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固定残業代が違法になるケース5つ!正しく制度を運用するポイント

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。イギリス(ロンドン)出身。
企業の価値を支える「人」に関する問題は、ひとたびトラブルに発展すれば、組織の生産性や社会的信用を大きく損なう要因となります。私はこれまで、都内の大規模法律事務所で企業法務の最前線に立ち、多くの法人様の法的課題に向き合ってまいりました。
使用者側の視点に立ち、単に法律を適用するだけでなく、現場の規律維持や企業の持続可能性を重視したアドバイスを心がけています。特に、労使間のトラブルにおいては、迅速かつ正確な初動対応がその後の結果を大きく左右します。
「人生は演劇。あなたが台本を書き、主役を演じ、スポットライトを浴びる。」という言葉を胸に、経営者の皆様が理想とする組織運営を実現できるよう、法務のプロフェッショナルとして最適な台本作成と舞台裏のサポートに尽力いたします。親身なヒアリングを通じて、共に最良の解決を目指しましょう。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 固定残業代制が違法と判断されたときの具体的なリスク
  • 固定残業代を有効に運用するための実務上のポイント
  • 制度を見直す際のチェックポイント

固定残業代制を導入して「毎月定額を支払っているから残業代対策は万全」と考えている企業は少なくありません。
しかし、この認識は会社に大きな金銭的損害をもたらしかねない、危険な思い込みです。
近年の裁判例では、固定残業代の有効性について、企業側に厳しい基準が示されています。
正しい制度設計と運用の両方が揃っていなければ、固定残業代は無効と判断されるリスクがあるため、自社の運用を定期的に見直しましょう。

この記事では、固定残業代が違法と判断される具体的なリスクと、正しく運用するためのポイントを解説します。
会社を守るための「固定残業代の正しい運用方法」を学んでいきましょう。

固定残業代制で違法と判断されるリスク

固定残業代制は、残業代計算の事務手続きを軽減させ、人件費の見通しを立てやすくする制度です。
正しく設計・運用できていれば、企業にとって有効なしくみといえます。
しかし、法律の要件を満たしていない場合、固定残業代制は無効となる恐れがあります。
制度が無効となったときの会社側の具体的なリスクは、次の3つです。

  • 支払っていた固定残業代が基本給の一部として扱われる
  • 過去にさかのぼって残業代が全額再計算される
  • 付加金や遅延損害金の支払いが命じられる

ここでは、それぞれのリスクについて、詳しく解説します。

支払い済の固定残業代が基本給の一部とみなされる

固定残業代制度が無効と判断された場合、それまで残業代の対価として支払っていた固定残業代は、残業代ではなく「基本給の一部」とみなされます。
これは、固定残業代の名目で支払っていた金額まで含めた額が、割増賃金の計算基礎になるという意味です。
つまり、会社が想定していた基本給よりも高い金額を前提に、残業代を再計算しなければなりません。
残業が多い会社であれば、再計算による影響は大きくなります。

過去の残業代が再計算される

制度が無効と判断されると「残業代は支払われていなかった」とみなされます。
そのため、過去の残業時間を基に未払い残業代を改めて計算し、支払わなければなりません。

残業代の消滅時効は、原則として3年です(2020年4月1日以降の支払い分から[注1])。
3年分の勤怠データを洗い直し、残業代を全額支払うとなれば、金額が一気に膨らむケースも少なくありません。
特に、1人の労働者からの残業代請求がきっかけとなり、その他の労働者からも請求された場合、費用総額は多額となるケースがあり得ます。

付加金や遅延損害金が発生する

未払い残業代が認められた場合、残業代に加え、追加の金銭負担が生じる可能性にも注意が必要です。
裁判所は、未払い残業代の発生について、会社側の悪質性が高いと判断した場合、未払い賃金と同額の付加金の支払いを命じるケースがあります。

さらに、支払いが遅れた期間については、遅延損害金が加算されます。
遅延損害金は、本来賃金を支払う日の翌日が起算日です。
利率は、労働者が在職中の場合は、年3%(民法第404条2項[注2])ですが、退職者の場合は14.6%(賃金支払確保法第6条1項[注3])となります。

未払い残業代に加えてこれらが重なると、支払総額が億単位に達するケースも決して珍しくありません。

[注1]未払賃金が請求できる期間などが延長されています

[注2]民法/e-Gov
民法第404条2項

[注3]賃金の支払の確保等に関する法律/e-Gov
賃金支払確保法第6条1項

固定残業代制を正しく運用するときのポイント

固定残業代制を有効に機能させるためには、運用面のルール設計と継続したチェック体制が重要です。
以下のチェックリストを参考に、実務で見落としがちなポイントを確認しましょう。

