この記事でわかること
解雇は、労働者の生活に多大な影響を与える問題です。
そのため、労働基準法では、労働者を保護するために解雇予告制度を設けています。
この制度の一環として、解雇予告手当というしくみがあります。
本記事では、解雇予告手当の基本的な概念から、具体的な計算方法、支払いが必要なケース、そして支払わない場合のリスクまで、会社が知っておかなくてはならない情報を解説します。
適切な対応を学ぶことで、労使トラブルを防ぎ、より健全な会社へと発展させましょう。
目次
解雇予告手当とは、使用者が労働者を解雇する際に、十分な予告期間を設けずに解雇した場合に支払いが義務付けられている手当です。
これは、突然解雇された労働者の生活を保障するための制度です。
労働基準法20条により、会社は原則として労働者を解雇する場合、30日前までに予告をするか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があると定められています。
引用
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
解雇予告手当の対象となるのは、原則としてすべての労働者です。
パートタイム労働者、アルバイト、派遣社員、有期雇用労働者なども例外ではありません。
解雇予告手当は、原則として解雇を言い渡した日に支払わなければなりません。
つまり、即時解雇の場合は解雇したその日に支払いう必要があります。
解雇日よりも前に予告をした場合は、解雇日までに支払えばよいとされています。
しかし、実務上は、最後の給料日に解雇予告手当を合わせて支払うという取り扱いが多く見られます。
この場合、実際の解雇日よりも後の支払いとなるため、解雇の効力などについて争いになった際に支払いがされないというような場合があるので、注意しましょう。
解雇予告手当を支払う必要があるケースについて、見ていきましょう。
労働基準法では、原則として30日前に解雇予告をすることが定められています。
しかし、会社の都合により即時解雇を行う場合は、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
解雇予告はしたものの、その期間が30日に満たない場合は、不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
たとえば、10日前に解雇予告をした場合、30日から10日を差し引いた20日分の平均賃金を解雇予告手当として支払うこととなります。
解雇予告手当は、原則としてすべての労働者が対象となります。
しかし、一定の要件に該当した場合は、解雇予告および解雇予告手当の支払いが不要となります。
解雇予告除外認定とは、一定の状況下に該当し、労働基準監督署の認定を受けることで、通常必要とされる解雇予告や解雇予告手当の支払いを免除される制度です。
具体的には、以下の要件が定められています。
それぞれについて説明します。
「天災事変その他やむを得ない事由」とは、使用者の通常の経営努力では回避できないような突発的で重大な出来事を指します。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
一方、以下のようなケースは「やむを得ない事由」とはいえないため、該当しません。
つまり、経営上の失敗や法令違反によるものは含まれないということとなります。
「事業の継続が不可能になる」とは、上記の事由により、事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合をいいます。
以下のような場合は該当しません。
つまり、一時的な問題や、一部の人員調整で対応できる場合は含まれません。
「労働者の責めに帰すべき事由」とは、解雇の理由が重大または悪質な場合を指します。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
一定の要件に該当する労働者は、そもそも解雇予告制度の適用がされません。
試用期間中の労働者は、解雇予告制度の適用がされません。
しかし、試用期間が14日を超えて引き続き雇用される場合は、解雇予告手当が必要となります。
日々雇い入れられる労働者は、解雇予告制度の適用がされません、
しかし、1カ月を超えて継続して雇用される場合は、解雇予告手当が必要となります。
2カ月以内の期間を定めて使用される労働者は、解雇予告制度の適用がされません。
しかし、定められた期間を超えて使用される場合は、解雇予告手当が必要となります。
季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される労働者は、解雇予告制度が適用されません。
しかし、定められた期間を超えて使用される場合は、解雇予告手当の支払いが必要となります。
解雇予告手当の計算式は以下の通りです。
