

東京弁護士会所属。千葉県習志野市出身。
企業にとって、従業員とのトラブルは金銭的な損失以上に、組織の士気低下やブランドイメージの毀損を招く大きなリスクです。私は弁護士になる前、2社の上場メーカーの法務部門にて、契約交渉や社内規定の整備、コンプライアンス教育の最前線に携わってきました。
法律事務所の外部アドバイザーとしてだけでなく、「企業内部で法務を担ってきた当事者」としての視点を持ち合わせていることが私の最大の強みです。会社が直面する労務課題に対し、単に「法的に難しい」と断じるのではなく、ビジネスの実情に即して「どうすればリスクを抑えて目的を達成できるか」を経営者様と共に考え抜きます。
ビジネス実務法務検定1級や知的財産管理、個人情報保護といった多方面の専門知見を活かし、隙のない労務体制の構築を支援いたします。「弁護士は良質なサービスを提供する仕事である」という信念のもと、経営者の皆様が安心して事業に邁進できる環境作りを全力でバックアップいたします。

近年、職場で発達障害(ADHD、ASD〈自閉スペクトラム症〉、LD〈学習障害〉など)を持つ社員とともに働く機会が増えています。集中力の波や対人コミュニケーションの難しさなど、特性により業務への影響が生じる場合もありますが、その対応を誤ると「不当解雇」や「障害者差別」として企業側が法的責任を問われるおそれがあります。
一方で、企業にも職場秩序や生産性を維持する責任があり、どこまで配慮すべきか、どのような場合に解雇が認められるのかという判断は非常に難しい問題です。
本記事では、発達障害を理由に解雇できるのか、どのような対応が法的・実務的に適切なのかを弁護士がわかりやすく解説します。
目次
発達障害とは、生まれつき脳の働き方や情報の処理の仕方に特性があることで、思考や行動、コミュニケーションの仕方などに偏りが見られる状態を指します。
代表的な発達障害には、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などがあります。
近年では、これらの特性が軽度から中等度まで幅広いグラデーションで存在することが分かっており、「発達障害」という言葉には多様な状態が含まれます。本人が自覚していない場合も多く、成人してから診断を受けるケースも増えています。
社会では「発達障害=働けない」と誤解されることがありますが、適切な理解と支援があれば、能力を十分に発揮できる人も多くいます。実際、集中力や創造力、専門的な知識への没頭など、発達特性を強みとして活かしている人も少なくありません。
職場においては、特性に応じたサポートや環境整備を行うことで、本人だけでなくチーム全体のパフォーマンス向上にもつながります。そのため、まずは「発達障害とは何か」を正しく理解し、単なる“問題行動”として扱わない視点が重要です。
発達障害のみを理由に社員を解雇することは、原則として認められていません。労働契約法16条では、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会的通念上の相当性」が必要と定められています。発達障害という診断名だけで業務遂行能力を否定するのは、これらの条件を満たさない可能性が高く、不当解雇と判断されるおそれがあります。
また、障害者雇用促進法では、事業主に対して「合理的配慮」を提供する義務が課されています。これは、発達障害の特性に応じて勤務環境や業務内容を調整し、働きやすい状態を整えることを意味します。たとえば、作業手順を明文化する、集中できる環境を用意する、上司が定期的にフォローするなどが該当します。
こうした配慮を行わずに解雇した場合、障害を理由とした差別的扱いとして、裁判で解雇無効や損害賠償が認められる可能性もあります。したがって、企業は解雇の前に必ず支援・改善のための取り組みを行うことが求められます。
企業が一方的に判断して対応すると、不当解雇の主張や裁判、行政指導などに発展するおそれがあり、最終的には企業の信用や職場全体の秩序を損なう結果になりかねません。
ここでは、 発達障害を理由に解雇する具体的なリスクを紹介します。
