

東京弁護士会所属。新潟県上越市出身。
労働問題は、一歩対応を誤れば損害賠償だけでなく、企業の信用失墜や従業員の士気低下、ひいては経営基盤を揺るがす重大なリスクとなります。
私は、野村證券をはじめとする金融機関で10年以上にわたり、リテール営業からコンサルティング、金融庁との折衝やリスク管理まで、多方面の業務に従事してまいりました。これらの経験から、企業の数字と法務は密接にリンクしており、労働問題を「点」ではなく「経営の一部」として捉えることの重要性を痛感しております。
経営者側の立場に立ち、財務分析や資金調達の観点も含めた戦略的なアドバイスを行うことが私の強みです。単に紛争を解決するだけでなく、組織の持続的な発展を見据えた強固なガバナンス構築のお手伝いをいたします。経営者の皆様の良き相談相手として、誠実かつ論理的にサポートさせていただきます。

この記事でわかること
降格処分は、懲戒処分や人事権の範囲内として実施される場面が多い一方で、手続きを誤ると違法と判断される可能性があります。
特に、会社側の主観が先行すると、紛争に発展しやすい傾向があります。
会社が処分を検討する際は、違法となるポイントを事前に把握する姿勢が重要です。
この記事では、降格処分が違法となるケースを整理し、実際に降格処分が争点となった判例から、裁判で重視されるポイントを解説します。
あわせて、違法と判断されるリスクを避けるための手続きを紹介していきます。
目次
降格とは、従業員の役職や職位を、上位から下位へ引き下げる手続きです。
降格が行われる理由は「人事権の行使」と「懲戒処分」の2つに分かれます。
いずれも、従業員には賃金の減額等の不利益が伴うため、処分は慎重に検討しなければなりません。
降格処分が違法とされる代表的なケースは、次の5つです。
ここでは、それぞれのケースを詳しく解説します。
懲戒処分として降格を行う場合、就業規則等による根拠の存在が前提条件です(労基法第89条[注1])。
懲戒の種類や対象行為が明記されていなければ、降格処分は行えません。
人事権の行使における降格は、就業規則等への規定は必ずしも求められていません。
しかし、降格が労働条件の不利益変更等に該当する場合は、合理的な理由が求められるため、規定への明記が望ましいとされます。
また、職務遂行能力によって等級や賃金を決定する職能資格制度では、原則、等級が引き下げられる処分は想定されていません。
そのため、職能資格を引き下げる場合は、就業規則上の規定が必要です。
嫌がらせや見せしめ等の目的がある降格処分は、人事権行使と懲戒処分の双方において、違法となるケースが高まります。
特に、降格処分の前後の状況は重要です。
たとえば、退職勧奨に応じなかった従業員に対して降格処分を行う場合、嫌がらせや退職へ追い込む目的があると評価されやすくなります。
降格処分には、賃金減額が伴うケースが一般的です。
しかし、大幅に賃金が減額される等、経済的不利益が大きい場合は、違法となる可能性が高まります。
降格処分に配置転換や転勤等を伴う場合は、従業員の生活状況によっては不利益が大きく、違法と判断されるケースもあるため、注意が必要です。
人事権や懲戒権の濫用と判断されるケースでは、降格処分が違法と判断されます。
たとえば、職種限定の労働契約にも関わらず、職種変更を前提に降格を行った場合、正当な人事権行使が否定されやすくなります。
懲戒処分は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければ、懲戒権の濫用として無効です(労契法第15条[注2])。
懲戒処分としての降格は、一般的に懲戒解雇や諭旨解雇等に次いで重い処分であるため、処分には相応の理由が必要です。
会社が処分について合理性を説明できなければ、違法と評価されやすくなります。
パワハラやセクハラ、マタハラの一環として行われた降格処分は、違法です。
たとえば、妊娠や出産、育児休業を理由とする降格処分は、マタハラに該当する可能性があります。
上司が意に沿わない言動を行う部下等に対して、嫌がらせや報復として降格を行った場合も、パワハラやセクハラが問題となるケースがあります。
[注1]労働基準法/e-Gov
労働基準法第89条
[注2]労働契約法/e-Gov
労働契約法第15条
新和産業事件(大阪高裁2013年4月25日判決)は、営業職課長であった原告が、降格に伴う配置転換及び賃金減額の有効性を争った事案です。
会社は、原告が営業職としての適正を欠くと判断し、降格及び配置転換を行いました。
しかし、裁判所は、処分の必要性や合理性に乏しく、従業員が被る不利益も著しく大きいとして、降格処分を違法と判断しました。
事例事件名:新和産業事件
裁判所は、以下の事情を踏まえ、処分の有効性を否定しました。
会社には従業員の適性や業務成績を考慮し、降格や配置転換等を行う人事権が認められています。
しかし、業務上の必要性が乏しい場合や、過度な不利益を伴う処分は、違法と判断される可能性がある点に注意しなければなりません。

