この記事でわかること
- 成年後見人制度を利用する手続きを自分でできることがわかる
- 自分で成年後見人制度を利用する手続きの流れを知ることができる
- 成年後見人の手続きを自分で行う際にかかる費用がわかる
成年後見人の制度は、当事者の法律行為を制限する一方で、後見人に当事者を代理する権限等を付与するものです。
法律上の権利を制限することは、非常に慎重に行われるべきと考えられており、成年後見人制度を利用する際にも、多くの手続きが必要となります。
一方で、きちんと手続きを行えば、専門家に頼らずに自身で手続きを完結させることができます。
どのような手続きや書類が必要になるのか、確認しておきましょう。
目次
成年後見人の手続きは自分でできる
成年後見人には、「法定後見人」と「任意後見人」の2種類があります。
法定後見人についても、任意後見人についても、当事者間の合意だけで後見人としての地位が認められるわけではありません。
裁判所や公証役場など、公的機関の関与が必要であり、そのような公的機関での手続きの際に準備しなければならない書類もあります。
ただ、公的機関での手続きは、初めての人にはわかりにくいものもありますが、決して難しいものではありません。
そのため、成年後見人の手続きは自身で行うことができます。
なお、2種類の成年後見人は、その権限や選任方法などにも違いがありますが、後見の対象となる当事者となる人の状態にも違いがあります。
法定後見人は、既に法律行為の結果についての判断能力を欠いている人を保護するための制度です。
認知症や知的障害など精神上の障害の影響で、法律行為の結果について、既に判断能力を欠いている人が対象となります。
法定後見人の手続きは、後見の対象となる当事者本人も行うことが出来ますが、実際は当事者本人の家族や親族などが行う場合が多いと考えられます。
これに対して任意後見人の制度は、法律行為の結果について判断能力を有する当事者が、将来任意後見人になってもらう人を選び、支援してもらう内容を事前に決めて契約しておくことを主な内容とする制度です。
自分で成年後見人の手続きをする流れ・必要書類
では、家族や親族が専門家の手を借りずに、成年後見人の手続きを行うにはどうしたらいいいのか、具体的に見ていきましょう。
まずは、法定後見人の選任の流れは以下のようになっています。
法定後見人の選任の流れ
- 申立人や申立て先の確認
- 診断書や必要書類の準備
- 申立書等の作成
- 面接日の予約
- 家庭裁判所への申立て
- 家庭裁判所での審理開始
次に、任意後見人の選任の流れは以下のとおりです。
任意後見人の選任の流れ
- 後見人候補者と後見の内容の決定
- 任意後見契約の締結と公正証書の作成
- 公証人から登記の依頼
- 任意後見監督人の選任
成年後見人の手続きを専門家の助けを得ずに行う際は、このように法定後見人と任意後見人では違いがあります。
ここでは、法定後見人と任意後見人の別に、手続きの流れをひとつずつ解説していきます。
法定後見人の選任までの流れ
法定後見人の選任のための手続き、すなわち成年後見開始の審判は、基本的に家庭裁判所で行われます。
法定後見人制度を利用する際は、様々な条件があり、その確認のための手続きも数多くあります。
申立人や申し立て先の確認
本人や配偶者、四親等内の親族は、後見開始の審判の申立てができます。この他、一定の場合に、市区町村長も後見開始の審判の申立てができるとされています。
成年後見開始の審判の申立ては、家庭裁判所に行う必要があります。
対象となる本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要があるので、事前に確認しておきましょう。
診断書や必要書類の準備
成年後見後見開始の審判の申立は、対象となる当事者について、法律行為の結果についての判断能力を欠いていることが前提となります。
そのため、かかりつけ医などに現在の病状について、診断書を作成してもらいましょう。
また、成年後見人の申立てに必要な書類が以下のように数多くあります。
- 裁判所の定める後見開始申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支状況報告書
- 戸籍謄本
- 住民票
- 後見登記されていないことの証明書
このように、いくつか公的な書類を取得しなければなりません。
どのような書類が必要になるのか、事前に確認した上で市区町村役場や法務局で取得しておきましょう。
申立書等の作成
多くの書類を準備しなければなりませんが、中でも裁判所が定める書類は申立人が作成し、提出する必要があります。
まずは決められた様式を入手しなければなりません。
この様式は、家庭裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
また、家庭裁判所の窓口で受け取ることや、郵送してもらうこともできます。
様式を入手したら、必要項目を記載していきましょう。
記載例を参考にしながら、それぞれ必要な項目を埋めていきます。
