この記事でわかること
- 成年後見人になるには資格が必要なのかがわかる
- 成年後見人の5つの欠格事由がわかる
- 専門家に成年後見人を依頼するメリット・デメリットがわかる
成年後見人とは?
まずは、成年後見人とは何をする人なのか、どのようにして選任されるのかをみておきましょう。
成年後見人の役割
成年後見人とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な方を保護するために家庭裁判所で選任された人のことです。
成年後見人は本人(被後見人)の財産の管理や身上監護を行います。
介護施設との契約や高額商品の購入などの法律行為も、成年後見人が被後見人に代わって行います。
被後見人がみずから行った法律行為は、成年後見人が取り消すことができます。
一部の親族が被後見人から金銭を無心したり、被後見人の財産を無断で着服したような場合も、成年後見人によって取り戻すことができます。
このようにして、判断能力が低下した被後見人の財産を保護することができます。
成年後見人の選任
成年後見人を選任するためには、家庭裁判所へ「後見開始の審判」の申し立てを行います。
家庭裁判所は医師の診断書や精神科医による鑑定の結果などを審査して、本人の判断能力が著しく低下していると判断すれば成年後見人を選任します。
本人の精神状態の他にも、家庭裁判所では本人や申立人、後見人候補者との面談などによって本人の生活状況や申し立てに至った事情などを調査します。
様々な事情を考慮した結果、本人の財産管理や身上監護を行うに最も適していると考えられる人が成年後見人として選任されます。
親族が成年後見人に選任されることもあれば、弁護士などの専門家が成年後見人に選任されることもあります。
任意後見人を決めておくこともできる
任意後見人とは、本人が将来認知症などによって判断能力が低下した場合に財産管理や身上監護をしてくれる人と約束しておき、その約束に基づいて後見人となった人のことです。
このように将来後見人になってもらうことを約束することを「任意後見契約」といいます。
この契約は公正証書にしておく必要があります。
本人の判断能力が実際に低下したときは、任意後見契約で指定された人が後見人になることができます。
ただし、任意後見人が後見事務を行うためには、家庭裁判所が選任した任意後見監督人による監督を受けることが必要です。
一方、既に判断能力が低下した本人のために、家庭裁判所が選任する成年後見人のことは「法定後見人」と呼びます。
成年後見人となるのに資格は不要
成年後見人となるために必要な資格は、法律には何も定められていません。
したがって、基本的には誰でも成年後見人となることができます。
成年後見人となるのに資格は不要ですが、「適格」があるかどうかは重要です。
成年後見人は、被後見人に代わって財産を管理したり、身上監護を行うことによって被後見人を保護しなければなりません。
このような後見事務を適切に行うことができる「適格」を有する人を成年後見人として選任する必要があります。
成年後見人の5つの欠格事由
民法には成年後見人となれない欠格事由が5つ定められています。
後見人の欠格事由
第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
- 一 未成年者
- 二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
- 三 破産者
- 四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
- 五 行方の知れない者
以上の欠格事由について、1つずつご説明します。
(1)未成年者
成年後見人の職務を遂行する際には、様々な法律行為を行う必要があります。
物品の購入やお金の貸し借り、贈与などの財産的な契約の他、被後見人の身の上に関する契約や手続きなどもあります。
例えば、病院や介護施設との契約、介護保険など保険関係の手続き、自宅の賃貸借の契約や手続きなどです。
しかし、未成年者は親権者などの法定代理人の同意がなければ法律行為をすることができません。
また、未成年者は一般的に社会経験が少ないため、被後見人の財産管理や身上監護を適切に行うことを期待することはできません。
つまり、未成年者は成年後見人としての適格は有しないと考えられるため、欠格事由とされています。
(2)後見人などを解任されたことがある者
「家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人」というのは、過去に成年後見人などに選任されたものの、家庭裁判所から解任されたことがある人のことをいいます。
家庭裁判所から後見人を解任されたということは、何らかの不適切な行為があったということです。
例えば、被後見人の財産の私的流用や横領をしたり、後見人としての職務を怠っていたり、家庭裁判所の指示に従わなかったりしたような場合です。
このように、家庭裁判所から過去に後見人として不適格と判断された人も新たに成年後見人となることはできません。
(3)破産者
破産者は自分の財産管理権も失っているため、他人の財産管理を行う適格があるとは考えられません。
ただし、破産した経験のある人の全てが成年後見人になれないわけではありません。
ここでいう破産者とは、破産開始決定を受けてから免責決定が確定するまでの間のことをいいます。
免責決定が確定して復権すると、財産管理権も回復するので、その後は成年後見人となることが可能です。
(4)被後見人に対して訴訟を起こした者、その配偶者・直系血族
被後見人に対して訴訟を起こした人は、被後見人と利害が対立する関係にあります。
その配偶者や直系血族にも利害の対立関係が及ぶと考えられます。
これらの人たちは、被後見人の利益のために財産管理や身上監護を適切に行う適格を有するとは考えられません。
そのため、成年後見人となることはできないとされています。
ただし、訴訟における利害対立が実質的にないなど例外的な場合には、成年後見人となることが可能です。
(5)行方不明の者
