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弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所 > コラム > 労働法全般 > 労働基準法の違反があると会社はどうなる?事例や罰則を解説

労働基準法の違反があると会社はどうなる?事例や罰則を解説

この記事でわかること

  • 労働基準法違反の事例について
  • 労働基準法違反の罰則を受けるまでの流れ
  • 労働基準法違反を避けるための対策

労働基準法は、労働者を守るための、最低限度の基準を定めた法律です。
労働基準法に違反した場合、会社にはどんな影響が及ぶのでしょうか。
この記事では、労働基準法違反の事例やそれに対する罰則、そして違反が会社にもたらすリスクについて詳しく解説します。
労働基準法の遵守がなぜ必要なのかを再認識し、適切な労務管理のための知識を深めましょう。

目次

労働基準法の違反事例

労働基準法が対象になる人や労働基準法のルールについて説明します。

労働基準法が適用される人とは

<労働基準法が適用される人>

すべての労働者 = 正社員、学生、パート、アルバイト、外国人など

労働基準法第9条では、労働者とは「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」となっています。

ただし、次の人には労働基準法が適用されません。

<労働基準法が適用されない人・事業所>

  • 代表取締役、個人事業主など労働者ではない人
  • 同居する親族のみを使用する事業所
  • 農業、畜産業、養蚕業、水産業(労働時間、休憩、休日以外は適用)
  • 船員(一部適用)
  • 国家公務員
  • 地方公務員(一部適用)

労働基準法の主なルール

労働基準法には主に次のようなルールが定められています。

  1. 1.労働条件の明示
  2. 2.解雇の予告・解雇予告手当
  3. 3.賃金
  4. 4.労働時間と時間外労働
  5. 5.休憩
  6. 6.休日
  7. 7.年次有給休暇

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

1.労働条件の明示に関すること

労働基準法では、労働契約を締結する際、労働条件を明示することが義務づけられています

労働条件の明示が義務づけられている項目

昇給に関する事項以外は、雇入通知書や就業規則などで書面での交付が義務づけられています。

  • 労働契約の期間
  • 有期の雇用契約で契約を更新する場合があるときはその基準
  • 就業の場所
  • 従事する業務の内容
  • 始業時刻・終業時刻
  • 交代制のルール(労働者を2つ以上のグループに分ける場合)
  • 所定労働時間を超える労働の有無
  • 休憩時間、休日、休暇
  • 交替制勤務をさせる場合は交替期日あるいは交替順序等に関する事項
  • 賃金の決定、計算方法、賃金の支払方法、賃金の締切日・支払日
  • 昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

雇用契約書の作成は、法律上の義務ではなく口頭でも大丈夫です。
労働条件の明示は、使用者が労働者へ、一方的に通知するものです。
ただ雇用契約書は使用者と労働者の双方が署名捺印を行うため、会社と労働者間のトラブルを未然に防止するためにも、雇用契約書を作成し、労働者へ交付することが望ましいでしょう。

労働基準法違反となった事例

  • 採用時に労働条件を口頭で説明しただけで、書面による労働条件通知書を交付しなかった。
  • 正社員として採用されたと認識していた労働者が、実際には契約社員であったことが後に判明した。

2.解雇の予告・解雇予告手当に関すること

労働基準法は、労働者の権利を守るために、解雇に関する規定を設けています。

解雇の制限と手続き

  • 30日以上前の予告が必要:解雇を行う場合、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
    これを解雇予告手当といいます。
  • 解雇理由の明示が必要:労働者から請求があった場合、解雇理由を具体的に書面で通知する義務があります。
  • 解雇制限期間がある:業務上の傷病による休業期間およびその後30日間、産前産後休業中およびその後30日間は、解雇が原則として禁止されています。

労働基準法違反となった事例

  • 事業主が労働者を退職するように仕向け、業務上の傷病による休業期間中に解雇した。
  • 従業員が解雇予告を受けた後、解雇予告期間中に業務内容が著しく変更され、通常の業務とは異なる過酷な労働を強いられた。

不当解雇の判断基準

解雇が法的に認められるには、「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当であること」が必要です。
これを満たさない場合、不当解雇とみなされ、労働者からの訴訟に発展する可能性があります。

3.賃金に関すること

賃金とは、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものを指します。
基本給や各種手当、賞与などが含まれますが、福利厚生や退職金は含まれません。