【解雇予告手当=平均賃金×予告期間が30日に足りなかった日数】
平均賃金とは、労働基準法で定められている手当や補償を算定するときの基準となる金額です。
原則として、以下の方法で計算します。
平均賃金=(算定事由発生日以前3カ月の賃金総額)÷(その期間の総日数)
平均賃金は、解雇予告手当だけでなく、休業手当や年次有給休暇中の賃金、減給の制裁を行う際の金額などの計算にも用いられます。
賃金総額とは、算定期間中に支払われる賃金のすべてです。
基本給だけではなく、通勤手当や家族手当、住宅手当、時間外手当なども含まれます。
つまり、源泉所得税や社会保険料を控除する前の賃金の総額ということです。
また現実に支払われた賃金だけでなく、賃金の支払いが遅れているような場合は、未払い賃金も含めて計算します。
平均賃金の計算において、以下のものは賃金総額から除外されます。
算定事由発生日とは、使用者が労働者に解雇を通告した日です。
なお、賃金締切日がある場合は、解雇を通告した日の直前の賃金締切日が起算日となります。
そのため、基本的には解雇を通知した直前の賃金締切日が算定事由発生日になると考えましょう。
解雇日の直前の賃金締切日から、3カ月間の総日数を計算します。
平均賃金が不当に低くなることを防ぐために、以下の期間は総日数から除外されます。
アルバイトやパート労働者など、賃金の一部又は全部が時間給制や日給制、出来高給制で決められている場合は、出勤日数が少ない場合に、平均賃金として計算された額が低額となる場合があります。
このような場合を考慮して、以下の計算式による最低保証額が定められています。
最低保証額=賃金総額÷実労働日数×60/100
原則の計算方法により算出された額が、最低保証額を下回った場合は、最低保証額を平均賃金とします。
解雇予告手当を計算する際の「予告期間が30日に足りなかった日数」は以下のように計算します。
つまり、10日前に予告をして解雇をする場合は、30日-10日=20日分の解雇予告手当の支払いが必要となります。
では、以下の例を用いて、解雇予告手当を計算してみましょう。
事例6月20日に解雇通知をし、6月30日付けで労働者を解雇した場合
3月分(3月1日~3月31日)賃金:基本給21万円、通勤手当1万円
4月分(4月1日~4月30日)賃金:基本給21万円、通勤手当1万円
5月分(5月1日~5月31日)賃金:基本給21万円、通勤手当1万円、時間外手当2万円
平均賃金=(22万円+22万円+24万円)÷(31日+30日+31日)=7,391円30銭(銭未満切り捨て)
解雇予告が解雇日の10日前のため、30日-10日=20日分の解雇予告手当を支払います。
7,391円30銭×20日=147,286円
この場合は、147,286円以上の解雇予告手当を支払うこととなります。
解雇予告手当を支払わずに、不当な即時解雇を行った場合、使用者には以下のようなリスクがあります。
解雇された労働者から、解雇予告手当の支払いを求める訴訟を起こされる可能性があります
さらに、労働基準法114条により、使用者が労働者に一定の金銭を支払わない場合、裁判所がその金額と同一額の支払いを命ずることができる制度があります。
これを、付加金といいます。
付加金の支払いを命じられた会社側は、本来支払うべきであった解雇予告手当の金額の2倍の額を支払う必要があります。
事業主にとって大きなリスクとなりますので、注意しましょう。
労働者が労働基準監督署へ通報し、会社に対して調査が行われることがあります。
調査の結果、解雇予告手当の不払いという法令違反が確認された場合、是正勧告や指導を受ける可能性があります。
是正勧告や指導に従わない場合は、行政処分や刑事罰を受ける恐れがあるので、注意が必要です。
解雇予告または解雇予告手当の支払いを行わずに労働者を解雇した場合、労働基準法119条により6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
近年、SNSやインターネットの普及により、会社の不適切な行動が急速に拡散されるリスクが高まっています。
解雇予告手当の不払いや不当解雇などは、特に注目を集めやすい問題です。
こうした風評リスクは、企業イメージを著しく低下させます。
企業イメージが低下すると、優秀な人材の採用が困難になることや、取引先からも契約を見直されるなどの影響が出てくるでしょう。
商品・サービスの売り上げにも影響が出てくるかもしれません。
これらの影響なども考慮して、解雇予告手当の支払いは適切に行うようにしましょう。
解雇予告手当は、労使トラブルに発展する可能性が高い問題のため、慎重な対応が求められます。
会社側が注意しなければならない点について、解説します。
解雇予告手当は雇用形態を問わずすべての労働者に適用されます。
パートタイム労働者、アルバイト、契約社員、嘱託社員などの労働者も対象となります。
ただし前述したように、試用期間中の労働者(14日以内)や日々雇用される労働者(1カ月以内)など、一部対象外となる労働者がいるので、注意しましょう。
