この記事でわかること
- 遺産分割について理解できる
- 遺産分割の期限がわかる
- 相続税申告期限などがわかる
親や妻、夫、兄弟が亡くなると葬儀や遺品の整理で、しばらくはあわただしい日が続きます。
預貯金や車、不動産の名義変更などの相続手続きもたいへんです。
相続人が複数いれば遺産分割を行わなければなりません。
しかし遺産分割をしないでいるうちに、あっという間に半年過ぎてしまったというケースもあります。
遺産分割の期限が過ぎてしまうのではないかと、不安になる相続人の方もいるでしょう。
そこでこの記事では、遺産分割に期限があるのか、なぜ早めに遺産分割を行ったほうがよいのかについて詳しく解説します。
遺産分割以外の相続手続きについても、それぞれに期限を解説しますので、遺産分割や相続手続きの期限を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
遺産分割自体に法的な期限がない
相続が発生し、相続人が複数いる場合、遺産分割しない限り、遺産は相続人全員の共有となります。
また、共有持分については、法定相続分の割合によります。
この状況を解決するために必要なのが遺産分割ですが、遺産分割の期限などについて確認しましょう。
遺産分割は任意
遺産分割は法律上、義務なのでしょうか?
また、義務でないとしても、遺産分割しないとどうなるのか、見ていきましょう。
遺産相続すると、遺産分割をしなければならないのではないかと思う方も多いでしょう。
しかし、遺産分割は義務ではありません。
民法により定められている法定相続人全員で、遺産を相続し共有するからです。
では、遺産分割はなぜ必要なのでしょうか。
上述の通り、遺産は相続人全員の共有となりますから、遺産を売却したくても勝手に行うことはできません。
また、築年数が古い建物の賃貸や大修繕も、遺産が共有のままだと、原則として相続人の1人が決定することはできません。
遺産が株式であっても同様です。
遺産である株式は相続人全員の共有となります。
このように相続人が2人以上いる場合は、遺産分割を行わずにいると、遺産を換金したり運用したりしたくても、不都合が生じるということです。
遺産分割の期限と数次相続
遺産分割は任意であっても、円滑な遺産の処分や管理のためには必要であることがわかりました。
では、相続開始後いつまでに遺産分割しなければならないか、また遺産分割をしないでいるとどうなるか見ていきましょう。
遺産分割の期限
実は、法律による遺産分割の期限はありません。
また、ただし、相続税申告は、相続後10か月以内に行わなければなりません。
相続税申告のほかにも、期限が定められている相続手続きがあるので、遺産分割せずにいると、不都合が生じてしまいます。
なお、遺言により一定期間の遺産分割が禁じられている場合もあります。
その場合は原則として遺産分割はできませんので注意しましょう。
遺言により遺産分割を禁止できる期間は、相続開始後5年以内です。
遺産分割放置と数次相続
また、遺産分割しないでいると、数次相続の問題も発生します。
数次相続とは何度も相続が続くことをいいます。
たとえば、被相続人(亡くなった人)X、Xの妻Y、Xの子AとBが相続人のケースで考えましょう。
Xの遺産につき遺産分割せずにいるうちに、Aが亡くなるとどうなるでしょうか?
