この記事でわかること
- 長男が遺産を独り占めできるのかわかる
- 兄弟間の遺産相続の割合が理解できる
- 長男が遺産を独り占めするときの対応法がわかる
目次
法律上は長男が遺産相続の独り占めはできません
長男など相続人のひとりが遺産を独り占めすることは許されるのでしょうか。
長男と次男と三男がいて、長男が「自分が長男で家業を継ぐ立場なのだから、遺産はすべて自分のもの」などと主張をした場合、次男や三男などの他相続人の相続権利がどうなるかが問題です。
結論から言うと、次男や三男も相続人としての権利を持っているため、長男などの相続人のひとりが遺産を独り占めすることは許されません。
かつて日本には「家督制度」という遺産相続のルールがありました。
家督制度は家督相続とも呼ばれ、遺産は家督相続人(長男)がすべて相続するという制度でした。
現在の日本において家督制度はすでに廃止されており、民法で定める法定相続分によって相続人同士の遺産相続分が決められています。
民法で定める法定相続分では、子供は基本的に平等です。
子供が3人いる場合は3人で平等に遺産分割し、子供が2人いる場合は2人で平等に遺産相続することになります。
長男だからという理由で遺産を独り占めすることは許されず、次男や三男と相続権は同じです。
法律上の長男・次男の遺産相続分
民法では、遺産相続分は次のようになっています。
第1順位 | 被相続人の子供(子供が亡くなっているときは孫)配偶者1/2、子供1/2 |
---|---|
第2順位 | 直系尊属(父母。いないときは祖父母) 配偶者2/3、直系尊属1/3 |
第3順位 | 兄弟姉妹 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 |
※注意:被相続人の配偶者は常に相続人になる
事例
たとえば、父親が亡くなり、長男と次男、被相続人の配偶者(母親)が相続人になったとします。
配偶者は遺産の1/2が遺産相続分です。
長男と次男は子供ですから、遺産相続分は2人合わせて1/2になります。
このとき、長男が「自分は長男だから遺産はすべて自分が相続するべきだ」と主張しても、基本的に許されません。
配偶者である母親にも、弟である次男にも相続分があります。
ただし、法定相続分は、遺産相続で揉めたときや法律通りに遺産相続分割するとき、遺産相続分割の基準が欲しいときの「遺産分割の目安」です。
遺言書や遺産分割協議によって、法定相続分以外の割合で遺産を分けても差し支えありません。
遺産相続時に長男が独り占めできるケース
遺言書や遺産分割協議では、法定相続分と異なる遺産分割もできます。
遺言書を使えば被相続人の意思に合わせた遺産分割ができ、遺産分割協議をすれば相続人の都合に合わせた遺産分割も可能です。
基本的に長男と次男、三男などの遺産分割は平等ですが、遺産相続方法によっては長男が遺産を独り占めすることもできます。
長男が遺産相続で遺産を独り占めできるのは以下の3つのケースです。
長男が遺産を独り占めできるケース
- ・相続人が長男しかいなかった
- ・被相続人が遺言書で指定していた
- ・相続人全員で遺産分割協議をした
(1)相続人が長男しかいなかった
遺産相続で相続人が長男しかいないケースがあります。
事例
たとえば父親が亡くなり、父親の遺産を相続人が相続することになりました。
長男には母親(父親の配偶者)と弟(次男)がいましたが、父親より先に亡くなっています。
次男は結婚もしておらず、子供もいませんでした。
念のために相続人の調査も行いましたが、相続人は見つかりません。
弁護士にも確認してもらいましたが、相続人として存在し、存命なのは長男だけのようでした。
母親や次男が存命であれば長男と共に相続人になっていたでしょう。
父親が亡くなったときすでに故人だったため、相続はできません。
他の相続人も見つかりません。
よって、唯一の相続人である長男が、独り占めの意思の有無に関わらず遺産を相続することになります。
(2)被相続人が遺言書で遺産相続分を指定していた
被相続人が遺言書を残しており、遺言書で長男に遺産をすべて相続させる旨を指定していたケースでも、長男が独り占めできます。
遺産はもともと被相続人の財産でしたので、遺言書で指定があれば、それは被相続人の希望であり意思となります。
被相続人は相続後(死後)に自分の財産を自由に処分できませんが、その代わりに遺言というかたちで意思を表明することにより、自分の財産であった遺産を自分の意思に沿って分割します。
