

東京弁護士会所属。東京都出身。
労働問題は、ひとたび対応を誤れば、金銭的損失だけでなく企業の社会的評価をも大きく傷つける要因となります。私は弁護士になる前、公務員として自治体業務に従事してきました。そこで培われた「公正な判断力」と「ルールに対する厳格な姿勢」は、現在、使用者側の弁護士として企業のコンプライアンスを守る上での強力な基盤となっています。
私の信念は、常に「申し開きのできる仕事」をすることです。労働紛争においても、単にその場をしのぐ解決ではなく、企業の将来を見据えた透明性の高い解決策を提示いたします。複雑な法律の仕組みも、あたかも「複雑な迷路を解きほぐす地図」のように、経営者様に分かりやすく整理してお伝えします。
弁護士は敷居が高いと思われがちですが、私は常に話しやすいパートナーでありたいと考えています。労働問題という正解のない課題に対し、経営者様と密にコミュニケーションをとり、共に最適な解決策を見出していくことをお約束します。

この記事でわかること
労災保険の休業補償は、労災によるけがや病気で働けない期間、労働者の生活を支える重要な制度です。
しかし、労働基準監督署による審査が終了次第支払われるため、明確な支払日は決まっていません。
一般的には、申請から約1カ月程度が目安ですが、書類の不備や事故の調査状況によっては大幅に遅れる可能性もあります。
この記事では、休業補償の支払いまでの流れ、遅延の原因と具体的な対処法について、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
労災保険は、労働者が仕事や通勤が原因でけがや病気をした場合に、本人やその家族の生活を支えるための制度です[注1]。
治療費をカバーする療養(補償)等給付のほか、働けない期間の収入減を補う休業(補償)等給付など、複数の給付が用意されています。
休業補償は、療養のために仕事を休み、賃金を受け取れない状態が4日以上続いた場合の4日目以降に対して支給される給付金です。
ここでは、休業補償の基本的なしくみについて解説します。
休業補償の対象期間は、休業4日目から治癒までの期間です。
最初の3日間は待期期間となり、この間は労災保険の休業補償は支給されません。
休業初日から休業補償の支給対象にならない点に、注意が必要です。
しかし、業務災害が原因の場合、待期期間中の賃金については、会社が平均賃金の60%以上を支払う義務があります(労基法第76条[注2])。
待期期間が終了した翌日、休業4日目以降は、労災保険から休業補償として給付基礎日額の80%が給付されます。
休業補償は「給付基礎日額」という、日を単位とした金額で支給されます。
給付基礎日額は、原則として労働基準法の平均賃金です。
具体的な支給額は給付基礎日額の60%相当額で、給付基礎日額の20%相当額の「休業特別支給金」が上乗せされます。
つまり、実際に休業補償として受け取れる金額は、給付基礎日額の80%分となります。
[注1]労働者災害補償保険法/e-Gov
労働者災害補償保険法
[注2]労働基準法/e-Gov
労働基準法第76条
労災保険の休業補償の支払日は、法律や規則で「毎月〇日」と定められているわけではありません[注3]。
これは、休業補償の申請書が労働基準監督署に受理された後、審査を経て、支給決定が下りてから支払われるためです。
審査にかかる期間は、事故の内容や書類の状況によって異なるため、支払時期も一定ではありません。

休業補償の支給時期は、原則事案により異なります。
一般的には、書類に不備がなく、労災認定が比較的容易なケースであれば、申請書の受理後、おおむね1カ月程度で支給決定通知が届きます。
しかし、これはあくまで目安である点に注意が必要です。
書類の提出が遅れた場合や、内容確認に時間を要する事案では、支給まで2~3カ月かかるケースもあります。
たとえば、提出書類の不備や、うつ病など業務との関連性の判断が難しい事案では、審査が長期化しやすくなります。
労災の休業補償の申請をするときは、被災労働者を雇用する事業所を管轄する労基署へ「休業補償給付支給申請書」を提出します。
複数業務要因災害は「複数事業労働者休業給付支給請求書」、通勤災害は「休業給付支給申請書」を使用します。
事故の原因により申請書が異なる点に注意しましょう。
申請書に添付する賃金台帳や出勤簿の写し等は会社側で準備します。
また、申請書には医師と事業主の証明が必要です。
申請書が受理された後は、労基署が労災に該当するかを調査し、必要に応じて追加書類の提出依頼や聞き取りを行います。
審査を経て支給が決定すると、支給決定通知と振込案内が届き、指定日に給付金が振り込まれるしくみです。
決定に不服がある場合は、口頭又は文書で不服申立てができます。
不服申立ては、決定通知を受けた日の翌日から3カ月以内に行わなければなりません。
休業期間が複数月に及ぶ場合、休業補償の申請は1カ月ごとに行うのが原則です。
一度にまとめて請求すると、審査が長引き、支給が遅れる恐れがあります。
また、労基法上の災害補償は原則として毎月1回以上行う必要があります(労基法施行規則39条[注4])。
手続きを長期間行わない場合、会社が労基法上の休業補償責任を負う可能性もあるため、注意が必要です。
