目次
この記事でわかること
- 兄弟間で発生しがちな遺産相続トラブルの例を知ることができる
- 実際に兄弟間で遺産相続トラブルが起こった場合の解決法がわかる
- 事前に兄弟間の遺産相続トラブルを防止するための対処ができるようになる
被相続人が亡くなった後、兄弟間で遺産相続トラブルが発生するケースが多くあります。
「うちは兄弟の仲が良いから揉めるはずがない」「そんなに多くの遺産はないから大丈夫」と思っている方も多いと思いますが、安心することはできません。
たとえ相続開始前は仲の良かった兄弟であっても、いざお金の問題になるとお互いに権利意識が強くなり、トラブルになってしまうことが多いのです。
血の繋がった兄弟だからこそ、少しでも不平等があると許せないという気持ちもはたらくからでしょう。
この記事では、兄弟間で発生しやすい遺産相続トラブルについて例を挙げて解説し、相続トラブルが起きてしまった場合の解決方法や相続トラブルを未然に防ぐ対策法もご紹介します。
既に兄弟間の遺産相続トラブルに悩んでいる方も、将来の相続に備えて対策を考えている方も、ぜひ参考にしてください。
兄弟が相続人となるケースを確認しておこう
被相続人が亡くなったときに相続人となる人の範囲と順位、各相続人の相続分は法律で決められています。
まずは、亡くなった方の親族関係がどのような場合に兄弟が相続人となるのかを正確に確認しておきましょう。
配偶者は常に相続人となる
相続人の順位は第1順位から第3順位まで定められていますが、被相続人の配偶者は第1順位から第3順位までの相続人となる人がいるかどうかにかかわらず、常に相続人となります。
結婚していた期間に関係なく、被相続人が亡くなったときに法律上の婚姻をしていた配偶者は相続人となります。
逆に、法律上の婚姻をしていなければ相続人となることはできません。
内縁の妻(夫)は相続人になれませんし、離婚した次の日に被相続人が亡くなった場合にも相続人となることはありません。
第1順位は被相続人の子
第1順位の相続人は、被相続人の子どもです。
被相続人に配偶者と子どもがいる場合は、配偶者と子どものみが相続人となり、その他の親族は相続人となりません。
相続分は配偶者と子どもとで2分の1ずつになります。
子どもが複数人いる場合は、それぞれの子どもの相続分は均等です。
例えば、3人の子どもがいる場合の各相続人の相続分は、配偶者が2分の1、子どもが1人あたり6分の1となります。
被相続人が亡くなったときに子どもが既に亡くなっていた場合は、その子どもに子ども(被相続人の孫)がいればその人が相続人となります。
ここにいう「子ども」には、被相続人と養子縁組をした子どもと被相続人が認知した子ども(非嫡出子)とが含まれます。
高齢の親が亡くなったときには、血の繋がっていない養子やそれまで存在することも知らなかった非嫡出子が兄弟と同じ立場で相続人となるケースがあるので、注意が必要です。
第2順位は被相続人の親
第2順位の相続人は、被相続人の親です。
親は、被相続人に子どもがいない場合に限り、相続人となります。
つまり、被相続人の子どもと親が同時に相続人となることはありません。
第1順位の相続人がいないときにはじめて相続人となることから、「第2順位」の相続人と呼ばれています。
被相続人に子どもがなく、配偶者と親がいる場合は配偶者と親のみが相続人となり、その他の親族は相続人となりません。
相続分は配偶者が3分の2、親が3分の1です。
両親がそろって相続人となる場合は、父と母の相続分は半分ずつ、つまり6分の1ずつとなります。
被相続人が亡くなったときに親が既に亡くなっている場合で、その親(被相続人の祖父母)がいるときはその人が相続人となります。
第3順位は被相続人の兄弟姉妹
第3順位の相続人は、被相続人の兄弟姉妹です。
兄弟姉妹は、被相続人に子どもや親がいる場合は相続人となりません。
被相続人に子どもも親もいなくて、配偶者と兄弟姉妹がいる場合は配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。
兄弟姉妹が複数名いる場合は、それぞれの相続分は均等です。
例えば、配偶者と3人の兄弟が相続人となる場合、それぞれの相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が1人あたり12分の1ずつになります。
