

東京弁護士会所属。新潟県上越市出身。
労働問題は、一歩対応を誤れば損害賠償だけでなく、企業の信用失墜や従業員の士気低下、ひいては経営基盤を揺るがす重大なリスクとなります。
私は、野村證券をはじめとする金融機関で10年以上にわたり、リテール営業からコンサルティング、金融庁との折衝やリスク管理まで、多方面の業務に従事してまいりました。これらの経験から、企業の数字と法務は密接にリンクしており、労働問題を「点」ではなく「経営の一部」として捉えることの重要性を痛感しております。
経営者側の立場に立ち、財務分析や資金調達の観点も含めた戦略的なアドバイスを行うことが私の強みです。単に紛争を解決するだけでなく、組織の持続的な発展を見据えた強固なガバナンス構築のお手伝いをいたします。経営者の皆様の良き相談相手として、誠実かつ論理的にサポートさせていただきます。

この記事でわかること
不当労働行為とは、労働者や労働組合の基本的な権利を侵害するとして、法律で禁止されている行為です。
会社が労働組合への対応を誤ると、不当労働行為として労働委員会へ救済申立てが行われ、組合との深刻な争いに発展する可能性があります。
不当労働行為が認められたときに、労働委員会の命令に従わない場合は、会社に罰則や損害賠償請求等のダメージが生じるため、注意が必要です。
会社は、実務で起こりやすい不当労働行為について理解し、未然に問題を防ぐために対策しましょう。
この記事では、不当労働行為の基礎知識を整理した上で、具体例・判例等を紹介し、会社が実務で取れる対応策について解説しています。
目次
不当労働行為とは、会社が労働組合や組合活動に対して妨害を行い、労働者の団結権や団体交渉権等を侵害する行為です。
憲法第28条[注1]で認められている労働者の団結権・団体交渉権を守るために、労働組合法第7条[注2]によって禁止事項が定められています。
不当労働行為が認められた場合、労働委員会から救済命令が出され、是正が求められる可能性があります。
特に重要なのは、不当労働行為は「従業員個人への不当な扱い」ではなく「労働組合や組合活動に対する侵害行為」である点です。
ここでは、不当労働行為に関する基本を整理します。
労働組合法第7条[注2]では、会社による一定の行為を「不当労働行為」として禁止しています。
具体的には、労働組合や組合活動を理由とした不当な取り扱いや、団体交渉への不適切な対応等が対象です。
同条では、不当労働行為を大きく次の4つの類型に整理しています。
これらの規定は、労働組合の自主性や団体交渉制度を守るために設けられています。
不当労働行為は、パワハラやセクハラ等のハラスメントと混同されるケースも少なくありません。
しかし、不当労働行為と各種ハラスメントは、それぞれ異なる法律に基づいており、対象行為や守られる権利が異なります。
最大の違いは、不当労働行為は労働組合や組合活動に対する侵害である点です。
「従業員個人」の職場環境や、人格権等を侵害する行為とされているハラスメントとは異なります。
以下の比較表で、それぞれの違いを整理しましょう。
| 不当労働行為 | パワハラ | セクハラ | |
|---|---|---|---|
| 保護対象 | 労働組合・組合活動 | 従業員個人の人格権や就業環境 | 従業員個人の人格権や就業環境 |
| 主な法律 | 労働組合法 | 労働施策総合推進法 | 男女雇用機会均等法 |
| 典型例 | ・団体交渉拒否 ・組合員への不利益扱い ・支配介入 | ・暴言や暴力 ・脅迫や侮辱 ・過大または過小な要求 ・人間関係からの切り離し ・個の侵害 | ・性的言動 ・身体的接触 ・性的事実関係の噂の流布 ・性的関係の強要 |
中央労働委員会は、最近5年間に全国の労働委員会が扱った不当労働行為の事件処理状況を公表しています[注3]。
2021年から2025年の5年間では、不当労働行為の新規申立ては年間約200件前後でした。
終結した事件では、年間約150件前後が取消や和解により解決され、約100件前後は労働委員会の命令や決定によって処理されています。
一方で、2025年に公表された厚生労働省の資料によると、2024年度のパワハラに関する相談件数は全国で約7万件でした[注4]。
2022年度は約5万件、2023年度は約6万件と推移しており、相談件数は年々増加しています。
パワハラ等のハラスメントは個人単位のトラブルとなるため、労働組合との紛争に比べて件数が多くなる傾向があります。
[注1] 憲法/e-Gov
憲法第28条
[注2] 労働組合法/e-Gov
労働組合法第7条
[注3] 不当労働行為事件処理状況
[注4] 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況について
不当労働行為は、労働組合法第7条[注5]により定められた4つの類型が中心です。
ここでは、企業実務で注意が求められる、代表的な不当労働行為について、具体例を交えながら解説します。
