この記事でわかること
従業員の中に問題社員がいると、会社の生産性や職場の雰囲気に悪影響を及ぼします。
しかし、日本の労働関連法は労働者保護の観点から設計されているため、たとえ問題社員であっても懲戒処分や解雇は簡単にできません。
会社が対応を誤れば、逆にパワハラで訴えられる場合や、不当解雇を争われるなどの深刻なトラブルに発展する恐れがあります。
会社がこうしたリスクを最小限に抑えるためには、法律の知識と実務経験を備えた弁護士への相談が重要です。
この記事では、問題社員がもたらすリスク、弁護士へ対応を依頼すべき場面やメリットとデメリット、さらに問題社員を生まない工夫まで解説します。
目次
問題社員とは、職場環境や他の従業員に悪影響を及ぼす言動を繰り返す社員をいいます。
具体的な特徴は、次の通りです。
社会人としてのモラルの欠如(基本的なマナーな欠如)
(例)挨拶をしない
時間を守らない
身だしなみが乱れている
報連相を怠るなど
ハラスメントを行う
(例)パワハラ、セクハラなど、職場環境を悪化させる言動を繰り返す
業務命令に従わない
(例)上司からの指示を無視または拒否する
自分の判断だけで業務を進める
協調性がない
(例)チームワークを軽視し、協力を拒む、反発する
孤立や対立を招く
著しい能力不足
(例)業務に必要なスキルや知識が著しく不足し、成果を出せない
教育や研修を受けても改善が見られない
素行不良
(例)無断欠勤や遅刻を繰り返す
職場で不適切な言動を行う
このような問題社員の行動は組織の雰囲気を壊し、やがて会社全体の問題へ発展する恐れがあります。
会社が問題社員の対応に悩んで解決を先送りにしても、問題行動は自然に改善されません。
問題社員の放置は、次のようなリスクを招く可能性があります。
ここでは、それぞれのリスクについて解説します。
就業規則などのルールは、会社が従業員を指導、処分する際の重要な根拠です。
ルールが存在しているのにもかかわらず、会社が問題社員を放置すればルールは形骸化し、信頼性が損なわれます。
こうした状態で裁判などの争いになると、ルールの正当性が主張できなくなるため、注意が必要です。
また、ルールの形骸化は「多少の問題行動は許される」と言う風土を定着させ、職場全体のモラル低下を招きます。
真面目に働く優秀な社員が失望して離職し、それに伴い顧客離れが進むなど、会社の直接的なダメージにつながりかねません。
問題社員は放置されると「何をしても大丈夫だ」「自分は守られて当然」という意識を強め、権利主張や自己防衛を過剰に行う傾向があります。
処分を受ければ「パワハラだ」「労基署に相談する」などと反発し、会社の対応を非難します。
そういった問題社員の対応には多大な時間とコストがかかるため、繰り返されると事業運営に支障が出る恐れがあります。
また、他の従業員が「パワハラと騒がれるかもしれない」という不安から必要な指導を控えれば、従業員の成長や業務改善の機会が失われます。
この状況は組織力や競争力の低下など、会社全体に影響が及ぶ問題です。
問題社員の行動がエスカレートすると、会社に対する直接的な攻撃に発展する場合があります。
たとえばSNSでの会社への誹謗中傷、顧客情報や機密情報の持ち出しといった背信行為が典型です。
特にSNSなどで社外に情報が広がると、事実無根であっても世間の誤解や批判を招き、会社は大きなダメージを負います。
こうした行為に対して、従業員を処分するのは妥当に思えますが、会社の対応次第では裁判などで不利益になる可能性もあるため、注意が必要です。
問題社員への対応を誤ると、トラブルに発展した際の会社のリスクを高めるため、事前に対応方法を確認しておきましょう。
基本的な対応方法は次の通りです。
ここでは、それぞれの対応方法を詳しく解説します。
従業員に問題行動があったときは、速やかに指導や教育を行います。
指導する場合としない場合がある、特定の社員だけを指導するなどは、対応の一貫性を損なうため避けましょう。
指導や面談では問題行動を具体的に指摘し、改善のための方向性を示します。
このとき、後でトラブルに発展した際の証拠にもなるため、具体的な問題行動や指導の日時などを記録しておきましょう。
問題行動の改善を目的とした、配置転換などの措置も重要です。
相性の悪い従業員同士を離す、あるいは適性に合った部署へ異動させるという方法があります。
ただし、嫌がらせや退職強要と受け取られるような措置はパワハラに該当する可能性があるため、注意が必要です。
誤解を招かないように業務改善や適正配置の目的を明確にし、本人へ十分に説明しなければなりません。
説明が不十分だと、後で従業員から不当な処分だと訴えられ、会社の不利益になる恐れがあります。
指導や配置転換などの措置を取っても改善が見られない場合、懲戒処分を検討します。
懲戒処分は、問題行動の改善を促すだけではなく、会社の厳正な対処姿勢を示す重要な手段です。
懲戒処分には、訓告、減給、出勤停止、解雇など様々なものがありますが、原則として就業規則に基づき処分の内容を選定します。
過去に行った処分歴と比較して、程度が異なるなどの一貫性を欠いた処分は避けましょう。
問題社員対応は社内のみでも可能ですが、リスク回避のための判断や手続きの難易度が高いため、弁護士の知識が有効に働く場面があります。
特に弁護士に依頼すべき場面は、次の通りです。
ここでは、それぞれの場面について詳しく解説します。
指導や懲戒処分は、法的トラブルに発展した際、手続きや記録の正当性が問われる重要な過程です。
リスクを最小化するためには、形式的に行うだけではなく、就業規則や過去の会社運用との整合性も考慮しなければなりません。
社内のみで対応を進めると、感情的な判断や、必要な過程・記録の省略をしてしまう恐れがあります。
