この記事でわかること
ICT技術の発達やモバイル端末の普及に伴い、リモートワークという働き方が生まれました。
リモートワークにより、育児や介護、病気療養等で通勤が障壁となっている人も自分のライフスタイルに合わせて働くことができます。
従業員や求職者に需要があり、人材獲得面でも効果が期待できる働き方です。
一方で、リモートワークの導入を検討したくても、課題点や導入のための手順やコツがわからないという問題もあります。
今回は、リモートワークに関する基本的な知識を解説し、企業側と従業員側のそれぞれのメリットとデメリット、そして企業が導入するためのポイントを解説します。
リモートワークとは、会社に出社せず、会社以外の場所で働くことです。
リモートワークと類似した言葉に「テレワーク」があります。
リモート(remote)とは「遠隔の、遠い」という意味で、テレ(tele)も同じく「遠隔、離れて」という意味を持ちます。
つまり、どちらも本来の仕事を行うオフィス等の場所から「遠い」という意味がある点では同じです。
両者の違いは、その定義から知ることができます。
ここでは、それぞれの定義と特徴を紹介します。
テレワークは厚生労働省が定義を明確にしており「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」としています。
つまり、パソコンやネットワーク等のICT技術を使用して、遠隔で働くことが「テレワーク」です。
厚生労働省により定義されていることから、行政等の公的機関では「リモートワーク」ではなく「テレワーク」という言葉が使われる傾向にあります。
テレワークは、企業に雇用される従業員が行う「雇用型」と、個人事業主やフリーランス等が行う「自営型」の2つに大きく分類されます。
この記事では主に「雇用型テレワーク」を解説していきます。
雇用型テレワークは、働く場所等の違いによってさらに次の3つに分類することができます。
従業員の自宅で、パソコン等を使用して働くことをいいます。
ノートパソコンやタブレット端末等を活用して、飲食店や駅等の移動先で働くことをいいます。
サテライトオフィスやコワーキングスペースで働くことをいいます。
サテライトオフィスとは、企業の本社や本拠から離れた場所に設置された小規模オフィスのことです。
コワーキングスペースとは、所属する企業や職種に関わりなく利用できる、働くための場所です。
机や椅子などを共有して、不特定多数が同じ場所で仕事をします。
リモートワークには、テレワークのような明確な定義は設定されていません。
単語通り、Remote Work(遠隔で働く)という意味です。
前述した通り、テレワークは「ICT(情報通信技術)を活用」という点が定義により明確です。
しかし、リモートワークはテレワークと異なり明確な定義がないため、手法や手段について意味が限定されていません。
つまり、リモートワークという言葉は、テレワークを含んで広義の意味で使用することができます。
両者を厳密に使い分ける必要はなく、使い分けないことで生じるデメリットはありません。
なお、行政では「テレワーク」という言葉が使用される傾向にあるため、リモートワークに関する助成金等を調べたい場合は「テレワーク」で検索する方がよいでしょう。
常態としては会社に出社をするものの、週に1回だけ在宅勤務をすることや、外回りの空き時間にコワーキングスペース等で書類仕事をすることもリモートワークに含まれます。
一方で、フルリモートワークとは、リモートワークによる働き方のひとつであり、会社に一切出社せずに自宅等で働く方法です。
会議や打ち合わせ等のときはオフィスに集まり、対面で行う場合はフルリモートワークとは言えないでしょう。
ここでは、リモートワークを導入するメリットとデメリットを企業側の立場で紹介します。
企業がリモートワークを導入するメリットには、次のものが挙げられます。
ここでは、それぞれのポイントを解説します。
リモートワーク導入で削減が期待できるコストは次の通りです。
リモートワークを導入すれば、社員が通勤する機会が減るため、通勤手当の支給にかかる費用が抑えられます。
また、リモートワークでの就業率が高くなると、オフィスに全社員分の机や椅子を用意する必要もありません。
業務も紙ではなくデータのやり取りが中心となるため、備品や書類を保存するためのスペースを小さくすることができます。
より小さなスペースにオフィスを引っ越すことができれば、賃料のコストカットが可能です。
同時に人の滞在時間が減るため、光熱費や消耗品等の削減も期待できます。
自宅あるいは自宅に近いサテライトオフィス等で仕事ができることは、育児や介護、病気療養等の事情を抱える従業員にとっては、非常に魅力的な労働条件です。
