この記事でわかること
- 遺産の分配方法や分配割合がわかる
- 相続人の確認方法を理解できる
- 遺産相続トラブルの回避方法がわかる
相続が発生したときは、具体的にどのように遺産分配(遺産分割)をすればいいのでしょうか。
いざ相続となった際、「遺産分配を進めなければいけない」とわかっていても、分配方法などがわからず進められないケースがあります。
遺産相続をスムーズに進めるためにも、遺産の分配方法や、相続人の確認方法について知っておきましょう。
合わせて、遺産分配でのトラブルを回避する方法も解説します。
目次
遺産の分配は遺産分割協議で行う
家族や親族などが亡くなったときは、遺産分配を相続人同士の話し合いで決めることになります。
この遺産分配を決める話し合いが「遺産分割協議」です。
例えば世間一般の相続話として「田舎の実家は長男が相続する」などの話を耳にすることがあるのではないでしょうか。
相続人である兄弟間で「実家は長男。
弟は預貯金を相続する」などの話し合いを行い、遺産の分配を行うケースを想像すれば、遺産分割協議というものを理解しやすいはずです。
分割協議という言葉から難しい分配方法を想像しがちですが、一般的によく行われていることです。
ただ、遺産分配で分配の目安が何もないと、揉めてしまうケースもあるでしょう。
ゼロから「誰がどの遺産をどれくらい受け取るか」を話し合っても、ほとんどの相続人は高価な遺産を多く受け取りたいと主張するのではないでしょうか。
そのため、遺産分割協議に決着がつかず、遺産相続の話し合いがこじれてしまうかもしれません。
遺産相続では、法律で分配の割合が定められており、遺産分割協議の際に分配の目安となります。
また、分配割合ではなく、分配方法を工夫するという方法もあります。
まずは遺産分割協議の簡単な流れを把握しましょう。
遺産分割協議の流れに沿って、遺産分配に必要な知識を順番に解説します。
遺産分割協議ならびに遺産分配の流れは次の通りです。
- (1)相続人を確認する
- (2)相続人全員で遺産の分配を決める
- (3)遺産分割協議書にまとめる
相続人の確認方法
遺産の分配を始めるときに最初に行うのが「相続人の確認」です。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければいけません。
相続人をひとりでも除外して行われた協議は、原則的に無効となってしまうからです。
まずは「相続人は誰か」を明確にし、行方不明の相続人や連絡が取れない相続人がいれば、必要な対処を行うことになります。
相続人の確認方法
相続人を確認するときは、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取得します。
戸籍謄本を確認すれば、被相続人の親兄弟や子供、配偶者などの相続人候補がわかるからです。
また、相続発生時点での相続人の生死も戸籍謄本から見えてきます。
戸籍謄本の取得や相続人の確認についてわからないことがあれば、弁護士や司法書士など専門家に相談しましょう。
専門家に依頼すれば、戸籍謄本の取得を代理で行ってもらうことも可能です。
なお、戸籍謄本は郵送でも取得できますので、遠方の自治体から取得する場合は郵送などを活用することをおすすめします。
相続人に連絡が取れない・行方不明のケース
連絡が取れない相続人や行方不明の相続人がいるケースの対処法としては、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の利用が考えられます。
不在者財産管理人とは、行方不明者などの代わりに財産を管理する人です。
失踪宣告とは、裁判所手続きによって失踪者を仮に亡くなっていると判断し、財産を整理する方法になります。
不在者財産管理人は相続人などの利害関係人が裁判所に申し立てることにより選任可能です。
ケースによって適切な対処法が異なるため、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
相続人が認知症のときは代理人を立てる
高齢化が進む日本では、遺産相続時に相続人が認知症を発症しているケースがあります。
遺産分割協議は相続人全員で行いますから、認知症を理由に除外することはできません。
認知症などで遺産分割協議での話し合いが難しい相続人については「代理人を立てる」ことが必要です。
成年後見制度を利用し、成年後見人を選定して代わりに遺産分割協議に参加してもらいます。
成年後見人になるために特別な資格は必要なく、原則として誰でもなることができます。
ただし、成年後見人も相続人のひとりだった場合は利害関係の衝突が起きてしまう可能性があるため、家庭裁判所に申し立てて特別代理人の選任が必要になるケースもあるのです。
相続人が認知症などの理由から遺産分割協議をすることが難しく、特別代理人の選任が必要な場合などでわからないことがあれば、弁護士や司法書士に相談しましょう。
相続人が未成年の場合も代理人が必要
相続人が未成年の場合も、代理人が遺産分割協議に参加します。