兄弟姉妹が相続人となるケースのまとめ
以上にご紹介したケースのうち、兄弟姉妹が相続人となるのは、
- ・親が亡くなって複数名の子どもが相続するケース
- ・親も子どももいない兄弟姉妹が亡くなって複数名の兄弟姉妹が相続するケース
ということになります。
世の中には、相続人として配偶者と子どもがいる場合でも被相続人の兄弟姉妹が口を出してきて遺産相続トラブルが発生するケースもあります。
しかし、このようなケースについては、この記事で解説する兄弟間の遺産相続トラブルとしては考慮しないことにします。
以下、兄弟姉妹が相続人となる場合に発生する遺産相続トラブルについて解説していきます。
兄弟間で発生しやすい遺産相続トラブルの6つの例
遺産相続トラブルにはさまざまなケースがありますが、ここでは特に発生しやすい兄弟間の遺産相続トラブルの例を6つご紹介します。
不動産の分割をめぐって兄弟間にトラブルが発生するケース
遺産が現金や預貯金など現物での分割が容易なものばかりであれば、分割方法に困ることはありません。
しかし、不動産は分割が容易でないため、遺産の中に不動産があると兄弟間で遺産相続トラブルが発生しやすくなります。
特に、遺産の中で不動産の占める割合が高く、現金や預貯金などの流動資産が少ない場合は遺産を公平に分けるのが困難になってしまいます。
具体例を挙げて解説します。
遺産の公平な分割が困難な具体例
例として、父である被相続人が亡くなり、相続人として長男・次男・長女の3人の子どもがいるケースで考えてみましょう。
遺産として、被相続人名義の自宅である土地家屋(評価額3,000万円)と預貯金600万円があったとします。
遺産総額は3,600万円となり、3人の相続人で公平に分割すれば1人1,200万円ずつを取得することになります。
しかし、土地家屋をただちに分割するのは容易ではありません。
このような場合に遺産を公平に分割する方法は3つあります。
遺産をそのままの形で分割する現物分割
現物分割とは、特定の相続財産を売却せず、そのままの形で相続人の間で分割する方法のことです。
今回の例では、不動産を物理的に分割することはできないので、相続人3名の共有名義にすることが考えられます。
その上で、預貯金を200万円ずつ配分すれば、一応は公平な遺産分割が実現します。
しかし、不動産を共有名義にしても、その不動産に住まない相続人にとっては価値がないため、実質的に公平とはいえません。
遺産を売却する換価分割
換価分割とは、相続財産を売却してしまい、売却代金を相続人の間で分割する方法のことです。
今回の例では、不動産を3,000万円で売ることができれば、合計3,600万円の遺産を1人1,200万円ずつ公平に分割することができます。
この方法は最も公平な遺産分割を実現できるメリットがありますが、せっかく被相続人が残した自宅の土地家屋を失ってしまうというデメリットもあります。
この土地家屋で被相続人と同居してきた相続人は住む家を失ってしまうことになります。
現物を取得した相続人がお金を支払う代償分割
代償分割とは、相続財産を現物で取得した相続人が、相続分を超えて取得した分を金銭に換算し、他の相続人にお金を支払う形で精算する分割方法のことです。
今回の例では、まず不動産を長男が取得し、預貯金を次男と長女で300万円ずつ分割して取得します。
長男は自分の相続分よりも1,800万円分多い相続財産を取得しているため、次男と長女に900万円ずつを支払います。
こうすることで公平な遺産分割を実現することができます。
ただし、長男に1,800万円ものお金を支払う余裕がなければこの方法をとることはできないことになります。
遺言書があれば解決できる場合もある
遺産分割の3つの方法をご紹介しましたが、今回の例ではどの方法によっても円満に解決できるとは限らないことになります。
こんな場合に、遺言書で「自宅の土地家屋は長男が相続する」と指定されていればその内容が最優先されるため、解決できることがあります。
しかし、遺言書によっても遺留分として次男と長女にも最低限の取り分が保障されるため、結局は長男が多額のお金を支払わなければならない可能性もあります。
