この記事でわかること
- 養子縁組の制度概要
- 養子縁組と里親制度の違い
- 養子縁組に必要な手続き
養子縁組とは、血縁関係のない子どもを自らの子として法的に受け入れる制度です。
養子縁組は子どもにとって新たな家族や安定を提供する重要な手段ですが、制度の内容を詳しく知っている人は少ないかもしれません。
養子縁組には2種類あり、それぞれ条件が異なるため、違いの理解が大切です。
この記事では、養子縁組とは何か、里親制度との違い、養子縁組に必要な手続きや条件を解説します。
目次
養子縁組とは
養子縁組とは、血のつながりがない人同士で手続きを行い、法律上の親子関係を生じさせるための制度です。
養子縁組により親となった人は養親、子となった人は養子と呼ばれます。
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。
普通養子縁組
普通養子縁組は、実親との親子関係を維持したまま、養親と法律上の親子関係を結ぶ手続きです。
日本では昔から次のようなケースで利用されてきました。
養子縁組を利用するケース
- 家の跡継ぎとして婿養子をとるため
- 事故で実親を亡くした子の養育環境を整えるため
- 配偶者の連れ子と親子関係を作るため
法律上の親子関係により、親と子はお互いに「財産を相続する権利」や「相手を扶養する義務」が生じます。
子は「財産を相続する権利」や「相手を扶養する義務」を実親と養親の両方に持ちます。
一方、親権は実親から養親へ移り、養子は養親の苗字を名乗るのが原則です。
普通養子縁組が認められる条件
普通養子縁組を結ぶには、次の条件を満たさなければなりません。
<養親側の条件>
- 養親が20歳以上である(結婚歴があれば20歳未満でも可)
- 夫婦が未成年者を養子にする場合、ともに縁組する
養親は必ずしも夫婦である必要はなく、独身の人が養子を迎えるのも可能です。
ただし、養親となる人に配偶者がおり、かつ、養子が未成年の場合は、その配偶者とともに縁組しなくてはなりません。
<養子側の条件>
- 養親となる人やその尊属より年長者でない
- 15歳未満の場合、法定代理人(親権者など)の承諾がある
- 未成年者の場合、家庭裁判所の許可を得る
- 結婚している場合、配偶者の同意がある
条件を満たした上で、養親と養子の合意により市区町村に養子縁組の届け出をして受理されると普通養子縁組が成立します。
特別養子縁組
特別養子縁組は、養親と法律上の親子関係ができる一方で、実親との親子関係は終了します。
つまり、子と実親の間でお互いに「財産を相続する権利」や「相手を扶養する義務」は生じません。
実親による子の監護や扶養が困難など、家庭裁判所が子の利益のため特に必要と認めた場合のみ成立します。
たとえば、次のようなケースです。
特別養子縁組を利用するケース
- 実親が重度の精神疾患にかかり、育児放棄された子を養育するため
- 未成年の望まない妊娠により出生し、今後の養育が難しいため
- 実親の経済的な困窮により子の養育が困難なため
特別養子縁組が認められる条件
特別養子縁組は、普通養子縁組と比較して成立するための条件が厳しくなっています。
具体的には、次の条件を満たした上で、さらに家庭裁判所の許可が必要です。
<養親側の条件>
- 夫婦の一方が25歳以上、もう一方が20歳以上である
- 特別養子縁組の請求から縁組成立前までに6カ月間監護している
6カ月以上は養親があらかじめ養子と同居し、養育を続けている必要があります。
<養子側の条件>
- 15歳未満である
- 実親からの同意がある
- 実親の監護が著しく困難であり子の利益のため特に必要と認められる
ポイントは、「子の利益として特別養子縁組がふさわしいと認められるか」の条件です。
やむを得ない事情で15歳になるまでに申立てができなかった場合は、15歳以上でも認められる可能性があります。
実親からの同意は、虐待があったときなどは得られるのが難しいケースもあり、家庭裁判所の判断によっては不要となります。
養子縁組と里親制度の違い
里親制度とは、事情により実親の家庭で暮らせない子を迎え入れて養育する制度です。
普通養子縁組・特別養子縁組と違い、里親には法律上の親子関係は生じません。
親権者は実親のままですが、養育は里親が行うため、里親には自治体から里親手当や養育費が支給されます。
子との関係や里親の希望により、次の4種類に分けられます。
養育里親
実親との関係を継続しながら要保護児童を養育し、原則として養子縁組は目的としない場合です。
