

この記事でわかること
日本の法律では解雇に厳しい制限が設けられていますが、解雇規制の緩和を目的として「金銭解決制度」の導入が検討されています。
これは解雇が無効とされた場合、企業が「労働契約解消金」を支払って、労働契約を終了させるしくみです。
2025年12月時点では議論段階ですが、導入されれば人材の流動性が高まり、採用活動の活発化などが期待されます。
一方で、金銭的負担増や人材の流出なども懸念されるため、制度変更時に備えた対応が重要です。
この記事では、解雇規制の基本から、金銭解決制度の内容と影響、そして企業が今から備えておかなければならない事項について解説します。
目次
解雇規制とは、会社が従業員を解雇する際に守らなければならない法律の要件や手続きなどを指します。
会社が自由に従業員を解雇できると、従業員の生活に与える影響が大きいため、無制限には行えません。
労働基準法では解雇手続きや解雇制限が定められており、労働契約法では解雇が無効となる基準が定められています。
労働基準法20条[注1]では、解雇の手続きが定められています。
解雇するときは30日以上前に予告するか、30日分以上の解雇予告手当(平均賃金)の支払いが必要です。
また、労働基準法19条では以下の期間の解雇を禁止しています。
その他、労基法には従業員への不利益取扱い禁止とその理由が定められており、解雇も不利益扱いの対象です。
[注1]労働基準法/e-Gov
労働基準法20条
労働契約法16条[注2]では、解雇が無効となる基準が定められています。
この解雇権濫用法理により「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」は解雇権の濫用として、解雇は無効となります。
合理的な理由とは、著しい能力不足や繰り返される業務命令違反など、解雇がやむを得ない事情を指します。
相当性とは、社会一般的に妥当な処分であるかという判断です。
たとえば、能力不足を理由とする場合、十分な改善指導を行わずに突然解雇する処分は重すぎると考えられます。
[注2]労働契約法/e-Gov
労働契約法16条
解雇には、次の3種類があります。
どの類型に該当しても、解雇権濫用法理に照らした上で、適正な手続きで行わなければなりません。
整理解雇は会社都合であるため、より厳しい制限が設けられており、次の4つの要件を満たさなければなりません。
たとえば、整理解雇を行いながら新規採用を増やすなどの矛盾する行為は、要件を満たさないと判断されやすくなります。
現状の制度では、解雇が無効と判断された場合、復職が原則です。
このときの新たな解決手段として「金銭解決制度」の導入が検討されています。
しかし、審議会において労使の主張は対立しており、制度化に向けた議論は長期化する見込みです。
金銭解決制度とは、裁判や労働審判で解雇が無効とされた場合、企業が「労働契約解消金」を支払い、雇用関係を終了させるしくみです。
金額は給与水準や解雇の不当性などを考慮して裁判所が定め、労働者が制度を利用するかを選べる形が想定されています。
現状の制度は、解雇無効時に復職を望まない労使双方にとって、解決方法の柔軟性を欠くしくみが課題でした。
そのため解雇紛争の解決手段を増やす目的で、制度導入が検討されてきました。
審議会では、企業側が前向きな意見を示す一方、労働者側は「現行の労働審判などで金銭的解決は十分可能」と主張しています。
さらなる調査や実態把握を進め、その結果を踏まえて方向性を再検討する見通しです。
解雇規制緩和は人材の流動性を高め、人員配置の柔軟化や採用の積極化などの効果が期待されます。
一方で、金銭的負担増や紛争の深刻化、優秀な人材の流出などのマイナス面も無視できません。
ここでは、制度導入が企業にもたらす影響の両面を解説します。
現行制度では人材の入れ替えが難しく、採用も慎重にならざるを得ない点が課題でした。
制度が整えば人材の流動性が高まるため、次のようなメリットが生じます。
会社の新規事業への挑戦や組織全体の活力向上も期待できます。
一方で、制度導入による次のようなデメリットも見過ごせません。
「緩和」という言葉だけで安易に制度利用を検討すると、トラブル増加が懸念されます。
従来どおり、規定整備や指導記録の保存といった基本的な対応の重要性は変わりません。

人材の流動性が高まるほど、企業のリスキリング支援や社内ルールの見直しが重要になります。
制度導入は未定ですが、早めの準備によって制度変更時もスムーズに対応できます。
人材の流動性が高まると、スキル不足や業務適性を理由とした解雇が問題化しやすくなります。
そのため、従業員の学び直しやスキル習得(リスキリング)を支援するしくみが効果的です。
スキル向上は人材活用の幅を広げ、従業員の成長機会にもつながり、人材定着効果もあります。
さらに能力不足による解雇では、会社の支援実績が「解雇回避努力」として評価される可能性もあります。
制度導入の有無に関わらず、解雇を慎重に進めるべき点は変わりません。
解雇事由の明確化や手続きの適正さ、問題行動の記録や改善指導のルールといった基本的なしくみは必須です。
現状の就業規則や人事評価制度が社内実情に合っているか点検しておけば、制度変更後のトラブル防止につながります。
解雇無効時の柔軟な解決を図る目的で「金銭解決制度」の導入が検討されています。
制度が導入されれば、人材の流動性が高まり、人員配置の柔軟性向上などのメリットがある一方、金銭負担や人材流出といった課題もあります。
制度導入に関する議論は現在も進行中ですが、制度導入を見据えたリスキリングの強化や内部体制の整備が重要です。
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