未成年が参加すると、周囲の大人の相続人に利益を奪われてしまう可能性があるからです。
一般的な売買契約などであれば、未成年が契約するときは、基本的に親権者(親)が法定代理人としてその契約に同意をします。
しかし遺産分割協議の場合は、親権者も相続人になることがあります。
例えば父親が亡くなり、母親と未成年の子供が相続人であるケースがこれに該当します。
そのため、親権者が代理人になると、未成年者と親権者との間で利害関係の衝突が起きてしまう可能性があります。
親権者が代理人になれない場合は、特別代理人を立てる必要があります。
特別代理人を立てるためには家庭裁判所での手続きを要しますので、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
なお、子供も親権者も相続放棄する場合は利益の衝突がありません。
このケースでは、特別代理人の選任は不要と解されています。
特別代理人の選任が必要かどうかの判断も含めて相談しておいた方が、スムーズに手続きを進められるでしょう。
分配金額などを決める分配割合
相続人の確認が取れたら、次に遺産相続の分配について、相続人で話し合って決めます。
遺産分配については、遺産相続の遺産分配の割合と遺産相続の遺産分配の方法の2つがポイントです。
遺産分配の割合の目安は法定相続分である
相続人で遺産を分配するときは、法定相続分が目安になります。
法定相続分は相続人の相続順位によって、遺産の分配の割合が決まっているのです。
相続人の相続順位表
第1順位 | 被相続人の子供。子供が亡くなっている場合は孫。養子や認知された非嫡出子、胎児も含む |
---|---|
第2順位 | 被相続人の父母。父母が亡くなっている場合は祖父母。 |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹。兄弟姉妹が亡くなっている場合は姪や甥。 |
注・被相続人の配偶者は常に相続人になります。
ケース別
配偶者と子供が相続人 | 2分の1ずつ、子供が複数いれば子供全員で2分の1 |
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配偶者と父母が相続人 | 配偶者が3分の2、父母が合わせて3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹が相続人 | 配偶者が4分の3、兄弟姉妹全員で4分の1 |
右側が基本的な遺産の分配割合です。
上記のような目安はありますが、遺産分割協議では、相続人間の話し合いで特定の相続人により多くの遺産を相続させることや、特定の相続人の分配を少なく決めることもできます。
例えば、被相続人の介護をしていた相続人に、寄与分という上乗せをして分配することも可能です。
被相続人から援助を受けていた相続人がいる場合は、援助分を特別受益とみなして、相続人間で不公平が出ないように遺産相続の分配を決めることもできます。
また、相続人全員が納得していれば、特定の相続人だけに遺産を集中させることも可能です。
相続人全員が合意すれば必ずしも目安に合わせて分配する必要はなく、親族や家族の事情に合わせて柔軟に遺産分配ができるようになっています。
遺産相続の遺産分配方法は4つある
遺産相続の分配方法には4つの種類があります。
- ・現物分割
- ・換価分割
- ・代償分割
- ・共有
分配方法は必ずひとつを選ばなければいけないわけではありません。
遺産の性質などによって方法を組み合わせて遺産分配を進めても問題ありません。
それぞれの分配方法について解説します。
現物分割とは、遺産をそのまま分配する方法です。
預貯金であれば預貯金、不動産であれば不動産、かたちを変えずに分配します。
換価分割とは、金銭以外の遺産を売却などで金銭に換えて分配する方法です。
相続不動産を売却し、売却金を相続人で分配するケースがこの方法に該当します。
代償分割とは、特定の遺産を相続人のひとりが相続し、他の相続人に金銭などを渡す方法です。
長男が遺産である実家をひとりで相続し、弟たちに分配分に応じた金銭を渡すような分配方法が代償分割にあたります。
この他に共有という方法があります。
共有とは、ふたり以上の相続人がひとつの遺産を共同で所有する方法です。
相続不動産にふたりの相続人が持分を設定し、相続不動産を共有するケースなどがこの方法です。
共有は将来的に不動産を売却しにくいなどのデメリットもあるため、遺産分配の際はよく話し合って決める必要があります。
【兄弟間の遺産の分配例】3人兄弟の割合目安
遺産分配の割合・方法についてお話ししたところで、わかりやすい例題で遺産分配を見てみましょう。
母親はすでに亡くなっており、このたび父親も亡くなって相続が発生しました。
相続人は兄弟3人です。
父親が預貯金900万円と不動産(実家の戸建と土地、売却価格900万円)を残した場合、どのような遺産分配パターンが考えられるでしょうか。
なお、長男は父親と同居しており、次男と三男は遠方に住んでいたこととします。
