この記事でわかること
- 基礎控除額1,000万円を超えた場合にかかる相続税がわかる
- 具体例から相続税の計算方法を理解できる
- 相続の際に使える6つの特例や控除がわかる
- 基礎控除額1,000万円を超えた場合の相続税と1,000万円の贈与ではどちらが得なのかわかる
目次
基礎控除額1000万円を超えた場合の相続税はいくら?
相続税には基礎控除があり「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。
相続人の最低人数は1人ですから、相続財産が3,600万円以下であれば相続税はかからず、申告も必要ないということです。
つまり、相続財産が1,000万円の場合は相続税がかかりません。
では、相続財産が4,600万円で、基礎控除を超えた部分が1,000万円ある場合はどうなるでしょうか?
基礎控除の超過部分を課税遺産総額といいますが、金額によって相続税率が変わるので「相続税の速算表」を使って計算します。
ではさっそく速算表から基礎控除額1,000万円を超えた場合の相続税を計算してみましょう。
基礎控除額1,000万円を超えた財産を1人で相続したときの相続税
まず大まかな相続税額を把握するために、1,000万円を1人で相続した場合の税額を計算してみます。
相続税の税率や控除額は、国税庁が公表している「相続税の速算表」を参照します。
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% - 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 1億円以下 30% 700万円 2億円以下 40% 1,700万円 3億円以下 45% 2,700万円 6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円 引用:相続税の速算表(国税庁)
1,000万円の相続財産は、速算表の「3,000万円以下」の部分に該当するので、相続税の計算は以下のようになります。
相続人が複数いる場合は、実際の相続割合を反映させますが、1人で1,000万円を相続した場合の相続税は100万円です。
配偶者控除を使って相続したときの相続税
被相続人の配偶者には「配偶者の税額軽減」という特例があり、ほとんどの相続では夫や妻に相続税はかかりません。
配偶者控除とも呼ばれる制度ですが、被相続人の配偶者は1億6,000万円または法定相続分のどちらか多い方の取得額まで相続税がゼロ円になります。
ちなみに配偶者の法定相続分は他の相続人との関係により、以下のように変わります。
配偶者の法定相続分
- 配偶者と子ども:配偶者1/2、子ども1/2
- 配偶者と被相続人の親:配偶者2/3、被相続人の親1/3
- 配偶者と被相続人の兄弟姉妹:配偶者3/4、被相続人の兄弟姉妹1/4
小規模宅地等の特例を使って相続したときの相続税
土地の相続税評価額を大幅に引き下げられるのが「小規模宅地等の特例」です。
自宅の敷地であれば330㎡までの面積が80%減額になるため、相続税評価額が1,000万円の土地であれば200万円まで減額できます。
評価額1,000万円の土地に小規模宅地等の特例を使い、先ほど解説した相続税の速算表に当てはめると相続税は以下のようになります。
1人で現金1,000万円を相続した場合は100万円の相続税でしたが、特例を使える土地であれば20万円まで相続税は下がります。
相続税の計算方法
前半では単純な相続税計算をしましたが、実際の相続では債務を控除し、各相続人の取得割合も反映させるため、計算方法が段階的になります。
主な流れは以下の5ステップになるので、例を挙げてわかりやすく解説します。
相続税の計算5ステップ
- Step1:遺産総額の計算
- Step2:正味の遺産総額の計算
- Step3:課税遺産総額の計算
- Step4:相続税の総額の計算
- Step5:各相続人の取得割合に応じた按分計算
では、それぞれの手順について詳しく見ていきましょう。
遺産総額の計算
相続税を計算する場合、まず以下の財産すべてを洗い出して遺産総額を計算します。
項目 | 内容 |
---|---|
相続財産 | 現金や預貯金・不動産・有価証券など |
みなし相続財産 | 死亡保険金など(500万円×法定相続人の数で計算する非課税枠あり) |
過去3年以内の贈与額 | 相続開始前3年以内に行われた贈与は相続財産に持ち戻す |
相続時精算課税制度の適用額 | 過去に相続時精算課税制度を使って贈与した場合は、相続財産に持ち戻す |
項目 | 内容 |
---|---|
債務 | 借金・未払金など |
非課税財産 | 仏壇・墓石・祭具など |
葬儀費用 | 葬儀一式の費用・戒名料など |
具体的な計算は次に解説しますが、遺産総額はプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた総額です。
なお、相続財産の中には相続税がかからないものがあり、仏壇・墓石などの宗教的な財産が該当します。
また死亡保険金・死亡退職金はみなし相続財産になりますが、「500万円×法定相続人の数」までは非課税になることを覚えておきましょう。
正味の遺産総額の計算