成年後見人の職務を遂行するためには、日々被後見人を見守り、財産管理や身上監護を日常的に行う必要があります。
行方の知れない人がこのような職務を適切に行えるとは考えられないため、成年後見人となることができません。
長年行方不明となっている人だけでなく、容易に連絡がとれない人や、居場所が分からない人なども「行方の知れない者」として成年後見人となれない可能性が高いです。
成年後見人のパターンとメリット・デメリット
成年後見人のパターンを大きく分けると、親族が選任される場合と弁護士などの専門家が選任される場合の2つのパターンがあります。
それぞれのパターンについて、メリットとデメリットをご紹介します。
親族が成年後見人となるメリット・デメリット
- メリット1:安心感がある
- メリット2:費用がかからない
- デメリット1:作業の負担が大きい
- デメリット2:後見事務を適切に行えない場合もある
親族を後見人に選任したいと考える方も多いことでしょう。
親族が後見人となることには以下のようなメリットもありますが、デメリットにも注意することが必要です。
まずはメリットからみていきましょう。
メリット1:安心感がある
親族であれば被後見人の人となりをよく知っているため、円滑に後見事務を行うことができます。
被後見人にとっても気心が知れた親族が後見人となることで、安心して財産管理や身上監護を委ねることができます。
また、第三者である専門家などに家庭のプライベートなことを知られることがないという安心感もあります。
メリット2:費用がかからない
成年後見人は様々な職務を行う対価として、報酬を請求することができます。
親族の成年後見人は報酬を請求しないこともできるので、その場合は費用がかかりません。
成年後見人は無償で職務を行うことになってしまいますが、被後見人が亡くなった際の遺産分割で調整することによってその労に報いることもできます。
次に、デメリットもご紹介します。
デメリット1:作業の負担が大きい
成年後見人は、被後見人のお金の出入りを全て把握し、重要な法律行為は全て代理して行う必要があります。
このような後見事務の負担も大きいですが、さらに定期的に家庭裁判所に後見事務の処理状況を報告する書類も作成しなければなりません。
ケースによっては、一般の方が全ての作業をこなすのは難しい場合もあります。
デメリット2:後見事務を適切に行えない場合もある
被後見人と一部の親族との間に様々なトラブルが発生する場合もあります。
そういったトラブルの予防や解決のためには、専門的な知識が必要なこともあります。
また、トラブルでなくても保険の手続きや不動産・有価証券といった資産に関する契約や管理においては、その分野に関する経験や知識がなければ適切に対応することが難しい場合もあり、結果的に被後見人の財産を減少させてしまうおそれもあります。
専門家が成年後見人となるメリット・デメリット
- メリット1:後見事務を適切に行うことができる
- メリット2:不正が起こりにくい
- デメリット1:費用がかかる
- デメリット2:被後見人とのコミュニケーションが不十分となる場合がある
第三者である専門家を成年後見人に選任することにはデメリットもあり、抵抗を感じる方も少なくないでしょう。
しかし、以下のようなメリットもあります。
メリット1:後見事務を適切に行うことができる
被後見人と一部の親族との間に法的なトラブルが発生したときも、弁護士などの専門家が成年後見人となれば適切に対応することができます。
一般的な後見事務についても、専門的な知識や経験に基づいて効率よく遂行することができます。
メリット2:不正が起こりにくい
専門家が成年後見人になった場合、後見事務も自分の仕事のひとつです。
したがって、後見事務を怠ることによって被後見人に不利益を及ぼすようなことは発生しにくいです。
弁護士である後見人が被後見人の財産を横領したという事件が時々あるのは事実ですが、不正が起こる確率としては専門家が後見人となった場合の方が圧倒的に少なくなっています。
次に、専門家が成年後見人となった場合のデメリットもご紹介します。
デメリット1:費用がかかる
専門家が成年後見人となった場合は、定期的に報酬を支払う必要があります。
基本的には被後見人の財産の中から支払うため、財産が目減りしていきます。
場合によっては、親族が報酬を負担しなければならないこともあります。
報酬の相場は月額2万円程度ですが、被後見人の財産が多い場合はより高額になることもあります。
デメリット2:被後見人とのコミュニケーションが不十分となる場合がある
専門家である成年後見人は、通常はそれまで被後見人とは面識のない第三者です。
そのため、被後見人とのコミュニケーションが不十分となる場合があります。
親族である成年後見人に比べると、被後見人と接触する頻度が低くなってしまうことは否めません。
そのため、被後見人の生活状況の変化を日々把握することが難しくなり、身上監護が不十分となってしまうおそれもあります。
後見開始を申し立てるときは慎重に
親族を成年後見人にしたいと思っても、以上のメリット・デメリットを考慮すれば、専門家を成年後見人にした方が適切なケースも少なくありません。
被後見人と一部の相続人との間にトラブルがある場合など、専門的な対処が必要な場合は専門家を成年後見人とすべきでしょう。
ただ、いったん成年後見人が選任されると、その後見人に不正行為などがない限りは自由に解任することはできません。
また、家庭裁判所も後見事務を適切に遂行してもらうために、専門家を成年後見人に選任するケースが増えています。
どうしても親族を成年後見人に選任したい場合は、任意後見契約を活用するなどして早めに対処することが大切です。
まとめ
成年後見人となるために資格は不要ですが、親族が希望しても必ずしも家庭裁判所で選任されるわけではありません。
後見開始の申立ての際に親族を後見人候補者として推薦しても、家庭裁判所の判断で専門家を成年後見人に選任するケースは多いです。
申立てに際して親族が選任される可能性を高める方法や、任意後見契約の活用方法などについては、お早めに弁護士に相談しておいた方が良いでしょう。