遺産分配パターンはあくまで一例です。
この他にも遺産分割協議によって柔軟な遺産分配が可能になっています。
現物分割パターン(1)
戸建と土地を長男が相続し、預貯金を次男と三男で平等に遺産分配するパターンです。
預貯金は900万円あります。
次男と三男で450万円ずつ分配するのが基本ですが、次男を700万円にして三男が200万円受け取ることも可能です。
現物分割パターン(2)
長男など相続人のひとりにすべての遺産を集中させるパターンです。
預貯金も実家も父親と同居していた長男がすべて相続するという方法で、相続人全員が納得して決めれば、このようなパターンも可能です。
換価分割パターン
預金を兄弟3人で分割し、実家不動産を売却(900万円)して兄弟に分割するパターンです。
実家不動産の売却金900万円は兄弟の話し合いで300万円ずつ平等に分割しました。
代償分割パターン
預金は兄弟3人で話し合って分割を決め、実家不動産は長男が相続することになりました。
長男が実家不動産をひとりで相続するにあたり、次男と三男に長男が300万円ずつ代償(金銭)を渡すことで遺産分割の話し合いがまとまりました。
現物分割+共有のパターン
兄弟3人で預金を分割し、不動産は共有にする遺産分割パターンが考えられます。
預金900万円を兄弟3人で300万円ずつ分配し、実家の戸建と土地は3人の共有として、3分の1ずつの持分を設定します。
遺産分配で揉めるケースと回避方法
遺産分配には法定相続分という目安が用意されていますが、それでも揉めるときは揉めてしまいます。
例えば相続人の中に被相続人の介護を長年してきた人がいて、その人の寄与分を他の相続人が検討しなかったとすれば、長年介護をしてきた相続人は「目安を用いる遺産分配は不平等だ」と考えるかもしれません。
遺産相続は親族問題の引き金になることがあるため、注意が必要です。
あらかじめ遺産分配で揉めやすいケースと回避方法を知っておきましょう。
遺産分配で揉めやすいケース
遺産分配で揉めやすいのは、次のようなケースです。
- ・相続人のひとりが遺産を我が物にして流用を行っている
- ・被相続人の生前から親族同士の仲が悪い
- ・被相続人の介護や生活の世話を相続人のひとり、またはごく一部だけがしていた
- ・相続人のひとり、またはごく一部だけが被相続人から援助を受けていた
- ・被相続人が事業を営んでいた場合は会社やお店を誰が継ぐかで揉めることがある
遺産分配トラブルは資産家だけの問題と思われがちですが、決してそうではありません。
プラスの遺産があれば、相続人同士で揉める可能性はゼロではありません。
どのような相続ケースでも遺産分配で揉める可能性はあるため、遺産分配トラブルの回避方法はしっかり確認しておきましょう。
遺産分割協議書の作成
相続人の間で遺産分割が決まったら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書とは、相続人の間で決めた遺産分割や遺産相続についてまとめた書面のことです。
遺産分割協議書は相続による不動産の名義変更など、法務局での相続手続きのときに使用することもあります。
遺産分割協議書は相続人が作成しても差し支えありませんが、取り決めの内容について書きもらす可能性もあるため、弁護士などの専門家に作成を依頼することをおすすめします。
弁護士などに相続手続きを依頼すると、依頼の一環として作成してもらうことも可能です。
遺産分配トラブルの回避方法
遺産分配トラブルの回避方法としては、遺言書の活用が挙げられます。
遺言書であらかじめ遺産分配を指定しておけば、相続人が頭を悩ませる必要もありません。
実際に遺産分配トラブルに発展したときは、調停や裁判など、裁判所手続きの利用が考えられます。
裁判所のデータによると、2017年だけで起きた遺産相続トラブルは約1万2,000件です。
うち、調停で解決したケースは約6,700件になっていますので、調停で解決できる確率は6割ほどという計算結果です。
また、和解で解決する確率は8割ほどだといわれています。
実際に裁判になったときの勝率は個々の状況や弁護士などにより異なるため一概に言えませんが、多くのケースで話し合いで解決できることがわかります。
遺産相続トラブルの調停などでは、必ずしも弁護士を立てる必要はありません。
しかし、相続事件の実績や実務経験のある弁護士にサポートしてもらうことによって、裁判での勝率を上げられる可能性や、調停などが早い段階でまとまる可能性もあります。
弁護士などの専門家に相談し、ケースに合った方法でトラブルに対処しましょう。
まとめ
遺産相続のときは、協議による遺産の分割・分配がよく行われています。
遺産分割協議の分配分には法定相続分という目安もありますが、目安はあくまで目安でしかありません。
相続人すべてが納得し合意すれば、事情に合わせた柔軟な分配が可能です。
ただし、ときに遺産相続はトラブルに発展することがあります。
相続トラブルに発展しやすいケースや回避方法も合わせて理解し、スムーズな相続を目指しましょう。