この記事でわかること
従業員からパワハラの相談があったときに、企業には適切に対応をする義務があります。
その第一歩が、社内でパワハラの事実の有無を確認する「社内調査」です。
しかし、いざ対応が必要となった場面で「誰が」「どのように」調査を進めたらよいか、迷う方も多いのではないでしょうか。
調査方法を誤ると、相談者や関係者への二次被害を引き起こし、問題が深刻化する恐れもあります。
企業の担当者は、社内調査方法について確認しておくことが必要です。
この記事では、パワハラ相談を受けた際に行う社内調査の進め方を中心に、具体的な手順や注意点、弁護士の役割などを、初めて対応する方にもわかりやすく解説します。
パワハラの社内調査(内部調査)とは、従業員からパワハラに関する相談や報告を受けた際に、その事実関係を確認するために行う調査です。
ここでは、社内調査の概要と、誰が実施するのかについて解説します。
2022年4月より、すべての企業にパワハラ防止措置が義務づけられました。
このため、従業員からパワハラの相談や報告があった場合、会社はその事実を確認するために社内調査を行う必要があります。
調査では、主に以下の点を確認します。
社内調査の結果に基づき、加害者に対する懲戒処分や、被害者への心身のケア、再発防止策など、必要な対応を講じることになります。
社内調査を誰が実施するかについて、法律上の明確な規定はありません。
一般的には人事部など社内の関係部署が対応しますが、中立的な立場で行うことが重要なポイントです。
複数人で対応することができれば、中立性や信頼性をより高めることができるでしょう。
また、外部の弁護士など専門家に調査を依頼することで、法的知見に基づく的確かつ信頼性の高い調査を実施できるメリットもあります。
パワハラの社内調査は、次のような手順で進めるのが一般的です。
ここでは、それぞれのステップについて詳しく説明します。
いきなり当事者や関係者へのヒアリングなどの調査に入る前に、事前準備を行っておくことが重要です。
調査が効率的に進められるだけではなく、方向性やポイントなどを押さえた適切な対応に繋がります。
社内調査には一定の時間がかかるため、その間の被害拡大を防ぐために就業環境について応急処置的な対応が必要です。
被害者と加害者の物理的な接触を避けるために、就業場所の変更や一時的な配置転換などの措置を検討しましょう。
社内規程(就業規則・ハラスメント防止規程等)で、調査実施者や手続きの流れが定められている場合があるため、必ず事前に確認しましょう。
社内規定などに定められた手続きなどを無視して行われた調査は、有効性が疑われる可能性もあります。
また、パワハラの事実が確認された場合に、懲戒処分の対象かを判断するため、懲戒事由の規定も確認しておく必要があります。
該当の行為がパワハラか否かの判断は、調査担当者の主観ではなく、法律の定義などに基づいて行います。
厚生労働省が示す「パワハラの6類型」や法的定義を事前に整理することで、ポイントを押さえたヒアリングや、事実認定の適切な判断に効果的です。
調査を効率的に行うため、ヒアリング前に調査担当者が収集できる客観的資料があれば、事前に確認しておきましょう。
客観的証拠には、次のようなものがあります。
事前準備を行った後は、当事者へのヒアリングを行います。
ヒアリングは「スケジュールの空いた者」からなど、調査担当者や当事者の都合で決めるのではなく、原則として以下の順番で行うようにしましょう。
ヒアリング時間は1~2時間程度を目安とし、5W1Hを意識して丁寧に聞き取りをします。
後で「言った・言わない」といったトラブルの防止や、事実認定の適正さを保持するために、録音や録画による記録も推奨されます。
ここでは、当事者別のヒアリングポイントを解説します。
被害者へのヒアリングでは、以下の内容を確認します。
ヒアリングをする際は、被害者の話しやすさに配慮し、同性の担当者を含めた複数人体制とするなどの工夫が重要です。
また、加害者へ事実確認のヒアリングを行う前に、必ず被害者の意向を確認しましょう。
会社にはパワハラ調査の義務がありますが、被害者の意に反して調査を進めることは適切ではありません。
被害者が加害者へのヒアリングを拒否する場合は、被害者への心身や就業環境への配慮、再発防止策などの対応を行いましょう。
加害者へのヒアリングは、被害者の同意を得た上で実施します。
主な確認事項は以下のとおりです。