発達障害を理由に特別扱いしたり、排除するような人事判断は、障害者差別解消法や労働施策総合推進法などに反するおそれがあります。特に問題となるのは、能力や勤務成績に基づかず、「発達障害である」という属性そのものを理由に不利益な対応を行った場合です。
たとえば、他の社員は業績が最低の者だけを退職勧奨の対象としているのに、発達障害のある社員には平均的な成績でも勧奨を行うケースや、同じ基準を満たす社員が複数いるにもかかわらず、発達障害の社員だけを優先的に退職対象とする対応などです。これらは一見、業務上の判断に見えても、客観的な根拠がなければ「差別的扱い」とみなされる危険性が極めて高くなります。
公平性を保つためには、評価や処分の基準を明確に定め、すべての社員に一貫して適用することが重要です。さらに、対象者を選定する際には、労働能力や勤務態度といった客観的なデータに基づく説明責任を果たすことが、法的リスクの軽減につながります。
発達障害を理由とした解雇は、不当解雇や差別の主張により裁判や労働審判へ発展するケースも少なくありません。訴訟では、企業がどのような配慮や改善努力を行ったかが詳細に検証されます。指導記録や面談内容が残っていない場合、企業が不利な判断を受ける可能性もあります。訴訟対応には多大な時間と費用がかかるうえ、社内外の注目が集まり、経営上のリスクも拡大します。
障害を理由とした不当な扱いが報じられると、企業イメージは大きく損なわれます。SNSや口コミを通じて批判が広がりやすく、採用活動や取引先との関係にも影響を及ぼすことがあります。近年は多様性やインクルージョンへの姿勢が企業価値の一部とみなされており、法令遵守だけでなく、誠実な対応が求められます。トラブルを防ぐためには、早期に相談窓口や教育研修を整えることが有効です。
発達障害の特性が理解されずにトラブルが続くと、周囲の社員が心理的疲労を抱え、いわゆる「カサンドラ症候群」に陥ることがあります。特定の社員に対して過度に不満や誤解が生じると、チームの関係性が悪化し、職場秩序が乱れやすくなります。企業は、個人への対応だけでなく、同僚への理解促進や心理的ケアも並行して行うことが大切です。
発達障害の社員に対する不当な対応や偏見が広がると、「会社は公平でない」という印象が定着し、職場全体の士気が下がります。これにより、生産性の低下や人材の流出といった長期的な損失を招くことがあります。逆に、適切な配慮と明確なルールの下で働ける環境を整えることで、全員が安心して力を発揮できる職場づくりが実現します。
発達障害を理由に不当な扱いを行った場合、労働局やハローワークから是正指導や勧告を受けることがあります。状況によっては企業名が公表されるケースもあり、社会的信用の失墜につながります。行政対応には時間と労力がかかるため、初期段階で適切に対応することが重要です。定期的な法令研修や就業規則の見直しを通じて、コンプライアンス体制を強化しておくと安心です。

発達障害を理由にした解雇が認められるのは、極めて限られた場合です。ここでは、法的に有効とされる可能性があるケースを紹介します。
発達障害を理由とする解雇が認められるのは、「障害そのもの」ではなく、「職務遂行が著しく困難で、合理的配慮や改善指導を尽くしてもなお支障が続く場合」に限られます。企業が冷静に対応を記録し、段階的に判断を行うことが、法的リスクを避けるための基本姿勢です。
発達障害の社員に対しては、「障害だから仕方がない」と放置するのも、「問題社員」として一方的に処分するのも誤りです。法律上は、企業には「合理的配慮」を行う義務があり、同時に職場の秩序を維持する責任もあります。ここでは、企業として取るべき適切な対応の流れを整理します。
ミスが多い、報連相が苦手、コミュニケーションがかみ合わない――そのような特徴が見られても、企業が勝手に「発達障害」と判断するのは禁物です。まずは本人の状況を冷静にヒアリングし、必要に応じて医療機関の受診を促すのが適切です。
ただし、診断結果の報告を本人に求める行為には注意が必要です。発達障害などの医療情報は「要配慮個人情報」に該当し、個人情報保護法上、本人の同意や利用目的の明示なしに取得することは望ましくありません。さらに、特定の社員だけに診療結果の提出を求める対応は、差別的取扱いとみなされるおそれもあります。
