この記事でわかること
「労働基準法」は、労働条件に関するルールを定めています。
事業主や企業の労務管理担当者だけではなく、働いてお金を得るすべての人にとって重要な法律です。
違反した場合は、罰金や懲役等の刑事罰が科される可能性があるため、会社は法違反とならないように法律を知っておく必要があります。
ここでは、労働基準法の基礎知識やポイント、2023年の法改正ポイントや違反してしまうケースと罰則について解説します。
労働基準法とは「最低限の労働条件」を定めた法律です。
会社は、労働基準法に定められた労働条件を下回る条件で、労働者を働かせることができません。
仮に、労働者双方で合意していた労働条件であっても、労働基準法に違反する部分は無効となります。
これは労働基準法が「強行法規」であり、当事者の意思によって変更することが許されないという規定であるためです。
労働基準法に定める労働条件に達しない場合は、労働基準法の規定が強制的に適用されます。
労働基準法は、憲法25条で定められた「生存権」を基本的理念とし、労働条件の最低条件を定めることで、労働者の人間らしい生活を保護することを目的としています。
本来、労働条件は会社と労働者が対等な立場で決めなくてはならないものであり、双方が合意した内容で締結できることが前提です。
しかし実際は、雇用される労働者側が弱い立場にあるため、労働者が不合理な条件を負わされないために、法律で最低限の条件を決めています。
労働基準法では、働く上で重要なあらゆる条件について、具体的な内容を定めています。
定められている労働条件には、以下の事項があります。
たとえば、労働基準法では1日の労働時間を8時間と決めています。
1日8時間労働が法律で決められた最低条件となるため、会社と労働者の間で1日9時間労働という契約を締結することはできません。
この場合は労働基準法の労働条件が強制的に適用されるため、1日8時間の労働契約を締結したことになります。
労働基準法の対象者は、すべての労働者です。
国籍や性別、正社員やアルバイト等の就業形態等に関わらず、法律の保護を受けます。
しかし、次の者は労働基準法内で定義する「労働者」から除外されているため、労働基準法の規制を受けません。
船員法の適用を受ける船員は、労働基準法の一部の規定を除き、労働基準法が適用されません。
これらの者は、働き方の実態や特性に合った船員法によって保護を受けます。
事業主と同居している親族は、原則、労働者としてみなされません。
しかし、同居親族以外の従業員を雇用している場合は、例外として労働者と認められることがあります。
要件は、同居の親族が親族以外の従業員と同様に、事業主の指揮命令を受け、就業状況が他の従業員と変わらないと判断できることです。
家事使用人とは、一般家庭において家事等を手伝うために、個人に雇われる人を言います。
しかし、家事代行サービスを業としている会社で雇われて、各家庭で家事を行う者は、労働基準法が適用されます。
公務員は、国民の生活に関わる業務を行っていることから「全体の奉仕者」という理由で、労働基準法の適用除外となっています。
一部例外として、国家公務員のうち、造幣局や国立印刷局等の行政執行法人の職員は労働基準法の適用対象です。
また、地方公務員は労働基準法の一部のみが適用されます、
地方公務員であっても、水道局や電気事業等の地方公営企業等に該当する職員は、労働基準法の適用を受けます。
個人事業主やフリーランス等、企業と業務委託契約を締結して業務を行う者は、原則、労働基準法の適用除外とされます。
しかし、業務委託契約を締結していたとしても、実際には雇用される労働者と変わらない場合は、労働者とみなされて労働基準法の適用を受ける可能性があります。
労働契約法とは、会社と労働者の間で締結される労働契約において、民事的なルールを定めた法律です。
労働契約を締結するときの基本原則や、労働契約の成立・変更に関する要件、解雇の相当性を判断する基準等が定められています。
労働基準法は、労働契約において決定される個々の労働条件について、最低限適用される条件を定めています。
労働契約法により労働契約の締結に関する民事的なルールを定めることで、会社と労働者の間で起こるトラブルを防止しています。
労働基準法の総則では、労働基準法の適用について常に考慮されなくてはならない、基本的な7つ原則を定めています。
この原則とは、下表の通りです。
<労働基準法の基本7原則>
第1条 労働条件の原則 | ・労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければなりません ・労働基準法で定める労働条件は最低条件であるため、労働基準法に定められている条件を理由として、労働条件を引き下げてはならず、労働者を使用する者は、労働条件の向上に努めなければなりません |
