この記事でわかること
業務指導を重ねても改善が見られない問題社員は、職場の秩序や生産性に悪影響を与えます。
こうした場合、やむを得ず「解雇」という選択肢を考えることもあるでしょう。
しかし、日本の労働法では、解雇には厳格な要件が求められており、社内だけで対応すると「不当解雇」として訴えられるリスクが高まります。
円満かつ適法な解雇を目指す場合は、初期段階から弁護士によるアドバイスを受けることが重要です。
この記事では、問題社員を解雇するための要件や方法、弁護士に相談・依頼する際のポイントや費用などを丁寧に解説します。
目次
能力不足の社員や、ハラスメントを行う社員であっても、会社が自由に解雇することはできません。
解雇は、労働契約法16条により「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされています。
この要件により、従業員に能力不足や問題行動がある場合でも、会社が改善指導や配置転換など、解雇を回避するための措置を講じたかが重視されます。
こうした措置を経ずに、問題行動や能力不足だけを理由に即座に解雇すると、不当解雇としてトラブルに発展するリスクが極めて高くなります。
円満な解雇を実現するためには、改善措置を行い、その後退職勧奨など段階を踏んだ対応が不可欠です。
「客観的に合理的な理由」とは、解雇に至る理由が、第三者から見てもやむを得ないと判断できるものであることを指します。
具体例としては、以下のようなケースがあります。
これらの理由で解雇する場合、就業規則などに解雇理由として明記されているかも重要なポイントです。
解雇事由は就業規則などに記載することが義務付けられており、これに根拠が定められていない解雇は不当解雇と判断されます。
社内通念上の相当性とは、解雇に合理的な理由があっても、その処分が社会一般の常識から見て妥当であるかを指します。
判断にあたっては、以下の要素が考慮されます。
たとえば、普段は勤務態度が良好な従業員を、一度の欠勤で解雇する場合は処分が重過ぎると判断されます。
この相当性が認められなければ、解雇が無効であると判断されやすくなるでしょう。
問題社員の解雇は、指導・改善の段階から、法的に適切な手順を踏んで進めなければなりません。
誤った対応は、不当解雇として訴えられるリスクを高めるため、円満な解雇のためには弁護士への依頼が重要です。
解雇の際、弁護士が果たす役割は以下の通りです。
ここでは、それぞれについて詳細を解説します。
問題社員の行動や能力不足を是正するための改善命令(指導)は、解雇手続きの初期段階として極めて重要です。
適切な改善命令とは、以下のようなものを指します。
また、後から検証できる形で記録することも重要です。
円満解雇を目指す場合は、この初期段階で適切に証拠を整えておくことが、後のトラブル予防や、訴訟リスクに備えるポイントとなります。
早期の段階で弁護士に相談すれば、指導記録や改善命令書を法的に有効な証拠として残す方法や、指導の進め方について助言を得られます。
円満な解雇のための具体的な手続きとして、法律の要件を満たした解雇通知と、従業員に弁明の機会を与えることが重要です。
解雇通知書や弁明通知書などの文書が、後にトラブルとなった場合に重要な証拠となります。
事実関係の記載が曖昧であれば、十分な手続きを経たとは判断されないため、法律のポイントを押さえた文書を作成しなければなりません。
弁護士に依頼すれば、後のトラブルやリスクを見据えた、法的に有効な文書を作成してもらうことができます。
また、これらの場面は、企業にとって慎重な判断と正確な手続きが求められる重大な場面です。
弁護士に面談や通知の場に同席してもらうことで、正しい手続きを行うためのサポートを得られるでしょう。
適切な手順を踏んで解雇しても、従業員が納得せず不当解雇として争うケースは少なくありません。
不当解雇ではないことを証明するためには、企業側が客観的な証拠を示す必要があり、対応には高度な法的知識が求められます。
トラブルに発展してしまった場合、弁護士の関与がなければ、企業側が被るダメージを最小限に抑えることは難しくなるでしょう。
弁護士に関与してもらうと、トラブルに発展した場合にも、代理人として対応をまかせることができます。
また、トラブルの解決手段には、示談や労働審判、訴訟など、複数の方法があります。
トラブル解決のためにどの手段を選ぶかは、個々の状況によって異なります。
弁護士は複数の解決手段の中から、それぞれのメリット・デメリットを整理した上で、企業に最適な解決策を提案してくれます。
