この記事でわかること
経営の悪化や、技術導入による事業再編等の理由により、人件費を支払い続けることが困難となるケースがあります。
再生を図る過程で、整理解雇という手段を選ぶ会社もあるでしょう。
しかし、日本の労働関連の法律は、企業側が従業員を解雇することに対し厳格な規定を設けています。
解雇に関するトラブルでは、会社にとって不利益な状況となることが多いため、ポイントを押さえた対応が必要です。
この記事では、整理解雇について知りたい事業主や企業の担当者向けに、整理解雇に必要な要件や流れ、法律による制限や注意点を解説します。
会社が行う解雇には「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類があります。
この内のひとつである整理解雇とは、会社が余剰人員を整理するために行う解雇です。
整理解雇が行われる背景には、経営状態の悪化や、支店や部門の閉鎖、不採算部門の整理等が挙げられます。
普通解雇や懲戒解雇は、通常従業員が労働契約を守らない、あるいは違反した場合に行われる処分です。
しかし、整理解雇は従業員側に非がなく、会社の都合により行われます。
会社が解雇を自由にできてしまうと、従業員の生活が不安定になる恐れがあるため、解雇には企業側に厳しい法律上の制約があります。
労働契約法16条では、会社が解雇を行うためには「客観的で合理的、かつ、社会通念上相当であると認められる理由がなければならない」と規定しています。
このことを「解雇権濫用法理」といい、会社は解雇の種類に関わらず守らなければなりません。
たとえば普通解雇の場合において、無断欠勤を再三注意・指導しても行動を改善する気配がなく、繰り返す従業員の解雇は、客観的で合理的、かつ社会通念上相当の理由があると認められやすくなります。
一方、会社都合で行われる整理解雇は、解雇権濫用法理が普通解雇や懲戒解雇と比べて、より厳しく判断される点が特徴です。
整理解雇と混同される言葉に「リストラ」がありますが、両者が示す意味は異なります。
リストラとは「再構築」を意味する英語の「Restructuring(リストラクチャリング)」の略語です。
経営状態の悪化等から再生を図るため、社内の組織や事業の構造等を再構築する行為全般をいいます。
リストラの具体策には、経営資源の取捨選択、事業構造の再編成、不採算部門の縮小等があります。
つまり、整理解雇とは企業が行うリストラの手段のひとつです。
会社が整理解雇を行うとき、解雇の相当性についての判断は、普通解雇や懲戒解雇よりも厳しく判断されます。
整理解雇の有効性を判断する基準は、過去の裁判例から以下の4つの要件が確立されました。
ここでは、それぞれの要件について詳しく解説します。
人員削減を行う経営上の必要性とは「人員を削減しなければならない客観的な事実」が認められるか否かという点です。
多くは経営状態の悪化が該当しますが、必ずしも倒産に至るほど経営状態が悪化していることや、実際に赤字であることまでは求められていません。
余剰人員があり、将来的に赤字が見込まれる場合において、戦略的に人員削減を行うことも認められます。
しかし、人員削減を行わなければならない経営状態であることは、第三者から見てもわかりやすい事実や資料で示さなければなりません。
具体的には「どのくらい経営状態が悪化しているか」「人員削減はどの程度行う必要があるのか」を示す、経営指標や売上等のデータです。
整理解雇は、経営を立て直すための最後の手段であると考えられています。
そのため会社は、整理解雇を行う前に、解雇を回避するための十分な努力を尽くさなければなりません。
具体的には、次のようなものが挙げられます。
なお、どのような手段を選択するかは、事業の実態や雇用している従業員の様態等により異なります。
どのような手段を取ったかではなく「整理解雇を回避するため真摯に合理的な努力を尽くしたか」という点で、有効性が判断される傾向にあります。
整理解雇の対象となる従業員の選定は、合理的な基準に基づいて行う必要があります。
会社の代表者や役員等の、個人的な感情や好き嫌いで選ぶことは当然認められず、「誠実」「勤勉」という抽象的な基準でも、合理性は支持されません。
また、性別や国籍を基準とすることは、労働基準法で禁止されている差別に該当するため、同様に認められません。
人員選定の合理的な基準の具体例には、次のようなものが挙げられます。
具体的には、会社の不採算部門や新技術の導入等により余剰人員が生じている部署等を基準とすることです。
また、事業再編により仕事がなくなった部門において、専門業務のみに従事していた従業員も該当する可能性があります。
勤務成績や貢献度は、代表者や上司等の主観ではなく、顧客アンケートや売上成績等の客観的なデータに基づいて評価します。
