この記事でわかること
- 相続放棄した空き家の管理は誰がいつまでする必要があるか
- 民法改正と空き家法改正による相続放棄者の管理義務の変更
- 相続放棄後に空き家を放置するリスクと対策
- 空き家の管理責任から逃れるための具体的な方法と費用
空き家を相続しても、相続放棄すればもう関係ないと思っていませんか?
実は、相続放棄しても空き家の管理責任が残る場合があります。
2023年の民法改正と空き家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)改正により、相続放棄後の管理責任の扱いが変更されました。
本記事では、相続放棄を検討している方に向けて、空き家の相続放棄と管理責任に関する最新の情報を解説します。
また、相続放棄後も残る管理義務の範囲やリスクを回避する方法について、わかりやすく説明していきます。
ぜひ参考にしてください。
目次
空き家を相続放棄しても管理責任は残る
2023年の民法改正により、相続放棄後の空き家管理に関する規定が明確化され、管理責任の範囲が見直されました。
また、空き家法改正では新たな制度が導入され、空き家放置に対して、より厳しい条項が盛り込まれています。
これらの法改正により、相続放棄をしても空き家の管理責任が残る場合があるため、適切な対応が求められます。
ここでは、これらの内容について詳しく見ていきましょう。
相続放棄後も続く空き家の管理義務とは
民法改正により、相続放棄時に空き家を「現に占有している」場合は、引き続き保存義務が課されます。
この保存義務とは、空き家の現状を維持し、自分の財産と同様の注意を払って管理する「善管注意義務」を指します。
具体的には、建物の補修、庭の手入れ、不法侵入の防止などが含まれます。
この管理責任は、空き家を他の相続人に引き渡すか、相続財産清算人が選任されるまで継続します。
空き家の相続放棄は、引き続き管理しなければならない場合があることを念頭におき、慎重に行いましょう。
空き家法改正と管理責任の強化
2023年の空き家法改正により、空き家の管理責任が強化され、新たに「管理不全空家」というカテゴリーが設けられました。
管理不全空家とは、将来的に「特定空家」になる可能性がある状態の空き家を指します。
特定空家とは、周囲に危険や迷惑を及ぼす恐れがある空き家を指し、自治体はその管理者に対して改善命令を出すことができます。
改善命令に従わない場合は、最大50万円の過料が課せられる可能性があります。
管理不全空家の項目の新設は、特定空家に進行することを未然に防ぐためのものであり、自治体は管理者に対して適切な管理を求めることができます。
このように、空き家法の視点からも、管理不全空家や特定空家の管理責任は継続するため、十分な注意が必要です。
【令和5年】相続放棄に関する民法改正のポイント
令和5年(2024年)の民法改正により、相続放棄に関する規定が大きく変更されました。
今回の改正では、以下の点が明確に定められています。
- 管理義務の対象者と期間の明確化
- 「現に占有している」相続放棄者の定義の明確化
- 管理責任や相続財産管理人の名称の変更
これらの変更は、相続放棄を検討している方にとって重要な影響を及ぼすため、正しく理解しておく必要があります。
管理義務の対象者の限定と期間の明確化
民法改正により、相続放棄後の管理義務の対象者と管理期間が明確に定められました。
従来は、相続放棄をした人は、次の相続人が管理を始めるまで、財産を管理する義務がありました。
しかし改正後は、相続放棄の時点でその財産を「現に占有している」場合に限定されるようになりました。
これにより、遠方にある空き家など、実際に占有していない空き家については管理義務が免除されます。
また、管理義務の期間は、他の相続人や相続財産清算人に財産を引き渡すまで、と明確に規定されました。
これらの改正により、相続放棄者の負担が軽減されましたが、「現に占有している」に関しては議論があります。
どのような内容かを見ていきましょう。
「現に占有している」相続放棄者とは
改正民法では、「現に占有している」相続放棄者の定義が重要なポイントとなります。
条文は以下の通りです。
引用:
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条第一項:相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
民法940条第1項の「現に占有している」とは、相続財産を事実上支配あるいは管理している状態を指します。
たとえば、被相続人の家で同居していた相続人が引き続き住んでいる場合は、相続財産を「現に占有している」といえます(直接占有)。
一方、被相続人の空き家が遠方にあり、管理していない財産は「現に占有している」とはみなされません。
しかし、管理会社に管理を委託するなどの間接的な管理(間接占有)については、「現に占有する」に該当するといわれており、注意が必要です。
改正民法では、相続放棄者が実際に占有していない財産については、管理義務を負わないことが明確化されています。
間接占有のケースに該当する場合は、相続放棄前に弁護士へ相談することをおすすめします。
管理責任や相続財産管理人の名称変更
2023年の民法改正により、管理義務や相続財産管理人の名称に変更がありました。
従来の「管理義務」は「保存義務」に変更され、相続財産の現状維持がより重視されることとなりました。
この変更により、相続放棄をした人の責任が明確化され、相続財産の適切な保存が強調されることとなりました。
また、相続財産管理人の名称も「相続財産清算人」へと改められ、相続財産の清算という役割をより明確に示されています。
相続放棄後に空き家を管理しなかった場合のリスク
