この記事でわかること
- 分割相続とは何かがわかる
- 分割相続の方法がわかる
- 遺産分割協議をスムーズに行うコツがわかる
相続において被相続人が遺した遺産は、相続人に包括的に継承されます。
では、その遺産を複数の相続人の間でどのように分ければよいのでしょうか。
複数の相続人間で、最終的に誰にどのように遺産を分けるのか決める手続きを、分割相続(遺産分割)といいます。
この記事では、分割相続の方法やその決め方、それぞれの方法のメリットやデメリットなどもご紹介し、分割相続の指針となる情報と分割相続を円滑に進めるコツを解説します。
分割相続とは
分割相続とは、被相続人の遺産を複数の相続人が分け合うことです。
相続人が2人以上の場合、遺産は当初、相続放棄した人を除くすべての相続人に継承され、各遺産について複数の相続人で共有している状態となります。
たとえば遺産が車一台と土地一つで相続人が2人の場合、相続発生により車と土地それぞれの遺産を相続人2人で共有する状態となります。
このような状態を遺産共有といい、あくまで分割協議を終えるまでの暫定的な共有関係になります。
相続人全員の合意により、各遺産の共有状態を解消し、最終的に1人が車全部を、もう1人が土地全部を取得するというように、遺産を相続する人を決めて分配することを分割相続といいます。
分配を受けた各相続人は、自己の財産として自由に活用することができるようになります。
単独相続と分割相続の違い
相続人が1人の場合は、単独相続といわれ、原則として1人の相続人がすべての遺産を受け継ぐことになるため、遺産分割も不要となります。
なおこの単独相続は、相続放棄・相続欠格・相続廃除の結果、相続人が1人になった場合も含みます。
一方、分割相続は共同相続人それぞれの法定相続分を尊重しつつ、相続人間で分割方法についての合意をしなくてはなりません。
家督相続と分割相続の違い
家督相続は、旧民法の規定で明治31年7月16日から昭和22年5月2日までに発生した相続について適用されるものです。
家督相続では、戸主が死亡や隠居をしたら家督相続人となる人に「戸主としての身分と家そのもの(家の財産含む)」をすべて引き継ぐ単独相続の形式となります。
分割相続の種類
分割相続の方法には現物分割・換価分割・代償分割・共有分割という4つの方法があります。
ここでは、4つの分割方法のメリット・デメリット、及び向いているケースを見てみましょう。
現物分割
各遺産をそのままの形(現物)で各相続人に分ける分割方法です。
たとえば土地と建物、株式が遺され、相続人A、Bがいた場合、土地と建物を相続人Aに、株式を相続人Bに分配する方法となります。
現物分割のメリット
- 遺産ごとに各相続人が取得するため、シンプルでわかりやすい
- 遺産を売却することなく分配ができるため、比較的早く分割ができる
現物分割のデメリット
- 各相続人の相続割合に応じた分配にならない場合、不公平感が生じる可能性がある
現物分割に向いているケース
- 遺産の種類や数に対し、相続人の数のバランスが取れている(遺産を各相続人に振り分けやすい)
- 遺産が現預金のみ、または多くが現預金である
換価分割
遺産を売却し、その金銭を相続人間で分ける分割方法です。
たとえば相続人2人で遺産が不動産のみの場合、この不動産を1千万円で売却し、売却代金を相続人2人に各500万円ずつ分配する方法となります。
換価分割のメリット
- 現金化することで分配が容易になり、法定相続割合による公平な分配が可能
換価分割のデメリット
- 遺産の売却に時間とコストがかかる
- 遺産の市場状況によっては、売却時に遺産の価値が下がる可能性がある
- 遺産を現状のままにしておけない
換価分割に向いているケース
- 遺産の多くが不動産や美術品、有価証券など、時期や評価方法によって評価額が変動するものである
- より公平に遺産の分割を行いたい
- 金銭で相続を受けたい
代償分割
一部の相続人が法定相続分以上の遺産を取得し、代わりに他の相続人に対して、取得した法定相続分以上の財産価値に相当する金銭などを代償金として支払う分割方法です。
たとえば遺産が土地(評価額3千万円)のみで、相続人が子A、Bの2人の場合、Aが土地を取得する代わりにAはBに1,500万円を代償金として支払います。
代償分割のメリット
- 遺産の多くが不動産の場合に、公平を保ちつつ遺産の分割を行える
- 遺産に現預金がなくても不動産を残すことができる
- 不動産の共有状態を回避できる
代償分割のデメリット
- 遺産を取得する相続人は代償金を支払う必要があるため、その資金の確保が必要
- 不動産の評価額について、相続人間の合意を得られないと実行が困難
代償分割に向いているケース
- 特定の不動産を取得する必要がある相続人がいる
- 遺産の多くが不動産
- より公平に遺産の分割を行いたい
