扶助を利用するためには審査があり、次の3点を満たすことが条件になります。
民事法律扶助利用の条件
- ・資力が乏しいこと
- ・勝訴の見込みがあること
- ・民事法律扶助の趣旨に適すること
資力については、家族の月収が一定の基準以下であること、高額な資産を所有していないことが条件になります。
勝訴の見込みについては、明らかに不利な場合を除いて適応されます。
民事法律扶助の趣旨とは、目的が法律上、経済上の利益を求めるものではなく、社会通念上、扶助するのが相当であると認められるもので、復讐や営利を目的とするものは対象になりません。
この制度に申し込むには、援助申込書・法律相談票および事件調書を作成し、審査に必要な書類とともに、法テラスの事務所へ提出する必要があります。
必要書類は、資力申告書とそれを証明する書類、世帯全員の住民票の写し、事件に関する書類を指します。
資力を証明する書類は、確定申告書の控え、源泉徴収票、又は所得証明書のことです。
事件に関する書類は、相続では、相続人、資産の内容がわかるものが必要で、例えば、戸籍謄本、預金通帳の写し、固定資産税の名寄帳か課税明細書などです。
審査には2週間程度かかりますので、余裕を持って手続きを行いましょう。
審査の結果、援助開始の決定がされた場合は、依頼者、担当弁護士、法テラスの三者で契約します。
民事法律扶助では、担当は法テラスに登録の弁護士になり、担当弁護士を自由に選ぶことはできません。
法テラスが弁護士へ契約書に記載されている費用、着手金などを立替えて支払うことになります。
また、依頼者は、開始決定後、原則として月額1万円ずつ立替費用を返済することになります。
ただし、事情によっては毎月の返済額の減額や返済の猶予がなされる場合もあります。
報奨金は、依頼者から弁護士に直接支払いますが、法テラスで受け取った経済的利益から費用を差し引いて清算することもあります。
まとめ
「相続」とは、故人の遺してくれた大事な財産をわけてもらうことです。
故人に相続の仕方を聞くことはできないので、法律に従って粛々と手続きを進めるわけですが、どうしても揉めることもあります。
家族が揉めることを、故人は望んでいないでしょう。
弁護士費用は、決して安いものではありませんが、弁護士に依頼したという安心感を得ることもできるので、ぜひ利用を検討してみてはいかがでしょうか。