

東京弁護士会所属。イギリス(ロンドン)出身。
企業の価値を支える「人」に関する問題は、ひとたびトラブルに発展すれば、組織の生産性や社会的信用を大きく損なう要因となります。私はこれまで、都内の大規模法律事務所で企業法務の最前線に立ち、多くの法人様の法的課題に向き合ってまいりました。
使用者側の視点に立ち、単に法律を適用するだけでなく、現場の規律維持や企業の持続可能性を重視したアドバイスを心がけています。特に、労使間のトラブルにおいては、迅速かつ正確な初動対応がその後の結果を大きく左右します。
「人生は演劇。あなたが台本を書き、主役を演じ、スポットライトを浴びる。」という言葉を胸に、経営者の皆様が理想とする組織運営を実現できるよう、法務のプロフェッショナルとして最適な台本作成と舞台裏のサポートに尽力いたします。親身なヒアリングを通じて、共に最良の解決を目指しましょう。

この記事でわかること
名ばかり管理職とは、管理職の肩書きを有するにも関わらず、管理職に見合った権限や待遇が与えられていない状態を指します。
裁判では「職務内容と権限」「勤務態様」「待遇」の3つの観点から、管理職性が厳しく判断されます。
管理職性が否定されると、未払い残業代請求等の金銭的リスクに発展しかねないため、判例を理解して対策する姿勢が重要です。
この記事では、名ばかり管理職を巡る裁判例と、管理職運用を点検できるチェックリストを紹介します。
自社の実態と照らし、規程や運用を見直せる内容のため、参考にしてください。
目次
名ばかり管理職とは、職位上は管理職とされている一方で、実態は管理職としての権限や裁量、待遇が伴っていない状態をいいます。
判例等により示されている「名ばかり管理職に該当するか」の判断基準は「職務内容と権限」「勤務態様」「待遇」の3点です。
ここでは、名ばかり管理職の問題となる理由と、管理職性の判断基準について詳しく解説します。
労基法では、経営者と一体の立場で業務を行う者を管理監督者とし、労働時間、休憩、休日の規制の対象外としています(労基法第41条2号[注1])。
そのため、一般的に管理職には、時間外労働や休日労働に対する割増賃金は支払われません。
しかし、名ばかり管理職の場合、肩書きは管理職であっても、経営判断や人事へ関与する権限は限定されています。
管理職ではない従業員と比べて業務内容や労働時間に対する裁量、待遇に大きな差がないにも関わらず、残業代のみが支払われない状況です。
こういった実態は、管理職としての要件を満たさないと評価され、裁判では違法と判断される可能性が高まります。
管理職性が否定された場合、通常の労働者と同じ扱いとなるため、未払い残業代が生じます。
数年分に遡って請求を受けるケースもあり、会社へのダメージは想定以上に広がる恐れがあるため、放置は望ましくない問題です。
裁判では、管理職性の判断にあたり、肩書きや会社の制度設計よりも次の3つの実態が重視されます。
いずれか1つを満たせば管理職性が認められるわけではありません。
3つの点を総合的に評価する点が重要です。
裁判所が管理職性の判断基準を示した代表的な判例として、日本マクドナルド事件(東京地裁2008年1月28日判決)があります。
この判例は、役職名や形式的な裁量、名目上の手当だけでは、管理職と認められない点を示した重要な判例です。
事例事件名:日本マクドナルド事件
この裁判は、店舗店長が、残業代が支払われない扱いについて争った事案です。
企業は店長を管理職として位置づけていたため、時間外労働に対する割増賃金を支払っていませんでした。
これに対し、裁判所は「管理監督者には当たらない」と判断し、未払い残業代等の支払いを会社に命じています。
裁判所は、管理監督者性の有無を、形式ではなく実態から判断しています。
その際、3つの基準を軸に、個別事情を総合的に検討しました。
店長は、店舗の責任者として、以下のような店舗運営上の重要な業務を担当していました。
しかし、裁判所は、こうした権限や職務内容が重要な職務だと認めつつも、権限が店舗内に限定されていた点を重視しています。
経営全体や人事方針に関与する立場とは言えず、管理職性を肯定するほどの権限はないと評価しました。