解雇予告手当を正確に計算しましょう。
平均賃金を計算する際は、最低保証額(賃金総額÷実労働日数×60/100)を必ず確認をします。
特に、パート・アルバイト労働者は、勤務日数が少ないことにより最低保証額を下回る可能性があるので、注意しましょう。
また、賞与や臨時的な賃金は除外し、通勤手当、時間外手当は含めるなど、計算対象となる賃金の範囲にも注意が必要です。
解雇予告手当の支払いは、解雇の申し渡しと同時に支払うべきとされています。
支払いが遅れた場合は、解雇の効力に影響を及ぼします。
労使トラブルに発展する可能性もあるため、注意しましょう。
解雇予告手当も、労働基準法上の賃金と同様、対象者に通貨で直接支払うべきとされています。
小切手や現物給与ではなく、通貨で支払いましょう。
解雇予告手当は、賃金ではありません。
そのため、社会保険料や雇用保険料の算定基礎から除いて計算をします。
また、労働保険料の申告時の賃金額にも含めないこととなりますので、注意しましょう。
解雇予告や解雇予告手当の支払いを適切に行っていたとしても、解雇理由が不当なものと判断されれば、解雇そのものが無効と判断される可能性があります。
このため、会社は解雇の正当性を確保しなければなりません。
労働契約法16条では、解雇は客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とすると定められています。
引用:
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
これは、会社側の一方的な都合や、軽微なミスや就業規則違反により、いきなり解雇をすることは認められないということです。
解雇が有効と認められるには、客観的に見て合理的と判断される理由が必要です。
具体的には、以下のような理由です。
客観的に合理的な理由があるだけでなく、その解雇が社会通念上相当であると認められる必要があります。
社会通念上相当というのは、「社会の一般常識や見解に照らして適切か」という意味です。
具体的には、以下の点が考慮されます。
これらの点を総合的に鑑みて、客観的に合理的であり、社会通念上相当であると認められる必要があります。
解雇の正当性は、個別に判断されるものであり、とても難しい問題です。
状況に応じて、外部の専門家(弁護士、社会保険労務士など)に相談し、判断しましょう。
解雇予告除外認定を受けた場合や、解雇予告の対象から除外される一部の労働者については、解雇予告手当の支払いが不要です。
しかし、そのような場合でも会社は労働者に対して、適切かつ誠実な対応を行う必要があります。
まずは、解雇の理由や解雇予告手当を支払わない理由について、労働者が理解できるよう、丁寧に説明をしましょう。
労働者からの質問に対しても、誠実に回答をします。
不明点などがあれば、専門家(弁護士や社会保険労務士)に確認した上で後日回答するようにします。
そして、再就職支援としてハローワークの情報提供を行うなどの配慮をするとよいでしょう。
重要なのは、解雇という形であっても、最後まで誠実かつ丁寧な対応を心掛けることです。
高圧的な態度を取ることは避け、労働者の尊厳を尊重した対応を行いましょう。
解雇予告手当は給与所得ではなく、退職所得にあたります。
退職所得は、社会保険料・雇用保険料の対象とはなりませんが、所得税の対象になります。
そのため、解雇予告手当を支払うときは、所得税および復興特別所得税を源泉徴収して、原則として、翌月の10日までに納めなければなりません。
源泉徴収税額の計算方法は、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けているか否かで異なります。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合は、退職所得控除が適用された額を源泉徴収します。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合は、解雇予告手当の支給額に20.42%の税率を乗じて計算した額を源泉徴収します。
この場合は、退職者本人が確定申告をし、退職所得控除が適用された計算方法にて再計算され、清算を行うこととなります。
解雇予告手当は、労働者の権利を守るための重要な制度です。
会社は、この制度の適用範囲や計算方法、支払うべきタイミングなどを正確に理解し、正しい対応を取ることが求められます。
また、解雇を行う際は、法令遵守だけでなく、労働者への丁寧な説明や再就職支援など、誠実な対応を心掛けることが重要です。
解雇に関するトラブルは法的な問題だけでなく、企業イメージの低下など、長期的に影響を及ぼします。
解雇トラブルは複雑かつ難しい問題でもあるため、状況に応じて外部の専門家(弁護士・社会保険労務士など)に相談し、適切な対応をしましょう。