診断の有無にかかわらず、まずは「体調や働き方をサポートするために相談できます」という姿勢を示し、本人の同意を得たうえで必要最小限の情報を共有する形が望ましいでしょう。
発達障害の特性が背景にある場合でも、職場のルール違反や業務上の問題があれば、適切に注意・指導を行うことが必要です。叱責や感情的な言動は避け、具体的な行動改善につながる助言を心がけましょう。
たとえば、作業手順を紙にまとめる、定期的にチェックする時間を設けるなど、本人が理解しやすい工夫を取り入れます。指導後は経過を記録し、改善の有無を一定期間見守る姿勢を保ちましょう。
改善指導を重ねても状況が変わらない場合は、人事評価や懲戒処分の対象となることもあります。ただし、懲戒はあくまで教育的な意味合いで行い、制裁的・感情的な対応にならないよう注意が必要です。
懲戒を行う際は、注意・けん責・減給などの軽い処分から段階的に進め、本人に弁明の機会を与えることが原則です。また、懲戒理由を「障害」ではなく「職務上の行動や成果」に基づいて明確化することが重要です。公平で透明性のある手続きを取ることで、のちのトラブルを防ぐことができます。
ほかの社員への暴言、無断欠勤、業務妨害など、職場の秩序を損なう行為があった場合は、発達障害の有無にかかわらず、毅然とした対応が求められます。ルールを守る姿勢を示すことで、組織全体の信頼と安全を守ることにつながります。
ただし、行動の背景に特性がある場合には、まず事実関係を冷静に確認し、必要に応じて医師や専門家の意見を踏まえながら対応を検討することが望ましいです。
改善や配置転換など、あらゆる手段を講じても職務継続が困難な場合、退職を勧めることを検討するケースもあります。ただし、退職勧奨は本人の自由意思に基づかなければなりません。繰り返し説得したり、退職を強く迫るような行為は「退職強要」とみなされ、違法となる可能性があります。
退職の提案を行う場合は、複数の担当者で面談を行い、内容を記録に残すなど、客観性と透明性を確保することが重要です。
懲戒処分の有効性を保つには、就業規則に「懲戒事由」と「処分の種類」を明確に定めておくことが不可欠です。基準があいまいなまま処分を行うと、恣意的な対応と受け取られるおそれがあります。
また、就業規則は社員が理解できる形で周知し、定期的に見直しを行うことで、法令遵守と公正な運用を両立できます。
発達障害に関する対応は、企業だけで抱え込まず、外部の専門家と連携することが大切です。産業医、臨床心理士、精神科医、社会保険労務士などと協力し、本人の特性に応じた支援体制を整えましょう。
また、上司や同僚への啓発研修を行い、発達障害に対する理解を広げることも効果的です。職場全体で支え合う仕組みを整えることで、再発防止だけでなく、生産性の向上にもつながります。
発達障害の社員への対応は、法令上の義務と企業経営のバランスを取る必要があり、慎重な判断が求められます。注意や指導の仕方一つで「パワハラ」「不当解雇」「差別的取扱い」と指摘されるリスクもあり、現場だけで適切に判断するのは難しいのが実情です。
そのようなときこそ、労働問題に詳しい弁護士へ相談することで、リスクを最小限に抑えながら適切な対応方針を立てられます。
発達障害の社員に対する注意・配置転換・懲戒・退職勧奨といった判断は、法的な根拠や手続きが欠けると、不当解雇や差別とみなされるおそれがあります。弁護士は、障害者雇用促進法・労働契約法・個人情報保護法などの関連法を踏まえて、どの対応が適法で、どのような手順を取るべきかを具体的に助言してくれます。早期に相談することで、トラブル発生前に予防策を講じることが可能です。
注意書・懲戒通知・退職勧奨の面談記録など、労務対応に必要な文書は、内容や言葉の選び方によって法的評価が大きく変わります。弁護士に相談すれば、就業規則の見直しや懲戒基準の整備、面談記録の作成方法など、トラブルを避けるための書面整備をサポートしてもらえます。
