この記事でわかること
労働審判は、会社と労働者個人の間で起こった労働問題を迅速に解決するための法的手段のひとつです。
短期間での解決が見込める点がメリットですが、準備には専門性の高い知識が求められるため、弁護士への依頼した方がよいか悩むところでしょう。
特に弁護士費用には高額なイメージがあるからこそ、重要な検討事項です。
今回は、労働審判にかかる弁護士費用の内訳や相場、弁護士に相談するメリットや選び方等を解説します。
目次
大前提として、弁護士費用は法律による基準や上限等は設定されていないため、費用は弁護士が依頼人と相談の上、自由に決めることができます。
つまり、依頼する弁護士によって、料金形態や費用は異なるということを理解しておきましょう。
一般的には、難易度が高いと判断された場合は、弁護士費用が高額になる傾向にあります。
「難易度が高い」というのは、具体的に「双方の主張の食い違いが大きく、争いがある」「申立てに係る請求額が高額である」等の場合です。
労働審判にかかる弁護士費用には、次のものがあります。
すべてを合わせると、1事案当たりの費用は約50万円~100万円となる例が多くみられます。
ただし、具体的には弁護士事務所ごとに異なります。
なお、労働審判において、会社側は、従業員から申立てを受けて相手方となるケースがほとんどであるため、今回は申立てにかかる費用は含んでおりません。
ここでは、それぞれの報酬の概要や費用相場についてさらに詳しく紹介します。
相談料とは、法律相談に対して支払う費用です。
通常は30分や1時間を単位として、時間制で料金が設定されます。
労働審判のスタートは、申立てを受ける相手方の立場にとっては、裁判所から呼出状を受け取った時点です。
多くの会社は呼出状を受けた時点で、労働審判の内容や答弁書の書き方等を弁護士に相談するため、相談料は最初に発生する費用となります。
弁護士に相談をすれば、代理人を依頼するかどうかも含め、効果的な書類作成方法や解決の方向性や進め方を相談することが可能です。
相談料の相場は30分~1時間で5,000円~1万円程の例が多くみられます。
初回の相談を無料とする事務所もあります。
着手金とは、依頼が成立して弁護士が手続きに着手したときに支払う費用で、約30~50万円前とする例が多くみられますが、弁護士事務所ごとに異なります。
依頼した案件の成功、不成功に関わらず支払うものであり、仮に労働審判でよい結果が得られなかった場合や、途中で弁護士を解任した場合でも返金されません。
着手金は、依頼事案の難易度が最も反映されやすい費用です。
たとえば、申立内容が複数あって反論しなくてはならない要点が多い、申立てに係る請求額が大きい場合は、着手金が高額に設定される可能性があります。
なお、着手金を完全無料とする弁護士事務所もあります。
着手金が無料の場合は、報酬金や日当、タイムチャージの単価が高く設定されることがあるため、着手金以外の費用を必ず確認しておくべきでしょう。
報酬金とは、労働審判で得られた結果に応じて支払う費用です。
弁護士事務所によっては「成功報酬」と表記することもあります。
成功金額に応じて約15%~20%前後とする例が多くみられますが、弁護士事務所ごとに異なります。
また、労働審判における会社側の立場や弁護士事務所ごとの判断により、報酬金のベースとなる金額を何とするかが異なる場合もあるでしょう。。
1つの例として、申立てに係る請求額から減額された金額幅を報酬金として設定する方法があります。
つまり、申立てで請求された金額と、最終的に和解や解決のために支払うことになった金額の差額に対して、報酬金が発生する場合です。
例えば、残業代として100万円請求されていたものが最終的に60万円に減額された場合、報酬金が成功額の約15%~20%であれば、減額幅の40万円の約15%~20%が報酬金となります。
なお、企業側の弁護士費用に関しては、事案によっては報酬金を設定しづらい案件もあるため、申立て内容や依頼する弁護士によっては報酬金ではなく、着手金や日当に反映される場合もあります。
手数料は、労働審判に係る当事者間に争いがない場合などで、事務的な手続きの依頼に対して支払う費用です。
たとえば、答弁書の作成や証拠の整理等を行い、裁判所に送付するまでの依頼に対して費用が発生します。
相場は約5万円前後とする例が多くみられます。
日当あるいは時間制報酬(タイムチャージ)とは、労働審判の代理人として出廷するために弁護士が拘束された時間や、書類の作成にかかった時間等に対して発生する費用です。
時間単価は高額の傾向にあり、1時間あたり1万円~3万円とする例が多くみられますが、弁護士事務所ごとに異なります。
着手金や報酬金等とは別の費用とされることが多くありますが、着手金に日当を含む弁護士事務所もあります。
着手金を支払う前に日当等の費用が別にあるかは、弁護士との間で締結する委任状等から確認しましょう。