- 相続人間で不動産の評価額に争いがない
- 不動産を取得する相続人に代償金を支払う資力がある
共有分割
遺産を相続人全員で共有する分割方法となります。
これにより、確定的な共有関係となります。
たとえば遺産が土地と株式で相続人がA、B、Cの3人の場合、土地と株式それぞれがA、B、Cの共有となります。
共有分割のメリット
- 遺産が各相続人の共有となり、不公平感がない
共有分割のデメリット
- 財産の管理や処分に、共有者の関与や合意が必要となる
- 共有者に相続が発生すると、共有者が増加する
- 共有者が自分の持分を第三者に売却等することで共有者関係に第三者が入り、管理や処分が困難となるリスクがある
共有分割に向いているケース
共有分割は分割後の問題点が顕出しやすいため、共有にする特別な事情がある場合でなければ選択しない方がよいでしょう。
分割相続の方法の決め方
遺言書がある場合は、原則として、遺言書に従って遺産を分割することになります。
遺言がある場合と、先に紹介した4つの分割相続の関係など、どのように遺産を相続していけばよいかを見ていきます。
遺言書による分割
遺言書は生前に被相続人が作成するもので、被相続人が遺産分割等に関する内容を記載したものとなります。
遺言書が優先される
遺言書には生前の被相続人の意志が記されているため、有効な遺言書が存在している場合は遺言書の内容が優先され、原則として遺言書に書かれた通りに遺産を分配することになります。
遺言書があっても遺産分割協議が必要なケース
遺言書があっても、以下の場合は遺産分割協議を行う必要があります。
- 遺言書に記載されていない遺産がある場合
- 遺言書が相続人等に包括的な割合で分配する内容(たとえば全財産を長男Aと長女Bに2分の1ずつの割合で相続させる)の場合
- 遺言書と違う内容で分割を行いたい場合(遺言執行者や相続人以外の受遺者がいる場合は注意が必要)
- 遺言書が無効な場合
遺留分
一定の相続人には、遺留分という、遺産について、一定の割合で承継を補償する制度が適用されます。
遺留分を持つ相続人は、配偶者、子(代襲相続人としての孫)、親(祖父母)であり、兄弟姉妹(代襲相続人としての甥姪)には遺留分がありません。
遺留分の割合は、相続人に誰がなるのかで変動があります。
遺言書による分割で遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することで、侵害を受けた額を金銭で取り戻すことができます。
なお、遺留分侵害額請求は請求行為をしてはじめて具体化する請求権となります。
また相続の開始と遺留分が侵害されたことを知ってから1年、または相続開始から10年を経過すると、請求権は消滅することに注意が必要です。
遺留分侵害額請求は2019年7月1日施行の改正相続法適用の場合となり、改正前においては遺留分減殺請求という別の制度が適用されます。
遺産分割協議による分割
遺言書がない場合は、相続人全員による遺産分割協議で遺産の分割方法を決めて分配を行います。
現物分割、換価分割、代償分割、共有分割のいずれか、または組み合わせにより分割方法の決定を行います。
遺産の内容(種類・金額・評価額・換価性)、各相続人の法定相続割合、各相続人と遺産の関係性(たとえば遺産の被相続人自宅に同居している配偶者相続人や代々受け継いできた土地など)や、各相続人の資力などの一切を考慮して、どのように分けるのかを決めていきます。
なお、相続税の申告を要する場合は、申告期限もありますので早めに税理士などのアドバイスを受けた上で分割方法を慎重に決定したほうがよいでしょう。
また、相続人の中に未成年者やその親権者、意思能力に支障のある人(成年被後見人等)がいる場合、本人にかわって特別代理人や成年後見人等の法定代理人が遺産分割協議に参加する必要があります。
遺産分割協議が成立したら、相続人間での合意内容を遺産分割協議書として残すことが大切です。
遺産分割協議書には相続人全員が住所氏名を署名(記名)し、実印を押印します。
遺産分割協議書は相続人間での合意の証拠となることはもちろんですが、その後の手続きにおいて以下のような関係各所に提出する必要があります。
主な提出先
- 相続による不動産の所有権移転登記(相続登記):法務局
- 相続税の申告(申告が必要な場合):税務署
- 預貯金の解約や口座の名義変更:金融機関
遺産分割協議が不成立の場合の対処方法
相続人間での遺産分割協議がまとまらない場合、裁判所における解決を目指します。
遺産分割調停
家庭裁判所の裁判官と調停委員が間に入り、すべての相続人の話を聞き取り話し合いでの合意を目指す手続きとなります。
裁判所の関与のもとに話し合うため、当事者同士が直接話をするよりも冷静に話し合いができるメリットがあります。
遺産分割調停で合意が得られれば調停調書が作成され、遺産分割協議が成立します。