第2条 労働条件の決定 | ・労働条件は、会社と労働者が対等な立場において決定しなくてはなりません ・会社と労働者は、労働協約や就業規則等の労働契約を遵守し、誠実にその義務を履行しなければなりません |
第3条 均等待遇 | ・会社は、労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、労働条件について差別をしてはいけません |
第4条 男女同一賃金の原則 | ・会社は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的な取り扱いをしてはいけません |
第5条 強制労働の禁止 | ・暴力や脅迫、監禁、精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意に反した労働を強制してはいけません |
第6条 中間搾取の排除 | ・法律に基づいて許される場合以外で、業として他人の就業に介して利益を得てはいけません |
第7条 公民権行使の保障 | ・会社は、労働者が労働時間中に選挙権その他公民としての権利を行使し、または公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合、これを拒んではいけません ただし、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができます |
(参照元:e-GOV法令 労働基準法)
労働基準法では、労働に関する様々な条件が具体的に定められており、労働者を雇用する会社は必ず守らなければなりません。
ここでは、働く上で特に重視される労働基準法のポイントについて、解説をします。
労働基準法では、賃金の支払いについて「(1)通貨で(2)直接労働者に(3)全額を(4)毎月1回以上(5)一定の期日を定めて支払う」という賃金支払5原則を定めています。
賃金支払5原則の詳細とポイントは、次のとおりです。
通貨払いの原則 | 原則通貨で支払うこと 労働協約の定めがある場合を除き、現物給与等で支払うことは認められません |
直接払いの原則 | 労働者本人に直接支払うこと 労働者が賃金債権を譲渡した場合でも、労働者本人に支払わなければなりません なお、本人が病気であるときに、妻子等の使者に支払うことは認められています |
全額払いの原則 | 賃金は全額を支払うこと 社会保険料等の法律によって認められているものや、労使協定を締結しているものについては、賃金から控除できます |
毎月1回以上支払いの原則 | 毎月1回以上支払いをすること 年俸制の場合であっても、1カ月に1回の支払いが必要です なお、賞与等の臨時に支払う賃金は、この適用から除外されます |
一定期日払いの原則 | 一定期日を決めること 月給制の場合に「第3〇曜日」と決める方法では、支払日が7日の範囲で変動するため、認められません |
前述したように、労働時間は1日8時間、1週40時間までと決められています(労働基準法32条)。
1日の労働時間を、休憩時間を除いて8時間とする場合は、1週間の労働日数は必然的に5日間となります。
なお、一定の要件を満たした事業場(特例措置対象事業場)や変形労働時間制を導入している会社では、法定労働時間の例外が認められています。
会社は労働者に、毎週少なくとも1日、あるいはあらかじめ期間を決めた4週間の内で4日以上の休日を確保しなければなりません(労働基準法35条)。
休日は、交代制の勤務を除いて、原則は暦日の午前0時から午後12時まで24時間の休業をいいます。
なお、労働基準法では、休日を日曜日や祝日とすることまでは規定していません。
前述の通り、労働時間は労働基準法により上限が決められています。
しかし、労働時間の上限を厳密に適用すると、会社の運営に支障が出ることを考慮し、例外的に時間外労働や休日労働をさせることができる場合を定めています。
災害等の避けることができない事由で、臨時の必要がある場合は、労働者に時間外労働・休日労働をさせることができます(労働基準法33条)。
この場合は、事業所を管轄する労働基準監督署に届出を行い、許可を受けなければなりません。
地震等の予測不可能な災害では、事後に遅滞なく届け出ることで足ります。
会社と労働者の間で、時間外労働や休日労働に関する事項について労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることで、時間外労働・休日労働が認められます(労働基準法36条)。
この労使協定は、労働基準法36条に定められていることに由来して「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