相続税はプラスの財産だけで計算するため、現金や預貯金などの財産からマイナス財産や非課税財産などを控除し「正味の遺産総額」を計算します。
では以下の例で計算してみましょう。
事例
- プラスの財産:1億2,000万円(現金・非課税枠を超えた死亡保険金など)
- マイナスの財産等:2,000万円(借金・葬儀費用・仏壇などの非課税財産)
プラスの財産からマイナスの財産などを差し引くと、正味の遺産総額は1億円になります。
関連記事
課税遺産総額の計算
正味の遺産総額が計算できたら、次に基礎控除を差し引きます。
今回の例では父親が1億円の遺産を残して死亡し、妻と2人の子(長男と長女)が相続人になると仮定します。
では正味の遺産総額から基礎控除を差し引き、課税遺産総額を計算してみます。
ここまでの計算で課税遺産総額5,200万円が算出できたので、次に相続税の総額を計算します。
相続税の総額の計算
各相続人の税額を計算する前に、相続税の総額を計算するためひとまず法定相続分どおりに課税遺産総額を分割します。
《課税遺産総額》
- 妻の相続割合:5,200万円×(1÷2)=2,600万円
- 長男の相続割合:5,200万円×(1÷4)=1,300万円
- 長女の相続割合:5,200万円×(1÷4)=1,300万円
次に相続税の速算表を使い、それぞれの税率や控除を適用させます。
《課税遺産総額》
- 妻の相続税:2,600×15%-50万円=340万円
- 長男の相続税:1,300万円×15%-50万円=145万円
- 長女の相続税:1,300万円×15%-50万円=145万円
各人の税額を合計すると、相続税の総額は630万円になりました。
各相続人の取得割合に応じた按分計算
最後のステップになりますが、相続税の総額に実際の相続割合を乗じて、各人の相続税を計算します。
今回の例では妻が1/2、長男が2/5、長女が1/10の割合で相続したとします。
- 妻の相続税:630万円×(1÷2)=315万円
- 長男の相続税:630万円×(2÷5)=252万円
- 長女の相続税:630万円×(1÷10)=63万円
上記が実際に納付する各人の相続税ですが、妻は配偶者控除が使えるため相続税はゼロ円になります。
相続税に使える控除・特例
すべての相続人に同じ基準で相続税を課してしまうと公平性が損なわれるため、相続の際にはいくつかの控除や特例が使えるようになっています。
相続人の年齢や健康状態などの条件によっては相続税が軽減されるので、次に解説する控除や特例に該当するかどうかチェックしてみてください。
配偶者の税額軽減
前半でも少し触れていますが、被相続人の配偶者は、1億6,000万円または法定相続分のどちらか多い方まで相続税が免除されます。
この制度を使う場合、配偶者には特に条件がなくほとんどの夫婦間相続は非課税になります。
ただし、配偶者が多額の財産を相続すると二次相続の相続税が高額になるので要注意です。
贈与税額控除
贈与税と相続税を二重に負担することがないよう、一定の贈与額を相続財産から控除できる制度です。
暦年贈与と相続時精算課税制度で計算方法は異なりますが、相続開始前3年以内の贈与にも適用できるようになっています。
未成年者控除
未成年の法定相続人に相続税がかかる場合、年齢に応じた金額を相続税から控除できます。
計算式は以下のとおりですが、1年未満の端数は1年として計算します。
15歳の未成年であれば、相続税は50万円安くなるということです。
障害者控除
相続税を障害者が負担する場合、障害のレベルに応じた控除が可能です。
相続したときの年齢から85歳になるまでの間、一般障害者は年間10万円、特別障害者は年間20万円の税額を控除できます。
控除しきれなかった部分(使い切れなかった控除部分)がある場合は、他の相続人の相続税控除に回すことも可能です。
相次相続控除
短期間に相続が続くと税負担が重くなるため、過去10年の間に相続税を納めていた場合は今回の相続税から過去の納税額の一部を控除できる制度です。
控除できる金額は、前回と今回の相続の期間が短いほど高額になります。
在外財産に対する相続税控除
海外にある財産を相続し、財産のある外国に相続税を納めた場合は一定金額を相続税から控除できます。
見落とされやすい相続税がかかる財産
相続税の対象財産で見落とされやすい遺産は、下記のとおりです。
テレビ・冷蔵庫などの家庭用財産 | すべて課税対象です。 原則として個別に算定されますが、1個の価格が5万円以下の物は一括評価されます。 |
---|---|
ネット証券などのデジタル遺産 | ネット銀行やネット証券の残高も課税対象です。 通帳がないため相続人が存在を見つけるのは困難なので注意しましょう。 |
死亡日前3年以内に贈与された財産 | 3年以内の生前贈与財産も課税対象です。 また、税制改正により2024から3年以内が7年以内に延長されます。 |
死亡保険金・死亡退職金・個人年金の受給権などのみなし相続財産 | 被相続人が保険料を負担していた死亡保険金や、死亡退職金なども課税対象となります。 |
相続時精算課税制度で贈与を受けた財産 | すべて課税対象です。 また、税制改正により2024年から従来の2500万円の特別控除とは別に年間110万円の基礎控除が創設されました。 |
1000万の財産は生前贈与と相続どちらがお得?
