この記事でわかること
- 被相続人名義の口座が凍結される理由を理解できる
- いつ口座が凍結されるのかを知ることができる
- 口座凍結の解除手続が自分でできるようになる
- 遺産分割前に凍結口座からお金を引き出す方法を知ることができる
目次
亡くなった人の口座が凍結される理由とタイミング
口座名義人が亡くなったことを銀行が知ると、銀行はすぐにその人名義の銀行口座を凍結します。
相続人には被相続人の預貯金を引き出す法的な権利があるはずなのに、必要な手続をとらない限り、銀行は引き出しに応じてくれません。
このような銀行の対応は不合理だと感じる方も多いと思いますが、銀行が口座を凍結することには重要な理由があります。
口座凍結によって相続トラブルを未然に防止できる
被相続人が亡くなると、その人の預貯金は相続財産になるため、遺産分割が終わるまでは相続人全員の共有財産です。
相続人のうちの1人が他の相続人に無断で被相続人名義の預貯金を引き出すと、あとで他の相続人とトラブルになる可能性があります。
銀行も他の相続人の同意を得ないで預貯金の引き出しに応じたことに対して抗議を受け、責任を追及される恐れがあります。
銀行が亡くなった方の口座を凍結するのは、このような相続トラブルに巻き込まれることを避けるためですが、口座凍結は結果として相続人にとっても相続トラブルを未然に防止できるメリットがあります。
少なくとも、相続人のなかの誰かが無断で預貯金を引き出して着服するようなトラブルは避けられます。
口座凍結のタイミングはさまざま
被相続人が亡くなっても、必ずしもすぐに銀行の口座が凍結されるとは限りません。
死亡届を提出してからでも、ATMでキャッシュカードを利用して預貯金を引き出せるケースもよくあります。
このようなことが起こるのは、銀行が口座名義人が亡くなったことを把握するタイミングがさまざまだからです。
死亡届を出しても、役所から銀行に通知されることはないため、口座名義人が亡くなった後も長期間にわたって口座が凍結されないケースもあります。
ただし、銀行はトラブル防止のために情報収集に努めており、口座名義人が亡くなったことを知ればすぐに口座を凍結します。
新聞のおくやみ欄などに被相続人の氏名が掲載されれば、口座は凍結されると考えた方がいいでしょう。
相続人から口座凍結を申請することもできる
口座凍結は、相続人から申請することもできます。
早急にお金を引き出す必要がなければ、自分から銀行に申請して被相続人名義の口座を凍結してもらうことで相続トラブルを未然に防ぐことができます。
口座凍結の申請は、口座がある銀行の最寄りの支店ですることができ、申請方法は窓口で教えてもらえます。
同じ銀行の複数の支店に口座があっても、1回の手続きでその銀行の被相続人名義の口座すべてが凍結されます。
ただし、別の金融機関にも口座がある場合は、その金融機関にも口座凍結の申請をする必要があります。
口座凍結の解除方法5つのパターンと必要書類
いったん口座が凍結されると、相続手続が終わるまで凍結が解除されることはありません。
解除とはいっても、その口座を再び使えるわけではなく、名義変更をするか払い戻しをするかのどちらかになるのでご注意ください。
相続手続が終われば、銀行に口座凍結の解除を申請することができますが、その際にさまざまな書類が必要になります。
銀行としては、お金を渡す相手を間違えると大変な責任問題が発生するので、書類の確認を厳格に行う必要があるのです。
必要書類は、相続手続の種類に応じて以下の5つのパターンに分かれます。
ただし、銀行によって必要書類が異なる場合もあるので、実際に口座凍結の解除を申請するときは口座がある銀行に確認しましょう。
遺言どおりに相続する場合で遺言執行者が選任されている場合
遺言書で誰がその口座の預貯金を相続するかが指定されていて、その遺言のとおりに相続する場合、遺言執行者が選任されているかどうかで必要な書類は異なります。
遺言執行者とは、遺言に従ってその内容を実現する手続を行うために家庭裁判所で選任された人のことです。
相続人が遺言執行者になることもできますが、弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に選任することもできます。
遺言執行者が選任されている場合は、遺言執行者が口座凍結の解除の手続きを行うことになります。
その際に必要な書類は、以下のとおりです。
遺言どおりに相続し遺言執行者が選任されている場合に必要な書類
- ・凍結解除申請書(銀行によって名称は異なる)
- ・該当する口座の通帳・証書・キャッシュカードなど
- ・被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
- ・遺言書