「店舗責任者である」「採用やシフト作成は一任している」という事情だけでは、管理職性を肯定できない点が重要です。
勤務態様については、労働時間を自ら調整できる裁量があるかが検討されました。
形式上は、店長には出退勤時刻を決める権限があり、遅刻や早退に上司の許可も不要でした。
しかし、裁判所は、実際の業務内容や人員体制を踏まえると、自由に労働時間を調整できる状況ではなかったと評価しています。
名目上ではなく、現実に裁量が行使できていたかが重要です。
待遇面では、賃金水準や手当が、管理職に見合う内容かが検討されました。
店長にはインセンティブが支給されていましたが、同様の手当は一般従業員にも支給されていました。
裁判所は、これらの事情を総合的に考慮し、管理職という職責に見合う賃金とは言えないと評価しています。
単に管理職手当を設けているだけでは足りず、残業代を支払わない代替措置として合理的かが判断ポイントです。
ここでは、職種ごとに管理職性が争われた裁判例を扱います。
先に示した3つの基準(職務内容・権限/勤務態様/待遇)をポイントに、裁判所の判断を確認しましょう。
看護師の募集や労務管理に従事していた人事第2課長が、管理監督者に該当しないとして、割増賃金の支払いを求めた事件です。
裁判所は、管理職性を総合的に考慮した結果、管理監督者の地位にあったと認めました。
【職務内容・権限】
看護師の採否や配置といった重要な労務管理に関与しており、経営者と一体的な立場に近い役割と評価されました。
【勤務態様】
出退勤について形式的な時間管理はありましたが、実際は労働時間に裁量が認められおり、厳格な制限は受けていませんでした。
【待遇】
責任手当・特別調整手当が支給されており、時間外割増賃金の代替としての処遇が認められました。
事例事件名:徳洲会事件
土木施工技術者である現場監督が、解雇無効と管理職性の有無を争った事案です。
裁判所は、現場監督であった者の管理職性を否定し、休日労働に対する割増賃金の請求を認めています。
【職務内容・権限】
単に工事現場において従業員の配置を決めるだけではなく、従業員の採用や考課、労務管理上の方針決定等に関わっていたかが重視されました。
しかし、こういった権限があった事実を示す証拠が不十分であったため、管理職性は否定されました。
【勤務態様】
会社は、現場監督者に労働時間を自由に決められる裁量があると主張しました。
しかし、この事実を支持する十分な証拠はなかったため、労働時間を自由に決められる裁量はなかったと評価しています。
【待遇】
管理職手当といえる明確な優遇は認められず、管理職性が否定されました。
事例事件名:光安建設事件
幹部社員と称された営業職の従業員が、管理職性やその他の労働条件(退職慰労金規定の変更等)について争った事案です。
実態を総合的に考慮した結果、管理職性は否定されました。
【職務内容・権限】
部下に対して指導する権限はありましたが、一般的な管理指導の域を超えず、経営判断への参画は認められませんでした。
【勤務態様】
欠勤や朝礼への遅刻、直行直帰する際に、上司への報告・了承を得る手続きが求められており、自由裁量があったとは認められませんでした。
【待遇】
幹部社員には、他の従業員と比べて高額な賃金(役職手当20万円を含む)が支給されていました。
しかし、この事実のみをもって、管理職性が認められる判断にはなりませんでした。
事例事件名:日本機電事件

ここでは、会社の管理職運用を点検するためのチェックリストを紹介します。
以下の項目に多く当てはまる場合、管理職性が否定されるリスクが高まるため、対策が必要です。
職務内容・権限のチェック項目は、以下のとおりです。
勤務態様のチェック項目は、以下のとおりです。
待遇のチェック項目は、以下のとおりです。
名ばかり管理職は、肩書きではなく実態で判断されます。
判例では「職務内容や権限」「労働時間の自由裁量」「待遇」の、3つの基準から管理職性が総合的に判断されています。
会社は、管理職運用の実態を定期的に点検し、名ばかり管理職問題を早期に是正する姿勢が重要です。
専門家である弁護士に相談をすれば、客観的な視点で、自社の現状の問題点について評価を得られます。
自社の管理職運用に不安がある場合は、VSG弁護士法人へお気軽にご相談ください。