この記事でわかること
職場におけるセクハラは、従業員の尊厳を傷つけ、職場環境を著しく悪化させる深刻な問題です。
しかし、セクハラの定義や適切な対応方法、防止策について、正しく理解している人は意外と少ないのが現状です。
本記事では、セクハラの基本的な知識から具体的な対応策、さらには法的リスクまで、職場でのセクハラに関する包括的な情報をまとめました。
これらの知識を身につけることで、健全で働きやすい職場環境の実現に貢献しましょう。
目次
セクハラとは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受ける、あるいは「性的な言動」により就業環境が害されることです。
一般的に、セクハラは異性に対するものを連想しがちですが、同性に対するものも含まれます。
また、性別を問わず、行為者にも被害者にもなり得るということも重要です。
さらに、セクハラの行為者は社内の従業員だけに限らず、取引先など社外の従業員や顧客である場合もあります。
セクハラの定義についてより深く理解するために、「職場」「労働者」「性的な言動」という3つの要素について見ていきましょう。
職場とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指します。
労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
具体的には、以下の場所が該当します。
勤務時間外の「宴会」なども、実質上職務の延長と考えられる場合は、「職場」に該当します。
労働者とは、正社員だけでなく、パートタイム労働者、契約社員、派遣社員などの非正規雇用労働者を含むすべての労働者をいいます。
つまり、雇用形態に関わらず、すべての労働者がセクハラの対象となり得ます。
性的な言動とは、性的な内容の発言および性的な行動を指します。
具体的には、以下の内容が該当します。
セクハラは大きく分けて「対価型」と「環境型」の2種類に分類されます。
対価型セクハラは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けることを指します。
性的な要求への服従または拒否を、労働条件の決定に直接的または間接的に関連付けていることが特徴です。
多くの場合、地位や権力の差を利用して行われます。
環境型セクハラとは、労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの問題が起こることをいいます。
結果として、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
近年、職場でのセクハラ問題は多く、ニュースに取り上げられるような重大な事例から、判断が難しいグレーゾーンな事例まで多岐に渡ります。
ここでは、具体的な事例を紹介します。
2022年12月、元陸上自衛官の女性が複数の男性隊員からセクハラを受けていたというニュースが大きな話題となりました。
被害を受けた女性が実名で事実を公表したことでも、社会的な注目を集めました。
元陸上自衛官の女性は、以下の内容を訴えました。
この事件は、複数の男性が関与しており、非常に悪質な行為です。
集団で行われたことにより、被害者女性の心理的苦痛はより深刻なものであることは想像に難くありません。
この事件が明るみになり、男性が多い職場において、組織全体のセクハラに対する意識が非常に低いことが露呈しました。
自衛隊という特殊な環境下で起きた事件であり、業界全体の体質に問題がある可能性も考えられます。
また、監督者としての責務への自覚が不足していることも見受けられます。
セクハラ問題は、単一の企業内にとどまらず、企業グループ全体に影響を及ぼす可能性があります。
ある事例では、親会社の事業所内で勤務していた子会社の従業員が、別の子会社の従業員からセクハラ被害を受けるという複雑な状況が発生しました。
被害者は、加害者から繰り返し交際を要求され、自宅に押しかけられるなどの被害を受けていました。
被害者は同僚にその事実を相談し、相談された同僚が、親会社の相談窓口に事実を報告し、対応を求めました。
しかし、親会社の対応は不十分なものでした。
相談窓口は、加害者に対する事実確認は行ったものの、肝心の被害者に対する事実確認を適切に行いませんでした。
この対応により、最終的に被害者は親会社に対して安全配慮義務違反を内容とする損害賠償請求を行うに至りました。
この事例は、企業グループ内でのセクハラ問題の複雑さと、適切な対応の重要性を浮き彫りにしています。
セクハラは、ニュースに取り上げられるような明らかに悪質な事例だけではなく、日常的に判断が難しいグレーゾーンの事例も多く存在します。
ここでは、職場でよく見られる判断が難しい事例について解説します。
食事へ誘う行為は、社会的な付き合いの一環として許容される場合もある一方で、誘い方や頻度、相手の反応によってはセクハラとなり得ます。
たとえば、業務時間中に頻繁に誘う行為や、明確に断られたにも関わらず執拗に誘い続ける行為は、相手に不快感を与え、セクハラとして問題視される可能性が高くなります。
特に上司から部下に対して行われる場合は、立場上断りづらいこともあります。