- ・遺言書の検認済証明書(自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合)
- ・遺言執行者選任審判書謄本
- ・遺言執行者の実印
- ・遺言執行者の印鑑登録証明書
- ・預貯金を相続する人の銀行への印鑑届(名義変更の場合のみ)
遺言書について、公正証書遺言の場合は「遺言公正証書謄本」を提出します。
遺言どおりに相続する場合で遺言執行者が選任されていない場合
遺言書がある場合でも、必ずしも遺言執行者を選任しなければならないわけではありません。
遺言どおりに相続する場合で遺言執行者が選任されていないときは、遺言で指定された預貯金を相続する人が口座凍結の解除の手続をします。
その際の必要書類は以下のとおりです。
遺言どおりに相続し遺言執行者が選任されていない場合の必要書類
- ・凍結解除申請書(銀行によって名称は異なる)
- ・該当する口座の通帳・証書・キャッシュカードなど
- ・被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
- ・遺言書
- ・遺言書の検認済証明書(自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合)
- ・預貯金を相続する人の実印
- ・預貯金を相続する人の印鑑登録証明書
- ・預貯金を相続する人の銀行への印鑑届(名義変更の場合のみ)
遺言書について、公正証書遺言の場合は「遺言公正証書謄本」を提出します。
また、預貯金を相続する人のなかに未成年者がいる場合は、その法定代理人(親権者など)の実印と印鑑登録証明書が必要です。
遺産分割協議書を作成した場合
遺言書がない場合は、遺産分割協議をして誰が預貯金を相続するかを決める必要があります。
遺言書がある場合も、遺産分割協議によって相続人全員が合意すれば、遺言の内容とは異なる形で相続することができます。
いずれにせよ、遺産分割協議で預貯金を相続する人が決まった場合はその人が口座凍結の解除の手続をすることになります。
遺産分割協議書を作成した場合の口座凍結の解除の手続に必要な書類は、以下のとおりです。
遺産分割協議書を作成した場合の必要書類
- ・凍結解除申請書(銀行によって名称は異なる)
- ・該当する口座の通帳・証書・キャッシュカードなど
- ・被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
- ・相続人全員の戸籍抄本または戸籍謄本
※被相続人とその相続人との関係が分かるものが必要。
被相続人の戸籍謄本で関係が分かる場合は不要。 - ・相続人全員の印鑑登録証明書
- ・預貯金を相続する人の実印
- ・遺産分割協議書(相続人全員の署名捺印が必要)
- ・預貯金を相続する人の銀行への印鑑届(名義変更の場合のみ)
相続人のなかに未成年者がいる場合は、その法定代理人(親権者など)の印鑑登録証明書が必要となります。
また、相続放棄をした人がいる場合は、相続放棄申述受理証明書が必要です。
この場合、相続放棄をした人の印鑑登録証明書は不要です。
遺産分割協議がまとまったが遺産分割協議書を作成していない場合
遺産分割協議をしたものの、遺産分割協議書を作成していないケースも多いでしょう。
必ずしも遺産分割協議書を作成しなければならないわけではなく、作成しなくても遺産分割が無効となることはありません。
遺言書がなく法定相続分どおりに相続する場合は、遺産分割協議の必要がないため、遺産協議書を作成しないことも多いです。
遺産分割協議書がなくても口座凍結の解除の手続ができる銀行は多いですが、遺産分割協議書が必要な銀行もあるので、実際に手続きするときは口座がある銀行に確認しましょう。
遺産分割協議書がない場合の口座凍結の解除の手続に必要な書類は、以下のとおりです。
遺産分割協議書がない場合の必要書類
- ・凍結解除申請書(銀行によって名称は異なる)
- ・該当する口座の通帳・証書・キャッシュカードなど
- ・被相続人が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本の全て
※除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む。 - ・相続人全員の戸籍抄本または戸籍謄本
※被相続人とその相続人との関係が分かるものが必要。
被相続人の戸籍謄本で関係が分かる場合は不要。 - ・相続人全員の印鑑登録証明書
- ・預貯金を相続する人の実印
- ・預貯金を相続する人の銀行への印鑑届(名義変更の場合のみ)
相続人のなかに未成年者がいる場合は、その法定代理人(親権者など)の印鑑登録証明書が必要となります。
また、相続放棄をした人がいる場合は、相続放棄申述受理証明書が必要です。
この場合、相続放棄をした人の印鑑登録証明書は不要です。