36協定の効果は最大で1年間で、多くの会社が残業を想定して36協定を締結しています。
労働基準法では、原則の労働時間や休日を決める一方で、例外的に労働させることができる規定を設けています。
本来は認められていない時間外・休日労働をさせることになるため、その労働時間に対しては通常の賃金よりも高い「割増賃金」の支払うことを定めています。
法律で定められている割増率はあくまでも下限であるため、企業ごとに高い割増率を設定することも可能です。
時間外労働(1日8時間・1週40時間を超えたとき) | 25%以上 |
時間外労働(1カ月45時間・1年360時間を超えたとき) | 25%以上 |
時間外労働(1カ月60時間を超えたとき) | 50%以上 あるいは代替休暇の付与 |
休日労働(法定休日に働かせたとき) | 35%以上 |
深夜労働(夜22時から翌朝5時までの間に働かせたとき) | 25%以上 |
なお、割増賃金は事由が2つ以上生じている場合は、どちらか一方を支払うのではなく、両方の割増率を合わせて支払わなければなりません。
たとえば、1日の労働時間が8時間を超えて時間外労働が生じている場合で、深夜帯まで仕事をした場合は、時間外労働25%と深夜労働25%を合わせて、50%割増された賃金を支払うことになります。
割増賃金の算定において、時間外労働と休日労働が重なることはありません。
たとえば、土日の2日間を休日としている会社では、土曜日を「所定休日(法定外休日)」とし、日曜日を「法定休日」と設定するケースが多いです。
労働者にとっては土日のどちらで働いても「休日に働いた」という事実に変わりませんが、割増賃金の算定において、両者は区別されます。
土曜日の労働は1週40時間という法定労働時間を超えた「時間外労働」に該当し、時間外労働として25%割増された賃金の支払いが必要です。
一方、日曜日の労働時間は法定休日に働いた「休日労働」となり、休日労働として35%割増された賃金を支払います。
なお、休日労働が1日8時間を超えた場合でも、8時間を超えた時間に対して、時間外労働手当として25%の割増率が加算されることはなく、35%の割増率を支払います。
会社は、1日の労働時間に応じて定められた休憩時間を与えなければなりません(労働基準法34条)。
休憩時間は、次のとおりに決められています。
1日8時間労働としている場合は、本来休憩時間は45分与えれば問題ありませんが、残業をすると労働時間が8時間を超えるため、1時間の休憩が必要となります。
6カ月以上連続で勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対し、企業は10日分の年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法39条)。
年次有給休暇は、正社員に限らず、パートやアルバイト等の短時間勤務の労働者も付与の対象です。
パートやアルバイト等で、労働時間や日数が正社員と比べて短い労働者は、比例付与された日数分を有給として与えることになります。
解雇とは、会社側からの一方的な意思表示による労働契約の解除です。
労働者にとっては、収入を失う重大な事態となるため、法律により一定の基準が設けられています。
会社が労働者を解雇する場合は、以下の対応をしなければなりません(労働基準法20条)。
労働者から解雇理由について証明を求められた場合は、すみやかに「解雇理由証明書」を交付することが義務付けられています。
次の者は解雇が制限されているため、例外を除いて解雇することはできません。
しかし、天変事変等のやむを得ない事情や、業務災害において打切補償が支払われた場合は解雇制限が解除されます。
2023年には、労働基準法に関連する重要な改正がありました。
時間外労働の割増賃金や、デジタルマネーによる賃金の支払いについて等、労働者とトラブルになりやすい金銭に関わるものであるため、企業担当者は必ず確認しましょう。
労働基準法では、賃金支払5原則で通貨払いを定めているため、現金の手渡しが原則です。
現在は銀行口座振り込み等の賃金支払い方法が主流ですが、労使協定や本人の同意がない場合、本来認められない方法です。
今後は、労働者の同意を得て賃金を支払う方法に「〇〇Pay」等の資金移動業者の口座への支払いが認められることになりました。
対象となる資金移動業者は厚生労働省の審査を受けなければならず、2024年7月現在において審査を通過した資金移動業者はありません。
なお、会社が給与をデジタルマネーで支払うためには、労使協定の締結が求められます。
対象者も雇用するすべての労働者ではなく、希望した者に限られ、従来通りの支払い方法を望む労働者には、その通り対応しなければなりません。
