この記事でわかること
- 成年後見人の種類や役割
- 社会福祉士が成年後見人になる手続き
- 社会福祉士が成年後見人として受け取る報酬
日本国内は高齢社会が加速化しており、シニア世代をサポートする社会福祉士や、成年後見人のニーズが高まっています。
社会福祉士と成年後見人の職務は親和性が高いため、「社会福祉士は成年後見人になれるの?」と考えている方も少なくないようです。
成年後見人は有償の業務になるため、報酬や資格要件なども理解しておくとよいでしょう。
今回は、社会福祉士が成年後見人となるための要件や、報酬などをわかりやすく解説します。
目次
成年後見人とは
成年後見人とは、病気や障害などによって物事を判断する能力を欠く状態にある成年に代わり、法律行為などを判断および代行する人です。
成年後見人の種類
成年後見人には、法定後見人と任意後見人の2種類があります。
成年後見人の種類 | 選任の手続き | |
---|---|---|
法定後見人 | 判断能力を欠く状態となった人について、法律に従って選任される | 法定後見人が選任される時点では、本人がすでに正常な判断をできなくなっているため、周囲の人が選任のための手続きを行う |
任意後見人 | 認知能力に問題のない状態の人が、将来的な判断能力の低下を想定してあらかじめ選任する | 本人が自分で後見人を依頼するケースが多い |
法定後見人は本人以外の人によって後見人が選定されるため、本人にとって好ましくない人が選任される可能性があります。
本人が自分の意図したとおりに安全に財産管理をしたい場合は、事前に任意後見人を選任しておくとよいでしょう。
成年後見人の役割
成年後見人の代表的な役割は、本人の財産管理です。
管理財産に預金がある場合、成年後見人が本人に代わって引き出しなどを行えるように、金融機関に成年後見人になった旨を届け出る必要があります。
成年後見人になると、以下のような後見業務も担当します。
- 本人の年間の支出と収入を算出して生活費に関する収支計画を作成する
- 日常的な収入や支出についても管理する
- 所有している不動産を管理する
- 本人の生活全般について配慮する
成年後見人には本人の生活全般を配慮する役割もあり、入院・通院や施設への入所が必要になる場合、病院や介護施設の手続きなども手配します。
施設に入所する場合には、定期的に施設を訪問して、対応状況を確認するケースもあります。
成年後見人と類似した制度
成年後見人と類似した制度として、保佐人と補助人があります。
申立人となる人や、後見人・保佐人などの権限は以下のように異なっています。
後見人 | 保佐人 | 補助人 | |
---|---|---|---|
後見などの対象者 | 常に判断能力を欠いている方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が不十分な方 |
申立人となる人 | 本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、市町村長など | ||
代理権 | あり | あり(限定的) | あり(限定的) |
取消権 | あり | あり(限定的) | あり(限定的) |
同意権 | なし | あり(限定的) | あり(限定的) |
保佐人や補助人を設定すると、民法13条1項に定める行為が限定されます。
具体的には、保佐人の同意がなければ、借財や訴訟行為はできません。
後見人に同意権はありませんが、被後見人の法律行為などに同意を与えたとしても、実行される可能性がほぼないため、不要な権限とされています。
成年後見人になるための資格
成年後見人になるためには、特別な資格は必要ありません。
しかし、下記に該当する人は、成年後見人になれないと定められています。
成年後見人になれない者
- 未成年者
- 破産手続中の者
- 行方不明者
- 過去に本人に訴訟提起をした人やその配偶者・親族
- 過去に後見人、法定代理人、保佐人、補助人を解任された人
実際に選任されやすいのは、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門職の方です。
専門職の方が選任されやすい理由は、成年後見人は本人に代わって財産管理をする非常に重い責任を負うためです。
また、成年後見人による財産管理は、法律に定められた手続きにしたがって行う必要があるため、法的な専門知識も欠かせません。
社会福祉士が法定後見人になるための手続き
