この記事でわかること
労働基準監督署への通報、いわゆる「タレコミ」は、企業にとって深刻な問題です。
本記事では、タレコミがあった場合の対処法や、そもそもタレコミを防ぐための対策について詳しく解説します。
具体的には、労働基準監督署の調査の種類や流れ、企業側の罰則などの基本的な知識を押さえた上で、法令遵守の徹底や労働条件の改善、労使間のコミュニケーション強化といった対策をご紹介します。
これらの情報を活用することで、従業員の権利を守りつつ、健全な労使関係を築きましょう。
労働基準監督署は、企業に対し調査を行います。
これは、労働者の権利を守り、安全な職場環境を確保するためです。
労働基準監督署の調査は、以下の4種類があります。
定期監督は、最も一般的な調査です。
労働基準監督署が任意に調査対象を選択し、定期的な調査を行います。
原則として予告なしで調査に来ますが、事前に調査日程の連絡が来る場合もあります。
申告監督は、労働者からの告発があった場合に行われる調査です。
労働者からの申告内容の事実確認が主な目的となります。
申告者の匿名性は厳守され、申告した従業員の氏名は企業側に明かされません。
また、申告による調査ということ自体を明かさない場合もあります。
近年、従業員側がインターネットなどを活用して、労働法についての正しい知識を得ることができることから、申告監督は増加しているといわれています。
災害時監督は、重大な労働災害が起きた企業に対し行われる調査です。
労働災害の原因を究明し、再発を防止することが目的となります。
一定規模以上の事故や怪我が発生した際に行われ、安全管理体制の見直しや改善策の提案など行われます。
再監督は、労働基準監督署から是正勧告を受けた企業に対して行われる調査です。
指摘された違反項目が適切に改善されたかを確認することが目的となります。
また、指定された期日までに是正報告書が提出されない場合にも行われます。
従業員から労働基準監督署へタレコミがあった場合、どのような流れで調査が進むのでしょうか。
具体的に見ていきましょう。
労働基準監督署は、電話、メール、または直接の来署によりタレコミを受け付けています。
この際、通報者の匿名性は保護されています。
労働基準監督署にタレコミがあり、違法性が疑われる場合は、確認のため会社の代表者が呼び出されることがあります。
この呼び出しは、「出頭要求通知書」の送付により行われる、正式な呼び出し調査となります。
その際には、就業規則や労働時間の確認書類などを用意するように指示され、提出された書類と代表者への聞き取り調査をもとに、事実確認が行われます。
タレコミの内容から調査の必要性があると判断された場合、立ち入り調査が行われます。
これは主に、法令違反の可能性が高い場合や、労働者の権利が著しく侵害されている疑いがある場合などです。
立ち入り調査の際、事前に調査に入る旨の連絡がある場合があります。
多くの場合、事前に準備すべき確認書類を指定されます。
具体的には、以下のようなものです。
法令違反の隠蔽や偽装を防ぐため、事前連絡なしで突然訪問をする抜き打ち調査を行うことがあります。
突然の訪問でも焦ることなく対応ができるよう、日頃から法定帳簿を適切に整理しておきましょう。
抜き打ち調査の場合でも、原則として会社は調査を拒否することはできません。
ただし、担当者不在などの理由で対応が困難な場合は、調査官に事情を説明することで、日程の変更に応じてもらえる可能性もあります。
労働基準監督署による調査の結果、法令違反や改善が必要な項目が確認された場合、企業に対して是正勧告が行われます。
この是正勧告は、具体的には是正勧告書の交付という形で行われます。
是正勧告書には、違反事項、指導内容、是正までの期限などが記載されています。
企業は、指定された期限までに違法状態を改善し、是正報告書を労働基準監督署に提出する必要があります。
労働基準監督官は警察官と同様の権限をもつ「司法警察官」としての役割も担っています。
この権限に基づき、重大または悪質な法令違反に対しては、厳しい措置が取られる可能性があります。
具体的には、度重なる指導にもかかわらず法令違反の是正が行われない場合や、違反の内容が労働者の権利を著しく侵害していると判断される場合です。
この場合、監督官は刑事事件として取り調べなどの任意捜査を行うことがあります。
さらに、状況に応じて、捜査・差押え、逮捕などの強制捜査が実施され、検察庁へ送検されることもあります。
労働基準法違反に対する企業の罰則は、違反の内容や程度によって様々です。
主な罰則と違反例を以下にまとめます。
労働基準法違反としてよく見られる事例には、以下のようなものがあります。
以下のような行為には、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
以下のような行為には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
労働基準監督署の調査を妨害した場合などにも、罰則が定められています。
以下のような行為に対して、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。
労働基準監督署への通報制度は、労働者の権利を守るための重要な手段です。
しかし、これは最後の手段とも言えます。
働く従業員が労働基準監督署へ通報せざるを得ない状況に追い込まれる前に、会社としてできることをまとめます。
まず、労働基準法などの関連法規についての理解を深めましょう。
労働基準法には、会社に義務とされている措置がいくつもあります。
具体的には以下の通りです。
これらを守ることで、労働者の権利を守り、健全な労使関係を築くことができます。
次に、労働条件の改善に取り組むことが大切です。
適正な労働時間管理をして、残業を削減しましょう。
労働基準法では1日8時間、週40時間を超える労働をさせる場合には、36協定の締結・届出が義務付けられています。
さらに、働き方改革関連法により、36協定を締結している場合の残業時間にも上限規制が設けられました。
具体的には、原則として月45時間、年360時間を上限とし、特別な事情がある場合でも年720時間を超えないようにする必要があります。
また、月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)といった制限も設けられています。
これらの時間数をしっかりと把握した上で、違法な残業をさせないようにしましょう。
また、36協定の内容を従業員に周知し、理解を促すことも重要です。
適切な労働時間管理をしないことにより、記録された労働時間よりも実際は長く働いているという「サービス残業」が問題となっています。
これは労働基準法違反であり、従業員の健康被害や労使トラブルの原因となる可能性があります。
たとえば、以下のような事例が多く見受けられます。
サービス残業を防止するためには、適正な労働時間管理を行うことが必要です。
厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」にて、以下のような方法により、労働時間管理をすることを求めています。
労使間のコミュニケーションを取る機会を作ることも、重要な対策の一つです。
定期的に上司との面談や意見交換の場を設ける、あるいは匿名の意見箱を設置するなど、従業員が意見を言いやすい環境を整えましょう。
内部通報制度を整えることも効果的です。
会社内部に生じた不正や問題を早期に発見し、解決するための重要なしくみです。
従業員が、労働基準監督署へ通報をする前に、会社内で解決することができる機会を設けることができます。
内部通報窓口を設ける場合は、匿名での通報を容認するなどして、従業員のプライバシーに配慮することが大切です。
また、通報方法も、電話、メールなどの複数の手段を用意することが望まれます。
労務管理は、複雑で専門的な知識が必要な分野です。
社会保険労務士などの専門家と連携し、定期的にアドバイスを受けましょう。
定期的な労務診断などを実施することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
トラブルは、表面化してからの対処では遅い場合が多いです。
予防的なアプローチを取ることで、大きな問題に発展する前に適切な対策を講じましょう。
労働基準監督署へのタレコミは、企業にとって深刻な問題に発展する可能性があります。
しかし、適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に減らすことができます。
まずは、労働関連法規を正しく理解し、確実に遵守しましょう。
今回お伝えしたような取り組みを通じて、従業員が安心して働ける職場環境を築くことができ、結果として労働基準監督署へのタレコミを防ぐことにつながります。