調停または審判で遺産分割をした場合
遺産分割協議がまとまらなかった場合は、家庭裁判所へ遺産分割調停または審判を申し立てて預貯金を相続する人を決めなければ、口座凍結の解除の手続をすることはできません。
遺産分割調停や審判を経て口座凍結の解除の手続をする場合に必要な書類は、以下のとおりです。
遺産分割調停や審判を経た場合の必要書類
- ・凍結解除申請書(銀行によって名称は異なる)
- ・該当する口座の通帳・証書・キャッシュカードなど
- ・調停調書謄本または審判書謄本
- ・審判確定証明書(審判の場合)
- ・預貯金を相続する人の実印
- ・預貯金を相続する人の印鑑登録証明書
- ・預貯金を相続する人の銀行への印鑑届(名義変更の場合のみ)
預貯金を相続する人が未成年者の場合は、その法定代理人(親権者など)の実印と印鑑登録証明書が必要となります。
法定相続情報証明制度を利用するのがおすすめ
以上でご説明した5つのパターンのうち、調停または審判を経た場合を除く4つの場合ではたくさんの戸籍謄本が必要です。
必要な戸籍謄本を全て集めるためにはかなりの手間と時間がかかりますし、手数料も必要です。
戸籍謄本が必要となる相続手続は口座凍結の解除だけでなく、不動産の相続登記や保険、自動車の名義変更その他たくさんあります。
口座凍結の解除だけでも複数の銀行で手続が必要な場合も多いでしょう。
どの手続でも基本的に戸籍謄本の原本を提出する必要があります。
原本は確認後に返却されますが、その間、他の手続はできません。
そこで、法定相続情報証明制度を利用するのがおすすめです。
この制度は、戸籍謄本を一通り集めて相続関係図を作成し、法務局の認証を受ければ個別の手続で戸籍謄本の全てを提出する必要がなくなる制度です。
法務局で認証されると「法定相続情報の一覧図」という書類が交付され、以降はこの書類を戸籍謄本の束の代用として使うことができます。
現在のところ、全ての銀行でこの制度に対応しているわけではありませんが、利用できる場合は使用するのがおすすめです。
ゆうちょ銀行の口座が凍結された場合の手続き方法
凍結されたのがゆうちょ銀行の口座の場合は、他の銀行の口座凍結の場合よりも少し解除手続の手間が増えるので、注意が必要です。
相続財産のなかにゆうちょ銀行の口座が含まれているケースは非常に多く、特に高齢の方ほどゆうちょ銀行の口座を持っている可能性が高いです。
そのため、相続財産のなかにゆうちょ銀行の口座が見当たらない場合でも、窓口に「貯金等照会書」を提出して、被相続人名義の口座の有無を確認しておくとよいでしょう。
それでは、被相続人名義のゆうちょ銀行の口座が凍結された場合の解除手続をみていきましょう。
相続手続を申し出る
まず、ゆうちょ銀行の窓口に用意してある「相続確認表」に必要事項を記入して提出し、相続手続を申し出ます。
提出先は、どこの支店でも構いませんが、以降の手続きで何度か同じ支店に出向く必要があるので、最寄りの支店など行きやすい支店に提出しましょう。
相続確認表は、ゆうちょ銀行のホームページからダウンロードして使用することもできます。
参考:ゆうちょ銀行「相続手続きの流れ」
なお、以上のステップはWeb案内サービスを利用してオンラインで行うこともできます。
参考:ゆうちょ銀行「相続Web案内サービスのご案内」
必要書類を準備し、提出する
相続確認表を提出すると、1~2週間後に必要書類を案内する文書が郵送で届きますので、その案内のとおりに必要書類を準備します。
必要書類の提出先は、相続確認表を提出したゆうちょ銀行の支店窓口です。
必要書類は先ほどご説明した他の銀行の場合とほぼ同じですが、ケースによって異なることもあります。
ゆうちょ銀行の場合は、このように必要書類を確認するステップを要求されるのが特徴的です。
そのため、あらかじめ必要書類を確認するために問い合わせておく必要はありません。
Web案内サービスを利用した場合は、Web上に必要書類が表示されるため手続きを早く進めることができます。
払戻金を受け取る
提出した必要書類に不備がなければ、被相続人名義の貯金が払い戻されます。
書類に不備がある場合は、指示に従って書類を追加提出する必要があります。
払い戻し方法は、相続人代表者のゆうちょ銀行の口座への送金または現金での払い戻しに限られます。
一般的な銀行では他行への送金も可能な場合が多いですが、ゆうちょ銀行の場合はゆうちょ銀行の口座への送金しか認められないので注意が必要です。
相続人代表者がゆうちょ銀行の口座を持っていない場合は、新たに口座を開設することができます。
必要書類を提出してから払戻金を受け取るまでの期間は、通常で1~2週間程度です。
書類に不備があったり、書類の収集に手間取ると長期間かかってしまうこともありますので、スケジュールには余裕を持ちつつ効率よく必要書類を準備しましょう。