社会福祉士が法定後見人になるためには、以下の手続きを行いましょう。
それぞれの手続きについて詳しく解説します。
日本社会福祉会への登録
社会福祉士が法定後見人になる場合、日本社会福祉士会への登録(入会)が必要です。
入会案内や資料請求については、日本社会福祉士会の公式ホームページを参照してください。
入会金は5,000~6,000円程度ですが、都道府県によっては無料にしています。
入会後は1万3,000~1万7,000円程度の年会費がかかります。
成年後見養成研修の受講
成年後見人には専門知識が必要になるため、以下の研修で後見業務の基礎やリスク管理などを習得します。
- (1)基礎研修Ⅰ~Ⅲ(1年ごとに受講)
- (2)成年後見人材育成研修
- (3)名簿登録研修
基礎研修を経た後は、成年後見制度を活用する際の「成年後見人材育成研修」と、後見等受任候補者の要請目的となる「名簿登録研修」を受講します。
研修の主催は日本社会福祉士会と各都道府県に分かれるため、2024年の日程は以下のリンクを参照してください。
参考:2024年度・成年後見人材育成研修(委託研修)実施一覧
参考:2024年度・都道府県研修 実施一覧
ぱあとなあへの登録
基礎研修や成年後見人材育成研修などの修了後は、日本福祉士会と各都道府県の福祉士会が運営する「ぱあとなあ」に登録します。
登録窓口は各都道府県の社会福祉士会になっており、窓口にメールアドレスを伝えると、登録名簿が送信されます。
登録名簿に必要事項を入力して返信すると、「ぱあとなあ」に法定後見人の候補者として登録されます。
家庭裁判所が法定後見人の選任申し立てを受理した場合、「ぱあとなあ」に登録した社会福祉士が選任される可能性があるでしょう。
法定後見人を選任する手続き
法定後見人の選任手続きは以下の流れになっており、本人が判断能力を欠く状態になった際、周囲の人(家族など)が家庭裁判所に申し立てます。
それぞれの流れについて解説します。
申立書類の用意
法定後見人の選任を家庭裁判所に申し立てる際は、以下の申立書類を用意します。
法定後見人を選任するための申立て書類
- 後見開始申立書
- 申立事情説明書
- 後見人等候補者事情説明書
- 親族の同意書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支状況報告書
財産目録には添付資料が必要になるため、以下の書類を準備してください。
- 預金通帳の写し
- 保険証券
- 不動産の登記事項証明書
- 自動車の車検証の写し
申立ての際には、本人の状態や親族関係などがわかる資料も必要になっており、以下の書類によって証明します。
- 本人・後見人等候補者の戸籍謄本
- 本人・後見人等候補者の住民票や戸籍の附票
- 本人が後見登記されていないことの証明書
- 医師の診断書
医師の診断書は、本人が判断力を欠く状態であり、成年後見人の必要性を証明する重要な資料です。
診断書の記載内容が妥当であるか、確認しておきましょう。
管轄の家庭裁判所へ申立て
成年後見人選任の申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
管轄の裁判所は、裁判所の公式サイトで確認してください。
成年後見人を選任する申立ては、誰でもできるわけではなく一定範囲の親族や、保佐人・補助人といった立場の人たちに限られます。
本人に親族がいない場合は、市区町村長が申立てをするケースがあります。
家庭裁判所調査官による面接
法定後見人選任の申立てを家庭裁判所が受理すると、まず家庭裁判所調査官と呼ばれる裁判所職員から呼び出しを受け、面接に臨みます。
面接では、申立書類に基づいて本人の状況を確認し、成年後見人を選任する必要があるかを確認します。
確認した上で申立人が成年後見人の候補として挙げている者が成年後見人にふさわしいかが審査されます。
成年後見人の候補者が弁護士や司法書士などの法律職である場合には、それほど審査は厳しくありません。
しかし、本人と利害関係のある親族などの場合には、横領の恐れがないかの観点からも審査されます。
審判の結果通知
家庭裁判所に提出した申立書類と、家庭裁判所調査官の面接結果を踏まえ、裁判所は成年後見人を選任するか否かの審判を行います。
審判には2~3カ月程度かかり、選任された法定後見人には書面で書面で通知されます。
書面が届いてから2週間以内に特段の異議申し立てがなければ、審判結果が確定し成年後見人選任の効力が生じます。
成年後見の登記