最終的には換価分割をするしか公平な遺産分割を実現する方法はないのかもしれませんが、長男に過度の負担がかからないよう、兄弟間で十分に話し合うことも必要でしょう。
長男が単独での相続を主張するケース
以前は家督相続という制度があり、戸主である被相続人が亡くなるとその長男がすべての遺産を相続するのが原則とされていました。
古い時代には家督相続が合理的とされていましたが、時代が新しくなるにつれて家族構成も変化し、相続についても平等に行うことが望ましいと考えられるようになっていきました。
そこで、昭和22年に施行された改正民法によって家督相続の制度は廃止され、兄弟の相続分は平等となりました。
ただ、現在でも長男が相続財産のほとんどを相続すべきだと考える人も多くいます。
その一方で、長男以外の相続人の多くは、相続財産は平等に分けるべきだと考えているものです。
このように、長男とそれ以外の相続人とで相続に対する考え方が異なるために兄弟間の遺産相続トラブルが発生しているケースも多くあります。
長男は寄与分によって多くの遺産を相続できる場合もある
長男だから多くの遺産を相続できるはずだという考え方は通用しません。
しかし、長男が被相続人と同居して事業を手伝っていたり、介護していた場合は寄与分によって他の総則人よりも多くの遺産を相続できる場合もあります。
寄与分とは、被相続人の事業を手伝ったり、その事業に資金を提供していたり、あるいは被相続人の療養看護などによって被相続人の財産の維持・増加に寄与した相続人は、寄与したぶんだけ他の相続人よりも多くの遺産を取得できる制度のことです。
長男に限らず、相続人の中にこのような寄与をした人がいれば寄与分が認められます。
ただ、具体的に寄与分としていくらが認められるかについては明確な基準はなく、相続人間の協議で定める必要があります。
法に則って話し合うことが重要
長男の立場を振りかざして単独相続を主張する人に対しては、法律を理解してもらうようにしなければなりません。
現在の民法では兄弟間の相続分は平等とされていることを主張する一方で、被相続人の事業や介護に貢献した長男には寄与分があることを理解してあげることも必要でしょう。
長男に遺産のほとんどを相続させる内容の遺言書があれば、遺留分を侵害しない限度で遺言書の内容が優先されます。
相続では、とかく相続人がそれぞれの立場で感情的になりやすいものですが、法に則って冷静な話し合いをすることが重要です。
一人の兄弟のみが被相続人の介護をしていたケース
兄弟が何名かいても、被相続人と同居していた相続人のみが被相続人を介護していて、他の兄弟は盆や正月など年に1~2回帰ってくるだけというケースもよくあります。
このような場合、長期間の介護をした相続人としては、多くの遺産を相続したいと考えるのも無理はありません。
ただ、介護の負担というのは実際にした人でないとなかなかわからない面があります。
そのため、ここでも他の兄弟は平等の相続を主張しがちです。
それによって兄弟間の遺産分割トラブルが発生しやすくなります。
このケースでも先ほどご説明した寄与分がポイントとなりますが、介護については少し注意が必要です。
介護保険の導入によって介護による寄与分は認められにくくなっている
年老いた親を相続人の一人が介護するというのは寄与分が認められる典型的なケースですが、介護保険の導入によって家庭裁判所の調停や審判では寄与分が認められにくくなっています。
最近では介護サービスも普及しており、高齢で介護が必要になった人は介護保険を使って介護サービスを受けていることが多くなっています。
介護サービスを受けるのはいいのですが、そのぶん相続人による介護への寄与度は減少しているため、寄与分が認められなかったり、認められても金額が減っている傾向にあるのです。
家庭裁判所の判断は厳しくなっているのが現実ですが、寄与分の金額は第一次的には相続人間の協議で決めるものです。
介護の大変さは実際に経験しないとわからない面があるので、できる限り兄弟間で配慮のある話し合いを進めたいところです。
被相続人の生前に援助を受けた兄弟がいるケース
兄弟のうちの一部の人だけが被相続人の生前にさまざまな援助を受けているケースがあります。
例えば、次男だけが親から学費を出してもらって大学に通ったのに他の兄弟は高卒で働いていたり、長男だけが親から事業資金を出してもらって商売をしているのに他の兄弟はサラリーマンとして働いている場合などがよくあります。
