

この記事でわかること
従業員の比較的軽度、または初回の問題行動に対する懲戒処分に「訓告」が検討されるケースが多くあります。
しかし、他の処分や厳重注意との違いが分かりづらく、どのような場面で訓告を適用するのが適切か判断に迷うケースも少なくありません。
会社が懲戒処分の手続きを誤ると、不当な処分とみなされ、後に行う処分の有効性にも影響が及ぶ恐れがあります。
訓告処分を検討する際は、基本的な考え方や手続きを正しく理解しておきましょう。
この記事では、訓告処分の概要と法的要件、具体的な手順と注意点を解説します。
目次
訓告(くんこく)とは、会社が従業員の問題行動に対して行う懲戒処分のひとつです。
ここでは、訓告の概要と他の処分との違いについて解説します。
訓告とは、従業員の比較的軽微な違反行為に対し、会社が口頭または書面で厳重注意を行う懲戒処分です。
減給や解雇など、経済的な制裁や雇用継続に影響を及ぼす処分ではなく、懲戒処分の中では最も軽い部類に位置づけられます。
しかし、訓告が軽い処分であっても、上司による日常的な注意や指導のような口頭注意とは異なります。
会社が正式に問題行動を指摘し、再発防止を求めて改善を促す厳重注意であり、人事記録にも影響するケースがほとんどです。
訓告とよく比較される懲戒処分に「戒告(かいこく)」と「譴責(けんせき)」があります。
呼称は異なりますが、いずれも訓告と同じく、厳重注意を目的とした軽度の懲戒処分です。
一般的には、訓告→戒告→譴責の順に処分の重さが増すとされています。
しかし、処分の重さや取り扱いは会社の規定により異なるため、注意が必要です。
訓告のみを定め、戒告や譴責を設けない場合や、複数の処分を設けて、始末書の提出の有無などで処分の重さを区別するケースがあります。
特に、譴責処分において始末書の提出を求めるケースが多く、訓告よりも厳重な反省や再発防止の意思が求められます。

訓告処分は、懲戒処分の中でも軽い処分です。
そのため、比較的軽微な違反行為や、初めての処分で行うケースが多く見られます。
訓告を行う典型例は、次の通りです。
問題行動の事実があった場合でも、実際に処分を行うか否かは、違反の内容や反省の有無などを総合的に考慮して決定します。
訓告処分が軽い処分であっても、懲戒処分である以上、法律の要件に従って正しい手続きで行わなければなりません。
訓告処分を適法に行うための基本要件は、次の通りです。
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
会社が懲戒処分などの制裁を行う場合は、就業規則に処分の種類と対象となる事由を定めなければなりません(労働基準法89条)。
処分の種類とは「訓告」などの具体的な懲戒処分の区分を指します。
懲戒事由とは、処分の対象となる具体的な行動の内容です。
たとえば「正当な理由なく無断で遅刻・早退・欠勤を繰り返し、再三の注意にも関わらず行動を改めない場合」などが該当します。
就業規則に懲戒に関する規定が存在しない場合、たとえ従業員に問題行動があっても、懲戒処分を行えば違法です。
懲戒処分を適正に運用するためには、問題行動が起こる前から就業規則の内容を整備しましょう。
懲戒処分を検討する際は、問題となった行為が就業規則上に定められた懲戒事由に該当しているかを必ず確認します。
就業規則などに事由が明記されていない問題行動に対し、処分は行えません。
このため、就業規則の懲戒事由は、想定される行為ができるだけ具体的かつ網羅的に列挙されている状態が望ましいです。
規定上の懲戒事由はある程度抽象的でも構いませんが、運用の際は実際の問題行動に照らし、処分の理由を説明できるようにしましょう。
労働契約法15条では、会社が従業員に対し懲戒を行うときは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければならないと規定しています。
手続きの不備や感情的な懲罰は、この基準を満たさないと判断され、懲戒権の濫用として処分が無効となる恐れがあります。
具体的には、上司の個人的な不満が理由の場合や、会社側に明らかな管理上の問題があるにも関わらず、従業員のみを処分する場合です。
訓告処分に限らず、会社が懲戒権を行使する際は、適切な手順で進めなければなりません。
訓告処分を行う場合の一般的な手順は、次の通りです。
ここでは、それぞれの手順について詳しく解説します。
処分を検討する際は、対象行為の事実を客観的な視点で確認しましょう。
十分な調査を経ずに処分した場合、後で従業員から異議申立てがあった際に、会社側の正当性を立証できない恐れがあります。
調査を行う際のポイントは、客観的な視点と適切な証拠保全です。
調査内容や聞き取り内容は、必ず日時や担当者を明記して文書化するなど、将来のトラブルに備えた対応が求められます。
ここでは、ケース別の証拠保全のポイントを紹介します。
遅刻や欠勤、早退などの勤怠不良では、タイムカードや出勤簿、勤怠管理システムの記録が主要な証拠です。
本人への事情聴取も行い、その行為に至った経緯や理由を確認して記録を残します。
ハラスメント事案では、被害者と加害者双方だけではなく、目撃者などの第三者への聞き取りも不可欠です。
一方の主張だけを根拠に判断しないように、聞き取りは慎重に行いましょう。
得られた証言を基に内容を書面に整理し、本人に確認して署名・押印をもらえば、証拠としての信頼性が高まります。
あわせて、録音・録画データ、メール、チャット、SNSメッセージなどのデジタル証拠も、適切な形で保管しましょう。
事実確認を終えたら、会社の就業規則で訓告処分が規定されていることを確認した上で、訓告処分を行います。
また、始末書の提出の有無など、手続き面の取り扱いも確認しましょう。
始末書の提出が規定されているにも関わらず、実際には提出されていない、提出の指示をしていなければ、処分手続きの不備として、無効になる恐れがあります。
懲戒処分を決定する前に、従業員に対して事実や処分案を提示し、弁明の機会を与えなければなりません。
弁明には、次の方法があります。
いずれの方法でも、後で弁明内容を確認できるように、証拠を残しておきましょう。
弁明内容や本人の反省の有無などを総合的に考慮し、最終的な処分を決定します。
従業員が事実を否認している場合は、調査で得た証拠を再確認し、事実認定に誤りがないかを確認しましょう。
必要に応じて、調査内容や会社の判断について、従業員に説明する場を設けます。
また、過去の類似事例との整合性や一貫性も重要です。
同じような行為に対する処分の重さが不均衡であると、懲戒処分の正当性が認められない可能性があります。
処分を決定した場合は、口頭だけではなく「処分通知書」などの書面で、正式に通知しましょう。
処分通知書には、以下の内容を記載します。
通知書は本人に交付する書面だけではなく、会社の控えも保管しましょう。
訓告処分を社内で公表するか否かは、原則会社の規定に基づいて判断します。
公表する場合は、内容や範囲について慎重な検討が求められます。
問題行動の再発防止や注意喚起として、社内ルールを再周知する方法なども有効です。