相続放棄後に空き家の管理義務が残り、その管理責任を果たさなかった場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。
ここでは、相続放棄者に予期せぬ金銭的負担や法的問題をもたらす可能性がある2つのリスクについて説明します。
近隣住民や第三者の損害賠償責任のリスク
空き家の管理を怠ると、近隣住民や第三者に対する損害賠償責任を負うリスクが高まります。
具体的には、以下のような場合です。
- 老朽化した屋根や外壁が崩落し、通行人や隣人に怪我をさせた
- 空き家の庭木が伸び放題になり、隣家の敷地に越境して損害を与えた
- 空き家内で発生した火災が隣接する住宅に延焼し、損害を与えた
- 不法投棄されたゴミや害獣の影響で、近隣住民に健康被害が生じた
- 庭の大木の枝が落下し、通行人を傷つけた
- 空き家に不審者が侵入し、周囲の治安を悪化させた
これらは管理者として責任を問われ、損害賠償を請求される場合があるため、十分注意が必要です。
行政からの改善措置命令や代執行のリスク
空き家の管理を怠ると、空き家法に基づき、行政からの改善措置命令や代執行のリスクがあります。
周囲に危険や迷惑を及ぼす恐れがあるとして、特定空家に指定される可能性があり、特定空家は行政から改善のための措置命令が出されることがあります。
改善措置命令に従わない場合、最大50万円の過料を求められるだけではなく、行政代執行が行われる場合があります。
行政代執行とは、行政が強制的に空き家の解体や修繕を実施することで、費用は管理義務者に請求されることになります。
さらに、行政代執行の費用が支払われない場合には、手続きは差押さえに移行します。
行政代執行による解体や修繕の費用は、相続放棄者にとって大きな経済的負担となるでしょう。
こうしたリスクを回避するためには、相続放棄後も適切な管理を行うか、速やかに次の管理者に引き継がなければなりません。
空き家の相続放棄には、慎重な判断が求められると言えるでしょう。
相続放棄した人が保存義務から逃れる方法
相続放棄をしても、一定の条件下で空き家の保存義務が残りますが、この義務から解放される方法もあります。
主な選択肢は、他の相続人への引継ぎや相続財産清算人の選任です。
ここでは、それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
他の相続人への管理義務の引継ぎ方法と注意点
相続放棄者が空き家の保存義務から解放されるには、他の相続人に管理を引き継いでもらう方法があります。
他の相続人に連絡を取り、空き家の現状を説明し、管理責任の移転について書面で合意を交わすことが望ましいでしょう。
しかし、他の相続人が引き継ぎを拒否する場合、引き継ぎは成立しません。
また、すべての相続人が相続放棄をした場合は、引き継ぎができず、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることになるでしょう。
適切に引き継ぎが完了すれば、相続放棄者はその後の保存義務から解放されますが、引き継ぎが実現するかは他の相続人の意向に依存します。
最終的には、遺産分割協議を行い、相続登記を完了させることが最善の解決策となるでしょう。
他の相続人に遺産分割協議と相続登記を促す
空き家を「現に占有している」相続放棄者が保存義務を負うのは、その空き家が被相続人の名義のままになっているためです。
最善の解決策は、他の相続人に働きかけて遺産分割協議を行い、空き家の相続登記を完了してもらうことです。
相続放棄者は遺産分割協議には参加できませんが、相続登記が完了すれば保存義務から完全に解放されます。
2024年4月1日から施行されている改正民法により、相続開始を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられています。
この法改正を踏まえて他の相続人に相続登記を提案することで、空き家の管理義務は新たな所有者に引き継がれることになります。
相続登記を促しても難しい場合は、次の手段として相続財産清算人の選任を検討することになるでしょう。
相続財産清算人の選任手続きと費用
相続財産清算人は、利害関係人が家庭裁判所に申立てを行うことで選任され、手続きは以下の流れで行われます。
- 申立書の作成:被相続人の情報、相続放棄の事実、空き家の状況、申立ての理由などを記載
- 必要書類の準備:戸籍謄本、相続放棄申述受理証明書、不動産登記簿謄本、相続財産目録、相続財産を証明する資料、利害関係を証明する書類など
- 申し立てを行う:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 家庭裁判所による審理:求めに応じて追加資料の提出や面談
- 家庭裁判所による審判:相続財産清算人が選任された場合は、その旨の通知を受け取る
また、費用は以下の通りです。
- 収入印紙:800円分
- 連絡用の郵便切手:家庭裁判所に確認
- 官報公告料:5,075円
- 予納金:相続財産清算人の報酬として相続財産価値で不足する分(家庭裁判所が決定)
尚、予納金の額は相続財産の価値や事案の複雑さによって異なり、ケースによっては100万円以上になる可能性もあります。
この手続きは複雑で専門的知識を要するため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
空き家や相続手続きの課題は、家族の事情や複数の法律が複雑に絡み合っているため、非常に難しい問題です。
相続放棄後の管理責任や法的リスクを正確に把握するためには、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家のアドバイスを受けることで、適切な対応策を見出し、将来的なトラブルを回避しましょう。