労働基準法第24条では、賃金の支払い方法に関する原則を定めています。

  • 通貨払いの原則:賃金は現金で支払うことが原則ですが、労働者の同意があれば振込みなどの方法も可能です。
  • 直接払いの原則:賃金は労働者本人に直接支払わなければなりません。
  • 全額払いの原則:賃金は全額支払わなければなりません。ただし、法定控除(税金や社会保険料)や労使協定による控除(労働組合費や寮費など)は可能です。
  • 毎月1回以上、一定の期日を決めて支払う:賃金は毎月1回以上、一定の期日(毎月25日払いなど)に支払われる必要があります。
    毎月の月末支払いというのは労働基準法違反ではありませんが、毎月の第3金曜日という決め方は、支払日を特定したとはいえません。

労働基準法違反となった事例

  • アルバイトに支払う時給が地域の最低賃金を下回っていた
  • 従業員の賃金の支払いが定められた日(給料日)から数週間遅れていた

4.労働時間と時間外労働に関すること

労働時間に関しては、以下のように定められています。

法定労働時間

労働基準法第32条では、労働時間の上限を定めています。
原則、1日8時間、週40時間が法定労働時間の上限です。
これを超えて労働を強いる場合には、労使協定などの手続きが必要です。

変形労働時間制

変形労働時間制を設定し、届出を行うことで、繁忙期に労働時間を増やし、閑散期に労働時間を減らすことが可能です。
具体的には、労使協定で1カ月単位、1年単位、フレックス制などを定めることができます。

時間外労働

法定労働時間を超えて労働させる場合は、労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
36協定が締結されていない場合、時間外労働は違反となります。

また、時間外労働に対しては、割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の種類について

種 類支払う条件割増率
時間外
(時間外手当・残業手当)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき25%以上
時間外労働が限度時間(1カ月45時間、1年360時間等)を超えたとき 25%以上
(※1)
時間外労働が1カ月60時間を超えたとき(※2) 50%以上
(※2)
休日(休日手当)法定休日(週1日)に勤務させたとき35%以上
深夜(深夜手当)22時から5時までの間に勤務させたとき25%以上

(※1)25%を超える率とするよう努めることが必要です。
(※2)中小企業については、2023年4月1日から適用となります。

引用:総務省統計局 しっかりマスター労働基準法割増賃金編

労働基準法違反となった事例

  • タイムカードを押した後にサービス残業を行うことが慣例化していた。
  • 深夜に働く従業員に対して適切な深夜時間外手当が支払われていなかった。

5.休憩に関すること

労働基準法第34条では、労働時間が6時間を超える場合45分8時間を超える場合1時間の休憩時間を与えることが義務づけられています。
休憩時間は一斉に与える必要があり、労働時間の途中に休憩をとる事が原則です。

労働時間が6時間を超え8時間以内少なくとも45分の休憩時間 勤務時間の
途中に
一斉に
自由に利用

させなければならない
労働時間が8時間を超える場合少なくとも1時間の休憩時間

労働基準法違反となった事例

  • 形式的には休憩時間の設定はされていたものの、実際には休憩中も業務を行わせていた。
  • 繁忙期を理由に休憩時間を削減していた。

6.休日に関すること

労働基準法第35条により、少なくとも週1回の休日を与えなければなりませんが、4週間に4日以上の休日を与えることも認められています。

労働基準法違反となった事例

  • 人手不足から繁忙期に労働者に連続して14日以上の勤務を強要し、法定休日を与えないことが常態化していた。
  • 形式的に週1日の休日を設定していたが、実際には、休むことができない状況となっていた。

7.年次有給休暇に関すること

労働者は、以下の要件を満たすことで年次有給休暇を取得する権利が生じます。

有給休暇の付与要件

  • 勤続6カ月以上
  • 全労働日の8割以上出勤していること
    (年次有給休暇、業務上の負傷・疾病による休業中、産前産後休業中、育児休業・介護休業をした日は出勤したものとして扱う)

付与される日数

勤続6カ月10日
勤続1年6カ月11日
勤続2年6カ月12日
勤続3年6カ月14日
勤続4年6カ月16日
勤続5年6カ月18日
勤続6年6カ月以上20日

年次有給休暇の付与日数は20日が限度となり、2年の消滅時効があるため、最大日数は40日になります。

労働基準法違反となった事例

  • 忙しい時期に、人手不足を理由に、有給休暇の申請が却下されることが常態化していた。
  • 年度末に「有給休暇の一斉消化」を行い、労働者に対して一方的に有給休暇を取得させていた。

労働基準法に違反した場合の罰則

労働基準法には、労働者の権利を守るための規定が多く設けられています。
これに違反した場合には、罰則が科されることがあります。

労働基準法に違反した場合の主な罰則

  • 強制労働:1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
  • 必要な労働条件を明示しなかった場合:30万円以下の罰金
  • 賃金の不払いや支払遅延:30万円以下の罰金
  • 時間外労働の未払い、休憩時間を与えない:6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 不当解雇:30万円以下の罰金