実費は、労働審判の代理人として手続きを行う上でかかった費用のことです。
変動幅が大きいため、どの程度の費用がかかるのかは一概に言うことはできません。
高額になることが心配な場合は、依頼する弁護士に過去の実績を確認しておくとよいでしょう。
ここでは、代表的な実費を紹介します。
なお、実費として発生する費用には「印紙代」も含まれますが、これは申立人が支払う費用です。
労働審判において会社が申立人となるケースは少ないため、ここでは省略しています。
通信料とは、弁護士が裁判所へ答弁書等の文書を送付するときにかかった切手代等、郵送にかかる費用のことです。
コピー代とは、答弁書や証拠の写し等をコピーしたときにかかる費用です。
答弁書は事案にもよりますが、約15~30枚程度となるなどの例があり、写しも併せて合計で5部印刷をすることが規定されています。
また、証拠書類やその説明書は、答弁書とは別に枚数が多くなることがあり、こちらも2部作成しなければなりません。
そのため、コピー代でもある程度の出費となる可能性があります。
弁護士が労働審判に出廷する場合において、かかった交通費です。
労働審判が行われる裁判所が弁護士事務所から遠方の場合、費用が高くなります。
また、弁護士がどのような交通手段を用いるかでも大きく異なるため、事前に確認をしておくとよいでしょう。
宿泊費は、労働審判が行われる裁判所に弁護士が出廷するときに、宿泊を要する場合にかかる費用です。
労働審判では、申立人、相手方のどちらの立場でも、弁護士を代理人として付けることは強制されていません。
そのため、弁護士に依頼するかどうかは会社の判断に任せられます。
費用への懸念から弁護士に依頼しない方向で解決を図る企業もありますが、弁護士を付けずに有利な結果を得ることは厳しいでしょう。
何故なら、決められた期間内で専門性の高い書類の準備を行うことや、審理当日に的確な主張を行うことは、専門家でないと難しいためです。
労働審判では迅速な解決を図るために、申立てがあった日から40日以内に最初の期日が決められます。
答弁書や証拠等は期日前に提出するように設定されるため、準備期間は約3週間しかありません。
会社の営業日をベースに考えると、書類作成や手続きにかかる日数や時間数はさらに限られる上に、通常の会社業務をこなしながら、慣れない作業を行うことになります。
特に答弁書の内容は、単なる認否を書いたものを提出することは望ましくありません。
労働審判では、迅速な解決を目的とするため、事前に提出する答弁書や証拠書類が重視されます。
専門的な知識がなければ、争点のポイントを掴んだ文章を書いて主張することは困難です。
費用を抑える目的で弁護士に依頼をしなかった場合、申立人の主張が大きく認められて、労働者の請求通りの金額を払う可能性も生じます。
通常の業務が疎かになりかねないことや、労働審判の準備も中途半端になってしまう可能性も考えると、弁護士に依頼しない不利益は大きいと言えるでしょう。
会社が負う労力と、最終的に生じる損害を抑える意味でも、弁護士に依頼することが適切です。
労働審判において、企業側が弁護士に依頼するメリットは、次のようなものがあります。
弁護士に依頼すれば、期日当日も含めてほとんどの手続きを任せられます。
また、申立ての内容や会社の状況を整理した上で、個々の事例に適切な判断を貰えることは大きなメリットです。
たとえば、労働審判では和解のための調停案が出されますが、応じるべきかどうかの判断は、慎重に行わなければなりません。
調停が成立しなければ、労働審判は訴訟に移行してしまうため、更に問題解決が長引き、時間や弁護士への依頼料等の費用が嵩みます。
専門家の観点からアドバイスを貰うことができれば、結果的に会社が被る被害を最小限に抑えることも期待できるでしょう。
労働審判における弁護士費用は、1事案当たり約50~100万円程度の費用が見込まれ(弁護士事務所により異なります)、高額です。
抑えられる費用があるならば抑えたいという気持ちが生じるのも当然のことです。
ここでは、労働審判で弁護士費用を抑える方法を紹介します。
弁護士費用を節約するために、会社側でできる範囲で対応をしてしまうと、かえって不利な状況に陥ることや、事態が複雑化する可能性があります。
たとえば、答弁書や証拠の重要性を理解せずに適当に提出してしまった場合や、申立ての内容とは別の事案を持ち出して争いが増える場合等です。
事態が複雑化すると解決のための難易度が高くなり、弁護士費用が高額になるおそれがあります。
また、事態が複雑化したために依頼自体を断られてしまうおそれもあります。
呼出状が届いた時点で早急に弁護士に相談をすることで、その後の適切な対応方法を確認することができ、事態が複雑化を避けられます。
結果的に、弁護士費用が高くなることを抑えることが可能です。
早めに弁護士に相談しようと焦るあまり、要点を整理せずに相談をしてしまうと、相談する時間や回数が増えて弁護士費用が高くなるおそれがあります。