弁護士であれば、有効な警告書の作成、将来の紛争リスクを見据えた手続きや記録の作成など、会社を守る手続きの選定が可能です。
問題社員対応が退職勧奨や解雇通知の段階まで進んだ場合は、特に慎重な対応が求められます。
会社側は退職強要と捉えられる言動や、不当解雇と判断される手続きを避けなければなりません。
しかし、法律の知識がなければ困難でしょう。
弁護士であれば、法的に有効な解雇手続きを取り、重大な通知の場に同席、あるいは会社の代理人として交渉できます。
また、和解に至った場合の有効な合意書の作成も依頼できるため、後で従業員から「退職を強要された」と主張されるリスクを防げます。
トラブルが訴訟に発展すると、法律に関する高度な専門性と準備のための膨大な時間が必要です。
社内だけで対応するのは現実的ではないため、対応は弁護士に依頼しましょう。
特に解雇をめぐる争いでは会社側に不利益な判断が下されやすく、多額の損害賠償請求につながる恐れもあります。
労働問題に精通した弁護士であれば、過去の判例や実務経験に基づいて、会社の立場を最大限に守る方針を立ててくれます。
問題社員対応は最終的に退職や解雇の検討に至りますが、トラブルにも発展しやすい事案です。
トラブルを避けて退職させるためには、次のような段階を経て慎重に進めなければなりません。
ここでは、それぞれの段階での注意点などを解説します。
問題社員を退職させるためには、指導や配置転換、懲戒処分といった段階的な対応の過程が不可欠です。
これらの対応を踏まずに退職手続きへ進むと、不当解雇と判断される可能性が極めて高くなります。
また、会社が懲戒処分や解雇を行うためには、就業規則などへのルールの明記が必須条件です。
不備が見られる場合は、就業規則などの整備や見直しから始めましょう。
処分に関するルールは妥当性が重要であり、問題行動に対して処分が重すぎれば権利の濫用とみなされる恐れがあります。
退職勧奨とは、会社が従業員に対し退職を促し、お互いの同意を得て退職させる手続きです。
金銭的な交渉に発展する場合もあり、合意後は合意書を取り交わすなど、その後のトラブルを防止する手続きも必要となります。
しかし、退職勧奨はあくまでも従業員に自主的な退職を促すものであり、従業員が同意しなければ退職させられないため、注意が必要です。
退職勧奨を行っても状況が改善しない場合は、最終手段として解雇を検討します。
解雇を有効とするには、会社の十分な解雇回避努力、解雇予告や解雇通知書の交付などの手続きが必要です。
しかし、解雇後に従業員が不当解雇を主張し、裁判などに発展するケースも少なくありません。
不当解雇と判断されると、会社が1,000万円を超える損害賠償を負う可能性もあります。
そのため、解雇の有効性を十分に確認し、証拠や記録を整えた上で、慎重かつ適正に進めましょう。
問題社員対応を会社だけで行うか、弁護士に依頼すべきかで悩む場面は少なくありません。メリットとデメリットを理解した上で、判断しましょう。
弁護士への相談は、会社のダメージを軽減できる点が大きなメリットです。
将来的なリスクを抑えた問題解決や、和解交渉において会社が不利益を被らないための条件面の配慮などが期待できます。
また、社内の担当者が問題社員に直接対応すると感情的になり、私情が判断に影響する可能性が避けられません。
このような場面で、弁護士はあくまで法律と事実に基づいた判断を下す冷静な第三者として、対応や交渉の調整を行います。
企業と従業員双方にとって解決の納得度が高くなり、後から問題が掘り起こされるリスクの回避にも有効です。
弁護士に相談する唯一のデメリットは、弁護士費用が発生する点です。
ただし、解決にかかる費用は、相談の段階や難易度によって大きく異なります。
以下は、一般的な費用項目と金額の目安です。
事態が深刻化してから相談した場合、会社側が既に自力での解決が困難な状況にあるケースが多いため、対応の難易度が上がり、費用も高額になりやすくなります。
一方、初期段階であれば、相談料だけで解決方針を得られる可能性もあり、結果的に費用を大きく抑えられます。
問題社員の発生は避けられない側面もありますが、会社の工夫次第では問題行動を最小限に抑えられます。
具体的な工夫は、次の通りです。
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
問題行動を繰り返しても、給料や昇進に影響がなければ、改善意欲は生まれません。
人事評価において在籍年数や役職といった形式的な要素や、営業成績など一部の成果だけを重視するしくみは見直しましょう。
評価基準に勤務態度や協調性も含めれば、問題行動の改善だけではなく、真面目に働く従業員も公正さを感じられます。
こうした人事評価のしくみは、組織全体の規律やモチベーションを保つ上でも効果的です。
業務の属人化は「自分がいないと会社は困るはず」という意識を生み、問題行動を助長させるため、早急に解消すべき問題です。
特定の社員への依存度が高まると、他の従業員が注意を遠慮し、会社も処分をためらう恐れがあります。
業務の棚卸しと内容のマニュアル化を行い、業務の透明性と再現性を確保しましょう。
これには多大な時間や労力がかかりますが、休職や退職などで担当従業員が不在になった場合にも役立ち、健全な事業運営を支える基盤となります。
問題社員対応のポイントは、指導や配置転換、懲戒処分など、段階を踏んだ法的に正しい手続きの選択です。
会社が尽力しても改善が見られない場合は、弁護士のサポートを得て、解雇の有効性を十分に確認した上で手続きを進めましょう。
弁護士による適切な手続きで対応を行えば、会社の立場を守り、不利益にならない条件での円滑な解決が目指せます。
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