前半では1,000万円を1人で相続した場合の相続税を計算しました。
結果は100万円の相続税でしたが、生前贈与と比べてどちらが得になるでしょうか?
贈与には一般税率と特例税率があり、親や祖父母から20歳以上の子どもや孫への贈与には特例税率が適用されます。
それ以外の贈与(夫婦間贈与など)は一般税率を適用しますが、実際に計算して相続税と贈与税を比較してみます。
1,000万円の贈与に一般税率を適用したときの贈与税
兄弟姉妹への贈与や、夫婦間の贈与には以下の一般税率を適用します。
今回は基礎控除(年間110万円まで)を超えた部分が1,000万円あると仮定し、贈与税を計算してみます。
基礎控除の110万円を差し引いた課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
1,000万円は「1,500万円以下」の部分にあたるので、贈与税は以下のようになります。
相続税に比べるとかなり高い税額ですね。
では次に特例税率でも計算してみましょう。
参考:贈与税の税率(国税庁)
1,000万円の贈与に特例税率を適用したときの贈与税
直系尊属(親や祖父母)から直系卑属(子どもや孫)へ贈与する場合は、特例税率が適用されます。
先ほどの計算と同様に、基礎控除を超える部分が1,000万円あったとして計算してみます。
基礎控除の110万円を差し引いた課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
税率表に当てはめて計算すると贈与税は以下のようになります。
一般税率よりは安くなりましたが、相続税に比べると2倍以上の税額になっています。
では同じ1,000万円を譲り渡す場合、相続が一番得ということになるのでしょうか?
参考:贈与税の税率(国税庁)
相続と贈与の性質に注意
ここまでの結果をまとめると、1,000万円にかかる税額は以下のようになります。
1000万円にかかる相続税と贈与税
- 贈与税(一般税率):275万円
- 贈与税(特例税率):210万円
- 相続税:100万円
相続税が一番安くなっていますが、相続と贈与には決定的な違いがあるため単純比較はできません。
相続は1回限りですが、贈与は何度もできるので年間110万円までの基礎控除内で贈与すれば、時間はかかりますが贈与税はゼロ円です。
また相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円までは贈与税がかからず、2,500万円を超えた部分の税率は一律20%になります。
つまり、少額の贈与や数千万円~億単位の高額贈与をする場合は、相続税よりも節税効果が高くなるということです。
ケースバイケースでベストな節税対策は変わるため、相続に強い税理士に相談しながら贈与や相続を選択するとよいでしょう。
まとめ
相続税も贈与税も「税率の高い税金」として知られており、どちらも取得額に応じて税率が変わる累進課税方式です。
課税方式が似ていることから同じように思われがちですが、実はかなり性質の違う税金であり、単純比較で損得は決められません。
また生前贈与しておけば相続税は減少し、何もしなければ相続税が増えるという相関関係もあります。
さらに、財産の種類によっても相続税対策は変わってくるので、付け焼刃の知識で判断すると大増税という結果にもなりかねません。
生前贈与も含めて相続税対策を検討する場合は、必ず相続専門税理士へ相談してください。