専門里親
虐待を受けた子や障がいのある子など、一定の専門的ケアが必要な子を養育するケースです。
養子縁組里親
特別養子縁組など、将来的な養子縁組を前提として子を養育する場合です。
親族里親
叔父や叔母など、もともとは扶養義務のない親族が里親となって養育するケースです。
養子縁組によって相続税の負担軽減が可能
養子縁組で法定相続人が増えると、相続税の基礎控除が増えます。
相続税の基礎控除
3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続財産が4,500万円、法定相続人が2人の場合、課税される額は次の通りです。
課税される額
相続財産4,500万円 – 基礎控除4,200万円(3,000万円+600万円×2人)= 300万円
ここで1人養子になると、基礎控除の中に相続財産が収まり、相続税は不要です。
課税される額
相続財産4,500万円 – 基礎控除4,800万円(3,000万円+600万円×3人)=-300万円(課税0円へ)
ただし、法定相続人に加えられる養子の数は上限があります。
法定相続人に加えられる養子の数
- 被相続人に実子がいる場合:1人まで
- 被相続人に実子がいない場合:2人まで
このほか、生命保険金や死亡退職金の非課税枠の計算で税制上のメリットが生じます。
未成年者を養子縁組とするときに必要な手続き
未成年者を養子縁組するときは、家庭裁判所の許可など必要な手続きがあります。
どんな手続きが必要となるのか、次の章から確認していきましょう。
家庭裁判所による許可
普通養子縁組は、原則として養親と養子の同意により成立します。
ただし、未成年者を養子とするときは家庭裁判所の許可が必要です。
養子が配偶者の連れ子や孫の場合、自分の孫を養子にする場合は、養子が未成年でも家庭裁判所の許可は必要とされません。
特別養子縁組の場合、すべてのケースで家庭裁判所の許可が必要です。
特別養子縁組は「実親の監護が著しく困難または不適当」かつ「子の利益のため特に必要」と裁判所が認めなければ許可されません。
実親との親子関係が終了する重大な効力が生じるため、一般的に許可は普通養子縁組より難しくなるでしょう。
配偶者との共同縁組
普通養子縁組では、養子が成人している場合、夫婦の片方のみと養子縁組ができます。
ただし、養子が未成年で、養親に配偶者がいる場合、配偶者と共同で縁組しなければなりません。
養子縁組は配偶者に与える影響が大きく、また未成年の養子を養育をする場合、夫婦が共同して縁組するのが望ましいからです。
特別養子縁組は養子が未成年の状態を前提としており、すべてのケースで夫婦が共同で縁組しなければなりません。
なお、配偶者の連れ子を養子とする場合、配偶者にはもともと親子関係があるため、縁組するのは夫婦のもう一方のみです
法定代理人による縁組の承諾
養子が15歳未満であるときは、法定代理人が養子に代わって縁組の承諾をします。
これを代諾縁組といい、通常、養子の実親が法定代理人となります。
ただし、事情によっては実親の親権がすでに停止されているケースもあるでしょう。
その場合、実親のほかに養子の監護をしている人の同意が必要です。
なお、実親からの虐待や悪意の遺棄があった場合など、事情により同意を得るのが難しいケースでは、実親の同意は不要とされています。
養子縁組の解消
普通養子縁組は、次の方法により解消できます。
普通養子縁組を解消する方法
- 養親と養子の合意により市区町村へ協議離縁の届け出をする
- 養親または養子からの養子縁組の離縁の訴えを提起し、家庭裁判所の認可を得て、市区町村に養子離縁の届け出をする
一方、特別養子縁組の離縁は原則として認められません。
例外として、養子から請求があり、家庭裁判所で養子の利益のため特に必要と認められた場合のみ離縁が成立します。
ただし、養親からの離縁の請求は認められないため注意しましょう。
特別養子縁組を離縁した場合、離縁の日から特別養子縁組によって終了した親族関係が復活します。
まとめ
養子縁組とは、実の親子とは別に法律上の親子関係を結ぶ制度で、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類に分けられます。
普通養子縁組と特別養子縁組は全く違う制度といっていいほど制度や手続きに違いがあるため、内容をよく理解するのが大切です。
養子縁組を考えている方は、養子縁組だけでなく里親制度も視野に入れ、より自分たちの望む家族の形に近づける方法を検討しましょう。