Xの遺産につき遺産分割の当事者となるのは、Y、Aの相続人、Bです。
Aの相続人とY、Bの関係が良ければ問題ないかもしれません。
しかし、Aの子やAの妻と、Yの関係性が悪い場合は遺産分割の合意に至らないケースもあるでしょう。
ほかに数次相続が発生して遺産分割が困難になるケースとして、次のケースが考えられるので、遺産分割は早めに行いましょう。
- ・被相続人に子がなく、兄弟姉妹が相続人となったのに遺産分割しないでいるうちに、甥姪が相続人となり、互いに連絡先も知らないというようなケース
- ・曽祖父、曾祖母の遺産分割が終わっておらず、祖父や祖母とその兄弟など、複数の相続人がいるケース
遺産分割の方法
遺産分割の方法は、主に現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の方法が考えられますが、それぞれに長所と短所があるので注意しましょう。
遺産分割方法の種類とメリット・デメリット
メリット | デメリット | |
---|---|---|
現物分割 | 相続財産を相続人の単有とすることができる | 巧く同価値に分けられないことも多い |
代償分割 | 不動産などを取得する人と、金銭を取得する人に分けることができる | 代償金を用意できなければ行えない |
換価分割 | 相続財産を処分して、管理の煩雑さなどから解放される | 売却代金や売却時期、売却方法など、相続人の意見がまとまらない |
遺産の種類や価値、相続人の数や生活状況などにより、遺産分割を行う必要があります。
最善の遺産分割をおこなうためには、それぞれの遺産分割方法の併用など、工夫することをおすすめします。
相続税の確定申告は死後10ヶ月以内にしなければならない
遺産分割の期限は、民法では決まっていないことがわかりました。
しかし、「相続税申告の期限があると聞いたけれど、どう関係するのだろう」と思う方もいるでしょう。
次は、相続税の確定申告期限と、遺産分割時期の関係、相続税申告の期限を過ぎてしまいがちな原因を解説します。
相続税申告は待ってくれない
相続税申告期限と、申告期限延長について見ていきましょう。
10ヶ月内に必ず申告
相続税は被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内が申告の期限で、遺産分割が終わっていないからといって、期限が伸びるわけではありません。
申告・納税は被相続人の住所地の所轄税務署に行う必要があります。
遺産分割前の相続税申告で受けられない特例
もし、遺産分割が終わっていない場合は、法定相続分の割合に従って遺産を取得したものとして相続税を計算して、申告と納付を行うことになります。
遺産分割前の相続税申告では、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算、配偶者の税額の軽減の特例を受けることはできないので、注意しましょう。
この2つの特例は、相続税軽減に非常に効果があります。
遺産分割前に相続税申告をすると受けられない特例
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算 | 特例の対象は、特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等、特定居住用宅地等及び貸付事業用宅地等のいずれかに該当するものであること |
---|---|
配偶者の税額の軽減の特例 | 配偶者は1憶6,000万円まで控除可 |
修正申告等
遺産分割前に相続税申告をおこなった場合、修正申告および更正の請求が必要になるケースがあります。
相続税の修正申告及び更正の請求
必要なケース | 期限 | |
---|---|---|
相続税の修 正申告 |
初めに申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が多い場合 | 特になし。ただし、税務調査で更正を受けたあとはできない |
相続税 更正の請求 |
初めに申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が少ない場合 | 分割のあったことを知った日の翌日から4ヶ月以内 |
なお、相続税修正申告または更正の請求において、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算、配偶者の税額の軽減の特例の特例を受けることができます。
ただし、この特例は、原則として申告期限から3年以内に分割があった場合とされています。
相続税申告期限内に遺産分割が未了の場合は、相続税申告期限後3年以内の分割見込書を提出することとされています。
相続税申告期限後3年以内の分割見込書には、以下の内容を記載しなければなりません。
- ・分割されていない理由および分割の見込みの詳細
- ・適用を受けようとする特例等
所得税の準確定申告の期限
不動産事業などを行っていた人や2,000万円以上の給与所得があった人が亡くなった場合、準確定申告をしなければなりません。
準確定申告は、相続開始の翌日から4ヶ月以内が期限です。
