この記事でわかること
- 養子縁組をすることで生じる相続トラブルがわかる
- 相続における養子縁組に関するリスクがわかる
- 養子縁組をする際の注意点がわかる
目次
養子縁組とは
養子縁組とは血縁関係のない人同士が法律上の親子関係になることをいいます。
養子縁組をして親になった人は養親、子供になった人は養子となります。
養子は実子と同じように法定相続人になり、養親の財産を相続することが可能です。
養子縁組によって法定相続人が増えると基礎控除額が増えるため、相続税対策として養子縁組が利用されることもあります。
養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組の2種類がありますが、一般的な相続税対策として養子縁組を行う場合や、再婚相手の子供との養子縁組を行う場合は普通養子縁組として行われます。
養子縁組パターンと相続時の注意点
養子縁組を行う場合、誰を養子にするかによって相続時に発生する問題に違いがあります。
ここでは、いくつかの養子縁組パターンを取り上げてその注意点をご紹介します。
子供の配偶者と養子縁組
子供の配偶者を養子にする際に注意しなければならない点は2つあります。
養子となった人以外の相続分が減る
1つは、養子縁組により子供の数が増えることから、養子となった人以外の相続分が減ることです。
例えば、3人兄弟のうち長男の配偶者が養子縁組を行ったとします。
この場合、本来実子はそれぞれ3分の1ずつ法定相続分を有していましたが、養子縁組により子供が増えた結果、法定相続分が4分の1となってしまいます。
仮に子供全員の相続分が1億円だった場合、3,333万円から2,500万円に減少してしまいます。
配偶者が養子縁組した長男には問題なくても、それ以外の子供にとっては面白くないのです。
養子縁組は自動的には解消されない
もう1つの問題は、養子縁組した後に子供と配偶者が離婚しても、養子縁組は自動的に解消されるわけではないことです。
離婚しても、養子縁組をしている親子関係は継続します。
そして養子縁組を解消しなければ、いつまでも親子関係は継続し、法定相続分を有することとなるのです。
孫と養子縁組
特に相続税の負担を軽減したい人や、相続財産に土地を保有している人は、孫を養子にすることがあります。
相続税の基礎控除額が増え、相続税の計算上も有利になるからです。
ただし、この場合も注意点があります。
実子の法定相続分が減る
それは、孫を養子にすると、子供の法定相続分が減ってしまうことです。
養子となる人が増えれば、その分実子の法定相続分は必ず減少します。
このことでトラブルにならないよう、前もってほかの相続人に理解しておいてもらう必要があるのです。
孫の相続税額は2割加算の対象
また、相続税対策として孫を養子にしたにもかかわらず、孫の相続税額は2割加算の対象となる点も要注意です。
この2割加算の制度は、被相続人の配偶者、子供、親以外の人が相続税を負担する場合には、必ず影響を受けるものです。
2割加算されることでかえって相続税の負担が増える可能性もあるため、どれくらいの負担になるのか前もって知っておくことが重要です。
結婚相手の連れ子と養子縁組
結婚した相手に連れ子がいる場合、その連れ子と養子縁組することがあります。
連れ子と養子縁組しなければ、その連れ子には相続分がないためです。
この場合に注意しなければならないのは、離婚しても連れ子との養子縁組は解消されないことです。
離婚した後に養子縁組を解消するのは、かなり大変な手続きとなることが予想され、裁判所に行かなければならないこともあります。
トラブル例1:養子が負の財産を受け取りたくないと言った場合
養子縁組をする場合、養子の側としては、相続によって財産を取得できるということが、養子縁組の動機となっている場合もあるでしょう。
養子も相続人となる以上、相続財産に借金などのマイナスの財産がある場合には、それについても他の相続人と同様に相続によって承継することになります。
そのため、実際に相続が開始され、借金など負の財産があることが判明した場合に、養子としては「そんなことは聞いていない」「そのようなことは想定していない」として、負の財産の相続を拒否するという場合がありえます。
この場合、養子も法律上は実子と同じく相続人となりますので、プラスの財産のみを相続して、マイナスの財産を相続しないということはできません。
しかも、負の財産については、法廷相続分に応じて承継されるため、相続人間の合意でこれを回避することもできません。
どうしても負の財産を相続したくないということであれば、相続放棄をするしかありません。
養親が亡くなってから、養子の側から離縁することも可能ですが、そのためには家庭裁判所の許可が必要となります。
その場合でも、既に取得した相続人の地位は変わらないため、相続開始後に離縁の申立てをしたとしても、負の財産の相続を免れることはできません。
トラブル例2:相続対策だと思われ、相続税の申告が否認される場合
養子縁組をするには、当事者間に養子縁組を行う意思があることが要件とされています(民法第802条第1号)。
これについては、実際に裁判で争われたことがあります。
実子が「養子縁組は単なる相続税対策のためのもので、真実に養子縁組をする意思がなかったため、養子縁組自体が無効である」と主張して裁判になった事例です。
この事例では最高裁判所は、節税の動機を持ちつつ、真実養子縁組を行う意思を持つことも可能であるとしたうえで、
