この記事でわかること
- 遺言保管制度について理解できる
- 遺言保管制度への申し込みが自分でできる
- 自分にとって遺言の保管制度が必要かどうかわかる
遺言を作りたいと思ったことはありませんか?
自分で書いて準備している人もいるでしょう。
ところで、遺言はどこにしまっていますか?
遺言を万が一なくすと、大変なことになってしまいます。
自分にわかる場所にしまっておいたとしても、遺言が他の人の目に触れるのは自分が死亡した後の話なので、自分にとってわかりやすい場所ではなく、きちんと他の人でも見つけることができる場所でなければいけません。
そういった、遺言の保管場所問題の解決方法として活用できるかもしれないのが、2020年7月10日から始まる、法務局で遺言の保管制度です。
法務局に遺言を保管しておけば、なくしたり汚したりすることはないでしょう。
今回は、法務局の遺言保管制度の概要と、遺言を保管する場合にかかる費用についてご紹介します。
目次
法務局で行う遺言書の保管制度と手数料
法務局の遺言保管制度は、どのような内容の制度なのでしょうか。
いつまで遺言書は保管されるのでしょうか。
具体的に見ていきましょう。
遺言保管制度とは法務局で遺言を保管する制度
遺言保管制度とは、自筆証書遺言を法務局で保管するという制度です。
今までは、遺言を書いた人(遺言者)や、遺言者から委任された人が保管するという決まりでした。
この度「法務局における遺言の保管等に関する法律」(以下、「遺言保管法」)ができたので2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。
遺言保管制度は、自筆証書遺言にのみ適用されます。
遺言書には、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、そのうち自筆証書遺言のみ、法務局で保管してもらえます。
ちなみに公正証書遺言の場合は公正証書にする時点で、公証役場が原本を原則として20年間保管します。
現時点で、公的機関に保管できないのは秘密証書遺言です。
遺言保管制度では120年間保管される
ところで、公正証書遺言の場合、公証役場では原則として20年間原本を保存していますが、少なくとも遺言者の存命中は保存されるように運用されています。
具体的には120歳まで保管されることが多いのです。
一方、遺言保管制度の場合は、政令により以下のように定められています。
遺言書保管法第6条第5項(法第7条第3項において準用する場合を含む。)の遺言者の生死が明らかでない場合における遺言者の死亡の日に相当する日として政令で定める日は、遺言者の出生の日から起算して120年を経過した日です(第5条第1項)。
遺言書保管法第6条第5項(法第7条第3項において準用する場合を含む。)の相続に関する紛争を防止する必要があると認められる期間として政令で定める期間は、遺言書については50年、遺言書に係る情報については150年です(第5条第2項)。
引用元:法務省ホームページ 「http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00011.html」
120年間、安全な場所にしっかり保管されるので安心ですね。
遺言の書き方などは教えてもらえない
遺言保管制度では、遺言の書き方を教えてもらえません。
遺言書の書き方を教えるのではなく、あくまで保存を行うための制度です。
ただし、ホームページでは自筆証書遺言の様式について詳しく説明されているので、これから自筆証書遺言を作成する人は参考にするといいでしょう。
保管手数料は一件3,900円
遺言保管制度を利用する場合、遺言の保管の申請は一件につき3,900円です。
遺言書の閲覧の請求は、モニターでする場合は一回1,400円、原本を閲覧する場合は1,700円かかります。
その他の手数料は、以下の通りです。
遺言書の保管の申請の撤回、変更の届出は無料で行えます。
申請・請求の種別 申請・請求者 手数料 遺言書の保管の申請 遺言者 一件につき,3,900円 遺言書の閲覧の請求(モニター) 遺言者 関係相続人等 一回につき,1,400円 遺言書の閲覧の請求(原本) 遺言者関係相続人等 一回につき,1,700円 遺言書情報証明書の交付請求 関係相続人等 一通につき,1,400円 遺言書保管事実証明書の交付請求 関係相続人等 一通につき,800円 申請書等・撤回書等の閲覧の請求 遺言者関係相続人等 一の申請に関する申請 書等または一の撤回に関 する撤回書等につき, 1,700円 引用元:法務省ホームページ 「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」
法務局で遺言書を保管するメリット・デメリット
法務局で遺言書を保管することのメリットとデメリットをご紹介します。
メリットは紛失しないことと検認が不要であること
法務局で遺言書を保管してもらうことのメリットは、何と言っても紛失リスクが少ないということです。
ただし、家族にはきちんと法務省に遺言を保管している旨を伝えておきましょう。
メリットの2つ目は、遺言書の検認がいらないということです。
自筆証書遺言は、遺族が勝手に開封してはいけません。
家庭裁判所で、検認という手続きを受けて、開封します。
現実には、よくわからずに裁判所の検認を受けずに封を開けてしまうことがあります。
家庭裁判所外において、開封してしまった場合は5万円以下の過料に処せられます。
民法にある具体的な規定は以下の通りです。
(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができない。(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、または家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。
デメリットは本人が出頭しなければいけないこと
法務局における遺言書の保管制度を利用するデメリットの1つ目は、本人が出頭しなければいけないということです。
本人が出頭して遺言書の保管を申し込むのですが、そもそも移動が辛い人にとっては大変かと思われます。
また全ての法務局の支局が対応しているとは限りませんので出かける前に、これから行く法務局が遺言書保管制度を行っているところかどうか、法務局のホームページで調べてください。