訓告処分のように軽い処分であっても、手続きを誤ると従業員とのトラブルや、後の処分に影響が生じる可能性があります。
「軽い処分だから」と軽視せず、実務上の注意点を押さえた上で、慎重な姿勢で対応しましょう。
訓告処分を行う際の注意点は、次の通りです。
ここでは、それぞれの注意点について詳しく解説します。
懲戒処分を行う際は、以下の基本的な原則を遵守しなければなりません。
同一の行為を理由に、複数回処分を行ってはいけません。
処分内容を決定する際は、すでに処分済みの行為を再度対象としていないかを慎重に確認しましょう。
二重処分を防ぐためにも、処分の根拠となる事実・日時・経緯の文書化が重要です。
問題行為が発生した時点で、就業規則などに該当する懲戒事由が存在しない場合、後から規定を整備しても、遡って適用できません。
そのため、リスク予防の観点で常に就業規則を点検し、懲戒事由や手続きの規定を最新の状態に保っておきましょう。
懲戒処分の内容が、客観的に合理的かつ社会通念上相当であるかも重要です。
訓告のような軽い処分でも、昇進や昇給に影響する場合、従業員にとっては重大な問題となり得ます。
過去の社内での処分歴や一般的な裁判例と比較し、処分の重さが極端ではないかを確認しましょう。
判断に迷う場合や、他の処分との均衡に不安がある場合は、弁護士に相談して適切な判断基準を確認しておくと安心です。
懲戒処分を行う前提として、十分な事実関係の調査は極めて重要です。
不十分な調査に基づく判断は、後に誤認や感情的判断を指摘されかねません。
調査の際は、証言や客観的資料(勤怠記録、メール、チャットログなど)を幅広く収集し、関係者全員へ聞き取りを行いましょう。
特にハラスメントや業務命令違反のように、感情的な要素を含む事案では、複数視点での事実確認が重要です。
調査結果は、調査メモや報告書として記録に残し「会社が適正な調査を尽くした」と証明できる状態を整えます。
調査の進め方に不安がある場合は、早い段階で弁護士に相談し、調査手順の妥当性を確認しましょう。
訓告が軽い処分であるという理由で、従業員が弁明する過程を軽視してはいけません。
弁明の機会を与えたかどうかは、懲戒手続きの適正性を判断するうえで、特に重視されるポイントです。
たとえば、勤怠不良事案など、問題行動が単純で明確な場合であっても、例外ではありません。
本人の言い分を聞いた記録を残せば「会社が公正な手続きを踏んだ」という証明になります。
従業員にとっても、処分に対する納得感が高まり、処分後の不満や争いを防ぐ効果が期待できます。
訓告のような軽い処分であっても、社内公表を行う場合は、従業員のプライバシーの問題が生じます。
公表する場合は、個人名の公表は避け、処分対象となった行為と処分の事実のみ記載し、必要最小限に留めるのが原則です。
また、処分の公表が不要な場合は、情報の共有は関係部署や上司、人事担当者などの必要最小限の範囲に留めます。
公表の範囲を誤ると、かえって会社側の責任が問われる恐れもあるため、注意が必要です。
判断に迷う場合は、弁護士に相談し、リスクを踏まえた対応を検討しましょう。
訓告は懲戒処分の中でも軽い処分ですが、手続きや判断を誤ると後のトラブルに発展しかねません。
そのためにも、従業員の問題行動が起きる前に弁護士に相談し、リスクに備えた規定や社内運用を整備・点検しましょう。
弁護士に相談をすれば、問題行動が改善されなかった場合の対応も見据えて、適切なアドバイスを得られます。
労務問題にお困りの場合は、VSG弁護士法人への相談がおすすめです。