難しい内容ではありませんので、落ち着いて記載していきましょう。
また、申立てには郵便切手や収入印紙が必要となるので、必要な金額分を準備しておきましょう。
面接日の予約
申立てを行うと、申立人や後見人候補者は家庭裁判所での面接に臨まなければなりません。
申立てを行ってから面接日を決めても、1ヶ月くらい先の日程になってしまうことがあります。
そこで、申立てを行う前に、先に面接日を決めておくことができます。裁判所によっては、面接日の予約が原則となっている場合もあります。
面接日の1週間前には、書類一式を家庭裁判所に提出しなければならないため、書類の目途がついたら予約するようにしましょう。
家庭裁判所への申立て
必要な書類がすべてそろったら、管轄の家庭裁判所に書類を提出し、申立てを行います。
書類の提出方法には、家庭裁判所への持参の他、郵送によることもできます。
家庭裁判所での審理開始
申立てを行うと、提出された書類に基づいて審理が開始されます。
最初に、申立人や後見人候補者に対して面接が行われ、申立てに至った経緯などを確認されます。
その後、必要に応じて本人との面接が行われます。
さらに、親族への意向照会、医師による鑑定などが行われ、法定後見人を選任する必要があるかが判断されます。
審判
裁判官が調査結果や提出された資料に基づいて、法定後見の開始を決定するかどうかの判断を行います。
法定後見人が必要と判断すれば、後見の開始の審判が行われ、同時に成年後見人を選任します。
また、法定後見人が必要ないと判断すれば、後見は開始されません。
後見の登記
審判が確定し後見が開始されると、その審判の内容を登記してもらう手続きが行われます。
裁判所から法務局に登記の依頼がなされ、法務局では後見人の氏名や後見人の権限を登記します。
この登記のことを、後見登記と呼びます。
任意後見人の選任までの流れ
任意後見人は、法律行為の結果について判断能力のある人が将来に備えて後見人候補者を決めておく制度です。
法定後見人とは大きく違うので、間違えないようにしましょう。
後見人候補者と後見の内容の決定
任意後見人制度では、将来後見人となる人を自身で決めておくことができます。
この人のことを、任意後見受任者と呼びます。
家族や信頼のできる人、あるいは専門家である弁護士や司法書士に依頼することも可能です。
任意後見人にどのようなことをしてもらいたいかも、あらかじめ決めておくことができます。
任意後見受任者と話し合いを行い、どのような内容にするかを決めておきましょう。
任意後見契約の締結と公正証書の作成
後見の内容で合意したら、契約内容を任意後見契約書にまとめます。
その内容については、公証役場で公正証書として作成してもらう必要があります。
公証人から登記の依頼
任意後見契約が締結され、公正証書による契約書が作成されると、公証人から法務局に登記の依頼がされます。
その登記により、任意後見契約による任意後見受任者の氏名や、代理権限の範囲が明らかにされます。
任意後見監督人の選任
本人の法律行為の結果について判断能力が不十分な状況あるときは、本人、一定の範囲の家族や親族は、低家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。
任意後見監督人は、任意後見人が適正に後見を行っているかを監督する人です。
成年後見人の手続きにかかる費用相場
成年後見人の選任に関する手続きを、専門家に代行してもらうことができます。
自分ですべての手続きを行うより手軽で確実ですが、そのための費用が発生するので、注意しましょう。
手続きを代行してもらう場合の費用
法定後見人や任意後見人を選任するための手続きを、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することができます。
この場合、手続きを代行してもらうための費用がかかります。
この費用は、各弁護士や司法書士によって金額は異なりますが、10万円あるいはそれ以上と考えることができます。
代行費用に含まれない費用に注意
先ほど紹介した10万円という費用相場は、実費とは別です。
自身で申し立てを行う場合でも、収入印紙代や郵便切手代、各種書類の取得手数料などは発生します。
また、裁判所が医師による本人の鑑定が必要と考える場合は、その費用も負担しなければなりません。
あくまでこれらの費用とは別に、手続きを代行してもらうと10万円あるいはそれ以上の費用がかかるものと考えられます。
まとめ
法律行為の結果についての判断能力を欠く状態にある人は、自身で法律行為を行うことはできず、適切に相続対策等を実行できません。
今は元気な人でも、将来法律行為の結果についての判断能力を欠く状態になってしまうと、適切に相続対策等ができなくなる可能性があります。
そうした状況に対応するため、法定の成年後見人を選任する必要な場合が生ずるほか、将来に備えて任意後見人との契約を締結しておくことも考えられます。
成年後見人についての手続きは、専門家に依頼せずに自身で行うこともできるので、確認しながら進めていきましょう。