年齢は、再就職の困難さや、生活に金銭的なゆとりがあるか否かを判断する基準となります。
一般的に、若年層は高年齢者と比べて再就職しやすいと考えることができます。
また、中高年齢層は比較的金銭的な余裕を持っているという理由で選定されることもありますが、再就職が困難であると考えられるため、安易に定めることは避けた方がよいでしょう。
扶養家族が多い、または、退職によって家庭経済に大きな打撃を与える者を選定することは、人員選定の合理性があると認められづらくなります。
また「夫のいる女性」という基準を設けることは、男女差別に該当するため、避けなければなりません。
整理解雇に関する手続きとは、従業員または労働組合に対して行う、整理解雇についての説明や協議をいい、整理解雇の有効性を判断する上で重視されています。
他の要件を満たしていたとしても、適切な解雇手続きを行わなかった場合は、解雇が無効となる可能性が高くなります。
具体的には、会社の経営状態について決算書等のデータを提示し、整理解雇の必要性や時期・規模・人員選定の基準等を説明することです。
説明や協議は、一度行えば足りるというわけではありません。
従業員や労働組合からの求めに応じて繰り返し行う等、会社側には粘り強い姿勢が求められます。
整理解雇は、事前の準備から退職までの手順を適切に行うことが重要です。
それぞれの場面でポイントを押さえなければ、解雇の相当性が認められない可能性が生じます。
後々従業員とのトラブルに至る原因でもあるため、必ず確認をしましょう。
整理解雇は、次の手順で行います。
ここでは、それぞれの段階におけるポイントを解説します。
整理解雇を行う前に、整理解雇以外の方法で人員削減を行います。
具体的には、派遣社員や契約社員の削減、希望退職者等の募集です。
これらの対策を行わずに、いきなり整理解雇に乗り出すと、解雇を回避するための努力が尽くされたとはいいづらくなります。
また、希望退職者により人員削減の目標を達したのにも関わらず、整理解雇を行うことや新たな人員を募集することは、整理解雇の必要性を否定する行為となります。
希望退職者を募る等の過程を経ても経営が安定せず、想定していた効果が得られない場合は、整理解雇の具体的な手続きを進めます。
まず、整理解雇について、次のような方針と基準を決定します。
売上や経営指標等の具体的な数値を元に、解雇する人数を決定します。
定年退職等、将来退職が見込まれる人員を考慮することも重要です。
整理解雇の4要件のひとつである「人員選定の合理性」に沿うように、対象者を選定する明確な基準を設けます。
また、整理解雇対象者から除外すべき従業員の基準についても決定しましょう。
たとえば、会社経営あるいは業務の遂行上必要な従業員等が挙げられます。
いつ解雇をするのか、日付を明確にします。
従業員や労働組合への協議や、解雇予告の時期を考慮して決定することが望ましいでしょう。
退職金は、会社の就業規則や退職金規程に則り、支払いをします。
しかし、整理解雇は会社都合で行われるため、通常支払うべき退職金よりも優遇することが望ましいでしょう。
従業員や労働組合への説明や協議について、どのような方法、内容、頻度で行うかをあらかじめ決めておきましょう。
会社は、整理解雇について従業員や労働組合への説明義務を尽くさなければならず、説明や協議は重視される過程です。
話し合いでは、整理解雇に至った背景や整理解雇の方針、解雇者を選定する基準等を丁寧に説明し、理解を得るための努力が求められます。
従業員が詳細の説明を求めている場合は、複数回、説明や協議を行いましょう。
従業員の求めに応じないことや、解雇予定日と近接した時期に説明する場合は、説明義務が果たされていないと判断され、整理解雇が無効となる可能性があります。
整理解雇対象者と協議を終えた後は、整理解雇を実施します。
解雇を実施するときは、解雇予告あるいは解雇予告手当の支払いが法律によって義務づけられています。
解雇予告とは、解雇する日の30日以上前に解雇を予告することで、30日前に解雇予告ができない場合は、30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
なお、解雇予告は書面ではなく、口頭による通知も有効です。
従業員を解雇した後は、通常の退職と同様の退職の手続きを行います。
具体的には、次のような手続きが挙げられます。
離職票の手続きは、会社の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用保険被保険者離職証明書」を提出することで行います。
整理解雇の場合は、離職証明書の離職理由は「会社都合退職」です。
