この記事でわかること
現在、少子高齢化によって労働力不足が深刻になっており、求人を出しても応募者がなかなか集まらない企業が増えています。
建設業や物流業では人手不足倒産も起きているため、注目されているのが、まだまだ就労意欲が旺盛な高齢者雇用です。
ここでは、高齢者雇用を活用するメリット・デメリット、就業規則の注意点、助成金・補助金について解説します。
高年齢者雇用安定法は、正式名称を「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」といい、定年制度や継続雇用制度など、高年齢者の雇用・就業機会の確保のために企業が講じなければならない措置が定められています。
高年齢者雇用安定法により、企業には次の事項が義務づけられています。
その他、高年齢者が離職する場合に再就職しやすいように、求職活動支援書の交付や多数離職届(義務)が定められています。
高齢者雇用には、労働力不足の解消や経験や知識の活用などの多くのメリットがある一方で、体力や技術適応の課題などのデメリットも存在します。
メリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑えて活用しましょう。
高齢者雇用には、次のようなメリットがあります。
高齢者は顧客対応においても優れたコミュニケーション能力がある人が多く、特に今後さらに増えることが見込まれる年配の顧客との親和性が高く、企業の顧客対応力が向上するメリットがあります。
一方、高齢者雇用には、次のようなデメリットもあります。
どのような企業でもデジタルツールを利用する業務では、適応が遅れる可能性が高いでしょう。
従業員が安心して働ける環境を整え、企業が円滑に運営できる体制を築くことが就業規則を作成する大きな目的です。
ただ、高齢者雇用の場合のポイントは、体力・健康面での就労に支障が生じる場合に、円滑な退職ができる制度、および現役世代と不合理な差異にならない賃金制度の設定です。
高年齢者雇用安定法は、60歳での定年を認める一方で、65歳までの雇用確保を企業に義務付けています。これは老齢厚生年金の受給開始年齢の引上げに伴い導入されました。
老齢厚生年金の受給開始年齢は、かつて60歳でしたが、段階的に引き上げられ2025年までに65歳となります。
受給開始年齢の引上げに伴い、65歳までの生活費を賄う必要があるため、企業に雇用確保を義務付けられました。
賃金を下げることにより雇用コストを削減し、退職しやすい制度により体力・健康面で問題がある高齢者に引退してもらうことは、高齢者雇用のメリットを活かして、デメリットを解消することに繋がります。
定年後再雇用制度は、定年を迎えた従業員と新たな雇用契約を締結して再雇用するものですが、次のような注意点があります。
体力・健康面で問題があり、解雇事由に相当するような場合は雇止めにできるよう、定年後再雇用は1年程度の有期雇用契約の更新により行うことを就業規則に定めることをお勧めします。
また、更新の際には面談を行い、体力・健康や家庭の事情等に応じて勤務日数や労働時間の設定などをすることも重要です。
賃金は、時間給換算の基本給70%~90%といった幅の中で引き下げられるに就業規則で定めておくことをお勧めします。
パートタイム・有期雇用法第8条との関係で、現役世代と比較して不合理な待遇差とならない設定にする必要があります。
不合理な待遇差にならない具体的な基準がないため、判例や裁判例を参考にしましょう。
賃金体系も、一定の手当を支給しないなど、現役世代と異なる体系を定めておくことをお勧めします。
賃金設定と同様に、パートタイム・有期雇用法第8条との関係で、現役世代と比較して不合理な待遇差とならない設定にする必要があります。
定年後再雇用制度以外で高齢者を雇用することが、近年、増加傾向にあります。ここからは、定年後再雇用者以外の高齢者を雇う注意点について解説します。
原則として、定年後に引き続き雇用される有期契約労働者(定年後再雇用者)にも、無期転換ルールは適用されます。
ただ、適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定(第二種計画認定)を受けた場合は、その企業で定年後に引き続き雇用される期間は、無期転換申込権が発生しません。
定年後再雇用者以外の高齢者を新たに雇用する際の注意点も、基本は定年後再雇用者と同じです。
しかし、定年を超えて雇用した高齢者と定年前に有期雇用契約をした高齢者には、この第二種計画認定の適用がないことを見落とさないようにしましょう。
定年を超過する年齢で新規雇用された高年齢者や有期雇用契約で定年になって再雇用された高齢者にも、有期契約が更新されて通算5年を超えると無期転換権が発生します。
しかし、定年の年齢を超えているため、無期転換した後は本人が退職を申し出るか退職に合意しない場合、解雇でなければ退職をさせられません。
解雇権濫用法理(労契法16条)により、我が国では解雇が認められにくい傾向にあり、無期雇用の場合、体力・健康面に問題があっても、退職してもらうことは容易ではありません。
そこで、このような事態に備えて、就業規則に第二定年を定めておくことがポイントになります。
高年齢者雇用は、各種の助成金・補助金を利用できます。
ここでは、活用できる主な助成金・補助金の支給要件や支給額の概要を紹介します。
高年齢者を新規雇用した際に利用できる助成金・補助金として次のようなものがあります。
高年齢者(60歳以上)や障害者等の就職が困難な方を雇用保険の一般被保険者として新たに雇い入れた企業に助成されます。
ただし、ハローワーク等の紹介により雇用することが条件です。
(主な支給要件)
次の要件の全てを満たすことが必要となります。