加害者が自身の行為をどう捉えていたかも事実認定のために重要な情報であるため、丁寧に聞き取ることが重要です。
被害者と加害者双方の主張が食い違う場合や、客観的証拠が不足している場合には、目撃者や関係者からの聞き取りも行います。
このときも、事前に被害者と加害者の同意を得るようにしましょう。
関係者に対しては、プライバシー保護の重要性を伝え、口外禁止の徹底を求めるなどの配慮も必要です。
ヒアリング結果や収集した証拠を総合的に判断し、パワハラの事実があったか否かを認定します。
事前に確認した「パワハラの6類型」や法的定義から判断をします。
ただ、専門家ではない個人の独断で結論を出してしまうと、調査や結果についての信頼性が疑われる恐れがあります。
そのため、複数人での検討や、外部の弁護士などの専門家の助言を得ることが望まれます。
調査結果は文書にまとめ、被害者と加害者の双方に通知します。
ハラスメントが認定された場合には、加害者に対して懲戒処分などの人事上の措置を講じます。
あわせて、被害者の心身のケアとして産業医との面談や、職場環境を整えるための配置転換などを検討しましょう。
また、調査の結果に関わらず、必ず職場全体を対象にハラスメントに関する研修を実施し、再発防止に取り組むことも重要です。
ハラスメントに関する社内調査は、企業内の人事部門などで実施することも可能です。
しかし、調査の中立性が確保できない場合や、法的な判断が求められる場合など、状況によっては弁護士のサポートが必要になることもあります。
ここでは、特に弁護士の関与が望ましいケースについて紹介します。
社内の人員だけで調査を行うと、当事者との利害関係が影響し、中立性が確保できないケースもあります。
このような場合、外部の弁護士のような第三者が調査に関与することで、公平性が保たれやすくなり、結果に対しての信頼も得やすくなります。
事案によっては、証拠が乏しく、双方の主張が食い違うなど、事実関係の判断が難しいケースも少なくありません。
弁護士であれば、判断が難しいケースであっても、法律や裁判例に照らして、客観的かつ適切に事実認定を行うことや、その後の対応について相談することも可能です。
パワハラ問題が深刻化すると、労災の申請や、安全配慮義務違反を理由とした加害者と企業への損害賠償請求といった法的トラブルに発展することもあります。
弁護士が関与することで、示談交渉や有効な証拠の収集など、調査の段階から法的対応を見据えてリスクに備えることが可能です。
パワハラの社内調査を行うときは、次のような注意点があります。
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
社内調査は、中立的な立場で行う必要があります。
調査担当者が先入観や偏見を持って対応すると、調査の信用性が損なわれるだけでなく、事態が深刻化し、二次被害に発展する可能性もあります。
聞き取りでは傾聴を心がけ、判断は証拠に基づいて客観的な視点で行うことが重要です。
パワハラの相談内容や調査の過程で得られる情報は、当事者や関係者のプライバシーに関わるものです。
これらの情報は慎重に取り扱う必要があるため、調査担当者は漏洩がないよう厳重に管理しましょう。
第三者にヒアリングを依頼する場合は、守秘義務があることを説明し、情報を外部に漏らさないように協力を求めることも大切です。
必要に応じて、秘密保持に関する誓約書の記入などの対応も検討しましょう。
被害を訴えた従業員や調査に協力した関係者に対し、不利益な対応をとることは法律で禁止されています。
たとえば、相談や調査協力をしたことへの報復の意図がある配置転換や評価の引き下げなどが該当します。
調査担当者は当然のこと、関係者などによる不当な扱いがないよう、十分に配慮しましょう。
ハラスメントの相談を受けたら、できる限り迅速に対応しなくてはなりません。
対応の遅れが原因で問題が深刻化すると、会社が安全配慮義務を怠ったとして責任を問われる可能性もあります。
ただし、焦って対応を誤らないように調査は丁寧かつ着実に進めるなど、バランスを取る心がけが重要です。
パワハラの社内調査は、調査の流れや注意点などのポイントを押さえた対応が重要です。
被害拡大防止のための応急措置を実施し、被害者と加害者の物理的接触を避け、客観的証拠を収集するなど初動が重要です。
弁護士のサポートを得ることで、信頼性の高い調査が実現できますので、解雇問題対応に実績のある弁護士に相談がおすすめです。