なお、毎月の請求では、医師の証明をその都度受ける必要があります。
[注3]労働者災害補償保険法施行規則/e-Gov
労働者災害補償保険法施行規則
[注4]労働基準法施行規則/e-Gov
労働基準法施行規則39条
休業補償の支払いが遅れる理由は、会社側・労働者側・労働基準監督署側の3つに分類できます。
具体的には以下のような原因があります。
支払いをできるだけ早めるには、遅延の原因を正しく把握した対応が重要です。
ここでは、各原因と対処方法を詳しく解説します。
書類の不備は、被災労働者または会社側が原因の遅れです。
主に申請書の誤記入や押印漏れ、添付書類(賃金台帳などの写し)の不足等があります。
特に、医師や会社の証明欄の記入漏れは、よく見られるケースです。
不備があると、労基署から確認の連絡が入り、修正や再提出、追加書類が求められます。
書類の不備が修正されるまで審査期間は長引くため、支給が大幅に遅れる原因となります。
提出前の記入内容や添付書類の確認が重要です。
労基署の労災認定では、追加調査が必要となるケースがあります。
追加調査が行われると、審査期間が長引くため、支払いが大幅に遅れる原因となります。
たとえば、うつ病などの精神疾患や過労死、事故要因が複雑な通勤災害等は、労災認定が難しい事案です。
労基署は、被災者や会社関係者への聞き取り、医療機関への問い合わせ、場合によっては実地調査を行います。
そのため、審査期間は数カ月から1年以上に及ぶ可能性もあります。
休業補償の申請は原則、労働者本人が行いますが、会社側の対応が遅れると支払いも遅れます。
たとえば、労働者からの申請書の証明依頼を、人事や労務担当者が多忙で記入や押印を後回しにするケースです。
賃金台帳や出勤簿の写し等の添付書類も、労働者だけでは用意できないため、会社の協力が欠かせません。
会社側の対応の遅れは、労災法施行規則第23条[注5]に定められた助力義務に違反する恐れがあります。
労働者とのトラブルにもつながるため、迅速な対応が重要です。
労基署の対応遅れなど、行政側の事情によって支払いが遅れるケースもあるため、注意が必要です。
労基署は、常に多くの案件を抱えており、特に年度末や事故が集中した時期は、審査や確認に通常より多く時間を要します。
さらに、担当者の異動や配置変更があると手続きが一時的に止まり、支給決定までの期間が長引く可能性もあります。
申請や手続きは、余裕をもった準備が重要です。
[注5]労働者災害補償保険法施行規則/e-Gov
休業補償の支払いが遅れている場合は、原因を突き止め「誰が」「どこに」確認すべきかを明確にしましょう。
具体的には、次のような対処法があります。
遅延を放置せず、状況に応じた対応を速やかに進めていきましょう。
申請後に支払いが遅れている場合は、まず書類の内容に不備がないかを再確認しましょう。
申請書の控えや手元資料を見直し、記載内容や添付書類、医師や会社の証明欄等に不備がないかをチェックします。
特に、振込口座の間違いは、発覚が遅れやすいため、注意が必要です。
会社側でも、平均賃金などの記載事項や、賃金台帳・出勤簿の写しといった添付書類に漏れや不備がないかを、改めて確認しましょう。
小さなミスでも、不備があれば支払いが遅れる原因となります。
支払いが遅れている場合は、会社内の処理状況の確認も重要です。
労働者から問い合わせがあった場合、人事・総務等の担当者に、申請書の提出日や、会社証明欄の記載内容を改めて確認しましょう。
あわせて、添付書類が揃っているかも見直します。
もし社内対応の遅れが判明した場合は、労働者に事情を説明し、速やかに書類作成・提出を進めます。
労働者との信頼関係の維持やトラブル防止のためには、迅速な対応が重要です。
支払いの遅れについて、労働基準監督署への直接の問い合わせも可能です。
労災保険の担当者に電話し「申請書の受付日」「現在の審査状況」「支給が遅れている理由」を具体的に質問し、確認します。
問い合わせの際、支給の遅延により生活に支障が出ている旨を伝えると、事情を踏まえて対応してもらえる可能性もあります。
また、労働者から相談を受けた場合、会社が問い合わせを代わる対応も、労働者への配慮として有効です。
支給が明らかに遅れている場合や、不支給の可能性を示唆されたときは、早めに専門家へ相談しましょう。
また、会社が申請に非協力的な姿勢を示していると、労働者からの依頼で専門家が介入するケースもあります。
労災に関するトラブルの専門家には、弁護士または社会保険労務士(社労士)が該当します。
それぞれ担う役割が異なるため、状況に応じて適切な専門家を選びましょう。
弁護士は、労災申請手続きだけではなく、労働者からの損害賠償請求や安全配慮義務違反に関する対応、不支給決定に対する不服申立てを行います。
一方、社労士は労災申請の手続き代行や、行政不服審査法に基づく不服申立てを行いますが、損害賠償請求や裁判対応の相談はできません。
法的対応と手続きを同時に進められる点は、弁護士へ依頼する大きなメリットといえます。
お困りの際は、VSG弁護士法人へご相談ください。
休業補償は「休業補償給付」と「休業特別支給金」の2つで構成されます。