(支給額)
対象従業員 (60歳以上) | 支給額 | 助成対象期間 | 支給対象期(※1)ごとの支給額 |
---|---|---|---|
短時間労働者以外 | 60万円(50万円) | 1年 | 30万円×2期 (25万円×2期) |
短時間労働者(※) | 40万円(30万円) | 1年 | 20万円×2期 (15万円×2期) |
(参照元:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)(厚生労働省))
注 ( )内は中小企業事業主以外に対する支給額および助成対象期間
※1 「支給対象期」は、賃金締切日が定められている場合は、雇入れ日の直後の賃金締切日の翌日から起算して6カ月毎に区切った期間
※2 「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満の方
(支給申請期間)
支給申請期間は、各対象期の末日から、2カ月以内です。
中途採用者の雇用管理制度を整備した上で、中途採用の拡大を図る事業主に対して助成されます。
特に、45歳以上の中途採用率を上昇させた場合に、支給額が多くなります。
(主な支給要件)
対象労働者の要件や中途採用計画の届出など、細かく定められているため、厚生労働省のHPをご参照ください。
(支給額)
支給要件 | 支給額 | |
---|---|---|
45歳以上の中途採用率の拡大 | 以下のすべてを満たす事業主に助成。 ・中途採用率を20ポイント以上上昇 ・うち45歳以上の労働者で10ポイント以上上昇 ・当該45歳以上の労働者全員の賃金を前職と比べて5%以上上昇 | 100万円 |
(支給申請期間)
中途採用計画期間の終了日の翌日から起算して、6カ月を経過する日の翌日から2カ月以内です。
詳細は、厚生労働省のガイドブックを参照してください。
高年齢者の雇用条件を改善した際に利用できる助成金・補助金として65歳超雇用推進助成金(65歳以上)があります。
65歳超雇用推進助成金は高年齢者が年齢に関係なく働くことができるように、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備などを行う企業に助成するものです。助成金の種類は、表にまとめた3種類です。
コース | 概要 | 支給額 |
---|---|---|
65歳超継続雇用促進コース | 以下のいずれかを実施した企業に対して助成 ・65歳以上への定年引上げ ・定年の定めの廃止 ・希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入 ・他社による継続雇用制度の導入 | 専門家等へ委託し、制度導入に要した経費の50%が支給されうが、対象被保険者数及び定年等を引上げる年齢に応じて、支給上限が異なる |
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した企業に対して助成 | 支給対象経費に60%(中小企業事業主以外は45%)を乗じた額 |
高年齢者無期雇用転換コース | 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換させた事業に対して助成 | 対象者1人あたり30万円(中小企業事業主以外は23万円)が支給 |
詳細は、厚生労働省のHPを参照してください。
助成金・補助金は企業に支給されますが、高年齢雇用継続給付金は本人に支給されます。
高年齢雇用継続給付金は、企業ではなく高年齢者本人に支給されるため、助成金ではありません。しかし、高年齢雇用者の賃金を設定する際の参考になる制度です。
対象者や支給額は、以下の表のように定められています。
給付金の種類 | 支給要件 | 支給額 |
---|---|---|
高年齢雇用継続基本給付金 | ・基本手当を受給していない ・60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者である ・被保険者であった期間が5年以上ある | 賃金低下率によって異なり、65歳になるまで毎月支給 ・賃金低下率61%以下の場合:各月の賃金の15% ・賃金低下率61%超75%未満の場合:低下率に応じて、各月の賃金の15%未満 ・賃金低下率75%以上:不支給 |
高年齢再就職給付金 | ・60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者である ・基本手当についての算定基礎期間が5年以上ある ・再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上ある ・1年を超えて引き続き雇用されることが確実であると認められる安定した職業に就いた ・同一の就職について、再就職手当の支給を受けていない | 再就職時の基本手当の支給残日数によって異なり、再就職時に一時金として支給 ・所定給付日数の2/3以上の場合:支給残日数分×基本手当日額×70% ・所定給付日数の1/3以上の場合:支給残日数分×基本手当日額×60% |
高年齢者雇用継続基本給付金は、2025年4月1日以降、60歳になる方から給付率が10%に縮小され、その後、段階的に廃止になります。
高年齢者雇用継続給付金の詳細については、ハローワークのホームページを参照してください。
労働力人口の減少が進むことにより、人的資源の確保は、今後とも我が国の企業の成長を左右する大きな問題になることが予想されます。
このような中、2025年には65歳以上の高年齢者の人口が30%に達することが見込まれ、高年齢者雇用がますます重要になります。
メリット・デメリットをよく理解して、有効に高齢者雇用を活用しましょう。