この記事でわかること
- 寄与分を相続分に反映させる方法がわかる
- 特別の寄与の制度のことがわかる
- 特別寄与料を請求する方法がわかる
亡くなった人が長年にわたって介護を受けていた場合や、病気のため日常的に看護を受けていた場合があります。
そのような場合、介護や看護を行ってきた人は、金銭的にも肉体的にも、そして精神的にも大きな負担をしなければなりません。
そのような被相続人の介護や看護を行ってきた人に対して、その苦労や負担を相続の際に反映させることが認められます。
また、相続人でない人が介護や看護を行った場合に、その負担を遺産分割の際に請求できる制度が新たにできました。
ここでは、相続トラブル対策にも繋がるこれらの制度や介護でよくあるトラブルについても解説していきます。
目次
介護や看護を行った人がいる場合の遺産分割
被相続人が遺言書を作成していないまま亡くなってしまった場合、相続人全員で遺産分割協議を行って遺産分割を行うこととなります。
本来、遺産分割の割合は、相続人全員が納得すればどのように定めてもよいこととされています。
ただ、被相続人の子どもは、原則として全員が平等に相続する権利を有しているため、全員が同程度の金額になるように分割することも多いのです。
しかし、一部の相続人が被相続人の介護や看護を行った場合、その一部の人は何もしていない人より多くの相続をしたいと考えるのが普通です。
遺産分割協議の際に、そのことを他の相続人が認めてくれれば滞りなく遺産分割は完了しますが、話し合いですんなりと決まるとは限りません。
寄与分を主張する人がいると、遺産分割の際に争いとなる可能性が高いのです。
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介護でよくある相続トラブル
相続人が介護を行うと、そのことが発端となって相続トラブルが発生することがあります。
介護を行うことは相続人にとって大きな負担であるにもかかわらず、法定相続分しか相続できない場合、他の相続人とのバランスからトラブルに発展することがあります。
介護を行った人が寄与分を主張すると、介護から発生する寄与分について、その金額の妥当性が問題になることから、遺産分割がなかなか成立しないこともあります。
また、介護を行った人が被相続人の生前に贈与を受けた場合には、その贈与について不公平だと反発が出る可能性もあります。
寄与分を相続分に反映させる方法
被相続人の介護や看護を行った人が、その分多くの遺産を相続する場合、どのような方法で遺産分割を行うのでしょうか。
また、争いを避ける方法はないのでしょうか。
被相続人が遺言書に記載する
介護や看護を行った人がいる場合、争いになる可能性が高いのですが、遺言書に「世話をしてくれた長女に多くの遺産を相続させる」とする記載があれば、その内容にしたがって遺産分割が行われるため、寄与分をめぐる争いを避けることができます。
ただし、遺言書を作成する時に認知症となっているような場合は、遺言書の有効性が問題になる場合もあるため注意しなければなりません。
また、遺言書を作成する場合には、他の相続人に認められる遺留分にも配慮する必要があります。
遺産分割協議で寄与分を主張する
遺言書がない場合、遺産分割を行う際には相続人全員で遺産分割協議を行います。
その際、介護や看護を行った人は、寄与分を主張しなければ、他の相続人より多くの遺産を相続することはできません。
遺産分割協議を行う場合は、相続人全員の合意がなければ成立しません。
寄与分を主張する人は、被相続人のためにどのような行動をとったのか分かるような記録を残しておき、全員の合意を得られるようにしておかないと、いつまでも遺産分割協議が成立しないこととなってしまいます。
最終的には家庭裁判所での調停や審判になる
遺産分割協議の場で、遺産分割の方法や具体的な寄与分について話がまとまらないと、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることとなります。
ただし、調停や審判になったとしても、寄与分を主張する人に有利になるわけではなく、客観的な記録が必要なことや、他の相続人に対する思いやりが必要なことは変わりません。
遺産分割協議でどうしても納得がいかない場合には利用することができます。
新設された「特別の寄与の制度」とは
これまで遺産分割の際に寄与分を主張できるのは、被相続人の法定相続人に限定されていました。
しかし、被相続人の介護や看護を行う人は法定相続人だけとは限りません。
そのような実態に合わせて、「特別の寄与の制度」が新たに創設されました。
従来の寄与分では対応できないケースとは
被相続人とその長男夫婦が同居していた場合、被相続人の介護や看護を一緒に住んでいる長男の妻が行っている場合があります。
もし遺言書に記載があれば、長男の妻も遺産を相続することができますが、遺産分割協議の場では、長男の妻は1円も遺産を受け取ることができません。
従来の寄与分を主張できるのは法定相続人だけですから、長男の妻は寄与分を主張することもできません。
そのため、介護や看護を行ってきた人の苦労に報いることができなかったのです。
長男の妻の代わりに長男が寄与分を主張することで、長男の妻に少しでも遺産を渡せるように対応するケースもありますが、他の相続人の同意がなければ成立しません。
より確実に長男の妻が遺産を相続できるような制度の創設が求められていたのです。
特別の寄与の制度の内容
2019年7月1日以降に発生した相続について、特別の寄与の制度が創設されました。
これによって、法定相続人でない人でも被相続人のために力を尽くしてきた人が遺産を受け取ることができるようになりました。
相続人以外の人が特別の寄与を請求する際の金銭のことを特別寄与料といいます。
特別寄与料を請求するには、
- ①被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと
- ②被相続人の財産が維持され、または増加したこと
- ③被相続人の親族であること
の3つの要件を満たさなければなりません。
従来の寄与分では、被相続人の事業に対する労務提供なども対象とされていましたが、特別の寄与の制度では療養看護のみが対象となっていること、そして誰でも認められるわけではなく、特別寄与料を請求できるのは親族に限定されています。
特別寄与料を請求する方法
特別の寄与の制度により法定相続人以外の人が特別寄与料を請求する場合、3つの要件以外に以下の点にも注意をしなければなりません。
①相続や遺産分割は相続人だけで行う
特別寄与料を請求することができる人も、相続人となって遺産分割協議に加わるわけではありません。
特別の寄与の制度を利用する人は、あくまでも特別寄与料を請求することのみ、遺産分割にかかわることとなります。
②特別寄与料を請求する人は相続人に対して金銭を請求する
特別寄与料として相続人に請求できるのは、金銭のみです。
不動産や有価証券など他の財産までその対象にすると、一度成立した遺産分割協議を再度やり直さなければならないケースも考えられるため、金銭のみとされています。
特別寄与料を請求する人は、相続人に直接申し出ることとなります。
相続人に請求すると寄与をした人と相続人が協議を行いますが、具体的な金額の算定方法に決まりはないため、話し合いがまとまらないこともあります。
この場合、特別寄与料を請求する人は家庭裁判所に審判を申し立てることができます。
審判請求には期限があり、相続開始を知ってから6ヶ月以内、あるいは被相続人の死亡から1年以内に行う必要があります。
まとめ
これまで認められていた寄与分の制度に加えて、新たに特別の寄与の制度が創設されたことにより、被相続人の介護や看護を行った人の苦労が報われることとなりました。
ただ、これらの主張をするためには客観的な証拠が重要となりますし、その金額をめぐって他の相続人と争いになるケースも少なくありません。
最もスムーズに遺産分割に介護や看護を反映させる方法は、被相続人となる人が生前に遺言書を作成し、その中に寄与分や特別寄与料に相当する金額を含めてもらうことです。
トラブルを防ぐためには、被相続人となる人が元気なうちに配慮を求める必要があります。