不利益取扱いとは、組合への加入や組合結成の企画、活動実施等を理由に、会社が労働者に対して解雇・降格・配置転換等の不利益扱いをする行為です。
具体例は、次のとおりです。
労働者に行った処分に対して不当労働行為が主張された場合、会社は組合活動が理由ではない点を立証しなくてはなりません。
賃金や人事評価の運用が不透明な場合、組合員に対する差別的な取扱いと疑われる可能性があるため、注意が必要です。
労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、会社は正当な理由なく、交渉を拒否できません。
単に交渉に応じないだけではなく、資料の開示拒否、正当な理由なく延期を繰り返す等の不誠実な姿勢も、拒否と判断される可能性があります。
次の対応は、団体交渉拒否として問題になるケースです。
団体交渉において、必ずしも労働組合の要求を受け入れる義務はありません。
しかし、担当者の独断で交渉を拒否するのは避け、会社として誠実に対応する姿勢を示す点が重要です。
支配介入とは、会社が労働組合の運営に干渉する行為や、組合活動を弱める目的で介入する行為です。
具体的には、次の行為が該当します。
これらの行為は、会社が組合の活動に影響を与え、組合の自主性や組合活動を弱める可能性があるため、不当労働行為となり得ます。
報復的不利益取扱いとは、労働者や労働組合が労働委員会へ救済申立てを行った事実等を理由として、会社が報復的に不利益扱いをする行為です。
具体的には、次の行為が該当します。
これらの対応は、労働者の権利行使を萎縮させる恐れがあるため、禁止されています。
労働委員会への申立てや組合活動が行われた場合でも、感情的な対応を避け、通常の人事評価と分けて対応する点が重要です。
[注5] 労働組合法/e-Gov
労働組合法第7条
支配介入は、不当労働行為の中でも経営者や人事担当者等の言動が問題となりやすい類型です。
会社側としては、組合活動に直接介入している意図はなくとも、発言や対応の内容によっては不当労働行為と評価される可能性があります。
ここでは、支配介入が争点となった代表的な判例を紹介します。
裁判所や労働委員会の重視するポイントを確認しましょう。
ポスト・ノーティス(命令の掲示)とは、労働委員会が不当労働行為を認定した場合に、会社に対して命じる掲示です。
会社は、労働委員会からの命令書の要旨を社内の見やすい場所に掲示し、労働者に周知しなくてはなりません。
ネスレ日本・日高乳業事件では、会社の団体交渉拒否や組合批判が支配介入として認められました。
これに伴い、労働委員会は会社に対し、不当労働行為の事実を認め、陳謝する内容のポスト・ノーティスを命じました。
会社側は、この決定について争い、ポスト・ノーティスは憲法第19条[注5]の「思想良心の自由」に違反すると主張しました。
裁判では、ポスト・ノーティスは不当労働行為の是正や再発防止という目的のためであり、憲法第19条違反とまでは言えないと判断されました。
不当労働行為が認定された場合、会社は単に行為の是正だけでなく、ポスト・ノーティス等の措置を命じられる可能性があります。
労働組合への対応が問題とされた場合、企業イメージに影響する措置が命じられる可能性があること理解しておきましょう。
事例事件名:ネスレ日本・日高乳業事件
裁判所・部:最高裁第一小法廷
判決日:平成7年2月23日
要旨:労働委員会の決定したポスト・ノーティスを含む救済措置について、会社が異議を申し立てた事案。
裁判所は、再発防止と労働者への周知という目的に照らし、ポスト・ノーティスは合理的な救済措置として認められると判断した。
出典:中央労働委員会:労働委員会関係裁判例データベース
プリマハム事件では、社長が行った労働組合の争議行為を批判する文書の社内掲示や、その他の対応が不当労働行為として問題視されました。
具体的には、当時労働組合が実施予定だったストライキや組合幹部の対応を、社長が従業員向けの声明文で批判しました。
その他、組合が決議した臨時組合費の給与天引き(チェック・オフ)を拒否する等の行為が問題となり、救済申立てが行われました。
裁判所は、発言の内容や発表の方法、発言者の地位等を総合的に考慮した結果、組合活動に影響を及ぼし、支配介入に該当すると判断しました。
この判例のポイントは、経営トップや管理職による発言は従業員への影響力が大きいと判断された点です。
何気ない一言であっても、発言者の社内での影響力によっては、トラブルの重大なきっかけとなる点に注意しましょう。
事例事件名:プリマハム事件
裁判所・部:最高裁第二小法廷
判決日:昭和56年9月28日
要旨:賃上げ争議の際に、社長が組合幹部を批判する声明文を社内掲示した点を含む行為が、不当労働行為であるとして救済が申し立てられた事案。
裁判所は、社長の影響力等を考慮した結果、支配介入に該当すると判断した。
出典:厚生労働省 労働委員会関係裁判例データベース
[注6] 憲法/e-Gov
憲法第19条
前述したように、会社が不当労働行為を行うと、労働委員会へ救済申立てが行われる可能性があります。