長男に遺産をすべて相続させるという指定があれば、遺産はすべて長男が相続します。
ただし、この場合「遺留分」というルールに注意が必要です。
遺留分とは「法定相続人の最低限の遺産の取り分」です。
事例
父親が遺言書で遺産をすべて長男に相続させる旨を指定しました。
遺産は預金に不動産、有価証券などです。
法定相続人に母親(配偶者)、長男、次男といた場合、長男が遺産をすべて相続すると、配偶者と次男の取り分はゼロです。
仮に母親が父親名義の実家で生活し、父親の収入で生活していた場合、父親の死によって遺産がすべて長男のものになるわけですから、母親の生活が困窮する可能性があります。
相続でひとりに遺産が集中して、他の相続人が生活基盤をすべて奪われないように、生活に困らないように、という趣旨で遺留分という制度が定められています。
遺留分は、配偶者と子供、直系尊属に定められています。
遺留分を持つ相続人は、長男に遺留分を渡してもらうための遺留分減殺請求が可能で、長男は遺留分減殺請求に応じて遺産を渡さなければいけません。
(3)相続人全員で遺産分割協議をして決めた
「遺産分割協議」とは、相続人たちで遺産相続分割を決めることです。
基本的に長男と次男は遺産相続において平等ですが、相続人の誰かに相続人全員の意思で遺産を集中させたり、特定の遺産のみ特定の相続人が引き受けたりすることも許されています。
遺言書が被相続人の意思で行う遺産相続分割だとしたら、遺産分割協議は相続人の事情により行われる遺産相続分割なのです。
事例
たとえば、長男と次男が相続人で、実家不動産と100万円の預金を遺産相続分割するとします。
長男と次男が法律通りに遺産相続分割すると、預金は50万円ずつ、不動産も持分1/2ずつです。
しかし、長男と次男は遺産分割協議を行い、預金と不動産を長男がすべて遺産相続することを決めました。
遺産分割協議で相続人全てが合意すると、このように相続人たちが好きに遺産を分割できます。
遺産分割協議によって、すべての相続人の合意で長男が遺産相続を独り占めする、というような取り決めをしたときは、長男がすべての遺産を受け継ぎます。
なお、遺産分割協議では、相続人ひとりの主張で遺産をすべて我が物にすることはできません。
相続人の誰かひとりでも反対すれば、長男が遺産を独り占めすることは不可能です。
兄弟間の遺産相続の割合を決める流れ
兄弟間の遺産相続割合を決める流れは次の通りです。
兄弟間の遺産相続割合を決める流れ
- (1)遺産分割協議を行う
- (2)遺産分割調停を行う
- (3)遺産分割審判を行う
兄弟間で遺産相続分割を決める場合は、まず遺産分割協議を行います。
遺産分割協議では、相続人すべての同意が必要で、仲の悪い相続人や連絡のつかない相続人を外すことはできません。
遺産分割協議で遺産相続分割が決まれば、その内容を遺産分割協議書にまとめて、各種相続手続きを行います。
ただし、遺産相続では遺産の取り分をめぐって揉めることが少なくありません。
遺産分割協議で相続人全員の同意を得られなかったら、裁判所の「遺産分割調停」を利用することになります。
調停とは、調停委員という専門家などのサポートで、遺産分割について話し合いにより解決する手続きです。
遺産分割調停で解決しなかった場合は、「遺産分割審判」を利用します。
遺産分割審判では、遺産分割について、法律の専門家である裁判官の判断を仰ぐことになります。
以上が遺産相続分割の基本的な流れになります。
なお、遺言書があった場合は、兄弟間の遺産相続分割の流れが異なります。
基本的に遺言書の指示通りに遺産相続を分割するので、まずは遺言書の検認など必要な手続きがあれば行い、遺言書の内容を確認して遺産相続分割を進めます。
前述したように、遺産分割協議や遺言書による指定で長男が遺産を独り占めすることがあり得ます。
しかし、遺産分割協議で相続人全員の合意が得られないなど、遺産相続分割が揉めた場合は、長男が法的に遺産を独り占めすることは基本的に不可能です。
遺産相続の分け方に納得がいかない場合
ひとりの相続人が遺産を独り占めしようとする場合などは、遺産相続の話し合いがこじれる傾向にあります。
長男が「母親の介護をするから」などと主張し遺産の独り占めを主張していれば、他の遺産相続人は納得がいかないかもしれません。
また、長男が父母と同居しており、すでに遺産を管理している場合などは、長男が勝手に遺産を使い込んでしまうこともあります。
長男の使い込みがあれば遺産の総額が目減りしてしまいます。
遺産相続の分け方に納得がいかない場合は、弁護士への相談と依頼という解決方法があります。
