この記事でわかること
- 土地の遺産相続でよくあるトラブル事例がわかる
- 土地の遺産相続問題の対策方法がわかる
被相続人が亡くなって相続が開始したら、トラブルが発生することがあります。
特に、相続財産の中に土地などの不動産が含まれている場合は、揉めやすくなっています。
不動産は平等に分割するのが難しいからです。
相続財産に土地が含まれる場合のよくある問題点としては、実家を相続できると誤解していた、実家が空き家になってしまったなどがあります。
そこで今回は、土地などの不動産を相続する場合によくあるトラブルと対策についてご紹介します。
目次
よくある土地の相続トラブル(1)実家を相続できると誤解した
親の世話や介護で長年実家に同居していた場合や、二世帯住宅を建てて親と同じ建物に居住していた場合などは、親が亡くなったら自分が実家の不動産を相続できると誤解してしまうことがあります。
この点、相続人の1人が何らかの理由で親と一緒に長年住んでいたとしても、法的には実家の不動産をそのまま相続できるわけではありません。
親に貢献した場合は寄与分の制度を活用する
親に対する貢献を相続に反映させるためには、寄与分という制度を利用する必要があります。
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人がいる場合に、その貢献の分だけ財産を多く相続できる制度です。
寄与分が認められる可能性がある例としては、
- 実家の家業を長年手伝って財産の蓄積に貢献した
- 親の介護に精を出して高額な入院費などの支出の負担を防いだ
などがあります。
寄与分が認められるためには
寄与分が認められるかについては、まずは相続人同士の話し合いで決めます。
寄与分を認めるかどうかや、寄与分として認める金額や内容などは、全ての相続人が納得すれば基本的に自由に決定することが可能です。
相続人同士の話し合いで寄与分が認められなかった場合は、寄与分を主張する者は家庭裁判所に申し立てる方法があります。
まず寄与分について家庭裁判所を介して話し合う調停を申し立て、それでも成立しなかった場合は裁判官による審判を求められます。
裁判所に寄与分を求める場合の注意点
寄与分が認められるのは簡単でありません。
家庭裁判所の審判では、他の相続人の意志に反してでも寄与分を認定できますが、その分認められる難易度は高いです。
また、家庭裁判所で寄与分の請求手続きには、多くの手間や時間、費用がかかります。
時間や費用をかけても請求が認められるとは限らないので、慎重に検討しましょう。
寄与分を認められやすくする方法
親の介護を長年頑張ったなどの理由で寄与分を認めてほしい場合は、相続が開始する前に家族会議をしておくことが重要です。
たとえば、寄与分として実家の不動産などを特別に相続したいのであれば、その旨を親や他の相続人にきちんと伝えておきます。
いざ相続という段階になって初めて話をしても、急な話では受け入れられるのは難しくなります。
また、話し合いの結果として寄与分の内容が決まった場合は、後で「言った言わない」のトラブルを防ぐために、合意した内容について書面にしておくと安心です。
よくある土地の相続トラブル(2)実家に誰も居住しなくなる
生前に親が居住していた不動産を誰も使用しない場合、実家は空き家になってしまいます。
空き家になった不動産には以下のようなリスクがあります。
- 建物の老朽化
- 悪臭などの原因になる
- 固定資産税がかかる
また、近所から苦情が出て補修をしなければならない場合などは、その費用も発生します。
空き家リスクを防ぐ方法
家族との思い出がつまった実家を処分するのは気持ちとして難しい場合がありますが、何も手入れをせずに放置していると先にご紹介したようなトラブルの原因になってしまいます。
実家を残す際は、単に放置するのではなく、こまめに手入れをしたり相続人の誰かが居住したりするなどの工夫をしましょう。
実家を空き家にするリスクを防ぐ方法としては、以下のようなものがあります。
- ・相続人同士で協力して管理する
- ・管理会社に管理を委託する
- ・賃貸物件として貸し出す、不動産を売却するなどの手段
相続人の1人が実家の処分に反対している場合には売却などは難しくなりますが、代わりにその相続人に補修や居住を任せる方法もあります。
いずれの方法も費用や手間などが発生するため、実家をどうするかについては相続人同士でよく話し合うことが重要です。
よくある土地の相続トラブル(3)登記をせずに放置していた
土地を相続しても、登記を変更せずに被相続人の名義のままとなっていることがあります。