救済命令に従わない場合、罰則を受けるだけではなく、損害賠償請求や社会的信用の失墜につながる恐れがあるため、注意しなければなりません。
ここでは、不当労働行為を行ったときの罰則等について解説します。
会社の対応について不当労働行為が疑われる場合、労働組合は労働委員会に対して「不当労働行為救済申立て」を行えます。
救済申立てが行われると、労働委員会は事実関係を調査し、不当労働行為の有無を審査します。
結果として不当労働行為が認められた場合、行為の内容に応じて次の措置が会社に対して命じられます。
会社には行為の是正だけではなく、再発防止のための措置が求められる点に注意しましょう。
労働委員会の救済命令が確定したにもかかわらず、会社が命令に従わない場合、以下の罰則が科される可能性があります。
命令に不服がある場合は、裁判所に対して取消訴訟の提起が可能です。
しかし、裁判で確定した判決に対応しなかった場合は以下のように、より重い罰則が科せられます。
不当労働行為は労働委員会による救済命令だけでなく、民事上の責任が問われ、損害賠償請求に発展する可能性もあります。
たとえば、不当労働行為として解雇が無効と認められた場合、以下が提起されるケースが考えられるでしょう。
また、不当労働行為が認定された場合、会社の社会的信用への影響も無視できません。
労働組合との紛争が長期化すれば、世間から「組合と争っている会社」と見られる恐れがあります。
また、労働委員会の命令は公表されるほか、ポスト・ノーティスが命じられる場合もあり、企業の社会的信用に影響を及ぼす可能性があります。
特に近年は、労務トラブルがインターネットやSNSで拡散されるケースもあるため、企業イメージ低下は重大な問題です。
[注7] 労働組合法/e-Gov
労働組合法第32条
[注8] 労働組合法/e-Gov
労働組合法第28条
不当労働行為は、意図的に行われるケースだけでなく、制度への理解不足や管理職の不適切な対応によって発生するケースもあります。
企業としては、労働組合との関係を正しく理解し、日頃から適切な対応体制を整備する姿勢が重要です。
ここでは、不当労働行為を未然に防ぐための対応策について解説します。
不当労働行為を防ぐためには、労働組合の存在意義を理解した上で、適切な距離を築く姿勢が重要です。
労働組合は、労働者の権利を守るために法律で認められた組織です。
企業が組合活動に過度に介入、あるいは組合を敵対視りする行為は、不当労働行為につながるリスクがあります。
日常的なコミュニケーションを心がけて適切な距離感を維持すれば、交渉が対立的な場面になったときでも、問題の深刻化が防げる可能性があります。
また、会社が必要以上に組合の要求を受け入れる必要はありません。
団体交渉では、会社としての経営状況や判断理由を丁寧に説明し、誠実に対応する姿勢が求められます。
不当労働行為は、経営者だけでなく、現場の管理職の発言や対応が問題になるケースも少なくありません。
管理職は日常的に従業員と接する立場にあるため、その言動が組合活動への圧力と受け取られる可能性があります。
そのため、会社は労働組合法の基本的な内容や、不当労働行為に該当する行為について、管理職向けの教育や研修を実施することが求められます。
適切な知識が共有されていれば、意図しない不当労働行為の発生防止につながることが期待できます。

不当労働行為について不安がある場合は、弁護士への早期相談が重要です。
労働組合との紛争は、専門的な法律知識を要する場面が多く、企業単独で対応すると判断を誤るリスクがあります。
ここでは、不当労働行為問題における弁護士の役割について解説します。
労働組合との紛争は、初期対応によって結果が大きく変わるケースも少なくありません。
労働組合との関係が悪化し、争いが深刻化した後では、会社の立場を十分に守れない可能性があります。
企業の立場を守るためには、団体交渉の申し入れがあったタイミングでの相談が効果的です。
早い段階で弁護士に相談すれば、適切な初期対応や有効な証拠の収集、会社を守る対応方針の検討をしやすくなります。
労働組合との団体交渉では、不当労働行為問題を防ぐためにも、弁護士の助言を受けて対応する姿勢が重要です。
また、労働委員会の手続きでは、以下のような対応が必要となるため、社内だけでの対応は負担が大きくなります。
会社が対応を弁護士に相談する主なメリットは、次のとおりです。
弁護士に相談すれば、専門的な視点から会社を守るためのアドバイスを得られます。
社内の負担を軽減し、リスクを抑える観点からも、弁護士への相談は有効です。
不当労働行為問題で対応を誤ると、労働委員会からの救済命令だけではなく、損害賠償請求や罰則等、会社にとって大きな負担につながる恐れがあります。
組合との対立が深刻化する前に、第三者である専門家の介在により解決を図る対策が、冷静な解決の鍵となります。
組合対応や不当労働行為について不安を感じたら、早い段階で労働問題に強い弁護士に相談しましょう。
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