この記事でわかること
最近、パワーハラスメントという言葉をよく耳にするようになりました。
パワーハラスメント問題が発生したら、企業はどう対処すればよいのでしょうか。
パワーハラスメント防止法により、企業に具体的な防止措置が求められるようになりました。
この記事では、実際の事例を紹介しながら、パワーハラスメント防止法の概要と企業が取るべき具体的な対応策について解説します。
目次
パワーハラスメント防止法の正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。
略して「労働施策総合推進法」といいます。
パワーハラスメント防止法(通称:パワハラ防止法)は、職場におけるパワーハラスメントの防止を目的とした法律です。
パワハラ防止法の施行年度は以下のとおりです。
中小企業については、2020年6月1日から2022年3月31日までの期間を「努力義務期間」とし、2022年4月1日から義務化されました。
この段階的な施行は、企業規模によって準備期間に差をつけることで、特に中小企業に対して十分な対応時間を確保するためでした。
パワハラ防止法での中小企業は、以下のように定められています。
中小事業主の定義(①または②のいずれかを満たすもの)
業 種 | ①資本金の額または出資の総額 | ②常時使用する従業員の数 |
---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 (サービス業、医療・福祉等) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 (製造業、建設業、運輸業等上記以外すべて) | 3億円以下 | 300人以下 |
パワーハラスメント(パワハラ)防止法は、企業で働くほぼ全ての労働者に適用されます。
具体的には以下の人々が対象となります。
一部の人々はパワーハラスメント(パワハラ)防止法の適用対象外となります。
具体的には、以下のような人々が挙げられます。
企業には、パワーハラスメントを防止するために以下の3つの措置が義務づけられました。
これらの措置を適切に実施することで、企業はパワハラのリスクを軽減し、健全な職場環境を維持することができます。
以下のようにパワハラについて就業規則で規定し、周知や啓発を行う必要があります。
以下のパワハラ相談窓口を設置し、迅速に行うため対応をマニュアルしなければなりません。
迅速に事実確認し、被害者や加害者に対して、以下のように適切な措置を行う必要があります。
以下についても、留意する必要があります。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2第1項で、職場におけるパワーハラスメントについて、以下の3つの定義が定められました。
上司から部下に対してだけでなく、先輩・後輩の間や同僚の間、さらには顧客などの社外の人からの言動も含まれます。
職務上の地位や人間関係、専門知識、経験などの様々な優位性を背景とした関係性が該当します。
職場においては、上司が部下に対して指示を出すことや、指導を行うことが求められますが、その範囲を超えた行為はパワハラに該当します。
人格や尊厳を否定する言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられることを指します。
これらの行為は、労働者の自尊心を傷つけ、精神的に重大な影響を与えます。
以下は代表的なパワハラに該当、または該当しないと考えられる例です。
個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあります。
また、限定列挙ではない点に注意が必要です。
代表的な言動の類型 | 該当すると考えられる例 | 該当しないと考えられる例 |
---|---|---|
身体的な攻撃 | ①殴打、足蹴りを行う ②相手に物を投げつける | ①誤ってぶつかる |
精神的な攻撃 | ①人格を否定するような言動を行う 相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む ②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責をくりかえし行う ③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責をくりかえし行う ④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者あてに送信する | ①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする ②その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする |
人間関係からの切り離し | ①自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする ②一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる | ①新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する ②懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる |
過大な要求 | ①長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる ②新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する ③労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる | ①労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる ②業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる |
過小な要求 | ①管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる ②気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない | ①労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する |
個の侵害 | ①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする ②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する | ①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う ②労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報(左記)について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮をうながす |
