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フレックスタイム制の清算期間とは?しくみや計算方法をわかりやすく解説

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。イギリス(ロンドン)出身。
企業の価値を支える「人」に関する問題は、ひとたびトラブルに発展すれば、組織の生産性や社会的信用を大きく損なう要因となります。私はこれまで、都内の大規模法律事務所で企業法務の最前線に立ち、多くの法人様の法的課題に向き合ってまいりました。
使用者側の視点に立ち、単に法律を適用するだけでなく、現場の規律維持や企業の持続可能性を重視したアドバイスを心がけています。特に、労使間のトラブルにおいては、迅速かつ正確な初動対応がその後の結果を大きく左右します。
「人生は演劇。あなたが台本を書き、主役を演じ、スポットライトを浴びる。」という言葉を胸に、経営者の皆様が理想とする組織運営を実現できるよう、法務のプロフェッショナルとして最適な台本作成と舞台裏のサポートに尽力いたします。親身なヒアリングを通じて、共に最良の解決を目指しましょう。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • フレックスタイム制の清算期間の基本的な考え方
  • 清算期間の長さで異なる実務上の取り扱いポイント
  • 清算期間の違いで異なる残業代の計算方法

フレックスタイム制の清算期間は、単なる勤務時間の調整期間にとどまりません。
清算期間の設定次第で、労基署への届出義務の有無や、残業代が発生する条件が大きく変わります。
この違いを正しく理解しないまま運用すると、想定外の未払い残業代が生じる恐れがあります。
制度の適正な運用が、人件費を抑えながら法的リスクも軽減する最善策となるでしょう。

この記事では、清算期間1カ月以内と1カ月超えのケースを比較しながら、残業代の計算方法など実務担当者が判断に迷いやすいポイントを整理します。

フレックスタイム制の清算期間とは

フレックスタイム制では「清算期間」の長短によって、実務における制度設計や運用の難易度が異なります。
このしくみを誤解したまま運用すると、未払い残業代等の法的リスクにつながりかねません。
まずは、清算期間の意味と基本ルールを整理します。

清算期間とは

フレックスタイム制とは、労働者が始業と終業の時間を自由に決められる制度です。
必ず働く時間である「コアタイム」を設定しない場合、1日に働く時間が1時間や10時間でも問題ありません。
そのため、日ごとの労働時間にばらつきが生じます。
このばらつきを調整するために、フレックスタイム制では一定の期間内で労働時間の過不足を清算します。
この労働時間の過不足を調整できる期間が「清算期間」です。
労働時間の貯金と欠勤とを相殺できる枠組みと考えると、イメージしやすいでしょう。

清算期間の長さ

清算期間は1カ月以内、あるいは最長3カ月まで設定できます。
清算期間を長く設定すると、月を跨いで労働時間の調整が可能となります。
たとえば、労働者が家庭の都合等で、ある月を長く働く代わりに別の月を短時間勤務にするなど、より柔軟な働き方が実現可能です。

しかし、清算期間の長短に応じて、導入に求められる要件と残業代計算のルールが異なる点には、注意が必要です。
清算期間が1カ月を超える場合は、労基署への届出が必要となるだけでなく、残業代計算や労働時間管理もより複雑になります。

清算期間の最低労働時間

清算期間における最低労働時間は、会社が自由に設定できますが、法律の上限を超えてはいけません
もし清算期間終了時に、最低労働時間に満たなかった場合は、働かなかった時間分の賃金を控除する等の対応をします。
適正に運用されていない場合、制度の有効性が否定される要因となるため、注意しましょう。

清算期間1カ月以内のフレックスタイム制のしくみ

清算期間を1カ月以内とするフレックスタイム制は、最も基本的な運用形態です。
労基署への届出が不要で、残業代の計算も比較的シンプルです。
ここでは、清算期間が1カ月以内の場合の、基本的な運用ルールを整理します。

導入要件

1カ月以内の清算期間でフレックスタイム制を導入するためには、次の2つの要件を満たさなければなりません。

  • 就業規則等への規定
  • 労使協定の締結

この2つの要件を満たせば、制度導入が可能です。
労基署へ届出を行う必要はありません。

労使協定では、制度の内容について、以下の具体的な事項を定めます。

  • 対象労働者の範囲
  • 清算期間
  • 清算期間における総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイムとフレキシブルタイム(設定する場合)

総労働時間の総枠の決め方

総労働時間とは、労働者が清算期間内に働く労働時間をいいます。
総労働時間は、1週間の平均労働時間を40時間以内として、定めなければなりません。
具体的には、以下の計算式で求めた「法定労働時間の総枠」を上限として、これを超えない範囲で設定します。

  • 清算期間の総暦日数÷7×40時間

以下は、暦日数別の法定労働時間の総枠の一覧です。

清算期間の総暦日数 法定労働時間の総枠

清算期間の総暦日数法定労働時間の総枠
31日177.1時間
30日171.4時間
29日165.7時間
28日160.0時間

なお、特例措置対象事業では、週の法定労働時間を44時間として計算できます。
対象は、常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作を除く)、保健衛生業、接客娯楽業です。

完全週休2日制の特例

清算期間が1カ月以内の場合、カレンダーの曜日の巡りによっては、清算期間の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えるケースがあります。

たとえば、稼働日が23日ある月で、1日の労働時間が8時間のケースでは、総労働時間は184時間(23日×8時間)です。
月の暦日数が31日の場合、法定労働時間の総枠は177.1時間であるため、残業をしていなくても、総枠を超えてしまいます。

これを解消する特例として、完全週休2日制かつ労使協定に定めをすれば、労働時間の限度を「清算期間の所定労働日数×8時間」に設定できます。
限度時間は184時間(23日×8時間)となるため、総労働時間が法定労働時間の総枠を超える心配はありません。

