この記事でわかること
- 養子縁組を解消する手続きや流れがわかる
- 養子縁組を解消する注意点がわかる
- 養子縁組を解消したら名字と戸籍がどうなるか知ることができる
- 養子縁組解消する場合としない場合の相続がわかる
目次
養子縁組の解消(離縁)とは?
養子縁組を解消するには「離縁」する必要があります。
養親と養子の話し合いや裁判所での調停などで離縁が決定した後に、役所に「養子離縁届」を提出すると、養子縁組を解消することができます。
離縁の種類によって必要書類は異なりますが、協議離縁の場合は身分証明書など本人確認書類があれば手続き可能です。
養子縁組の解消(離縁)で気をつけたい点は、養子縁組によってできた親子関係がなくなってしまうことです。
養子縁組は実の子どもと同じように養子が法定相続人になれるため、養親の財産を相続できます。
しかし、養子縁組の解消(離縁)してしまうと、養親の財産を相続できなくなるので注意しましょう。
養子縁組の解消(離縁)をすると戸籍・名字はどうなる?
養子縁組の解消(離縁)をすると、戸籍や名字はどうなるのでしょうか。
養子の戸籍 | 養親の戸籍から出て新しく戸籍を編成するか、元の戸籍に戻るかを選択する |
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養親の戸籍 | 養親の戸籍は大きくは変わりませんが、養子が抜けるため「〇月〇日 養子縁組解消」という記載が入り、養子が戸籍から出たことがわかる |
養子の名字 | 基本的には養子縁組をする前の姓に戻る。 ※養子縁組の日から7年以上経過している場合は、養子縁組を解消した日から3ヶ月以内に続用届けを出すことで、離縁前の苗字を使用することが可能 |
養子縁組を解消する手続きの方法と流れ
養子縁組を解消する方法は、 協議離縁、裁判離縁、調停離縁、審判離縁、死後離縁の5つがあり、民法811条によって定められています。
それぞれどのような制度か、順番に解説していきます。
協議離縁
「協議離縁」とは、養親と養子が話し合いをして、離縁を決めることです。
協議離婚と同じようなイメージです。
双方が養子縁組の解消に納得できたら、協議離縁届を作成し、証人2名にサインをしてもらって提出します。
実の父母が亡くなっている場合
養子縁組の協議離縁を進める際、養子の実の父母が2人ともすでに亡くなっている場合があります。
養子縁組を解消すると、養親との関係はなくなり、実の父母もいないため、法定代理人となるべき人がいなくなってしまいます。
そこで、家庭裁判所が未成年後見人を選任し、法定代理人となる人を決めることができます。
未成年の養子と離縁する場合
未成年の養子と夫婦である養親が協議離縁する場合、夫婦そろって離縁する必要があります。
これは、夫婦の1人だけが離縁しても、夫婦のもう1人には養親と養子の親子関係が残ることとなってしまい、法的関係が複雑になってしまうためです。
実の親子関係でも、親が離婚しない限り親子関係は夫婦ともに発生するものであることから、養親と未成年の養子については夫婦そろっての手続きが求められます。
調停離縁
「調停」とは、裁判所で、調停委員が当事者の間に入って話し合いをすることです。
当事者だけだとケンカになってしまうなど、本人同士で話し合うことが難しい状況の場合に、調停が行われることがあります。
調停が成立した際には、「調停調書」が作成されます。
調停調書の謄本を家庭裁判所へ申請すると、調停調書の謄本を取得することができますので、離縁届に調停調書の謄本を添えて提出します。
調停成立後10日以内に提出しないといけないため、期間が短い点にご注意ください。
審判離縁
調停でほとんど離縁に合意していたのに相手が裁判所に来なくなったケースなど、離縁を認めるのに相当の事情がある場合は、審判により離縁が認められることがあります。
審判が成立すると、自宅宛に審判書が届き、そのまま2週間経過すると審判が確定します。
裁判所に審判の確定証明書を申請し、取得しましょう。
審判書と確定証明書、離縁届を自治体に提出すれば、手続きは完了です。
裁判離縁
養子縁組の解消が合意に至らない場合は、裁判をすることになります。
この場合は、法律上の離縁事由がないと、養子縁組の解消は認められません。
- 相手からの悪意の遺棄
- 相手の生死が3年間以上不明
- その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき
法律上の離縁事由は、民法814条によって規定されています。
多くの場合は「その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるかどうかが争点となるでしょう。
養子に相続させたくないとか、養親どうしが離婚してしまったなどの理由だけでは、「その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるとは認められない可能性があります。
協議離縁では、「その他の縁組を継続し難い重大な事由があるとき」かどうかを裁判所に認めてもらう必要はなく、当事者が合意すれば養子縁組を解消できますので、そのような場合は協議離縁で円満離縁を目指す方が望ましいでしょう。
裁判で離縁を認めてもらえると、自宅宛に判決書が送られてきて、そのまま2週間経過すると判決が確定します。
裁判所から確定証明書を取得して、判決書、確定証明書、離縁届を提出し、養子縁組の解消は完了となります。
死後離縁
ここまで、養親と養子が生きている場合の離縁についてご説明しましたが、どちらかが亡くなっている場合の離縁は「死後離縁」と呼ばれます。
片方が亡くなってからなので、すでに発生している相続の権利には関係なく、法定相続人であることには変わりがありません。
死後離縁をすると、養親・養子の家族との関係もなくなり、養親の親族との間には相続が発生しなくなります。
つまり、養親については法定相続人となりますが、それ以外の兄弟や祖父母との間では、相続が発生しません。
ちなみに、死後離縁をすると、義理の兄弟や祖父母との間において、扶養義務もなくなります。