弁護士が介入することで、企業が直接交渉するよりも冷静で公正な対応が可能になります。社員や家族とのやり取りで感情的な対立が生じた場合でも、弁護士が間に入ることで、客観的な視点から調整を行い、円満な解決を図ることができます。
注意指導や退職勧奨の過程でトラブルが訴訟に発展するケースもあります。その際、初期段階から弁護士が関与していれば、記録や証拠の整理がスムーズに進み、有利に対応できます。特に、裁判で重視されるのは「企業がどれだけ合理的配慮を行ったか」という点であり、その証明資料を整えるためにも専門家のサポートが不可欠です。
労働問題に強い弁護士の中には、産業医や社労士、臨床心理士などと連携して、企業内のメンタルヘルス体制を支援している事務所もあります。弁護士相談をきっかけに、専門家と協力しながら職場改善を進めることも可能です。
発達障害の社員への対応は、法律・人事・心理のすべての要素が関わる複雑な領域です。社内だけで判断しようとすると、善意の対応がかえって法的トラブルを招くこともあります。弁護士に相談することで、法令に沿った正しい対応を取りながら、社員と企業の双方が納得できる形で問題を解決できるでしょう。
発達障害があることを申告せず入社しても、それだけで解雇することはできません。
企業が採用時に確認したいのは「職務遂行に支障があるかどうか」であり、障害の有無そのものではありません。実際の業務に支障がなく、合理的配慮によって就労が可能な場合、障害を隠していたことを理由に解雇するのは不当と判断されます。
ただし、虚偽の申告によって業務に著しい混乱を生じさせた場合など、明確に職務への悪影響があるときは、解雇の正当性が認められる余地もあります。
試用期間中でも、発達障害を理由にした解雇は原則として認められません。労働契約法16条に基づき、解雇には「客観的な合理性」と「社会的相当性」が必要です。
ただし、試用期間は本採用に向けた適性判断の期間です。発達障害に限らず、業務遂行が著しく困難な場合や、注意・指導を重ねても改善が見られない場合には、解雇が有効とされることもあります。
注意や指導の内容が業務改善を目的とし、冷静で具体的なものであれば、通常はパワーハラスメントにはあたりません。
ただし、発達障害の特性を無視した叱責や、人格を否定するような言動はパワハラと判断されるおそれがあります。たとえば、「なぜこんな簡単なこともできないのか」と感情的に責めるような言い方は避けるべきです。
本人の理解しやすい伝え方を工夫し、指導の経緯を記録に残しておくことが、トラブル防止につながります。
発達障害の社員への「合理的配慮」は、法的に求められる正当な対応であり、「特別扱い」ではありません。ほかの社員から不満の声が出る場合は、まず「公平」と「平等」は異なるという点を説明しましょう。障害特性に応じた支援を行うことは、誰もが能力を発揮できる環境づくりの一環です。
社内研修や説明会を通じて、発達障害に対する理解を深めることが、職場全体の協力体制を築くうえで有効です。
発達障害の影響で欠勤が長期化している場合でも、すぐに解雇することは認められません。まずは就業規則に基づいて休職制度を適用し、一定期間の療養と職場復帰の可能性を確認することが原則です。
休職期間中は、主治医や産業医の意見をもとに、復職が可能か、または業務内容の調整が必要かを慎重に検討します。休職期間が満了してもなお就労が困難と判断される場合、初めて解雇を検討できますが、その際も「合理的配慮を尽くしたか」「他部署での勤務が可能だったか」といった点を丁寧に検証することが重要です。
発達障害を理由にした解雇は、法的にも社会的にも非常に慎重な判断が求められます。単に「発達障害がある」というだけでは解雇の正当性は認められず、企業にはまず合理的配慮を行う義務があります。
業務内容の調整や配置転換など、できる限りの支援策を試みたうえで、それでも職務遂行が著しく困難な場合にのみ、解雇を検討すべきです。
「VSG弁護士法人」では、企業側の労働問題に豊富な実績があり、案件によっては初回無料相談も受け付けています。トラブルの予防から解決まで徹底的にサポートさせていただきますので、発達障害の社員対応や労務リスクの判断に迷われた際は、ぜひお気軽にご相談ください。