成年後見人選任の審判が確定すると、本人は単独での契約を制限され、成年後見人が設定されている旨の登記が行われます。
登記される理由は、取引相手が成年後見人の選任を確認するためです。
成年後見人の登記は、家庭裁判所の審判が確定すると職権で行われるため、成年後見人や親族などが登記申請をする必要はありません。
任意後見人を選任する手続き
任意後見人の選任の流れについてみていきましょう。
それぞれの流れについて解説します。
任意後見人の候補を決定
まずは、本人が任意後見人となってくれる人を決めます。
ほとんどの場合、信頼のおける親族や弁護士、司法書士といった専門家が候補となります。
任意後見契約
次に、任意後見人を依頼する人と任意後見契約を締結します。
任意後見の制度は法定後見人と異なり、本人の意思を反映できます。
重要なのは本人が希望するサポートの内容を十分に検討したうえで、契約に盛り込む点です。
契約締結にあたっては、以下のような契約内容を具体的に決める必要があります。
- 入所を希望する施設や在宅ケアなどといった介護に関する内容
- どの病院にかかりたいかといった病気療養に関する内容
- 自宅など財産の処分や利用方法に関する内容
このほか、任意後見人に支払う報酬などについても契約で定めます。
契約内容が決まったら、契約締結の手続きに入ります。
任意後見契約は、公正証書で締結しなければなりません。
公正証書とは、全国にある公証役場で作成される文書です。
契約内容を書面にまとめて公証役場に提出すると、公正証書を作成してもらえます。
後見登記
任意後見契約を公正証書で締結したら、その旨が登記されます。
後見登記は職権で行われるため、当事者が登記申請をする必要はありません。
任意後見監督人の選任申立て
任意後見契約の締結後、本人の判断能力が低下した段階で、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任を申立てます。
任意後見監督人は、任意後見人が後見契約に従って財産管理などの職務を遂行しているか、管理・監督する立場の人です。
本人が選定した任意後見人と、任意後見監督人は別の人が選任されます。
任意後見監督人の選任申立てに必要な書類は、以下の通りです。
- 任意後見監督人選任申立書
- 本人の事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支状況報告書
- 任意後見受任者の事情説明書
財産目録には預金通帳の写しなどを添付し、本人に関する資料として、以下の書類も準備します。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 後見登記されていないことの証明書
- 医師の診断書
後見内容がわかるよう、公正証書化した任意後見契約書も提出してください。
任意後見監督人を選任
家庭裁判所は提出された申立書類を確認した上で、任意後見監督人を選任し、結果は家庭裁判所から任意後見人に書面で通知されます。
任意後見契約の内容は、任意後見監督人の選任後に効力が生じるため、任意後見人は選任結果の通知を受けたときから財産管理などの職務を開始します。
後見登記
任意後見監督人が選任されると、公証人が職権により後見登記を申請します。
社会福祉士が成年後見人として受け取る報酬
厚生労働省が公表する「成年後見制度利用促進専門家会議(2023年2月)」のレポートによると、社会福祉士の後見報酬は以下のようになっています。
- 流動資産額別の年間報酬:26万689円
- 1カ月あたりの平均報酬額:約2万1,700円程度
特別な後見業務に対応した際の付加報酬について、「あり・なし」を含めたデータですが、付加報酬を求めた場合の年間報酬は約28万6,000円です。
弁護士や司法書士、親族後見人なども含めた全体データを参照すると、年間の後見報酬は33万4,737円が平均値になっています。
被後見人の流動資産額が1,000万円を超える場合、ほとんどのケースで付加報酬が発生しているようです。
参考:成年後見制度利用促進専門家会議 第3回 成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ 報酬実情調査の集計結果資料 18P(最高裁判所事務総局家庭局)
成年後見人になる際の注意点
成年後見制度は法律で厳密に定められており、以下のような注意点があります。
- 成年後見人の財産と混同しない
- 成年後見人は途中でやめられない
- 本人死亡により成年後見は終了する