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に養子縁組をする意思がないとき』にあたるとすることはできない。
としました。
この判決について、相続税目的の養子縁組も有効となると理解する人もいますが、あくまでも、相続税目的があっても、それと併存して養子縁組をする真実の意思があれば養子縁組は無効になるわけではないとしたに過ぎません。
相続税の節税のみを目的として、真実養子縁組をする意思が全くないような場合には、養子縁組の意思がないとして養子縁組が無効と判断される場合がありうるとしている点には注意する必要があります。
実際、国税庁のホームページのタックスアンサーでも、
養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は養子の数に含めることはできません。
としており、場合によっては養子を法定相続人の数にカウントしないことがありうることを認めています。
トラブル例3:実子の理解が得られない場合
養子縁組によって相続人が増えると、実子の相続分が減少します。
相続分が減少する例を具体的にみてみましょう。
上記の最高裁判所の例では、被相続人には実子として長男と長女の2人の子供がいました。
この状況下で、被相続人は、税理士から「養子を迎えれば相続税の節税効果がある」という助言を受け、これに基づき被相続人が第三者の子供を養子に迎えたという事例でした。
この場合、養子がいなければ、長男と長女はそれぞれ財産の1/2ずつを相続できたのですが、養子が現れたことで相続割合は1/3ずつに減少することになったのです。
実際、相続人の数が増えれば増えるほど、遺産分割協議はもめる傾向にあります。
しかも、全くの第三者が養子として突然相続人に加わってきたのでは、実子などの本来の相続人からすれば面白くないはずで、遺産分割に際してもめるケースが多々あります。
また、全くの第三者ではなく孫を養子にする場合でも、複数の孫のうちの一人のみを養子とした場合などには、なぜその孫だけが優遇されるのか、ということで、他の孫やその親から反発を受ける可能性もあります。
養子縁組をする場合には、このような自身の死後の相続争いが生じる可能性も考慮して、生前に、養子縁組する意図、必要性等を、他の相続人にきちんと説明するなどして、他の相続人の理解を得た上で行う必要があるといえるでしょう。
トラブル例4:娘婿を養子縁組したが離婚した場合
子供の配偶者を自己の養子にする養子縁組のパターンがあります。
「婿養子」がその典型といえるでしょう。
これ自体は特に問題はないのですが、万一、その子供夫婦が離婚することとなった場合に、その配偶者は引き続き養子として相続権を有するという問題があります。
この場合、子供が離婚したからといって養子の地位が当然になくなるわけではありません。
婚姻と養子縁組とは全く別の関係だからです。
養子縁組の際に、離婚したら養子縁組関係も終了するという条件をつけることもできません。
また、養子は養親の「子供」として第1順位の法定相続人となり、1/2の遺留分を有するため、遺言等によっても養子に財産を一切相続させないとすることはできません。
結局、養子に相続させないようにするためには、養子縁組関係を解消するしかありません。
養子縁組は簡単に解消・無効化できません
養子縁組については、無効事由、取消事由が民法によって限定的に定められています(民法第802条、民法第803条から808条)。
これに該当する場合は、養子縁組自体が無効となったり、取り消すことによって養子縁組をなかったことにすることができます。
逆に言うと、これ以外の理由で、養子縁組自体が無効または取り消されることはありません。
それとは別に、当事者間の合意で養子縁組関係を解消することが認められています(民法第811条)。
この場合は、当事者の合意で「養子離縁届」を市役所または区役所に提出することで、養子縁組関係の解消が可能です。
この書式については各市区町村役場などに確認してください。
無効、取消事由に該当せず、また、当事者間で離縁について合意ができない場合には、家庭裁判所に離縁を求めることになります。
この場合、離縁が認められるのは、以下の場合に限られます(民法第814条)。
- 養親または養子が相手方から悪意で遺棄されたとき
- 養親または養子が3年以上生死不明となったとき
- その他、養子縁組関係を継続しがたい重大な事実があるとき
なお、家庭裁判所に離縁を求める際には、必ず事前に家庭裁判所による調停がなされ、その中で当事者間の合意による解決を目指します。
ただ、調停でも合意に至らない場合は、家庭裁判所が上記の離縁が認められる事由があるか否かを判断することになります。
更に、養子のなかでも、特別養子は当事者間の合意での離縁は認められておらず、その離縁が認められるのは、民法第817条の10が定めている場合に限られ、且つ、家庭裁判所の審判によってのみなされることになります。
まとめ
以上、養子縁組によって生じる可能性のある相続トラブルにはどのようなものがあるかをみてきました。
養子縁組は、他の相続税対策とは異なり、養子となる人や、他の相続人の法律上の地位にも大きな影響を与えます。
また、身分関係の変動を伴うだけに安易に撤回したり、もとの身分関係に戻すことが制限されるといった点があることを十分に理解したうえで、その制度を活用するか否かを判断する必要があります。
併せて、本人が単独で判断するのではなく、他の相続人などともコミュニケーションをとった上で判断することが必須といえるでしょう。