引用:厚生労働省:【最終版原稿】リーフレット「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」
パワーハラスメント(パワハラ)は、職場において問題となる行為です。
パワハラの具体的な事例を理解することで、深刻さをより理解し、適切な対策を講じることができます。
ここでは、実際に起こった具体的なパワハラ事件を紹介します。
事例
背景:
Aさんは中堅社員で、ある日、プロジェクトリーダーに抜擢された。
Aさんは一人で大量の仕事を抱え、時間外勤務は6カ月で90時間近くとなった。
その後、産業医に相談するも適切に対応してもらえず、上司からも厳しいノルマを与えられ心身ともに疲弊していった。
行為の内容:
影響:
事例
背景:
Cさんはシステム会社に約12年間勤務し、820万円程度の収入を得ていた。
上司Dが部長に就任後、部下Cさんに対して人格を否定するような言動を行った。
行為の内容:
影響:
事例
背景:
Eさんは学校法人Fの教諭でクラス担任や学科の授業を担当していた。
Eさんが産休を2回取ったことや、その後の態度が校長の気に障り、嫌がらせが始まった。
行為の内容:
影響:
事例
背景:
Gさんは市役所福祉課に勤務してたが、総務課長Hから私生活に関する不当な介入があった。
行為の内容:
影響:
職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)を防止するためには、企業としての適切な取り組みが不可欠です。
しかし、パワハラ防止策が適切に実施されていない場合、企業には一定の措置が取られることがあります。
パワーハラスメント(パワハラ)防止法は、職場におけるパワハラを防止するための法律です。
しかし、この法律には具体的な罰則規定がありません。
パワハラ防止法に罰則がない原因として、以下のようなものが挙げられます。
パワハラ防止法の基本的な目的は、企業が自主的にハラスメント防止対策を講じることを促進することにあります。
罰則を設けることで、企業が形式的に対策を取るだけで終わってしまう可能性があります。
一方、罰則を設けず、企業に対策を自主的に取らせることで、より効果的な取り組みが期待できると考えられているためです。
企業の規模や業種、職場の特性は多種多様です。
そのため、一律の罰則を設けることは困難です。
罰則を適用することで、特定の企業が不当に厳しい処罰を受けるリスクや、逆に形骸化した対策を取るだけで罰則を逃れる企業が出る可能性があります。
罰則がないことで、各企業が自社の状況に応じた柔軟な対応を取ることが可能になります。
パワハラの判断は非常に難しいことが要因の大きなウェイトを占めます。
同じ行為であっても、受け手の感じ方や職場の状況によって、ハラスメントと認識されるかどうかが異なる場合があります。
罰則を設けることで、パワハラの判断基準が厳格化され、被害者の訴えが認められにくくなる恐れがあります。
罰則を設けないことで、より柔軟に個々のケースに対応することができます。
罰則を設けることなく、企業と従業員が協力してハラスメントのない職場を作ることが重要です。
社会全体の意識改革を進めるためには、罰則による強制よりも、教育や啓発活動が効果的です。
パワハラ防止法は、企業内での研修や啓発活動を促進し、従業員1人ひとりがハラスメント問題を自覚し、行動を変えていくことを目的としています。
パワーハラスメント(パワハラ)防止法は、職場におけるハラスメントを防ぐための重要な法律です。
この法律には罰則規定はありませんが、企業に対する勧告や企業名の公表などの措置が取られる場合があります。
パワハラ防止法に基づき、企業が適切な防止策を講じていないと判断された場合、厚生労働大臣が企業に対して勧告を行うことがあります。
勧告を受けた企業は、速やかに改善策を講じる必要があります。
企業が厚生労働大臣の勧告に従わず、適切な措置を講じない場合は企業名を公表することがあります。
企業名を公表されることにより、企業の社会的信頼が失われ、経営に支障が出ることが考えられます。
パワーハラスメント(パワハラ)防止法の罰則はありませんが、労働契約法や労働安全衛生法上の安全配慮義務違反となる可能性があり、その場合は高額な慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。
- 労働契約法における安全配慮義務
第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
- 労働安全衛生法における安全配慮義務
第3条
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
パワーハラスメントを防止するために企業がとるべき主な対策は「企業に定められた3つの防止措置」以外に、以下のようなものがあります。
これらの対策を総合的に実施することで、パワハラの防止と早期発見や対応が可能となり、健全な職場環境の維持につながります。
管理職向けに特化した研修を定期的に行い、部下への適切な指導方法や、パワハラにつながりかねない言動について学ぶ機会を設けることが効果的です。
定期的に従業員アンケートを行うことで、パワハラの兆候や職場環境の問題点を早期に把握し、迅速に対応することができます。
厚生労働省からアンケート実施に関するマニュアルも示されています。
パワハラが発生した場合、原因を分析し、再発防止のための具体的な対策を講じます。
パワハラが懲戒処分の対象となることを就業規則に明記し、全従業員に周知します。
パワハラ防止策が適切に機能しているか定期的に確認し、必要に応じて改善を行います。
労働局から自主点検票も作成されているので、ぜひ活用しましょう。
コミュニケーションを活性化させ、互いを尊重し合える職場風土を作ることも重要です。
必要に応じて、弁護士や社会保険労務士などの外部専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることも効果的です。
職場におけるパワハラが発生した場合、企業は迅速かつ適切な対応を行う必要があります。
ここでは、企業が取るべき具体的な対応について説明します。
パワハラが発生した場合に行う事実確認の手順は、以下のとおりです。
パワハラ発生時に行う被害者への対応は、以下のとおりです。
パワハラ発生時に行う加害者への対応は、以下のとおりです。
パワハラ再発防止策の例は、以下のとおりです。
パワハラ発生時の対応では、以下のようにプライバシー保護への配慮も必要です。
以下についても注意しておく必要があります。
職場でのパワハラを放置しておくことは、従業員の心身に大きな影響を与え、職場の生産性の低下につながります。
パワハラは受け手側がどう感じるかが大きく関係するので、普段から活発なコミュニケーションを取っておくことはパワハラ問題を防ぐことに効果的です。
また、事前にパワハラの防止対策やパワハラが起こってしまった場合の対処方法について学んでおくことで、問題が起こった場合は、速やかに適切な対処ができるようになります。
正しい対処を行うことが、従業員の定着率を高めることにつながり、企業の健全な運営に役立ちます。