さらに、相続人または受遺者が遺言書保管の有無を法務局で照会しなければ、遺言書の存在がわからないという点です。
本人が死亡しても自動的に遺族に遺言書を保管してある旨の連絡がされるわけではなく、遺族自ら法務局に照会をしない限り、遺言書が保管されていることは明らかになりません。
その結果、遺言書があることを知らないまま、遺産分割をしてしまう可能性があります。
遺言書の存在は必ず家族に知らせましょう。
公正証書遺言との比較とメリット・デメリット
公正証書遺言と、自筆証書遺言の保管を法務局に依頼した場合では、どのような点が違うのでしょうか。
<公正証書遺言との比較>
公正証書遺言 | 自筆証書遺言+法務局で保管 | |
---|---|---|
遺言書の作成料金 | 16,000円〜(公証手数料) | 自筆証書遺言は作成料がかからない。 |
保管料金 | 無料 | 3,900円 |
検認 | 不要 | 不要 |
証人 | 2名以上必要 | 不要 |
訪問回数 | 2回 | 1回 |
出張 | あり | なし |
公正証書遺言を作成する場合と、自筆証書遺言を作成し、法務局で保管する場合とを比較しました。
まず、公正証書遺言の場合は、公証手数料が相続の財産によってかかります。
最低金額は16,000円です。
自筆証書遺言の場合、自筆証書遺言の作成にはお金がかかりません。
その代わり、自分で書かなければいけないので、法律的なことが全くわからない場合には、専門家からのアドバイスを受けることになり、その分の費用がかかるでしょう。
家庭裁判所の検認は、公正証書遺言に自筆証書遺言を法務局で保管する場合にしても、不要です。
公正証書遺言の場合は、証人が2名以上必要ですが、自筆証書遺言の場合は不要です。
公正証書遺言を作成する場合、公証役場を2回訪問する必要がありますが、自筆証書遺言を法務局で保管する場合は1回で済みます。
なお、公証役場の場合は公証人が出張するサービスがあります。
病院などで遺言を残すときは、公証人が病院まで出張します。
法務局における遺言書の保管制度の場合は、出張サービスはありません。
必ず本人が出頭する必要があります。
全体的に、自筆証書遺言を作成し、法務局で保管する方法を取るほうが、リーズナブルです。
最大の違いとして、公正証書遺言の場合は公証人のチェックが入るので、法的に不安な箇所は指摘されますが、自筆証書遺言の場合、法的なチェックの目は自分で専門家に依頼しない限り特にないので、遺言書の内容によっては相続トラブルになる可能性もあります。
遺言書の保管が不適切なことで起こるトラブルとは?
せっかく書いた自筆証書遺言でも、保管が不適切であったばかりに起こってしまうトラブルがあります。
まず、紛失してしまうことです。
どこにしまったのかわからなくなってしまい、ご本人が亡くなってからも見つからず、遺産分割協議がまとまりかけた頃に出て来ることがあります。
遺言書だとわからず捨てられてしまうこともあるかもしれません。
地震や津波、火災などでなくなってしまうリスクもあります。
次に、汚損のリスクです。
保管の方法が悪く、汚れてしまって読めないことがあります。
読めない部分について、相続人の間でトラブルに発展する可能性があります。
最後に、自分での保管が不安な場合、相続人のうちの誰かに遺言書の保管を依頼するケースがありますが、おすすめできません。
遺言書を書き換えたとか、中身をこっそり見たのではないかなど、他の相続人とのトラブルに発展してしまうことがしばしばあります。
最悪の場合、相続財産をめぐる争いが巻き起こってしまう可能性があります。
将来、相続財産をめぐる争いになってしまっても、お亡くなりになった本人にはわからないことです。
残された人々で争うことも想定に入れながら、遺言書をどのような方法で保管するのか考える必要があります。
法務局で遺言書を保管する流れ
法務局で遺言書を保管する流れをご紹介します。
- 1.まずは、自筆証書遺言に係る遺言書を作成します。
- 2.次に、保管の申請をする遺言書保管所を決めてください。保管の申請ができる遺言書保管所は、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所になります。
- 3.次に、法務省のホームページか、法務局の窓口に備え付けの申請書に必要事項を記入します。
- 4.保管の申請の予約を取りましょう。
- 5.予約した日時に遺言者本人が以下のものを持参の上、遺言書保管場所へ行きます。
・遺言書
・申請書
・添付書類(本籍地の記載された住民票の写しなど)
・本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
・手数料(3,900円) - 6.手続き終了後、保管証を受け取って完了です。
法務省のホームページで申請書を入手すれば、法務局に行くのは予約日の1回きりで済みます。
ただし、代わりの人に行ってもらうことはできません。
自分で行く必要がありますので、ご注意ください。
手続き自体は難しくありませんが、代わりに手続きをしてもらうこと(代理申請)はできません。
ご自身で申請してください。
自分で動くのが大変だという方の場合は、自筆証書遺言にかかる遺言書を法務局で保管するのではなく、公正証書遺言を、公証人の出張サービスを受けながら作成する方があっているかも知れません。
ただし、公正証書遺言は作成に費用がかかります。
今の自分の状況に合わせて、選択しましょう。
まとめ
今回は法務局の遺言書保管制度についてご紹介しました。
自筆証書遺言作ったが保管場所に困っているという方は、利用してみてはいかがでしょうか。
相続人の中の誰かに預けるよりも、第三者である法務局に預けた方が、他の相続人としても安心かもしれません。
また、公正証書遺言との比較もしました。
それぞれのメリットとデメリットがあります。
財産が多い人や高額な人の場合は、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言にするか、自筆証書遺言あっても専門家のアドバイスを受けながら、相続人達の間で紛争が起きないよう対策がされている遺言書を作成することをおすすめします。
自分にあっている、納得できる方を選んで、制度を活用してください。