ここでは、労災保険の休業補償で貰える金額の計算方法を解説します。
休業補償金額の計算式は、次の通りです。
休業補償では「給付基礎日額の80%」が、休業した日数分支給されます。
休業日数では休業4日目以降の日数をカウントする点に注意が必要です。
給付基礎日額は、原則労働基準法の平均賃金と同様の計算式で求めます(労災法第8条[注6])。
労基法における平均賃金とは、算定事由発生日において、その労働者の直前3カ月の賃金総額を、その期間の総日数で除した額です(労基法第12条[注7])。
賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から3カ月分を遡ります。
なお、賃金総額からは賞与等の臨時に支払われた賃金は除かれますが、通勤手当等は含まれます。
「算定事由発生日」とは「労災事故発生日または労災による疾病について医師の診断を受けた日」です。
続いて、事例から実際に計算してみましょう。
事例
6月25日に業務災害による事故で負傷し、その後療養のために休んだ日数は待期期間の3日間を除いて10日間でした。
なお、会社の賃金締日は毎月20日です。
算定事由発生日は事故の起きた6月25日であるため、直前の賃金締日である6月20日分から3カ月遡った賃金支払状況を確認します。
【被災労働者賃金支払い状況】
| 期間 | 月 | 暦日数 | 基本給 | 通勤手当 |
|---|---|---|---|---|
| 3月21日から4月20日 | 4月分 | 31日 | 200,000円 | 10,000円 |
| 4月21日から5月20日 | 5月分 | 30日 | 200,000円 | 10,000円 |
| 5月21日から6月20日 | 6月分 | 31日 | 200,000円 | 10,000円 |
| 合計 | 91日 | 600,000円 | 30,000円 |
賃金支払総額は630,000円でした。
平均賃金は、賃金支払総額を暦日数で割って算出するため、計算結果は次の結果となります。
先ほどの平均賃金を給付基礎日額とし、休業補償給付と休業特別支給金をそれぞれ算出します。
この事例では、被災労働者は10日間の休業に対し、55,384円の休業補償を受給できるという結果になりました。
なお、休業期間中に会社の所定休日がある場合でも、休業補償は所定休日を含めた日数で支給されます。
2020年9月1日施行の改正労災保険法により、複数の会社で働く労働者の給付基礎日額の計算方法が変更されました。
改正前は、原則として主たる勤務先の賃金のみで給付基礎日額を計算するしくみでした。
現在は、一定の条件を満たした場合、副業・兼業先の賃金も合算して給付基礎日額を算定します(労災法第8条3号[注8])。
そのため、複数就業者は休業補償額が増える可能性があります。
[注6]労働者災害補償保険法/e-Gov
労働者災害補償保険法第8条
[注7]労働基準法/e-Gov
労働基準法第12条
[注8]労働者災害補償保険法/e-Gov
労働者災害補償保険法第8条3号
労災事故の原因が会社にあり、その責任が認められる場合、会社は休業している労働者の給与を全額支払う義務があります(民法第536条2項[注9])。
労災保険の休業補償で補えるのは平均賃金の80%に相当する額であるため、残りの20%に相当する部分は、会社が負担しなければなりません。
待期期間の3日間についても、通常は平均賃金の60%分の支払い義務にとどまりますが、会社責任の労災では、給与全額を補償します。
この場合、残りの平均賃金40%分を追加で支払い、1日分の給与全額を補償します。
さらに、労働者から慰謝料や過失利益などの損害賠償請求を受けるリスクもあるため、会社責任労災については、早めに弁護士へ相談しましょう。
労災保険の休業補償には「受任者払い制度」があります。
これは、本来労働者に支給される休業補償を、労災保険の支給に先立って会社が立て替え払いし、後日、労災保険の給付金を会社が受け取る制度です。
労災の休業補償は、支給申請から支払いまで1カ月を超えるケースが多く、労働者の経済状況によっては、直ちに生活に困窮する恐れがあります。
受任者払い制度を利用すれば、労災の休業補償よりも早く生活資金源を確保できるため、労働者は安心です。
会社側も、会社負担分の休業補償額を細かく計算する負担が軽減されるため、労務手続きがスムーズになるメリットがあります。
受任者払い制度を利用したい場合は、休業補償を申請した労働基準監督署で手続きを確認し、届出書を作成しましょう。
[注9]民法/e-Gov
民法第536条2項
労災の休業補償は、申請すればすぐに支払われる給付ではなく、支払日も確定していません。
目安は申請から約1カ月ですが、書類不備や事実確認の追加調査、会社側の対応遅れなどにより、さらに時間を要する場合があります。
支給が遅れていると感じたら、労働基準監督署へ状況を確認するなど、早めの行動が重要です。
また、不支給決定や労働者とのトラブルは、弁護士等の専門家への相談で解決できるケースも少なくありません。
休業補償の支払いが遅れや、労働者との労災トラブルでお困りの方は、労働問題に強いVSG弁護士法人にご相談ください。