降格処分は、直ちに違法と判断されません。
処分に至るまでの手続きや運用に問題がある場合、後から違法と判断される可能性が高まります。
降格処分が違法とならないためには、以下の手続きが重要です。
ここでは、それぞれの手続きについて、詳しく解説します。
降格を検討する際は、人事権の行使であるか懲戒処分かを問わず、処分に至った事実関係を整理しましょう。
処分理由が曖昧、または事実関係の確認が不十分な場合、権利の濫用と判断される可能性が高まります。
事実関係の整理におけるポイントは、次の通りです。
懲戒処分として降格を行う場合は、さらに次の点も確認が必要です。
業績表や人事考課表等の関係書類、メールやチャットの履歴等は、処分の合理性や判断過程を説明するための重要な証拠となります。
後から振り返れる形で、必ず保存しておきましょう。
降格処分が懲戒処分に該当する場合、 就業規則等における根拠の存在が前提となります。
特に次の2点は、必ず確認しましょう。
規定が存在していても、処分の条件や判断基準が抽象的な場合、処分の決定は慎重に検討する必要があります。
問題行動に対し、処分が重過ぎる場合は懲戒権の濫用と判断されて無効となる恐れがあります。
なお、人事権の行使の場合、労働契約の内容に反していないか、事前に確認しておく点も重要です。
降格処分を行う前に、本人に対して弁明の機会を与える手続きも欠かせません。
これは、人事権の行使・懲戒処分のいずれの場合でも共通して重要です。
弁明の機会を設けないまま、一方的に処分を決定すると、手続きの公正さを欠くとして、権利の濫用と判断されるリスクが高まります。
会社が把握している事実と異なる主張があった場合には、必要に応じて再調査も検討しましょう。
また、本人の反省の程度や改善の可能性を踏まえ、処分を再検討する姿勢も、後の紛争防止につながります。
降格処分により、従業員にどの程度の不利益が生じるかを検討する視点も重要です。
特に、賃金が大幅に減少する場合は、処分の相当性が厳しく判断される傾向があります。
減額幅や変更後の業務内容とのバランスを、慎重に確認しましょう。
不利益が過度に大きい、あるいは嫌がらせや不当な目的があると評価されると、降格処分が無効と判断される恐れがあります。
降格処分を行う場合は、処分内容や理由を書面で通知する点が重要です。
口頭のみの説明では、処分の経緯や判断過程が不明確となり、後で紛争へ発展する恐れがあります。
書面には、降格を行う主旨、処分理由、根拠となる就業規則の条文、発令日等を整理して記載しましょう。
降格処分は、人事異動や懲戒処分として用いられる制度ですが、判断や手続きを誤ると、後から違法と評価される可能性があります。
特に、裁量権が会社にあると判断し、十分な検討を行わずに処分を行った場合、権利行使の濫用として、違法と判断される可能性が高まります。
処分の妥当性や進め方に迷った際は、早い段階で専門家のサポートを受ければ、不要なトラブルを回避できるケースも少なくありません。
VSG弁護士法人では、労務問題に精通した弁護士が、降格処分の妥当性の判断や制度設計の見直しまでトータルサポートしています。
従業員の降格処分についてお悩みの場合は、VSG弁護士法人にお気軽にご相談ください。