親から特別な援助を受けていない兄弟にとしては、被相続人である親から既に多額の援助を受けている兄弟は相続分を減らされて当然だと考えるのも無理はありません。
しかし、このようなケースでも援助を受けた兄弟は生前の援助と相続は別だと考え、遺産相続においては平等の遺産分割を主張することが多いです。
特別受益という寄与分とは逆の制度がある
先ほどご説明した寄与分は被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人が利益を得られる制度でした。
それとは逆に、被相続人の生前に援助を受けた相続人の利益が減らされる特別受益という制度があります。
特別受益とは、被相続人から多額の生前贈与や遺贈といった特別の利益を受けた相続人がいる場合に、その相続人が取得できる相続財産を減少させる制度のことです。
どの程度の援助が特別受益にあたるのかは必ずしも明確ではありませんが、親族間の扶養の程度を越えるような特別な援助があれば特別受益にあたると考えて良いでしょう。
代表的なものとしては、事業資金やマイホームの購入・新築のための資金などが挙げられます。
学費については、私立の医科大学のように特に高額な場合は別として、一般的な大学の学費は扶養の範囲内として特別受益にはあたらないと判断される傾向にあります。
兄弟のうちの一部の人だけが被相続人から特別な援助を受けていた場合は、特別受益を考慮して話し合うべきでしょう。
一部の相続人による遺産の使い込みが疑われるケース
被相続人と同居している相続人が、年老いた被相続人に代わって預貯金通帳の管理をしている場合に特に多いのですが、遺産の使い込みが疑わしいケースもあります。
遺産となる預貯金が実際に使い込まれるケースとしては、被相続人の療養費や葬儀費用に使われることもありますが、同居している相続人が無断で着服しているケースも少なくありません。
長期間にわたって多額の預貯金が引き出されていると、それらのお金が何にいくら使われたのかがわかりにくくなり、同居している相続人が着服したのではないかという疑いも強まってしまいます。
財産管理のルールを定めておくのがポイント
このような兄弟間のトラブルを防ぐためには、早い段階で兄弟間で話し合い、相続財産を管理するためのルールを定めておくことが大切です。
被相続人の預貯金を引き出す場合には金額と使い途をメモして、領収証を保管するといったルールは最低限必要でしょう。
被相続人と同居している相続人を信用できない場合は、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てることも検討しましょう。
弁護士や司法書士などの専門家に被相続人の成年後見人となってもらい、財産を管理してもらうのです。
その前提として、相続財産として何がいくらあるのかを明確にして兄弟間で情報を共有することも必要です。
被相続人が亡くなった後は、できるだけ早期に財産調査をした上、遺産目録を作成しておきましょう。
被相続人の生前に遺言書やエンディングノートを作っておいてもらうことも有効です。
遺言書の内容が不公平なケース
被相続人が遺言書で遺産分割の方法を指定することは、兄弟間の遺産分割トラブルを防止するために非常に有効です。
しかし、遺言書の内容によっては、かえって兄弟間の遺産分割トラブルを招く場合もあるので注意が必要です。
例えば、遺言書で長男にすべての遺産を相続させることが指定されていた場合、他の兄弟は納得できないでしょう。
遺言書の効力は絶対的なものではなく、相続人全員の合意があれば遺産分割の方法は自由に定めることができます。
そのため、遺言書の内容に納得できない相続人の意見も無視しようとすれば兄弟間の遺産分割トラブルに発展してしまうのです。
遺言書を作成するにも各相続人への配慮が必要
何の説明もなしに遺言で不公平な遺産分割方法を指定されると、不利益を受ける相続人が黙っていられないのも無理はありません。
被相続人としては、遺言書を作成する段階で兄弟のそれぞれに対して納得のいくような説明をしておくのが理想的です。
また、親の法定相続人となる子どもには遺留分もあります。