従来、通勤に2時間程度かかる従業員がリモートワークを行うことで、今まで難しかった通所や通院等が可能となります。
通勤が障壁となる事情を抱える従業員を離職させずに、雇用し続けることができます。
同時に、求職者にとってもリモートワークが認められている企業に就職することは、将来のワークライフバランスの充実に期待が持てるため、人材獲得面でも有効です。
リモートワークの導入は企業にとって、人材定着に大きなプラスの効果があります。
自然災害や大火災等の緊急事態において、企業活動が予期せず停止することや、損害を受けることがあります。
企業は、このような緊急時に事業損害を最小限に留めつつ、事業を継続あるいは早期復旧させることを目指さなければなりません。
事業継続性(BCP=Business Continuity Plan)とは、このような緊急時の対応方法や手段を取り決めておくことです。
新型コロナウイルスの感染拡大の状況下において、リモートワークが果たす事業継続性への効果は大きく注目され、有効性が証明されました。
たとえば、台風被害等で交通機関がストップした、あるいはストップすることが予想される場合では、従業員が出勤できない事態となります。
リモートワークで働くことのできる労働環境が整備されていれば、従業員がオフィスに出勤できない日であっても、事業活動を止める必要はありません。
事前の台風情報を元にリモートワークを事前に予定することで、従業員にとっても通勤の不安から解放され、会社も従業員への安全配慮義務を守ることができます。
リモートワークでは、業務を紙ではなくデータ上で行うことが基本です。
そのため、リモートワークを導入する企業では、必然的に紙でのやり取りを基本としていた従来の業務の見直しが行われます。
結果的に無駄な作業が見つかることや署名の省略化が進み、オフィスの業務改善が期待できます。
企業がリモートワークを導入するデメリットは、次のようなものが挙げられます。
ここでは、それぞれのポイントを解説します。
リモートワーク導入が進むと、様々なランニングコストの削減が期待できます。
一方で、導入のための初期費用は高額となることが多いです。
具体的には、パソコンやタブレット端末等の電子機器や、ICTツール等の導入費用です。
一度にすべてを導入すると、企業実態に即した運用も探ることが難しく、初期にかかった費用によって、かえって企業経営に痛手となる恐れがあります。
リモートワークでは、社内からのみアクセスが許可される「ローカルネットワーク」の仕組みを利用できず、社外にある通信環境からのアクセスが前提となります。
そのため、ネットワーク上のセキュリティリスクは避けられません。
また、在宅勤務の場合は従業員の家族、コワーキングスペース等では従業員以外の第三者等への情報漏洩も考えられます。
USB等の記録デバイスを用いて、データや機密文書を社外に持ち出すこととなれば、紛失に至る可能性があるばかりではなく、漏洩被害の影響が大きいことも想定されます。
そのため、リモートワークにおいてセキュリティの問題は被害も大きい傾向にあり、企業側にとってデメリットと言えるでしょう。
リモートワークでは、出退勤の時間管理や社員の健康状態の把握等、労務管理が適切に行われない可能性があります。
企業側の適正なルールづくりや、従業員の自己管理への啓蒙が必要です。
たとえば、働いている姿が直接管理監督者の目に触れないことで、従業員の勤務態度や就労実績、業務効率は把握しづらくなります。
リモートワーク中の従業員の業務状況を把握するための管理ツール等の導入が必要になるケースも想定されます。
また、無申告の時間外労働も注意すべき点です。
従業員の疲労度や適正な業務量を把握することが難しいため、企業の安全配慮義務が適切か否かの問題に繋がります。
リモートワークが労働時間の多くを占めることやフルリモートワークにより、従業員同士が直接集まる機会が減少します。
企業としての一体感や帰属意識が低下することで、事業主や上司の理念等が伝わりづらくなり、企業文化の継承が難しくなります。
ここでは、リモートワークで働く従業員側のメリットとデメリットをそれぞれ紹介します。
従業員にとってリモートワークで働くメリットは、次の通りです。
ここでは、それぞれのポイントを解説します。
リモートワークにより、従業員の自宅あるいは自宅から近いサテライトオフィス等での勤務が可能となり、通勤時間が削減されます。
育児や介護があっても仕事を辞めずに継続できることや、求人を申し込む企業の選択肢が増えることが働き手にとってのメリットです。