死後離縁をするためには、家庭裁判所の許可が必要です。
養子縁組解消の注意点
養子縁組を解消する際には、いくつかの注意点があります。
養子縁組を解消することとなった場合、市区町村役場に養子離縁届を提出しなければなりません。
この養子離縁届には、当事者の署名が必要とされており、こちらは多くの人が事前に対応しています。
ただ、協議離縁や死亡した者との離縁については、当事者の署名のほかに、2人の証人が署名しなければなりません。
この署名を失念してしまうと、届が受理されないため、必ず証人になってもらう人に署名をお願いしておきましょう。
また、養子離縁届を勝手に提出することはできません。
養子縁組届が提出された場合には、その届を持参した本人以外の届出人に役所から通知が届きます。
この通知により、養子離縁届が出されたと確認することができるのです。
しかし、勝手に養子離縁届を出した人がいる場合は、この通知によって不正行為を知ることとなります。
身に覚えのない通知が届いた場合は、弁護士に相談するなどして、早めの対策を行う必要があります。
なお、勝手に養子離縁届を提出することは犯罪なので、絶対に許されるものではありません。
特別養子縁組の場合は家庭裁判所の手続きが必要
特別養子縁組の場合は、上記のケースとは異なり、家庭裁判所の審判が必要です。
なぜなら、 特別養子縁組の場合は、養子縁組をする前に実の親との法律上の関係が断たれているためです。
養子縁組を解消した場合・しなかった場合の相続
養子縁組を解消した場合としなかった場合の相続についてそれぞれ確認しておきましょう。
養子縁組を解消した場合の相続
養子縁組を解消することで、養子と養親という関係が消滅し、お互いに相続の資格がなくなります。
養子縁組をするうえで生じた親子関係に関するすべての権利義務がなくなるので、例えば養子が養親の子ども(養子から見れば、義理の兄弟姉妹たち)を互いに扶養する義務もなくなります。
養子と養親との間で、相続に関する関係が一切なくなるので、相続税対策にならなくなってしまいます。
もともと相続税対策として養子縁組をしていた場合は、養子縁組以外の相続税対策を考える必要があります。
死後離縁
死後離縁をすると義理の兄弟姉妹や祖父母への扶養義務がなくなり、義理の親子間での相続権もなくなります。
借金を抱える癖のある親族がいる場合は、扶養義務がなくなるというのはメリットでしょう。
養子縁組を解消しなかった場合の相続
養子縁組を解消しないまま養親が亡くなると、実の親子と同じ親子関係があるため、養子には相続権が生じることとなります。
子がいる場合の法定相続分は、亡くなった人の配偶者がいれば1/2は配偶者で、残りを子が均等に分けます。
また、配偶者がいない場合には、子がすべての遺産を均等に分けます。
子の1人あたりの相続分は、養子縁組を解消するかどうかで、子の相続分は大きく変動することとなります。
特に実子にとっては、養子がいるとその分自身の相続分が間違いなく減少してしまうので、不満となる可能性があります。
すべての相続人による遺産分割協議により、各相続人の相続分を決定することとなりますが、中には養子の相続分を認めないような強硬な意見を主張する実子がいるケースもあります。
遺留分は、相続人が最低限相続できると保証されている財産の割合であり、養子が遺留分を主張すれば、必ず主張は認められます。
このように、養子縁組を解消しなかった場合は、相続時にトラブルになる可能性があるため、事前の対策が必要となります。
相続と養子縁組にまつわるトラブル
養子縁組を解消することになる場合、相続に関してトラブルになっているケースが多くあります。
よくあるトラブルにはどのようなものがあるのか、見てみましょう。
元配偶者の子どもが相続人になることに納得がいかない
例えば、以前結婚していて、元配偶者の連れ子がいたとします。
元配偶者の子どもを養子にしましたが、その後2人は離婚することになりました。
このような場合は、夫婦が離婚しても、養子についての手続きは別に必要です。
もしそのまま手続きをせずに、養子を養子のままにしておくと、養親が死亡したときに養子は養親を相続することができます。
いざ相続のタイミングになって、「別れた相手の子どもで、血が繋がっていないのに、どうして相続人になるのか」と、ほかの相続人とトラブルになってしまうことがあるので注意しましょう。
元はといえば、相続が起こる前に養子縁組を解消していなかったことが原因のため、養子本人は悪くありませんが、実子からすれば納得がいかないということになりかねません。
養親の死亡後の親族の面倒を見たくない
養子縁組をした場合、養親が死亡した後に、養親の親族を扶養する義務が残ります。
もし親族の面倒を見たくない場合は、他の親族と揉めてしまうかもしれません。
他の相続人からすれば自分の取り分が減る
養子は、実の子供と同じように養親の相続人となることができます。
そのことは、他の相続人からすれば自分の相続分が減ることになるということを意味しているため、トラブルになることがあります。
実子が養子の存在を知らなかった
養子縁組は、当人たちの意思で自由にすることができるため、実子の知らないところで養子縁組がされていることがあります。
実子からすれば自分の相続分が減るため、トラブルの原因となるでしょう。
まとめ
今回は、養子縁組の解消(離縁)について手続きの流れや離縁後の相続関係がどうなるのかといったことについてご紹介しました。
さまざまな事情によって養子縁組の解消を考えている方は、話し合いと手続きをきちんとしておくことが重要です。
養子縁組を解消することになる場合、相続問題が関係してくるのでトラブルになるケースも少なくありません。
養子縁組の解消(離縁)をすることで相続にどのような影響が出るのか、よく理解したうえで慎重に手続きを進めましょう。
当事者だけで話し合うことが難しい場合など養子縁組の解消でお困りの方は、専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。