兄弟の1人に遺産の全てを相続させる遺言書を作成しても、他の兄弟から遺留分を請求される可能性が高いです。
そのため、他の兄弟にも遺留分を侵害しない程度の遺産を相続させるといった配慮もしておきたいところです。
兄弟で起きた相続トラブルの解決方法
兄弟間で発生しやすい遺産分割トラブルの例をご紹介しましたが、これらのケースでは兄弟同士の意見が衝突して感情的になりがちで、話し合いが進みにくいものです。
実際に兄弟間で遺産相続トラブルが起こってしまった場合は、どのようにして解決すれば良いのでしょうか。
遺言書を探す
まずは、被相続人が作成した遺言書がないかを確認しましょう。
遺言書があれば、遺留分などの問題はあるものの、遺産分割協議を避けてトラブルを解決できる可能性もあります。
遺言書は見つかりにくい場所に保管されていることが多いので、被相続人の自宅内を財産調査も兼ねてすみずみまで探しましょう。
自宅内に遺言書がなければ、銀行の貸金庫や公証役場に確認することも必要です。
令和2年7月10日からは法務局で自筆証書遺言を保管する制度も始まるので、それ以降は法務局でも確認をとりましょう。
法に則って遺産分割協議を行う
遺言書がなければ、兄弟間で遺産分割協議を行わなければなりません。
とはいえ、感情的になっているとなかなか遺産分割協議が進まないので、冷静に話し合うことが必要です。
冷静に話し合うためには、法に則って話をすることがポイントです。
相続分や遺留分の他、寄与分や特別受益の問題も正確に理解した上で、遺産分割協議をリードしましょう。
法に従う以上、自分に不利になってしまうケースもありますが、譲れる部分は譲るという姿勢も大切です。
遺産分割協議を弁護士に依頼する
法に則って遺産分割協議をリードしようと思っても、感情的になってしまった兄弟を納得させるのは容易でない場合もあります。
そんなときは、遺産分割協議を弁護士に依頼することを検討してみましょう。
弁護士に依頼すれば費用はかかりますが、弁護士が自分に代わって兄弟と話し合いをしてくれるというメリットがあります。
そのため、遺産分割の手間と精神的負担から解放されます。
それまで納得しなかった兄弟も、専門家である弁護士の言うことであれば納得して遺産分割がまとまる可能性も高まります。
遺産分割調停・審判を申し立てる
弁護士が遺産分割協議に介入しても話がまとまらない場合もあります。
どうしても遺産分割協議が成立しない場合は、あまりに話し合いを長引かせるよりも家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てた方が良いでしょう。
遺産分割調停とは、家庭裁判所において各相続人が遺産分割について話し合う手続きです。
直接話し合うわけではなく、調停委員という中立公平な立場の専門家や有識者を介しての話し合いなので、合意に至る可能性が高まります。
調停によっても話し合いがまとまらない場合は、遺産分割審判によって、家庭裁判所に判断を下してもらうことができます。
遺産分割調停と遺産分割審判はどちらを申し立てても構いません。
ただ、どちらも申し立てる際には書類が必要となり、手続きも複雑なので弁護士や司法書士などの専門家に依頼した方が良いでしょう。
兄弟での相続トラブルを未然に防ぐ対策法
兄弟間で遺産分割トラブルが発生しても、上記の方法によって最終的には必ず解決することができます。
しかし、できることなら兄弟間の遺産分割トラブルは未然に防ぎたいところです。
そこで、被相続人の生前と亡くなった後に分けて未然の対策法をご紹介します。
被相続人の生前にできる対策法
兄弟間の遺産分割トラブルを未然に防ぐために被相続人の生前にできる対策法としては、以下の5つがあります。
被相続人の財産を明らかにしておく
遺産として何がいくらあるのかがわからないと、兄弟間に無用のトラブルを招きやすいものです。
思ったよりも遺産が少ない場合などは、兄弟のうちの誰かが遺産を使い込んだのではないか、隠しているのではないかという疑いを抱く人もいます。
仮にトラブルにならなくても、被相続人が亡くなってから財産を漏れなく調査するのは大変です。
そこで、できる限り被相続人に生前のうちに財産状況をまとめておいてもらったり、聞き出してメモを取るなどして遺産となるべき財産を明らかにしておきましょう。