また、通勤のために早く起きる必要がなくなることで睡眠時間が確保できることや、満員電車や道路渋滞等で心身にかかるストレスが削減され、健康状態が回復します。
結果的に疲労状態が改善され、生産性の向上が期待できます。
通勤にかかっていた時間を、育児や介護、病気の療養だけではなく副業や趣味等のプライベートを充実させる時間に充てられます。
場所や通勤時間に捉われない柔軟な働き方は、個人が生活において実現したいことに繋がり、ワークライフバランスの向上に期待できます。
リモートワークにより、様々なストレスが解消され、心身が健全な状態に保たれることで業務効率が改善されます。
具体的には、通勤時間が原因となって生じる心身の不調からの回復や、ワークライフバランスが整うことの充実感からストレスが減ることが期待できます。
また、上司や同僚等から話しかけられる機会や問い合わせ電話の対応が減少することで、業務が中断される要因も削減されます。
オフィス勤務よりも集中しやすい環境下で業務をすることが可能です。
従業員にとってリモートワークで働くデメリットは、次の通りです。
ここでは、それぞれのポイントを解説します。
リモートワークでは、オンライン上でのやり取りが中心です。
チャットやSNSメッセージ上の文書でのやり取りは対面とは異なり、温度感が伝わりづらい点があります。
特に新入社員等で人間関係が出来上がる前から早々にリモートワークに移ってしまうと、社内で十分な人間関係を構築できません。
質問できる機会も減少し、業務を覚えるのに時間がかかることや、孤独感が生じる恐れがあります。
また、WEB会議だけでは雑談やコミュニケーションが発生しづらく、人間関係の構築に十分な効果があるとは言えないでしょう。
通勤には仕事とプライベートの切り替えの役割を持つ側面がありますが、在宅勤務の場合は仕事とプライベートを区別することが難しくなります。
上司や同僚の目がないことで「仕事をしている」という感覚が薄れてしまい、つい作業を怠けてしまう恐れもあるため、オフィスでの勤務以上に自己管理能力が求められます。
通常リモートワークでは、パソコン等の機器を用いた仕事であることがほとんどです。
通勤やオフィス内の移動により確保できていた運動量がまったくなくなり「座りっぱなし」「歩かない」という運動不足の常態化が懸念されます。
運動不足は、筋肉量の低下や体重の増加、生活習慣病や精神疾患等のリスクに繋がるため、軽視することのできない問題です。
社員それぞれが、健康維持について自己管理しなければならないというデメリットも考えられます。
前述したように、リモートワークにはデメリットもありますが、十分なメリットもあります。
一度にすべての環境を整えるのではなく、段階的に導入していくことも視野にいれることで、より企業の実情に即したリモートワークの実施が可能です。
ここでは、リモートワークの導入を行う企業がすべきことを解説します。
リモートワーク導入時は、必ず就業規則等で職場でのルールを明確にしましょう。
就業規則等の整備は、法律によって義務付けられているものと、企業のリスク回避の側面から求められるものと2つの側面で考えられます。
リモートワークにおいて、従業員の私物のパソコンや通信環境等を利用させる場合は注意しなければなりません。
なぜなら、労働基準法では「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」を定める場合、これを労働条件通知書または就業規則で定めることが義務付けられているためです。
たとえば、従業員の私物のパソコンと従業員が個人的に契約しているネットワークを業務で利用させることは、実質、従業員自身に通信料等を負担させていることと捉えられます。
そのため、労働条件通知書あるいは就業規則に通信料は従業員負担であることを明記しなければなりません。
なお、企業が通信料を負担するかどうかは、法律上の決まりはありません。
業務で使用する以上は一定の金額を会社が支払うことが望ましいと言えますが、義務ではないため、労使双方でよく協議した方がよいポイントです。
リモートワークにおける就業について、ルールを明確化することで、労使トラブルの予防ができます。
一般的にトラブルになりやすいのは、勤務時間の制限、出退勤のルール等です。
勤務時間や時間外労働、または深夜労働のルールを決めておかなければ、長時間労働になる恐れがあります。
仮に従業員が時間外労働や深夜労働を申請せずに独断で仕事をしていた場合でも、会社は残業代や深夜手当を支払う責任から完全に逃れることは難しい事情にあります。
通信やチャット、メール等の送信日時の履歴からそのときに「働いていた」ということが客観的にわかるため「会社は業務を行っていることを知っていた」と判断されるためです。