相続登記の法的な期限がなかったこともあり、放置されていることでその後に問題になることもありました。
そこで、2024年4月1日から相続登記が義務化されることとなりました。
この義務化によって、相続が発生してから3年以内に相続登記を行う必要があることになりました。
相続登記を期限内に行わなかった場合は、10万円以下の過料が科されます。
なお、過去に発生した相続についても相続登記の対象になります。対象となる土地は数多くあります。
遺産分割協議書とは
相続登記の申請をする場合、申請書と一緒に登記原因証明情報を添付します。
登記原因証明情報とは、登記がどのような理由で必要になり、誰に不動産についての権利が移行したのかを証明するためのものです。
登記原因証明情報になるものはいくつかありますが、相続人が複数の場合、誰が登記の対象となる不動産を相続したかを証明するために、遺産分割協議書を情報として添付するケースが多くなっています。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議によってどのように遺産を分配したかを示す書類です。
遺産分割協議は相続手続きで必ず作成しなければならないものではありませんが、遺産分割協議の内容を証明するのに重要です。
遺産分割協議書が必要になるケース
遺産分割協議書が必要になる相続のケースは、被相続人による遺言がなく、かつ法定相続分とは異なる割合で遺産分割をした相続です(遺産分割のために調停や審判を利用した場合をのぞく)。
被相続人による遺言がある場合は、その遺言内容に従って遺産が分割されるため、有効な遺言書があれば遺産分割協議書は必要ありません。
法定相続分とは、民法に規定されている相続のルールのことです。
法定相続分の内容は民法から明らかなので、この場合も遺産分割協議書は不要です。
遺産分割協議書が必要な名義変更
遺言書がなく、かつ法定相続分とは異なる分割方法で実家を相続した場合、登記によって名義変更をするためには遺産分割協議書が必要です。
実家の登記の名義が被相続人の親ではなく祖父のままであった場合、まず祖父から親、次に親から子へと2回名義変更をします。(相続が祖父→父親→母親→子の場合などは3回)
複数回の名義変更で遺産分割協議書が必要な場合、最後の相続についての遺産分割協議書だけでなく、それ以前の相続についての遺産分割協議書も揃えることになります。
以前の遺産分割協議書が現存していれば問題はありませんが、だいぶ前の相続の場合は遺産分割協議書が残っていない場合も多いです。
その場合、以前の相続の分も含めて遺産分割協議書を作成することが必要です。
登記のトラブルを防止する方法
登記の名義人が被相続人ではない場合、登記の名義変更をするための手続が煩雑になり、多くの書類や手間が必要になってしまいます。
特に、遺産分割協議書が必要なケースでは手続が大変です。
登記の名義に関するトラブルを防止するには、相続が開始する前に相続の対象になる不動産の名義を確認しておくことが重要です。
よくある土地の相続トラブル(4)自分の遺留分がもらえない
被相続人の配偶者、子、直系尊属(父母など)は、相続財産について遺留分という権利が認められます。
遺留分とは相続財産についての最低限の取り分のことです。
遺留分の例としては、たとえば親が亡くなって長男と次男の2人が相続人となる場合、2人にはそれぞれ相続財産の価格の1/4が遺留分です。
たとえば、相続財産の合計金額が2,000万円の場合、長男と次男にそれぞれ500万円の遺留分です。
長男が2,000万円の全てを単独で相続した場合、次男の遺留分の500万円が侵害されています。
遺留分を侵害される典型例は「長男に全ての遺産を相続させる」などの遺言を残し被相続人が遺留分を侵害するような遺言を残した場合です。
遺留分を侵害されたら遺留分侵害額請求
自分の遺留分を侵害された場合、侵害した相手に対して遺留分侵害額請求できます。
遺留分侵害額請求権とは、侵害された遺留分に相当する額の金銭の支払いを求める権利です。
たとえば、次男の遺留分が500万円分あるにもかかわらず、長男が親が残した2,000万円の土地を単独で相続してしまった場合、次男は長男に対して500万円の金銭を請求できます。
遺留分侵害額請求の注意点
遺留分侵害額請求の注意点は、相続自体を無効にできるのではないことです。
遺留分を侵害するような相続が行われたとしても、遺留分侵害額請求によって相続自体が無効になるわけではありません。
次に、遺留分侵害額請求で請求できるのはあくまで金銭の支払いのみです。
遺留分を侵害するような土地の相続があったとしても、その土地自体の返還を求めることはできません。