財産が明らかになったら、目録を作ったうえで兄弟間でその情報を共有することも大切です。
財産管理のルールを定めておく
兄弟のうちの誰かが被相続人である年老いた親と同居して被相続人の財産を管理している場合は、財産管理のルールを定めておくことが大切です。
使途不明金があると兄弟間のトラブルが発生しやすいので、被相続人のお金についての帳簿を作成し、領収証なども保管するなどのルールを定めておきたいところです。
また、お金の使い途や1回に引き出せる金額なども限定的に決めておいて、それ以上の金額を引き出す場合は事前に他の兄弟の了解を要するなどのルールも決めておくと良いでしょう。
親の介護に関する事項を話し合う
年老いた親の介護を同居の相続人のみに押し付けられ、他の兄弟はほとんど関わらないという状態が長年続くと、兄弟間でも感情的なわだかまりが発生しやすくなります。
介護の大変さは経験してみないとわからない面が大きいので、介護の方針や分担を話し合うことで、実際には介護に関わらない兄弟にも苦労を理解してもらえるきっかけになります。
また、高齢や認知症になった親を施設に入所させるかどうかは兄弟間でも意見が分かれやすいので、必ず兄弟で十分に話し合って決めることが大切です。
他の兄弟の了解を得ずに親を施設に入所させてしまうと、料金などをめぐって遺産分割トラブルに発展しやすいので注意が必要です。
親に遺言書の作成を勧める
遺言書があれば、兄弟間の無用の遺産分割トラブルを防げることも多いものです。
遺言書がないために兄弟間で遺産分割トラブルが発生し、後悔している家庭も多いのです。
親に対して遺言書を作成することを頼みにくい場合も多いと思いますが、兄弟間のトラブルを防ぐ必要性を話すなどしつつ、それとなくすすめてみましょう。
なお、法律的に有効な遺言書を作成するためには、いくつかの要件が定められています。
要件を満たした遺言書でなければ無効となり、せっかく作成しても兄弟間のトラブル防止に役立たなくなってしまいます。
そのため、遺言書の作成は弁護士や司法書士などの専門家に依頼したほうが安心です。
また、自筆証書遺言は家庭裁判所で検認を受ける手続きが必要になるため、できるだけ公正証書で遺言書を作成しておくことが望ましいです。
相続税をシミュレーションしておく
相続税を事前におおよそにでも計算しておかないと、実際に相続したときに予想外に高額な相続税が発生する場合があります。
特に不動産についてはその他の財産とは相続税の計算方法が異なります。
そのために、公平に遺産を分割したはずなのに兄弟間で納税額に偏りが出るケースもあります。
相続税がかかるかどうかの計算は比較的簡単なので、早い段階で一度計算してみた方が良いでしょう。
実際の相続税の計算は複雑なので、専門家に相談することをおすすめします。
また、両親ともまだご存命の場合は、一方が亡くなった後、比較的近い時期にもう一方も亡くなる「二次相続」が起こる可能性もあります。
相続税を計算する際には一次相続と二次相続を通じた考慮が必要になることもあるため、早いうちに専門家に相談した方が良いでしょう。
被相続人が亡くなった後にすべき対策法
被相続人が亡くなった後にできる対策は、ひと言で言えば通常の遺産分割の手続きを正確に行うことに尽きます。
以下、特に注意すべき点を順にご説明します。
遺言書を探す
兄弟間で実際に遺産分割トラブルが起こってしまったときの解決法でもご説明しましたが、被相続人が亡くなったら必ず遺言書を探しましょう。
遺産分割協議が円満に成立したと思っても、その後に遺言書が見つかると兄弟間でトラブルが発生しがちになります。
戸籍調査と財産調査を正確かつスピーディに行う
相続が発生した場合は、すべてのケースで戸籍調査と財産調査が必要になります。
戸籍調査とは、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を集めることです。
連続した戸籍謄本をすべて確認することによって、相続人として誰がいるのかを確認し、証明します。
戸籍を調査すると、被相続人と過去に離婚した配偶者との間に子どもがいたり、認知した子どもがいたりすることが判明することも珍しくありません。
逆に、兄弟だと思っていた人が実は戸籍上の兄弟ではなかったという子ともまれにあります。