相続税申告の期限を過ぎてしまう原因
厳しい期限が定まっているのはわかっていても、相続税申告の期限を過ぎてしまうケースが出てくる理由を考えましょう。
遺産分割協議がまとまらない
期限までに相続税申告をできない理由はさまざまです。
手続きを進める相続人が忙しかったり、専門的なことがわからなかったりするケースもあるでしょう。
しかしそれ以上に、遺産分割協議がなかなかまとまらないというのが、大きな要因です。
先述の通り、遺産分割には現物分割、代償分割、換価分割、共有による分割の4種類があります。
どの方法をとるのか、誰がどの遺産を取得するのか、話し合いがスムーズにいかなければ、遺産分割の合意にいたりません。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければ効力はありません。
つまり、相続人の誰か1人が反対すれば、遺産分割協議の合意に至らないということです。
相続人が満足できるような遺言を、被相続人が残していれば遺産分割が相続税申告期限までに間に合わない事態にはなりません。
相続財産や相続人が多いご家庭では、日ごろ家族で相続についてよく話し合うことが大切です。
必要に応じて親や配偶者に遺言を書いてもらうのがよいでしょう。
なお、遺留分を害する遺言も有効ですが、遺留分侵害額請求の対象となってしまうとトラブルになるので、遺言を残す方は注意しましょう。
相続人確定の資料集め
期限までに相続税申告をできない原因は、相続人確定に時間がかかってしまう場合があることです。
相続手続きでは、被相続人の出生時に遡って戸籍謄本等を取り寄せなければなりません。
被相続人と親交がある親族が知らない相続人もいる可能性があるので、この戸籍謄本集めは省略できません。
ひとくち戸籍謄本等といっても、除籍謄本や改製原戸籍など、相続手続きのときくらいしか使わない書類を取り寄せる必要があります。
この取り寄せ手続きに時間がかかる場合があります。
被相続人に子や孫がいなかったり、被相続人が離婚や養子縁組、転籍が多かったりすると、戸籍謄本等の取得は相当な時間がかかります。
数次相続の場合も戸籍謄本等集めはたいへんです。
相続人確定が困難と予想される場合、早めに弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
埋葬費や健康保険の請求には期限があるので注意
次に、埋葬費や健康保険の請求期限について確認しましょう。
国民健康保険・国民年金の加入者が亡くなったら
国民健康保険・国民年金の加入者が亡くなったときは、葬祭を行った人は5万円~7万円程度の葬祭費を受け取ることができます。
国民健康保険と国民年金加入者の葬祭費の支給額は、市区町村により異なります。
参考:国民健康保険・国民年金の加入者の葬祭費
対象 | 葬祭(告別式等・火葬のみの場合も含む) |
---|---|
申請期間 | 葬祭後2年で時効消滅 |
書類 | 国民健康保険葬祭費支給申請書、申請者の認印 振込先のわかる預金通帳、亡くなった方の保険証 葬儀費用の支払いを確認できる葬儀社発行の領収書コピー等 |
請求者 | 葬祭を行った人 |
請求先 | 各市区町村国保年金課 |
健康保険の加入者が亡くなったら
サラリーマンなど健康保険の加入者が亡くなったときは、亡くなった人と生計を一にしていた人は、5万円の埋葬料を受け取ることができます。
なお、健康保険加入者の埋葬料も、2年で時効により消滅します。
死亡後から遺産相続の手続きまでの期限まとめ
通夜、お葬式、法要と並行して、さまざまな届出や手続き等が必要な相続ですが、それぞれの手続きで期限が異なり戸惑う方もいるでしょう。
死亡後から遺産相続までの期限をまとめますので参考にしてください。
死亡届や埋葬料など
まず、市区町村などに提出する届出の期限をまとめておきましょう。
まず被相続人の死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡届を提出しなければなりません。
また、先述の通り、国民健康保険・国民年金の加入者の葬祭費の請求は、加入者の死亡から2年以内に行う必要があります。
健康保険加入者の埋葬料も加入者の死亡から2年以内に請求しなければなりません。
相続放棄の手続きと熟慮期間
法定相続人は、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に、相続の承認・放棄をすることができます。
相続の承認・放棄には単純承認、限定承認、相続放棄の3種類があります。
限定承認および相続放棄は、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述することにより行います。
この限定承認および相続放棄の手続きは、任意の意思表示では足りませんので、注意しましょう。
相続開始を知ったときから3か月以内に、限定承認または相続放棄を行わない場合、単純承認したものとみなされます。
なお、限定承認および相続放棄は、遺産分割協議とは違う手続きです。
遺産分割の期限はないからといってのんびりせず、限定承認および相続放棄の期限を過ぎてしまわないようにしましょう。