時間外労働があったときの割増賃金の割増率は25%が下限ですが、月60時間を超える時間外労働に対しては、50%の割増率で割増賃金を支払わなければなりません。
大企業は2010年4月より適用されていましたが、中小事業においては2023年3月31日まで適用が猶予されていました。
2023年4月1日以降は適用猶予がなくなり、すべての企業が月60時間以上の時間外労働について50%以上割増した賃金を支払わなければならなくなりました。
なお、月60時間を超える時間外労働では、割増賃金の支払いに代えて有給の代替休暇を付与することが認められています。
代替休暇制度の導入には、労使協定の締結が必要です。
また、代替休暇は通常の時間外労働の割増率との差額分を免除する役割であるため、通常の時間外労働に対して発生する25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
国が進める働き方改革により、2019年4月から時間外労働は月45時間、年360時間以内という上限が設定されました。
一方で、一部の職業(建設、自動車運転、医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業)では、業務の特性等の事情を考慮して、時間外労働の上限規制の適用が猶予されていました。
2023年3月31日にこれらの職業への猶予期間が終了したため、すべての職業において時間外労働の上限規制が定められることになりました。
原則の時間外労働の上限を超えて働かせる場合は「臨時的な特別の事情がある場合」に限定し、下記の条件の範囲内で認められます。
ここでは、労働基準法違反となる具体的なケースについて解説します。
労働基準法で禁止している差別は、大きく分けて2つです。
労働基準法では、国籍、信条、社会的身分による差別を禁止しています(労働基準法3条)。
信条とは、宗教や支持政党等の思想に関わることをいいます。
社会的身分とは生まれ持った身分であり、当人には変えようのない事実をいい、正社員やパート等の就業形態は社会的身分ではありません。
たとえば、特定の宗教を信仰していることを理由として、一部の手当を支給しないことは差別に該当するため、労働基準法違反です。
しかし、労働条件について差別することを禁止したもので、採用の選考に制限を加えるものではありません。
女性であることを理由として、男女に賃金差を設けることは禁止されています(労働基準法4条)。
一般職である女性と総合職である男性の間で、業務内容や責任の範囲を考慮し、賃金差を設けることはこれに該当しません。
暴力や脅迫、監禁等の行為は当然のこと、不当に精神や身体を拘束し、労働者の意に反して働かせる行為は禁止されています。
長期の労働契約を締結することによる拘束や、親族等に前借金をさせて労働を強制させる行為も含まれます。
現実に労働者が労働したか否かに関わらず、これらの行為は労働基準法違反となります。
締結した労働契約を労働者が履行しなかったことに対し、違約金を定める等の損害賠償額を予定する契約を結ぶことは労働基準法違反です(労働基準法16条)。
労働契約違反に対して会社が違約金を定めることを認めてしまうと、労働者が自由に退職できなくなるためです。
労働者本人だけではなく、身元保証人に対して損害賠償を予定することも禁止されています。
なお、労働者が現実に生じさせた損害について、損害賠償を請求することを禁止するものではありません。
労働関連法規が適正に守られているかどうかを管理・監督する行政機関として、労働基準監督署があります。
労働基準監督官は、司法警察権を持ち、労働基準法が適正に守られているかを確認するために、事業所に立ち入り、調査、関係者へ聴取する権利が認められています。
法違反が認められた場合、多くのケースでは行政指導が行われますが、指導の無視や事実の隠蔽など、重大あるいは悪質性が感じられる場合は、刑事事件として送検されます。
労働基準法違反には罰則の定めもあり、最も重い罰則は、強制労働禁止違反です。
最長10年の懲役または最大300万円の罰金が科せられます。
また、時間外・休日労働の上限規定違反や割増賃金の不払いにも罰則があり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
違反として処罰を受ける対象は事業主だけではなく、不正を行った管理職や上司、企業の労務管理担当者も対象となるため、注意しなければなりません。
労働基準法は、会社が必ず守らなければならない労働条件を定めています。
人を雇用する以上は「知らなかった」では済まされないため、事業主や企業の労務管理担当者は必ず知っておかなければならない法律です。
労働者には労働基準監督署への通報も認められているため、後々のトラブルや処罰を避けるためにも、トラブルになりやすい点については、必ず法律のポイントを確認しましょう。