結果として、余計な対立を避け、円満なトラブル解決を目指すことが可能です。
問題社員の解雇を円満かつ適法に進めるためには、どの弁護士に依頼するかが極めて重要です。
弁護士にも得意分野があり、誰に依頼しても同じ結果になるわけではありません。
誤った選び方をすると、期待したサポートが受けられない場合や、かえってトラブルが長引く可能性もあります。
依頼を検討する際は、円満な解雇手続きに適した弁護士を見極めましょう。
ここでは、弁護士選びのポイントを紹介します。
会社の問題に関わる弁護士は、大きく「労働者側」と「企業側」の2つに分かれます。
労働者側の弁護士は、労働者の権利保護を前提とした活動を行うのが一般的です。
そのため、企業側の立場で解雇手続きを進める場合は、必ず企業法務専門の弁護士に依頼する必要があります。
また、企業法務専門の弁護士であっても、知的財産権やM&Aなどを専門とする弁護士は、労働問題の経験が少ない場合があります。
このように、専門分野が異なる弁護士に依頼をしても、相談や依頼を断られることや、十分な対応が得られないこともあります。
問題社員の解雇という難易度の高い対応には、日頃から労働問題を継続的に扱い、企業の防衛に精通した弁護士を選ぶことが欠かせません。
解雇は、日本の労働法において企業にとってハードルが高いものです。
トラブルなく進めるためには、高度な専門知識と豊富な実務経験が必要です。
そして、有効な解雇には、改善指導や配置転換などの段階的な対応、適切な証拠の収集、過去の裁判例の理解が欠かせません。
誤った手続きを踏むと、金銭的な損害だけでなく、企業の社会的信用の低下や、他の従業員への悪影響など、被害は広範囲に及びます。
企業のリスクを回避するためには、日常的に解雇や労務トラブルを扱い、解雇案件の解決実績を持つ弁護士を選ぶことが重要です。
実績のある弁護士は、初期段階から適法な手続きをサポートし、企業のリスクを大幅に下げることができます。
問題社員の解雇について弁護士に依頼したいと思っても、費用面が不安で1歩踏み出せないというケースも少なくありません。
解雇トラブルを弁護士に依頼する場合に発生する、以下の代表的な費用を事前に確認しておきましょう。
ここでは、それぞれの費用の詳細と相場を紹介します。
相談料とは、弁護士にトラブルの内容を相談する際にかかる費用です。
一般的には30分~1時間単位で5,000~1万円程度が相場です。
相談時間を超過した場合は、別途費用がかかることがあります。
また、中には初回相談を無料とする事務所もあるため、費用を抑えたい場合は、無料相談の活用も検討しましょう。
着手金は、弁護士に正式に対応を依頼するときに発生する費用です。
案件の難易度や想定される業務量によって金額は変動しますが、約30~40万円程度が相場です。
なお、着手金を定額または無料に設定している事務所もありますが、報酬金や日当が高めに設定されている場合もあります。
正式な依頼前に、全体の費用体系を必ず確認しましょう。
報酬金とは、依頼した案件が解決したときに支払う費用です。
定額で設定される場合と、得られた経済的な利益に応じたパーセンテージで決まる場合があります。
会社側の解雇トラブルでは、たとえば従業員から多額の金銭請求があった際、交渉により請求額を減額できた分などが、成功報酬の対象となることがあります。
いずれも、依頼する弁護士により異なるため、解決時の報酬については事前に確認することが重要です。
日当は、弁護士が裁判所への出廷や、解雇通知・面談の場への同席など、現地に赴き拘束された時間に対して発生する費用です。
裁判所や面談の場までの距離が法律事務所から遠く、移動に時間がかかる場合などでは、費用が高額になりやすくなります。
相場は、半日で3万~5万円程度、1日で5万~10万円程度が一般的です。
実費とは、弁護士が業務を行う上で実際に発生した費用のことです。
具体的には次のようなものがあります。
これらは報酬等の弁護士費用とは別に請求されるため、費用に心配がある場合は、依頼時に過去の実績などを確認しておくと安心です。
社員に問題行動がある場合や、能力が不足している場合でも、会社は社員を簡単に解雇することはできません。
不当解雇だと訴えられるリスクを避け、円満に解雇するには、改善指導や解雇通知、弁明の機会の付与など、適法で段階的な手順を踏むことが不可欠です。
しかし、これらの対応を適切に行うには、解雇についての高度な専門的知識と実務経験が求められます。
そのため、早い段階で解雇問題に強い弁護士に相談することが、後々のトラブルを予防し、円満な解雇につなげる最も確実な方法となります。