また、遺留分侵害額請求には時効があります。
相続が開始したこと(被相続人が亡くなったこと)を知り、かつ遺留分を侵害する贈与や遺贈が行われた事実を知ってから1年間が経過すると、時効になってしまいます。
遺留分を侵害しないような遺言が重要
遺留分侵害額請求には手間や負担が発生します。
相手が応じればよいですが、応じない場合は裁判所に訴えることも検討しなければなりません。
遺留分に関するトラブルを防止する効果的な方法は、被相続人が遺言をする際に遺留分を侵害しないように気をつけることです。
遺留分を侵害しなければ、後で請求する必要もなくなるからです。
よくある土地の相続トラブル(5)相続税を負担しなければならない
相続した財産の価格が高額な場合は、相続税を納税しなければならないことがあります。
具体的には、相続財産の価格が相続税の基礎控除額を上回る場合には、相続税の課税対象になります。
相続税の基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
たとえば、相続財産が3,000万円の土地と2,000万円の現金の場合、相続財産の合計額は5,000万円です。
法定相続人が3人の場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3) =4,800万円 になります。
5,000万円-4,800万円=200万円なので、200万円について相続税の課税対象になります。
相続税についての注意点と対策
相続税の課税対象になった場合、相続が発生した日(被相続人が亡くなった日)の翌日から起算して10ヶ月以内に相続税を納めなければなりません。
注意点として、相続税は現金で納付します。
相続した財産が現金であればあまり問題はありませんが、相続した財産が実家などの不動産のみの場合は、相続税が発生した分の現金を用意することが必要です。
相続税の金額によってはすぐに現金を用意できるとは限らないので、実家などの不動産のみを相続する場合には、相続税の課税対象になるのか、相続税がいくらぐらいかかるのかを事前に把握しておくことが大切です。
よくある土地の相続トラブル(6)不動産を平等に分けられない
被相続人が所有している持ち家がある場合、相続の際に土地や家屋などの不動産をどう分割するかが問題になります。
相続財産に不動産が占める割合が大きい場合は、遺産を平等に分割するのは難しいです。
なぜなら不動産を分割するのは簡単ではないからです。
不動産の割合が多い相続財産を分割するのは難しい
相続財産のうち不動産が占める割合が多い場合について、親が亡くなって3人の子どもが3,000万円の実家と900万円のお金を相続するケースで見てみましょう。
3人の相続人ができるだけ平等に相続するには、相続財産の合計金額である3,900万円を頭数で割って、それぞれが1,300万円分ずつ相続するのがよさそうです。
しかしながら、相続財産のうち3,000万円分は不動産なので、そのままでは3等分に分割することはできません。
このように、不動産を含む相続では相続財産を平等に分割するのは困難になっています。
不動産を上手に分ける方法
遺産分割で土地を相続する場合、そのままの形で相続しようとしても、遺産分割が成立しないことがあります。
そこで、不動産を上手に分けて、遺産分割が成立しやすくなるようにしましょう。
現物分割
現物分割は、土地を分筆し、1つの土地を2つ以上の土地に分けて相続する方法です。
分筆にお金はかかりますが、スムーズに売却できるメリットがあります。
代償分割
代償分割は、多くの遺産を相続した人が、少ししか相続できなかった人に対して、現金で支払う方法です。
遺産の中身にかかわらず、遺産分割をスムーズに行うことができる可能性があります。
ただ、代償金を相続人自身が保有している必要があるので、誰でもできるわけではありません。
換価分割
換価分割は、遺産を売却して現金に換えて相続人で分割する方法です。
売却してしまえば、現金が手元に残るため、自由に遺産分割をすることができます。
ただ、相続人間で売却する時期や価格などの意見が合わないこともあるので、注意が必要です。
まとめ
被相続人が残した相続財産の中に土地などの不動産がある場合、不動産についてのさまざまな問題が発生する可能性があります。
よくあるトラブルの例としては、平等に分割できない、自分が相続できると思いこんでいた、遺留分を侵害されたなどです。
相続に関するトラブルを防止するのに有効な対策は、日頃から相続について相続人同士でよく話し合っておくことです。
必要に応じて話し合いの結果を書面などで残しておけば、後の争いの防止につながります。