このような事態を避けるためには、以下のような姿勢が重要です。
「~君」「~ちゃん」といった呼び方は、親しみを込めて使用する場合もある一方で、性差別的な印象を与える可能性があります。
職場はあくまでも公的な場として捉えることが求められます。
相手が男性・女性問わず、「~さん」と統一して呼ぶようにしましょう。
性別役割分担意識に基づく言動は、社会的な慣習や文化的背景から無意識に行われることが多い問題です。
たとえば以下のような発言が該当します。
このような発言は、たとえ本人に悪気がなくても、相手を不快にさせ、セクハラ・性差別と捉えられる可能性があります。
性別による固定概念で判断するのではなく、個人の能力や適性に基づいた言動を心掛けましょう。
容姿やプライベートに関する発言も、状況によってはセクハラとなり得ます、
たとえば以下のような発言が該当します。
これらがセクハラに該当するか否かは、状況や相手との関係性によっても異なります。
当然、友人関係などの距離の近い相手であれば、許される場合もあります。
しかし、職場においてこれらの発言をすることは、相手に不快感を与える可能性があるため、控えましょう。
職場での雑談やコミュニケーションは、良好な人間関係を作り、円滑に業務を遂行させるために不可欠です。
しかし、その内容によってはセクハラとなる可能性があります。
特に注意が必要なのは、卑わいな発言や、「下ネタ」と呼ばれる性的な冗談です。
これらの発言は、話し手に悪意がなくても、聞き手を不快にさせる可能性が高いです。
特にお酒が入った席では、普段よりも言動が大胆になりがちで、こうした発言が増える傾向にあります。
しかし、あくまでも職場は仕事をする場であり、同僚は仕事上の関係です。
たとえ業務時間外や職場外であっても、仕事関係者との会話である以上、一定の節度が求められます。
職場において発生したセクハラを、会社が放置することは様々なリスクを伴います。
セクハラを放置することによって生じる、法的責任や組織への影響について解説します。
民法715条には、使用者責任について「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定められています。
この条文は、仕事の場や仕事に関連した場(飲み会の席や社員旅行)で起きたセクハラ問題に対して、会社は使用者責任を負うこととなり、損害賠償を請求される可能性があることを意味します。
使用者は、労働者に対して快適な職場環境を提供するよう配慮する義務があります。
これを職場環境配慮義務といいます。
この義務に基づき、使用者はセクハラが起きないよう職場環境を整備しなければなりません。
セクハラ防止のための適切な措置を講じない、あるいはセクハラ被害の訴えを適切に処理しなかった場合は、職場環境配慮義務を怠ったとみなされ、会社は債務不履行責任を問われる可能性があります。
男女雇用機会均等法は、職場におけるセクハラ防止のために、事業主に対し雇用管理上必要な措置をとることが義務付けられています。
具体的には、以下の内容が含まれます。
これらの適切な対応を取らないことは、男女雇用機会均等法違反となり、行政指導の対象となる可能性があります。
また、悪質な場合は企業名の公表などの措置が取られることもあります。
セクハラに適切な対応をしないことは、法的な問題だけではなく、組織への影響も大きくなります。
近年、SNSやインターネットの普及により、個人が容易に情報を拡散できるようになりました。
セクハラ問題が公になった場合、企業イメージは大きく損なわれ、取引先や顧客からの信頼を失う可能性があります。
また、これらの問題は人材確保にも大きな影響を与えます。
セクハラ問題を抱える企業は、優秀な人材の確保が難しくなるだけでなく、既存の社員の流出にもつながりかねません。
これらのリスクを回避するために、会社はセクハラ防止を経営上の重要課題として認識し、積極的に取り組む必要があります。
職場でセクハラが発生した場合、会社は適切に対応しなければなりません。
具体的な対応の流れについて解説します。
まず、セクハラ被害の報告等があった場合は、事実関係を調査します。
被害だけでなく、加害者、目撃者それぞれに対して聞き取りを行います。
この時、あくまでも中立的な立場を保ち、先入観を持たずに対応することが重要です。
また、メールやメッセージなどの証拠となるものがある場合は、速やかに収集し、慎重に分析をします。
同時に、二次被害を防ぐために、関係者に守秘義務を徹底し、被害者のプライバシーを厳重に保護しましょう。
噂が広まることは、被害者にさらなる苦痛を与えるため、最新の注意を払う必要があります。
調査結果に基づき、対応方針を決定します。
対応方針については、以下の要素を考慮します。
なお、対応方針には、以下のものが含まれます。
決定した方針に基づき、具体的な対応を実施します。
懲戒処分を実施する場合は、就業規則に基づいて適切に行いましょう。
加害者に対しては、決定した処分を明確に伝えるとともに、再発防止のための教育も必要となります。
加害者が自身の行動の問題点を深く理解し、改善できるような内容の教育を行いましょう。
被害者に対しては、心理的なダメージを考慮して、きめ細やかなケアが必要です。