遺産分割審判
遺産分割調停でも合意に至らなければ、自動的に遺産分割審判に移ります。
遺産分割審判は話し合いでなく裁判官が決定を下す手続きとなり、提出資料や証拠、相続人の希望などをもとに調査を行い、家庭裁判所の裁判官が遺産分割方法を指定する審判をします。
審判となるため、希望する結果とならないこともありますが、各相続人は審判内容に従う必要があります。
審判で確定した内容は、強制執行の対象となります。
遺産分割協議をスムーズに行うコツ
できるだけ無用な争いを避け、遺産分割協議をスムーズに進めるためには、どのようにしたらよいのでしょうか。
被相続人が生前のうちにとれる対策もありますので、含めて解説します。
遺言書を作成しておく(生前にできる対策)
相続発生時に遺言書があることで、被相続人の想いを相続人に伝えることができます。
相続人としても被相続人の意思を確認した上で遺産を分けることができますので、争いの回避につながることが期待できます。
生前から話をしておく(生前にできる対策)
相続が発生する前から自分の財産についてどのようなものがあって、誰にどのように受け継いでほしいかという想いをご家族に伝えておくということは、実は大切な相続対策の一つと言えます。
財産が少ないし家族仲もよいから揉めることはないと思っていても、相続発生となると揉めてしまうことはあります。
まずは、雑談の延長程度から始めるのもよいかもしれません。
なお最近はデジタル資産の登場により、相続人が被相続人のパソコンやスマートフォンを操作せざるを得ない場合があります。
ロック解除やアプリのパスワードなどを書いたメモを家族が発見しやすい場所にしまっておくことや、あらかじめ家族に大事な書類やメモがどこにあるかを知らせておくことも必要かもしれません。
相続人を確定する
遺産分割協議には、相続人全員の合意が必要となります。
したがって、法定相続人を明確にする作業は必要不可欠となります。
たとえば、父A母B子Cの3人家族で父Aが亡くなり、父Aが再婚で、Bと結婚してCをもうけており、Aの前妻との間に子Dがいるケースでは、前妻との間の子Dも母B子Cとともに父Aの相続人となります。
この事例では、BCD全員による遺産分割協議が必要になります。
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍や、必要に応じて子、親、兄弟姉妹などの戸籍から法定相続人を確定しなければなりません。
遺産の調査と確定
分配すべき遺産を確定させるため、財産の調査を行います。
相続ではプラスの財産以外のマイナスの財産(借金等)も遺産の対象となります。
遺産の主な調査方法としては、以下のように分類できます。
- 不動産:権利証(登記識別情報通知)、固定資産税納税通知書、土地家屋名寄帳、不動産登記簿などを確認する
- 金融資産:預貯金通帳、キャッシュカード、取引報告書などを確認する
- 借金:借用書、計算書、請求書などを確認する
詳細な遺産内容は遺産ごとの取扱会社や行政等に確認をし、必要であれば明細などの手配を行います。
遺産は目録にしておくと、遺産分割協議の際に把握がしやすくなります。
不動産などの評価額に疑義がでそうな遺産は、早めに専門家に相談するのも有効です。
相続人間のコミュニケーションをとる
遺産分割協議は相続人全員が集合してもよいですし、集合せずに電話や手紙、メールなどで意思疎通をし、合意する方法でも全員の合意ができれば成立します。
円滑な遺産分割には、相続人間のコミュニケーションが非常に大切です。
普段からコミュニケーションをとることで、遺産分割についても話がしやすくなることが期待できます。
感情的な対立を避けるために常に冷静に、相手の立場も考え丁寧な言葉をつかうように心がけましょう。
弁護士など専門家の活用
複雑になりがちな遺産分割においては、専門家のアドバイスを受けながら進めるとスムーズな遺産分割ができるでしょう。
また相続人と連絡が取れない、どこにいるのかわからない、揉めそうなどの場合はお早めに専門家にご相談されることをおすすめします。
まとめ
分割相続と遺産分割協議をスムーズに行うコツについて解説してきました。
遺言書があることで揉める可能性のある遺産分割協議を回避し、相続人同士の関係が良好であれば相手への思いやりも生まれ遺産分割協議をする場面で揉める可能性が低くなります。
遺言書さえあれば揉めないということではなく、遺言書の内容が適切で疑義がなく、形式が適法に作成された遺言書であることが求められます。
遺産相続に強い弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所では、無料相談をお受けしております。
遺言書の作り方や遺産分割の手続きがわからない、揉めていて困っているなどの方はお気軽にご相談下さい。