相続手続は専門家に依頼できる
ゆうちょ銀行の場合に限りませんが、口座凍結の解除手続は弁護士などの専門家に依頼することができます。
戸籍謄本などの必要書類を集めるのは大変ですが、専門家に依頼すれば全て代行してもらえます。
自分で手続をする自信がない場合や、忙しくて手続の時間がとれない場合は、一度、弁護士に相談してみるといいでしょう。
2019年の相続法改正で遺産分割前でも単独引き出し可能に
以上にご説明してきた被相続人名義の口座の凍結を解除する手続きは、いずれも遺産分割を完了することが前提となっています。
しかし、葬儀費や被相続人が利用していた病院や介護施設などの費用の支払いのために、被相続人名義の預貯金を一部引き出す必要がある場合が多いのも事実です。
そこで、2019年の相続法改正によって遺産分割前でも被相続人名義の預貯金を引き出すことが可能になりました。
2019年7月1日から、被相続人のなかの1人が単独で預貯金の一部を引き出すことができる仮払い制度が実施されています。
仮払い制度の内容
仮払制度は、遺産分割前でも一定の金額までは単独で預貯金を引き出すことができる制度です。
引き出し可能な金額は、次の計算式で求めます。
引き出し可能な金額
被相続人の預貯金額 × 1/3 × 引き出す相続人の法定相続分 = 引き出し可能額
事例
例として、相続人が長男・長女・次男の3人の場合で、被相続人名義の預貯金が900万円ある口座について、長男が単独で引き出すことができる金額は以下のようになります。
900万円×1/3×1/3=100万円
同一の銀行に複数の口座がある場合は、口座ごとにこの計算式で求めた金額まで引き出すことができます。
ただし、ひとつの金融機関あたり150万円までが上限となっているのでご注意ください。
仮払い制度によって引き出した預貯金は、相続人全員で遺産の一部分割をしたものとみなされます(民法第909条の2)。
仮払いを受けるために必要な書類
預貯金の仮払いを受けるためには、口座凍結の解除手続きほどではありませんが、多くの書類が必要です。
必要書類は金融機関によって異なることもありますが、おおむね次の書類は必要になります。
預貯金の仮払いを受けるために必要な書類
- ・被相続人が生まれてから死亡するまでの連続した全ての戸籍謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- ・仮払いを受ける人の印鑑証明書
以上の他に、運転免許証やパスポートなどの本人確認書類も必要です。
実際に仮払いを申請するときは、手続をする金融機関で必要な書類を確認しましょう。
上限額を超えて引き出すためには家庭裁判所の関与が必要
仮払い制度の上限額を超えて被相続人名義の預貯金を引き出したい場合は、家庭裁判所に申し立てることによって引き出すことができる仮取得の制度もあります。
家庭裁判所が関与する仮取得の制度は従来からありましたが、要件が厳しいためにほとんど利用されていませんでした。
要件とは以下の2つで、両方とも満たすことが必要でした。
- ・急迫な危険を防止するために必要であること
- ・遺産分割の調停または審判を申し立てていること
2019年の相続法改正により「急迫な危険を防止するために必要であること」という要件は撤廃されました。
現在は他の相続人の利益を害しない限度において仮取得が認められるようになっています。
ただ、「遺産分割の調停または審判を申し立てていること」という要件は現在も残っているため、なおハードルは高いといえるでしょう。
相続放棄をした場合は故人の預金を解約していい?
相続が開始されると、相続人の意思に関わらずすべての相続財産を受け継ぐことになりますが、相続したくない場合は、相続放棄をすることもできます。
相続放棄をする場合、故人の預金を解約してもいいのでしょうか?
相続放棄をするためには家庭裁判所での手続きが必要ですが、故人のお金を引き出してしまうと、相続したものとみなされて相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。
そのため、故人の預金を解約するのは避けておく方が賢明です。
もしすでに引き出してしまっている場合は、使用せずにそのまま保管しておき、その他のお金と混同しないようにしっかり管理しておきましょう。
まとめ
被相続人名義の口座を凍結されても、この記事でご紹介した方法によって凍結を解除したり、仮払いや仮取得の制度で預貯金を引き出すことは可能です。
しかし、どの方法を利用するにも数多くの必要書類を集めなければなりません。
書類の収集には手間がかかるため、悩んでいる間に長期間が経過してしまうこともあるでしょう。
したがって、手間をかける時間がないにもかかわらず口座凍結で困ったときは、早めに弁護士に相談してみることをおすすめします。