ここからは、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
成年後見人の財産と混同しない
成年後見人は、本人に代わって本人の財産を管理する権限があります。
金融機関にあらかじめ届出をしておけば、本人の預金を引き出せます。
もっとも、本人の財産はあくまでも本人のためにあり、成年後見人が自由に利用してはいけません。
家族が成年後見人に選任された場合、以前から本人の身の回りの世話や家計を管理していると、本人の財産を使ってしまうかもしれません。
しかし、成年後見人に選任された以上、家族であったとしても本人の財産の利用は禁止されています。
場合によっては、業務上横領罪に問われる恐れもあるため、本人の財産と成年後見人の財産とは分けて管理しましょう。
成年後見人は途中でやめられない
家庭裁判所から成年後見人に選任された後は、成年後見人の自己判断で業務をやめられません。
成年後見人は決められた業務を必ず遂行する義務を負います。
万が一業務を怠り、本人に不利益が生じたような場合には、損害賠償請求される恐れがあります。
何らかの事情によって成年後見人を辞めたい場合には、家庭裁判所に申立てをして許可を得なければなりません。
本人死亡により成年後見は終了する
成年後見人の選任後に本人が死亡した場合、成年後見は特別の手続きをせずに終了します。
したがって、成年後見人が本人の死亡後に発生した葬儀費用などを本人の財産から支払えません。
本人の死亡と同時に相続が開始するため、本人死亡後に発生した支払いは相続人が対応します。
成年後見人を社会福祉士に頼むメリット
社会福祉士に成年後見人を頼んだ場合、以下のメリットがあります。
- 家庭裁判所への報告をすべて任せられる
- 適切に財産管理してもらえる
- 身上監護面を手厚くサポートしてもらえる
財産管理などの後見業務は家庭裁判所に報告しなければなりませんが、提出書類が多いため、社会福祉士に一任できるメリットは大きいでしょう。
社会福祉士は福祉分野に精通しており、医療や福祉サービスを利用する際も、手厚いサポートを期待できます。
成年後見人を社会福祉士に頼むデメリット
成年後見人を社会福祉士に頼むときは、以下のデメリットも考慮しておきましょう。
- 後見報酬が発生する
- 相性の悪い後見人が選任される可能性がある
- 後見業務の取りやめは原則として認められない
成年後見人の報酬は1カ月あたり2~3万円が相場になっており、任意後見人は成年後見監督人を設定するため、1~2万円程度が加算されます。
相性の悪い後見人が選任されても、被後見人が亡くなるまで、原則として後見業務の取りやめはできません。
成年後見人として活躍する専門家
裁判所が公表する成年後見関係の概況によると、成年後見として活躍する専門家は全体の81.9%でした。
集計期間は2023年1月から同年12月までとなっており、職業別の比率では、以下のように50%以上が弁護士と司法書士です。
- 関係別件数(合計):4万729件数
- 親族:7,381件
- 親族以外:3万3,348件
【専門家の内訳】
- 弁護士:8,925件
- 司法書士:1万1,983件
- 社会福祉士:6,132件
- 市民後見人:344件
親族後見人は前年の選任件数を下回っていますが、専門家はすべて増加しています。
成年後見人の選任を申し立てた動機については、預貯金などの財産管理がもっとも多く、全体の31.1%を占めています。
財産管理には高い倫理観が求められるため、「専門家に任せたい」と考える方が増えているようです。
まとめ
成年後見人には特別な資格が必要ないため、家庭裁判所に親族を推薦するケースも少なくないようです。
被後見人と近しい人であれば、本人の考え方をよく理解しているため、適切な身上監護を行ってくれるでしょう。
しかし、成年後見人には財産管理などの権限が集中しており、その他の親族からお金の使い道などを疑われるケースが少なくありません。
被後見人の契約行為などを代行するときは、法律の知識や実務経験も求められるため、弁護士や司法書士、社会福祉士しか対応できない場合があります。
成年後見人を選任する場合、主な目的が財産管理であれば、家族信託も視野に入れておくとよいでしょう。
認知症リスクに備えたいときや、成年後見制度の利用について迷ったときは、ぜひ弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所の無料相談をご利用ください。