裁判所から送られてくる労働審判の呼出状には、申立書の控えが添付されます。
申立書をよく読み込み、申立人の主張、争点となりそうなポイント、証拠となりそうな書類等の存在を事前に確認しておきましょう。
相談の時点で的確に弁護士に伝えることができれば、相談する時間や回数を減らすことができるため、相談料を抑えることができます。
無料相談を行っている弁護士は数多くあります。
事前に論点を整理した上で無料相談を依頼すれば、事案の複雑性や弁護士への依頼の必要性について費用を抑えながら確認することができます。
実際に依頼する場合の弁護士費用が心配な場合も、予算内に収まるか等を無料相談で聞くことも可能です。
無料相談を受けても依頼することは必須ではないため、いくつかの事務所で相談を受けて、見積りを取ることもよいでしょう。
法律相談でよく耳にするもののひとつに「法テラス」があります。
無料で弁護士に相談できるため、資金に限りのある場合に有効な方法としてよく知られています。
しかし、法テラスは「個人」を対象としたサービスであるため、法人が労働審判等で相談を依頼することはできません。
弁護士費用を抑えたい場合は、最終的に「自分でやる」という方法が最も有効です。
裁判所や審判員のフォローを受けながら、書類や証拠を揃えて作成する方法があります。
しかし、会社が相手方となる場合、非常にタイトなスケジュールの中、労働審判に対応することになります。
準備や手続きはすぐに終えられるものではなく、多くの時間が取られます。
本来業務をストップさせて取り組まなければならない上に、有利な結果を得られるとも限りません。
労働審判に関する手続きは、できる限り弁護士に依頼をしましょう。
労働審判を弁護士に依頼する場合は、労働問題に強い弁護士へ依頼しましょう。
弁護士選びにおいて、弁護士費用は重要なポイントですが「安いから」という理由で選ぶことは避けなくてはなりません。
ここでは、労働問題に強い弁護士の選び方を紹介します。
弁護士の専門分野は多岐に渡り、弁護士と言えど、得意不得意な分野があります。
また、労働問題においても、会社側あるいは従業員側のどちらの味方に立つ場合が得意であるかも大きな違いです。
労働審判においては、労働問題に強い「会社の味方」になってくれる弁護士に依頼しましょう。
たとえば、インターネット等で「弁護士」「(地名)」「労働問題」等の単語で検索すると、近くの労働問題に強い弁護士を見つけることができます。
あるいは、地域の弁護士会に「会社向けの法律相談を扱う専門弁護士の紹介」を依頼する方法や、弁護士会の検索サイトを活用する方法もあります。
労働問題を専門に扱うかだけではなく、弁護士の解決実績に注目することも重要です。
解決した事案が多い程、経験が豊富であるため、より適切な対応を期待できるでしょう。
ホームページ内の情報や、初回の相談時に過去の解決事案にどのようなものがあり、どんな結果が得られたのか等を確認する方法があります。
他の経営者や顧問契約を結んでいる税理士や社労士に、弁護士を依頼して貰う方法があります。
士業の場合は、他士業との繋がりがあることが多いため、紹介して貰える可能性が高いでしょう。
しかし、知人や他士業から紹介される弁護士がすべて労働問題を専門に扱っているとは限りません。
弁護士を紹介して貰う場合に「労働問題が専門かどうか」を必ず確認しましょう。
知人の経営者から紹介を貰う場合は、過去に労働審判や労働トラブルを解決して貰った実績があると安心です。
労働問題について専門的なコラムや著書を執筆している弁護士は、労働問題について豊富な知識と経験があります。
いくつか興味のあるコラムを読んでみることで、企業側の弁護士か労働者側の弁護士かも知ることができます。
内容も単に一般的な知識を羅列したものではなく、実務レベルで役に立つ情報や、読者の目線で書かれているか等に注目しましょう。
弁護士の知識量や親身になって相談に乗ってくれるかを、コラムや著書から知ることができます。
個人の法律事務所もある一方、弁護士や社会保険労務士等の労働問題専門のチームを組む法律事務所もあります。
複数の専門家で問題対応をする弁護士事務所は、トラブルが起きたときのカバー力が期待でき、安心して任せることができます。
また、労働審判は非常にタイトなスケジュールで進むため、個人事務所の場合は日程等の折り合いがつかなければ、断られてしまう可能性があります。
一方、チームで対応する事務所では、労働審判の急な期日にも対応して貰いやすい点がメリットです。
労働審判を弁護士に依頼する費用は、相談から解決までに約50~100万円前後です。
安くない金額ですが、企業活動を止めることなく書類の作成や手続きの代行、出廷までをサポートをして貰えることは大きなメリットです。
会社の経営活動や利益を守るためにも、会社の状況にあった弁護士を選び、活用しましょう。