弁護士に依頼して解決する
次男や三男など他の相続人が「独り占めは許されない」と主張しても、長男は聞く耳を持たないことがあります。
弁護士から長男に話すことにより「法律の専門家が出てきた」「専門家の言うことなら」と話を聞く姿勢を見せることがあります。
弁護士には遺産分割協議での交渉も任せられるので、次男や三男は「遺産は自分のものだ」と主張している長男と専門家に遺産相続分割について交渉してもらえるというメリットもあります。
次男や三男などは長男に対して遠慮することも少なくありませんので、専門家にしっかりと権利を主張してもらうといいでしょう。
「親の面倒は見るから」とすべて長男が相続した場合によくあるトラブル
長男が「親の面倒は見るから、遺産はすべて自分が相続する」と言い出して、長男に財産の管理を任せた場合、後にさまざまなトラブルが起こることが考えられます。
長男が預かったお金を使い込んでしまったり、適切に管理できず財産が散逸してしまうことがあります。
また、財産の状況や残高などを聞いても教えてもらえない、お金が足りなくなったからと他の兄弟に金銭的な負担を要求する、といったケースもあります。
親の面倒を見ると約束していても、途中で長男が放棄してしまうと、結局他の相続人が親の面倒を見なくてはいけなくなります。
長男がすべての財産を管理することで、兄弟間で争いになってしまうこともありますので、ひとりだけに任せるのはおすすめできません。
遺産相続の長男の独り占めを避けるためにできること
親の生前から長男が遺産を独り占めする兆候があれば、あらかじめ独り占めを避けるために対策しておくことも重要です。
対策しておけば、いざ遺産相続となった際に、長男が容易に遺産を独り占めできなくなります。
長男の遺産独り占め対策法は以下の3つです。
- ・父母に遺言書を作ってもらう
- ・父母の介護や生活に次男も関与する
- ・早い段階で弁護士に相談する
対策のひとつとして、父母に遺言書を作成してもらう方法があります。
長男が遺産を独占できず遺留分などにも配慮した内容の遺言書を作成してもらえば、基本的に遺言書の内容に沿って遺産相続分割が行われるため、長男の遺産独り占めを防止できます。
この他に、父母の生活や介護に次男や三男なども関与するという方法もあります。
長男が「介護は自分がする」と父母の生活や介護をしていた場合、父母の財産管理なども長男が主になって行っているはずです。
財産管理のときに私的な使い込みをすることがある他、介護や生活のサポートを理由に遺産の独り占めを主張することがあります。
次男や三男など他兄弟も介入することで、「長男がひとりですべてやったのではなく、次男や三男も介護や生活サポートをしていた」ことになるため、遺産相続時の交渉がしやすくなり、「寄与分」も主張ができる可能性があります。
寄与分とは、介護などに尽力した相続人に対して遺産を上乗せして評価する制度です。
また、遺産相続で長男の私的な流用などが発覚したら、早い段階で弁護士に相談することも重要になります。
父母に遺言書を作成してもらう際に、長男の遺産独り占め対策をした旨を告げ、アドバイスをもらいましょう。
遺産相続のときも、寄与分や遺留分など相続人の権利をしっかり主張するためにサポートしてもらえば安心です。
遺言の内容は変えられるのか
遺言書を相続人が偽造や変造で内容を変えることは許されません。
相続欠格に該当し、相続権を失う可能性があります。
ただし、遺言書があるからといって絶対に遺言書に従わなければいけないわけではなく、相続人全員で遺産分割協議をすれば、遺言書の内容と異なる遺産分割も可能です。
遺産は本来、被相続人の財産でしたので、財産の処分は持ち主の意思を尊重すべきかもしれません。
しかし、遺言書の内容を守ると不平等な結果になることもあります。
たとえば、親の介護は次男がしていたのに、遺産はすべて長男が独り占めという結果になる可能性もあるのです。
遺言書の内容に不満がある場合は、遺留分を主張したり遺産分割協議を行うなど、法律のルールに沿って対処しましょう。
まとめ
次男や三男といった他の相続人も、相続に対する権利を持っているため、長男が遺産を独り占めすることは基本的には許されません。
ただし、遺産分割協議や遺言書で長男の遺産独り占めを許すことは可能です。
長男の遺産独り占め対策としては、父母の介護や生活サポートへの参加や、父母の遺言書作成などの方法があります。
心配なことがあれば、早い段階で弁護士にも遺産相続について相談しておきましょう。