必要に応じて部署異動や業務の調整を検討する他、専門家によるカウンセリングの提供なども検討しましょう。
被害者が安心して働ける環境を整えることが最も重要となります。
対応後も継続的なフォローが必要となります。
被害者の状況を定期的に確認し、心身の状態や業務遂行に問題がないか確認しましょう。
加害者に対しても、同様のセクハラを起こさないか特に注意をして観察し、必要に応じて追加の教育を行います。
また、職場全体に対してもセクハラ防止に関する研修を実施し、再発防止に向けた取り組みを行います。
定期的にアンケート調査や面談をすることで、セクハラ被害を相談しやすい職場環境を作りましょう。
セクハラが発生してからの対応も重要ですが、それ以上に未然に防ぐことが極めて重要です。
セクハラを予防するための対策について解説します。
会社は、職場におけるセクハラに関する方針を明確化し、労働者に周知・啓発する必要があります。
具体的には、就業規則やその他の服務規律を定めた文書に、セクハラ禁止の方針を明記します。
ここで、禁止されるセクハラの内容や、セクハラ自体があってはならない旨を明確に示さなければなりません。
また、規定だけではなく社内報やパンフレット、ホームページなどで、セクハラと認識しづらいような事例についてもセクハラとなり得ることを周知します。
特に、性別分担意識に基づくような言動(「男のくせに~」「女だから~」など)や同性に対する言動などもセクハラに該当することを伝えまることが重要です。
さらに、セクハラ行為者に対する厳正な対処方針も明確にしましょう。
具体的には、セクハラ行為者への懲戒規定を就業規則等に明記し、どのような行為がどのような処分に相当するかの判断要素を明らかにします。
セクハラ問題が発生した際に、労働者からの相談に迅速に対応できるような相談体制を整備しなくてはなりません。
具体的には、相談窓口を設置し相談担当者を指定する、あるいは外部機関に委託するなどの方法があります。
相談方法は、面談・電話・メールなど複数の選択肢を用意し、労働者が利用しやすい体制を整えましょう。
また、相談内容に応じて人事部門や上司と連携できる仕組みを構築し、適切な対応が取れるようにします。
相談担当者には、対応マニュアルを作成・配布し、必要な研修を実施することで、適切な対応ができるよう支援します。
相談することが、二次被害にならないようにすることが重要です。
セクハラに対する職場の意識を高めるために、研修を行いましょう。
まずは、セクハラの定義と種類を明確に説明し、職場で起こりうる具体的な事例を提示します。
これには、明らかなセクハラだけでなく、グレーゾーンの事例も含めることが重要です。
これにより、参加者は日常の言動を見直す機会を得ることができるでしょう。
そして、関連法規(男女雇用機会均等法など)と会社の方針を解説し、法的責任についても理解を深めます。
セクハラが被害者、職場環境、会社に与える影響を具体的に説明することで、問題の重大性を認識するよう働きかけましょう。
また、セクハラを防ぐための具体的な行動指針や、目撃した際の適切な対応方法、相談窓口の利用方法についても説明します。
特に、管理職世代に対しては、特別な研修を行うことが効果的です。
時代背景の変化により、かつては許容されていた言動が、現在ではセクハラと判断される可能性があることを強調します。
悪気なく相手を不快な気持ちにさせてしまうことのないよう、具体的な事例を用いて理解を促しましょう。
また、管理職の立場からセクハラを防止し、適切に対応する責任についても重点的に説明します。
セクハラは、従業員の尊厳を傷つけ、職場環境を著しく悪化させる問題です。
職場で実際にセクハラが発生してしまった場合や、発生リスクが高い状況にある場合は、弁護士へ相談をしましょう。
セクハラ問題は、発生してからの対応よりも、未然に防ぐことが最も重要です。
適切な予防体制の構築には、法的な観点からのアドバイスが不可欠といえます。
セクハラに関する方針を定める規定の作成や、従業員に対する研修内容、相談窓口の設置などについて支援を受けましょう。
セクハラが発生してしまった場合や、従業員から訴えがあった場合、会社は迅速かつ適切な対応が求められます。
この段階での誤った対応は、被害者にさらなる苦痛を与える二次被害を引き起こす可能性があります。
そのため、セクハラ問題が発生した際は、速やかに専門の弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談することで得られるメリットは、多岐に渡ります。
セクハラは、被害者と加害者が存在するため、極めて複雑かつ繊細な問題です。
専門の弁護士に相談することで、適切な対応をしましょう。
セクハラは、被害者、加害者そして組織全体に深刻な影響を及ぼします。
しかし、適切な知識と対策があれば、多くのケースを未然に防ぐことができます。
本記事で紹介したセクハラの定義の理解、適切な対応、予防策の実施、そして必要に応じた専門家への相談を通じて、誰もが安心して働ける環境を作りましょう。
またセクハラ防止対策は、組織全体で取り組むべき課題です。
本記事を参考に、出来ることから一歩ずつ取り組んでいきましょう。