この記事でわかること
- 親が遺産をくれずに揉めてしまうケースがわかる
- 親が遺産をくれないときの対処法がわかる
- 他の相続人に遺産を独り占めされたとき・隠されたときの対処法がわかる
相続が発生したとき、親が財産をくれないという状況に陥ってしまうことがあります。
たとえば、親と生前に揉めた、あるいは親と同居していた相続人が親の遺産を独り占めしてしまうケースです。
もし相続トラブルなどで親が財産をくれない場合、どのように対処すればいいのでしょうか。
今回は、親が遺産をくれないケースや対処法、他の相続人に遺産を独り占めされたときの対処法について解説します。
目次
親が遺産をくれず揉めてしまうケース
各相続人が相続できる割合は法律で決められていますが、親と生前に揉めるなどの理由で、親が遺産をくれない、他の相続人が遺産を独占するなどの相続トラブルが起きてしまうケースがあります。
同居していた相続人が遺産を独り占め
被相続人と同居していた相続人が、遺産を独り占めしてしまう場合があります。
同居していると、被相続人の財産がどのくらいあるかが把握しやすくなります。
勝手に親の預金に手をつけてしまったり、不動産の権利証を持ち出して自分の名義にしてしまったりといった遺産の独り占めが起きやすくなります。
独り占めできるような内容の遺言を書かせていた
相続人のうちの1人が親を説得し、自分が遺産を独り占めできるような内容の遺言を書かせてしまうことがあります。
親が認知症などを患っていて、判断能力が低下しているときによく見られるケースです。
他の相続人に生前贈与をしていた
生前贈与された財産は受け取った人のものになるため、相続財産からは除外されます。
一部の親族だけに高額な財産が生前贈与されている場合、わずかな現金や預貯金しか残っていない、または相続財産がまったくないケースもあるでしょう。
ただし、生前贈与の目的が特定の親族の取り分を減らすことだった場合、相続開始前1年以内や10年以内の贈与であれば、相続分や遺留分を回収できる可能性があります。
相続廃除により相続権を失った
相続廃除とは、家庭裁判所への申し立てによって、以下のような親族を相続人から除外する制度です。
- 犯罪などの著しい非行があった親族
- 長期にわたって親などに暴力を振るっていた親族
- 親などを精神的に虐待していた親族
- 親などを侮辱していた親族
- 相続財産を勝手に使い込んでいた親族
家庭裁判所が相続廃除を決定すると、相続権がはく奪されるため、遺産相続には一切関われません。
なお、相続廃除は遺言書によって行われるケースもあります。
親が遺産をくれないときの対処法
親が子に遺産をくれないとき、子は以下の方法で遺留分や相続分を主張し、請求することが可能です。
遺言書の無効について争う
相続人の1人が遺産を独り占めできる内容の遺言が残されていて、遺言書の効力に疑問があるときには、遺言の無効を争うことも可能です。
認知症で判断能力のない状態で書かれた遺言は無効ですので、遺言無効確認訴訟を起こすことで遺言を無効にすることができます。
遺留分侵害請求を行う
仮に遺言が有効だとしても、一定の相続人には遺留分が認められています。
遺留分は、法律で決められている遺産の最低の取り分のことで、遺留分に基づいて、財産を取り戻すことが可能です。
遺留分侵害請求の方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。
相続廃除の取り消しを求める
相続廃除によって相続権を失った場合、相続人側から廃除の取り消しを求めることはできません。
ただし、使い込んだ財産をすべて返還する、または虐待や侮辱を謝罪して被相続人と和解できたときは、以下の方法で相続廃除を取り消せます。
- 被相続人が家庭裁判所へ廃除の審判の取り消しを申し立てる
- 被相続人が遺言書に相続廃除の取り消しを記載する
家庭裁判所が相続廃除の取り消しを受理すると、被相続人の死亡時に遡って相続権が復活します。
他の相続人が遺産を独り占め・隠しているときの対処法
1人の相続人が遺産の独り占めや隠していることが起きてしまったときはどのように対処していくとよいのでしょうか。
対処法についてご紹介します。
財産の調査をする
まずは、遺産がどれくらいあるのか財産調査を行いましょう。
財産調査を行うと、自分の相続割合を把握できるようになり、後々の交渉がしやすくなります。
遺産分割協議をしてもらうよう交渉する
次に、財産調査の情報を基に遺産分割協議をしてもらうよう交渉しましょう。
財産の総額を示す資料を基に、自分たちには相続割合の財産を取得する権利があるということを説明します。
長男が財産を引き継いで当然と考えている人もいますので、民法に定められている法定相続分を根拠に、権利をしっかりと主張していくことが大切です。
交渉の結果、相続人の間で協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割調停や審判を行う
相続人の間で協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることができます。
遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って、妥当な遺産分割の方法について話し合いをまとめます。
相続人全員がその案に合意すれば調停証書が作成され、その内容に基づいて遺産を分けることができます。
しかし、相続人のうち誰か1人でも反対すると、調停は不成立となります。
その場合は、遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判では、裁判官が最終的な判断を下します。
相続人はその判断に従わなければなりません。
不当利得返還請求訴訟を行う
相続人の1人によって遺産の一部が使い込まれた場合、相続人は法定相続分に応じて取得できるはずの権利を侵害されたことになります。
遺産の独り占めや使い込みをした相続人に対して、不当利得返還請求訴訟を起こすことで、使い込まれた分の財産を取り戻すことができます。
弁護士に相談する
遺産を独り占めしている相続人が交渉に応じないこともよくあります。
相続人との交渉がうまくいかない場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、遺産分割を行うための交渉、その後の調停や審判手続き、不当利得返還請求訴訟まで一手に引き受けてもらうことができます。
遺産の独り占めが起きているケースによって対応策も異なってきますので、経験豊富な弁護士に相談すると、自分では気づかなかった解決策を提案してくれることもあります。
また、遺産の独り占めが起きている時点で相続人同士の仲は険悪になっており、顔も合わせたくないという状況になっているかもしれません。
冷静に解決することが難しい状況では、手続きを進めるためにも弁護士に相談するようにしましょう。
相続財産を自分で調査する方法
先ほど説明したように、遺産の独り占めが起きているときは、まず、財産調査しておくとその後の手続きが進みやすくなります。
相続財産を自分で調査する方法について、財産別にご紹介します。
不動産
不動産は、固定資産税の納税通知書や名寄帳で調べます。
不動産を所有していると、毎年5月頃に固定資産税の納税通知書が届きます。
納税通知書には、所有している不動産の詳細や評価額が一覧になって記載されているのです。
もし、納税通知書が見つからない場合は、役所で名寄帳の写しをもらいましょう。
名寄帳には所有している不動産の一覧が未登記のものも含めて記載されます。
幾つかの市区町村に不動産を所有しているなら、それぞれの役所に請求していくことになります。
預貯金
預貯金を調査するためには、まず、どこの金融機関を利用していたか調べる必要があります。
通帳やキャッシュカード、金融機関からの手紙などから利用していた金融機関を特定しましょう。
金融機関が特定できたなら、窓口に行くか郵送で残高証明書の発行を依頼します。
残高証明書を取ると、その金融機関で預かっている資産の一覧を把握することができます。
もし、相続人の誰かに使い込みの可能性がある場合には、残高証明書に加えて取引履歴も取得しておきましょう。
いつの時点でどの位の預金が引き出されたかを確認することができます。
株や国債
株や国債などの金融資産を調査するには、株などに関する書類やメールがないかを探します。
口座のある証券会社がわかれば、その会社に依頼して、取引残高報告書を発行してもらってください。
預貯金の残高証明書に相当するもので、証言会社で預かっている金融資産の一覧が載せられています。
マイナスの財産
遺産の総額がわからない状況では、借金などのマイナスの財産も調査しておきましょう。
金融機関からの督促状や返済の明細書がないかを調べます。
また、信用情報機関に対して、被相続人の情報開示を求めることもできます。
財産調査を行う際に必要となるもの
財産調査を行うためには、自分が相続人であることを証明できるものが必要となります。
具体的には、以下のようなものを用意しておきましょう。
まず、調査をしている人の本人確認資料です。
運転免許証やマイナンバーカードなどが該当します。
次に、戸籍謄本です。
被相続人の死亡がわかる戸籍謄本や除籍謄本、調査している人が相続人であると証明できる戸籍謄本が必要になります。
さらに、手元にあれば、通帳や金融機関からのメールの写しなど、相続財産が分かる資料も一緒に持っていきましょう。
まとめ
親と同居していた相続人が遺産を独り占めしてしまう、他の相続人に生前贈与をしていたなどの理由で、親が遺産をくれないケースがあります。
親が遺産をくれないときは、遺留分や相続分を主張してきちんと請求することが大切です。
まずは、遺産がどれくらいあるのかを調査し、遺産分割協議をしてもらうよう交渉しましょう。
親が残した遺言書の内容に疑問があるときには、遺言の無効を争うことも可能です。
自分たちだけで解決しようとするとトラブルが悪化してしまう可能性があるため、弁護士に相談することも選択肢の一つとして検討してみてください。