会社都合退職とすることで、従業員は失業手当を自己都合退職の場合よりも早く受給することができます。
従業員を会社都合で退職させることに対して、罰則等の規定はありません。
しかし、雇用保険関係の助成金の受給や、特定技能外国人の雇用が一定期間制限されるデメリットが生じます。
整理解雇を行うときは、労働基準法によって解雇が制限されている従業員を対象としないことに注意しなければなりません。
解雇が制限される従業員とは、次に該当する者です。
また、解雇制限には例外があるため、併せて確認しましょう。
産前産後の休業期間中と、その後の30日間にある従業員を解雇することはできません。
なお、産前産後休業は法律で女性労働者に認められた権利であるため、休業の取得を拒むことはできません。
従業員が業務上の事故による怪我や病気が原因で療養している場合、療養のために休業している期間とその後30日間は、従業員を解雇することはできません。
しかし、業務上の事故が原因でない場合や、実際に休業していない場合は制限の対象から除外されます。
解雇が制限されている者でも、次の事由に該当する場合は、解雇制限の例外として解雇が認められます。
この例外に整理解雇は含まれないため、注意をしましょう。
大地震や台風等の災害により、事業所がなくなってしまった場合など、やむを得ない事情がある場合は、解雇制限対象者を解雇することができます。
この場合、労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
打切補償とは、業務災害による傷病が治療開始後3年経過しても治療が終わらず、従業員が休業している場合に、会社が補償を終了させるために支払う金銭です。
また、従業員の傷病の治療が3年経過し、労災保険から「傷病補償年金」を従業員が受給している場合も、打切保障を支払ったと見なされます。
打切補償が支払われた従業員は解雇制限の例外により、解雇することができます。
従業員を整理解雇するときは、トラブルが生じやすい点がいくつかあるため、注意して対応しなければなりません。
ここでは、整理解雇するときの注意点を解説します。
原則、解雇は30日前に予告しなければなりませんが、解雇予告を30日前までに行わなかった場合は、解雇予告手当を支払います。
解雇予告手当は、解雇予告で30日に足りていない分を日割りで支払うことが認められています。
たとえば、解雇日の20日前に解雇を予告した場合は、原則の解雇予告(30日前)から10日足りないことになるため、10日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
なお、解雇予告手当の額は、平均賃金に相当する額です。
平均賃金とは、直近3カ月に支払われた賃金の総額を、算定基礎となった月の総暦日数で割った額をさします。
残業代や通勤手当等は含みますが、賞与などの臨時で支払われた賃金は含まずに計算します。
会社の就業規則などで退職金についての規定がある場合は、規定に則った支払いが求められます。
整理解雇は会社都合であるため、退職金に優遇があることが望ましいですが、優遇が義務づけられているわけではありません。
優遇する場合は内容を明確にし、対象者にも説明を行いましょう。
有給休暇は、従業員が退職すると消滅します。
従業員から有給休暇の取得の申し出があることも考慮し、解雇の予告は解雇日の30日以上前に行うことが望ましいでしょう。
また、有給休暇の取得は、会社の計画的付与や時季指定等のケースを除き、原則従業員が指定する日に取得を認めなければなりません。
本人が希望しているのにも関わらず与えないことや、事業経営上必要がないのにも関わらず取得を認めないことはできないため、注意をしましょう。
解雇に関する通知や、従業員との協議の結果で得た同意については、トラブルを避けるためにも必ず書面で残すようにしましょう。
たとえば、解雇予告の支払いに関して「解雇予告日がいつであるか」は重要な情報です。
解雇予告は口頭での予告も認められるため、解雇予告日について後でトラブルとならないために「解雇予告通知書」を交付し、事後でも書面で確認できるように対応することが推奨されます。
解雇を行うことは企業にとってハードルが高く、その中でも整理解雇は他の解雇と異なり、会社都合で行うため、より厳格な要件が求められます。
整理解雇のポイントを押さえて対応をしなければ、後からトラブルになる可能性があり、会社側は不利な状況となりやすいため、注意しなければなりません。
訴訟等に発展し、不当解雇と認められてしまうと、解決金の支払い等でさらに会社経営にダメージを受ける可能性があります。
将来のトラブルやダメージを防止するためにも、押さえるべきポイントを確認した上で、手続きを行いましょう。