限定承認はマイナスの遺産(借金)とプラスの遺産(不動産、預金等)のどちらが多いかわからない場合、相続財産の範囲で債務を引き継ぐ手続きです。
相続放棄すると、始めから相続人ではなかったことになります。
つまり、相続放棄すると、被相続人の権利も義務も一切引き継ぎません。
遺産分割で、債務を引き継がないという話し合いを行っても、債権者に対しては主張できません。
相続財産に債務が多い場合、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に、限定承認または相続放棄をするほうが良いケースもあります。
遺言書の検認
遺言書を見つけた者は、遅滞なく遺言書の検認を受けなければなりません。
遺言書の検認とは、遺言書の効力を確定するものではなく、遺言書の偽造・変造を防止する趣旨で行われます。
また、検認が必要な遺言書は、自筆証書遺言および秘密証書遺言です。
ただし、自筆証書遺言であっても、検認を要しない場合もあります。
遺言書の検認の要否
自筆証書遺言 | 被相続人の自宅などに保管されていたもの | 検認要 |
---|---|---|
法務局に保管されていたもの | 検認不要 | |
公正証書遺言 | 検認不要 | |
秘密証書遺言 | 検認要 |
なお、必要な検認を受けなかった場合、過料に処せられることがあるので注意してください。
遺留分侵害額請求の期限
遺言や被相続人の生前贈与により、遺留分を侵害された者は、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間、または相続開始のときから10年間行使しないでいると消滅します。
死亡後から遺産相続までの期限
遺産分割 | 特に決まっていない ただし、相続税控除の特例は、原則として申告期限から3年以内に分割があった場合 |
---|---|
遺言書の検認 | 遅滞なく |
死亡届 | 被相続人の死亡の事実を知った日から7日以内 |
国民健康保険・国民年金の加入者の葬祭費 | 加入者の死亡から2年以内 |
健康保険加入者の埋葬料 | 加入者の死亡から2年以内 |
相続の承認・放棄 | 相続開始を知ったときから3ヶ月以内 |
遺留分侵害額請求 | 相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間、相続開始のときから10年間 |
相続税申告 | 相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内 |
準確定申告 | 相続開始の翌日から4ヶ月以内 |
相続税修正申告 | 税務調査で更正を受けあとはできない |
相続税の更正の請求 | 分割のあったことを知った日の翌日から4ヶ月以内 |
財産別の遺産分割の期限まとめ
最後に、財産別の遺産分割期限を確認しておきましょう。
財産別の遺産分割期限
財産別の遺産分割期限
預貯金 | 無し(ただし、解約や一定額以上の引き出しはできない) |
---|---|
不動産 | 無し(ただし、数次相続の場合は登記がたいへんなケースもある) |
自動車 | 無し(ただし、名義変更が終っていないと車検を受けられない可能性がある) |
このように、特に、財産ごとの遺産分割期限が定められているわけではありません。
ただし、預貯金は遺産分割しない限り、解約することはできません。
また、遺産分割しない限り、相続人の一人が、被相続人の預貯金から、自己の法定相続分相当の額を引き出すこともできません。
これら被相続人名義の預貯金に対する引き出しなどの制限は、預貯金は相続により当然に分割されるものではなく、遺産分割の対象だからです。
自動車についても、遺産分割しないでいると車検ができないなど不都合が生じます。
遺産分割の期限は定められていませんが、遺産分割は早めに終わらせるほうがよいでしょう。
なお、前述の通り、数次相続が発生すると権利関係が複雑になってしまい、遺産分割しづらくなることもあります。
遺産分割の期限がないからといって、軽く考えないようにしましょう。
まとめ
遺産分割の期限や、相続税申告期限、葬祭費の時効などについて見てきました。
相続手続きの中で、つい後回しにしがちなのが遺産分割です。
しかし、遺産分割せずに長い期間が過ぎ、数次相続が発生すると、見も知らない相続人と遺産分割をしなければならないケースもあります。
相続税申告期限までの遺産分割が終わらないと、修正申告をしなければならないかもしれません。
相続人の確定ができなかったり、相続人同士の関係性が悪かったり、遺産分割をするのが困難な場合は弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相続人調査を行えば、膨大な戸籍謄本の取り寄せの手間から解放されるのです。
また、弁護士は交渉の代理をする資格があります。
自ら他の相続人と遺産分割協議をするのは気がひける場合でも、弁護士に遺産分割協議の代理を依頼すれば、精神的な負担が軽くなるでしょう。
「期限がないならまだ良い」とのんびりし過ぎず、早めに遺産分割に取り組んでください。