遺産分割協議は相続人が全員参加して行う必要があるため、以上のような事実が後になって判明すると、遺産分割協議をやり直さなければならなくなります。
そのため、戸籍調査は早めに行いましょう。
財産についても、存在を知らなかった財産が後になって見つかると遺産分割協議をやり直す必要があり、兄弟間の遺産分割トラブルを招く元になります。
財産調査も早めに行うことが重要です。
被相続人に借金がないかを確認する
被相続人に借金などの負債があれば、それも相続してしまいます。
プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合は相続放棄を検討することになるのが一般的です。
しかし、プラスの財産の方が多い場合は誰が負債を負担するのかを兄弟間で話し合う必要があります。
なお、相続財産である不動産や預貯金口座の一部でも名義変更をしたり、遺産を少しでも使ったり処分したりすると、その後で被相続人の借金が判明しても相続放棄はできなくなります。
そのため、財産調査と併せて被相続人の借金の有無についても十分に確認しましょう。
遺産目録を作成して情報を共有する
財産調査が終わり、プラスの財産もマイナスの財産も明らかになったら、遺産目録を作成してその情報を兄弟間で共有しましょう。
遺産として何がいくらあるのかを明確にしないと他の兄弟は不安になりますし、場合によっては財産隠しを疑われたりしてトラブルを招く元になります。
預貯金の取引履歴や不動産の権利証、評価証明書などの根拠資料も大切に保管しておきましょう。
相続人に成年後見人の選任が必要なことも
最近は相続人もそれぞれが高齢になっている場合も多く、なかには認知症などを発症している方もいます。
遺産分割協議には相続人の全員の参加が必要ですが、認知症などで意思能力や判断能力を欠いた人が参加した遺産分割協議は無効になります。
相続人の中に認知症を発症した方がいる場合は、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらい、成年後見人が遺産分割協議に参加する必要があります。
家庭裁判所に申し立ててから成年後見人が選任されるまでには数ヶ月かかるのが通常なので、この手続きも早めに行うようにしましょう。
遺産分割協議は計画的に
遺産分割協議を行うのは戸籍調査と財産調査が終わった後が望ましいですが、戸籍調査と財産調査には1ヶ月~3ヶ月程度かかるのが通常です。
ただ、戸籍調査や財産調査に関わらない兄弟は、調査に時間がかかることを理解していない場合があります。
そのため、調査に時間がかかることを説明し、いつころから協議を始めるのかについて早い段階である程度スケジュールを立てて、兄弟間で共有することが大切です。
兄弟で集まって協議を行う場合は、無理な日程を押し付けることのないようにスケジュールを組むことも必要です。
遺産分割協議書を作成する
不動産などの名義変更を行う場合は遺産分割協議書が必要ですが、そうでない場合も遺産分割協議が成立すれば遺産分割協議書を作成しておきましょう。
たとえ遺産が少額の現金や預貯金だけだったとしても、口頭の話し合いだけですませると、後で、言った言わないの兄弟間トラブルが発生するおそれがあります。
証拠を残す意味でも、遺産分割協議書を作成することは大切です。
遺産分割協議書は1通だけ作成して他の兄弟にはコピーを渡すのでも構いませんが、大切な書類なので、人数分の原本を作成して各自が保管するのが望ましいといえます。
まとめ
兄弟間の遺産分割トラブルの防止・解決の最大のポイントは、しっかりと相続について話し合ってお互いに理解することです。
仲の良い兄弟であっても相続の問題を避けていると、いざ相続が開始したときに感情的になってまとまるはなしもまとまらなくなるものです。
被相続人の生前から相続についてオープンに話し合い、守るべきルールも決めて、安心して被相続人を送り出したいところです。
それでも相続についてわからないことや不安なことがあると、お互いに権利を守ろうとして兄弟間にわだかまりが生じることがあります。
そんなときは、法律を理解して冷静に解決策を探ることが大切です。
相続について疑問があったら、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談してみましょう。