企業の担当者や上司が黙認している時間外労働には、残業代が発生します。
また、フルリモートワークではなく、一部通勤が生じる場合は、通勤手当の支給方法等も明確にすることも考えておきましょう。
リモートワークでは、使用するパソコン等の端末や社外ネットワークとの接続環境を整備する必要があります。
リモートワークで使用するパソコンを会社で貸与するか、従業員の私物を利用するかでも方法は異なります。
パソコン等を新規で購入する場合は、まとまった費用が発生するため、必要に応じて補助金や助成金等を活用しましょう。
リモートワークは国や自治体からも推進されており、企業に対して助成金があります。
代表的なものは、厚生労働省によって全国の雇用保険の適用事業所を対象に支給される「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」です。
テレワーク導入の取り組みに対してかかった次の費用に対して、助成金が支給されます。
その他にも、地域ごとに実施しているテレワーク関係の助成金もあるため、事業所のある地域に該当するものがあるかを探してみることもよいでしょう。
リモートワークにおいて、セキュリティ対策は必ず行わなければならない事項です。
具体的には、ウイルス感染や不正アクセスを防ぐためのセキュリティソフトの導入等があります。
セキュリティに関するガイドライン等を作成し、リモートワーク実施前に従業員に周知・研修を行うなど、確実に浸透させる必要があります。
リモートワークのセキュリティ対策について、一部を就業規則等に規定することも可能です。
就業規則等に規定したルールは職場全体に適用されるルールであり、労働条件と認められます。
たとえば、在宅勤務において事前に届け出た場所以外で業務を行わないこと、それを守らずに会社に損害を与えた場合は懲戒処分に該当することを規定すれば、会社のリスク回避や再発防止に繋がります。
前述した通り、リモートワークを導入する場合は、今まで紙でやり取りしていた業務を電子データで行う必要があります。
書類の作成や確認、押印のために出社しなければならない状況では、リモートワークの導入メリットは薄れてしまいます。
今までの業務フローを見直して、データで進められる業務はリモートワークに移行するためにデータ化する等、業務の棚卸をしていきましょう。
リモートワークの導入状況に応じては、従業員の業務進捗の確認や業務報告の方法も、今までと異なる形式を検討する必要が生じるでしょう。
社内でのコミュニケーションを重要なものであると認識し、コミュニケーションツールの導入を検討することをおすすめします。
具体的には雑談も認めるチャットツールや、社内SNS等の活用が考えられます。
また、メールやチャットツール等、文章のみのコミュニケーションに偏らないように気を配ることも大切です。
相手の表情や声のトーンを感じることは、お互いの心情や状況の理解に大きな役割を果たします。
定期的にビデオ通話の機会を設ける等、非言語コミュニケーションを取り入れ、より効果的なコミュニケーションを目指しましょう。
リモートワークの導入により通勤がなくなると、社員の運動不足の問題が生じます。
運動不足は生活習慣病やメンタルヘルスの悪化に繋がり、社員が長期的に働けなくなるリスク要因であるため、会社も個人の問題だと思わずに対策をしましょう。
具体的には、運動不足の危険性への理解や健康意識を高めるための研修・啓蒙活動、運動器具や健康グッズを配布する方法があります。
万歩計等の数値データを得られる健康器具の場合は、本人だけではなく会社の担当者も客観的に運動不足の傾向を知ることができるため、役立ちやすいツールです。
人事評価制度を導入している会社では、リモートワーク導入時に人事評価制度を見直しましょう。
テレワーク導入前では、チームワークや協調性等を評価項目としていることも考えられますが、リモートワークでは上司が評価しにくくなる点でもあります。
働き方の実情に即した人事評価制度であるか見直し、また従来の人事評価制度を継続する場合は評価ポイントを見直すことが必要です。
リモートワークは、近年急速に進んだ新しい働き方です。
人材定着に悩む企業と従業員、求職者のすべてにとって、メリットのある取り組みと言えます。
「自社ではリモートワークはできない」と考えている企業でも、業務の棚卸から始めてみることで、少しずつ導入のための手順や課題が見えてきます。
国や地域の助成金等も積極的に活用し、それぞれの企業の実態に合ったリモートワークを導入して、魅力ある会社づくりを目指しましょう。