誰が罰せられるのか

行為者(個人)だけではなく、会社も罰せられます。 
これを両罰規定といいます。

労働基準法の両罰規定は、行為者(個人)だけではなく、会社にも法令遵守の責任を負わせるための連帯責任の仕組みです。

労働基準法違反で会社名が公表されたケース

労働基準法違反が発覚した場合、会社名が公表されることがあります。
これは、法令遵守を徹底させ、違反を未然に防ぐ目的で行われます。

会社名の公表方法や、公表例と公表された場合のデメリットについて説明します。

会社名の公表方法

労働基準法違反により会社名が公表される場合、厚生労働省各都道府県労働局のホームページで公開されます。
これらの情報は、一般に開示され、誰でもアクセスすることができます。
公表される内容は、会社名所在地違反内容処分内容などです。

会社の公表例

厚生労働省のホームページでは、労働基準法に違反した会社のリストがPDF形式で公開されています。

参考:厚生労働省 労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和5年5月1日~令和6年4月30日公表分)

公表された場合のデメリット

会社名が公表されることには、次のようなデメリットがあります。

  • 会社イメージの悪化
  • 採用活動への影響
  • 取引先からの信頼を失う

労働基準法違反の罰則を受けるまでの流れ

労働基準法違反が発覚し、刑罰を受けるまでの流れは、次のとおりです。

労働基準監督署による調査

調査の発端:労働者からの通報定期的な調査です。

調査内容:賃金台帳、出勤簿、労働契約書などの書類の確認や労働者への聞き取り調査で、労働時間、賃金の支払い状況、休憩・休日の取得状況などを確認されます。
 

是正勧告

是正勧告書の交付:労働基準監督署から会社へ対する正式な通知です。

是正内容の指示:是正勧告には、具体的な是正内容が記載されており、会社はこれに基づいて必要な措置を講じることが求められます。
たとえば、未払い賃金の支払いや労働時間の適正な管理などが指示されます。

是正報告

是正報告書の提出:会社は、是正勧告を受けた後、一定期間内に是正報告書を労働基準監督署に提出する必要があります。
この報告書には、是正措置の内容と完了状況を記載します。

再調査:労働基準監督署は、会社が適切に是正措置を講じたかどうかを確認するために、再度調査  を行うことがあります。

罰則の適用

是正されない場合:会社が是正勧告を無視し、適正な是正措置を講じなかった場合、労働基準監督署は、書類送検や罰則を適用します。

罰則の種類:労働基準法に違反した場合の罰則には、罰金懲役会社名の公表などがあります。

労働基準法違反を避けるための対策

労働基準法違反を避けるためには、どのように対策すればよいかをまとめています。

労働条件の明示

労働契約を結ぶ際には、賃金、労働時間、休日・休憩などの労働条件を明示することが必要です。
契約書を作成し、会社と労働者が内容を確認・同意することで、労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。

労働時間の管理

労働時間の管理には、タイムカードや勤怠管理システムを活用し、労働時間を正確に記録します。
法定労働時間を超える労働については、労使協定(36協定)を締結し、適正に管理します。

適正な賃金の支払い

賃金台帳を適正に管理し、賃金の支払い状況に間違いがないよう正確に記録します。
最低賃金にも注意し、未払い賃金が発生しないように適切に支払いを行います。

休憩・休日の確保

労働時間が一定時間を超える場合、法定の休憩時間を確保します。
また、週に1日以上の法定休日を設け、休日労働の発生時は、振替休日を設けるか、割増賃金を支払います。

有給休暇の管理

法定の有給休暇を正しく付与し、労働者が有休の申請をした場合は、適切に休暇を取得させます。
未消化の有給休暇が残らないように積極的な取得を推進し、取得状況を管理簿に記録して残日数を把握します。

法令を遵守するための教育

労働基準法の遵守に関する教育を従業員に対して定期的に実施し、人事労務担当者や管理職にも労働基準法に関する研修を行い、最新の法令や判例に基づく事例について学習することで労働基準法の認識を高めることができます。

まとめ

労働基準法の違反があると、会社は最悪の場合、罰則や社会的信用を失うなど大変大きなリスクを抱えることになります。
人事労務担当者として、労働基準法を遵守し、会社全体のコンプライアンスを強化することが求められます。
定期的に労働環境を見直し、従業員への教育や、法令に基づく適正な労働条件の整備を行いましょう。
対応に不安がある場合は、労働基準監督署や専門家へ相談し、適切な対応をとることも大切です。

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