清算期間1カ月を超えたときのフレックスタイム制のしくみ

清算期間が1カ月を超えるフレックスタイム制は、月を跨いで労働時間を調整できるため、労働者にとって働き方の柔軟性が高い制度です。
一方で、導入や運用の法令上の要件は厳しくなります。
特に注意しなければならない点は、労使協定の労基署への届出です。
この手続きを怠ると、制度が成立しない危険があるため、忘れずに手続きしなければなりません。
ここでは、1カ月を超える清算期間の基本ルールを整理します。

導入要件

制度を導入するために、就業規則等への規定と労使協定の締結が必要である点は、清算期間が1カ月以内の場合と同様です。
しかし、1カ月を超える場合は、労基署への労使協定の届出が絶対条件です。
労使協定を締結するだけでは、制度は有効になりません。

制度が無効と判断された場合、通常の労働時間制として扱われます。
つまり、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた分は、すべて残業代の支払いが必要とみなされます。
手続きのミスひとつで、会社が想定していない多額の未払い残業代を支払う事態となり、経営に致命的なダメージを与えかねません。
実態や運用面に問題がないと認識していても、届出は制度を有効にするための絶対的な要件であるため、忘れずに手続きしましょう。

法定労働時間の総枠の決め方

1カ月を超える清算期間においても、1カ月以内の場合と同じく、法定労働時間の総枠の上限を守らなければなりません。
法定労働時間の総枠の計算方法は、1カ月以内と同様です。

  • 清算期間の総暦日数÷7×40時間

たとえば、清算期間が3カ月で総暦日数が92日の場合、525.7時間が上限です。
この枠内に収まる範囲で総労働時間を設定します。
なお、1カ月以内の場合と異なり、特例措置対象事業であっても、総枠の計算時に週44時間で計算できません。
すべての事業が総枠の上限を週40時間で計算する点も、1カ月以内と異なります。

さらに、清算期間が1カ月を超える場合は、総枠の上限だけではなく、1カ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えてはいけません
清算期間の総枠だけで管理する1カ月以内の場合とは異なる管理であるため、注意が必要です。

フレックスタイム制で時間外労働の計算方法

フレックスタイム制は、1日単位ではなく、設定した清算期間の単位で時間外労働を計算します。
清算期間が1カ月を超えるか否かで計算方法が異なるため、両者の違いについての理解が重要です。

ここでは、それぞれの時間外労働の計算方法を、具体的な計算例とともに解説します。

清算期間1カ月以内の残業代の計算方法

フレックスタイム制における残業時間は、日単位ではなく月単位で算出します。
清算期間終了時点で、月の実労働時間から法定労働時間の総枠を引いて確認します。
たとえば、法定労働時間の総枠と総労働時間が一致する場合の計算例は、次のとおりです。

月の暦日数:31日
実労働時間:180時間

  • 31日÷7×40時間=177.1時間…清算期間の法定労働時間の総枠
  • 180時間-177.1時間=2.9時間…時間外労働

この例では、2.9時間分の残業代の支払いが必要という結果になりました。

清算期間1カ月超の残業代の計算方法

1カ月を超える清算期間では、残業代は大きく2段階で計算されます。
次の2つの時間に対して、残業代の支払いが必要です。

【1】1カ月ごとに週平均50時間を超えた分
【2】上記カウント分を除き、清算期間全体で法定労働時間の総枠を超えた時間

清算期間の総枠を超えた分に加え、月ごとの労働時間にも残業代精算が必要な点が、1カ月以内との大きな違いです。

ここでは、以下の条件下での残業代を実際に計算します。

清算期間の総労働時間の総枠実労働時間週平均50時間となる月間の労働時間数週平均50時間を超える時間数
4月(30日間)220時間214.2時間5.8時間
5月(31日間)230時間221.4時間8.6時間
6月(30日間)160時間214.2時間0時間
合計520時間610時間14.4時間

第1段階として、まずは「1カ月ごとに週平均50時間を超えた分」を確認します。
週平均50時間となる月間の労働時間数の計算式は、次のとおりです。

  • 月の総暦日数÷7×50時間

4月と5月の実労働時間数は週平均50時間を超えています。
この超過分(4月5.8時間・5月8.6時間)の残業代は、それぞれの月の賃金支払日に支払わなければなりません。

第2段階では清算期間終了後に「清算期間全体で法定労働時間の総枠を超えた時間」を確認します。
このとき、すでに支払った残業時間分を含めると二重払いとなるため、忘れずに控除しましょう。
そのうえで3カ月の実労働時間の合計から、法定労働時間の総枠を超えた時間分の残業代を精算します。
具体的な計算例は、次のとおりです。

610時間-(5.8時間+8.6時間)-520時間=75.6時間

このケースでは、各月の残業代とは別に、清算期間終了時に75.6時間分の残業代の支払いが必要という結果になりました。

総労働時間が不足するケース

実務では、実労働時間が総労働時間に不足するケースがあります。
この場合、不足した時間分を賃金から控除する方法か、あるいは次の清算期間に不足した時間を繰り越す方法があります。
しかし、次の清算期間に不足時間分を繰り越す場合は、不足分と次の清算期間の総労働時間の合計が、法定労働時間の総枠の範囲内でなければなりません。
不足時間分を足すと法定労働時間の総枠を超える場合は、賃金控除が必要となるため、注意しましょう。

まとめ

フレックスタイム制は柔軟な働き方を実現できる制度ですが「24時間使い放題の残業」ではない点に、十分な注意が必要です。
特に1カ月を超える清算期間を設定した場合の届出漏れは、制度自体を無効にする恐れがあります。
自社の制度に不安がある場合は、制度設計と運用を定期的に点検しましょう。

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