  • 雇用契約書・就業規則にルールが明記されているか
  • 固定残業時間と金額が適切に設定されているか
  • 給与明細で固定残業代が分かりやすく表示されているか
  • 基本給部分が最低賃金を下回っていないか
  • 残業時間の超過分を毎月正しく精算しているか

ここでは、それぞれのポイントを、さらに具体的なチェックリストと共に解説します。

雇用契約書・就業規則にルールが明記されているか

固定残業代制度を導入するためには、雇用契約書や就業規則に明確なルールを定めなければなりません。
場以下のような合は、制度が無効となるリスクが高まります。

  • 規定が存在しない
  • 内容が周知されていない
  • 個別の合意がない

また、記載は「何時間分の残業代なのか」「いくらが残業代なのか」を明確にしなければなりません。
以下の記載例とチェックリストを確認しましょう。

【記載例】

  • 悪い例:基本給35万円(固定残業代を含む)
  • 良い例:基本給35万円(固定残業代5万円/時間外労働10時間分を含む)

悪い例は、固定残業代部分の時間数や設定時間が不明確です。

【チェックリスト】

  • 雇用契約書や就業規則に、固定残業代を導入する旨が記載されているか
  • 固定残業時間と金額が具体的に明示されているか
  • 基本給と固定残業代が明確に区別されているか

固定残業時間と金額が適切に設定されているか

固定残業代として設定する時間数や金額は、法律の要件を満たして適切に定めなければなりません。

固定残業時間を月45時間以内とする設定は、36協定の上限を踏まえた実務上の安全ラインです。
例外として、特別条項付きの36協定を締結している場合は、月45時間を超える定めが可能です。
しかし、特別条項はあくまでも臨時的で特別な事情がある場合に限り、本来の上限を超えられます。
常に上限を超えた長時間労働を前提とすると、労基署から指摘を受けやすくなるため、注意が必要です。

また、設定金額は、基礎賃金に対し法定の割増率である25%以上で計算された金額でなければなりません。
割増賃金の性質がなければ、時間外労働の対価として支払われたとは言えないため、制度が無効となる可能性が高まります。

【チェックリスト】

  • 固定残業時間は原則として月45時間以内に設定されているか
  • 特別条項付き36協定を理由に、過大な時間数を設定していないか
  • 基礎賃金に対し、割増率25%以上で計算された金額になっているか
  • 「残業代として支払っている」と説明できる計算根拠があるか

給与明細で固定残業代が分かりやすく表示されているか

給与明細は、労働者が固定残業代の支払い状況を確認する上で、重要です。
必ずしも「固定残業代」という名称で支給する必要はありませんが、労働者が一目で支給項目と金額を把握できる記載にしましょう。

【チェックリスト】

  • 固定残業代を独立した項目として明示しているか
  • 基本給と固定残業代が同じ欄で混在していないか
  • 固定残業時間数が明示されているか
    (例:「固定残業代 10時間分5万円」)

基本給部分が最低賃金を満たすかの確認

固定残業代を除いた基本給部分が、最低賃金を下回っていないかも重要な確認ポイントです。
特に、支払総額で給与を決めてから基本給と固定残業代を振り分ける方法では、最低賃金割れが起こりやすくなります。

【チェックリスト】

  • 固定残業代を除いた基本給部分が最低賃金を満たしているか
  • 地域別最低賃金の改定に合わせて見直しているか

毎月の残業代差額の確認

あらかじめ定めた固定残業時間を超えて残業した場合は、超過分の残業代を必ず支払わなければなりません。
たとえば、固定残業時間20時間で、実際の残業時間が30時間だった場合、差分の10時間分を追加で支払う必要があります。
残業代が精算されていない場合、未払い残業代となるだけではなく、制度の有効性が認められない可能性もあるため、注意しましょう。

【チェックリスト】

  • 実際の残業時間を正確に把握できているか
  • 固定残業時間を超えた分を漏れなく計算しているか
  • 固定残業時間と実残業時間を分けて管理しているか

まとめ

固定残業代は、設計や運用を誤ると、会社にとって将来大きな金銭的負担となりかねない要素です。
特に違法な状態で運用し続けると、従業員の退職時に未払い残業代請求として、一気に問題や負担が表面化します。
こういったリスクを避けるには、トラブルが起きる前に弁護士へ相談し、適切な運用のための支援を受けましょう。

VSG弁護士法人では、弁護士と社労士がチームを組み、賃金体系の法的リスク診断から、就業規則の再整備、労基署対応まで一貫して支援します。
運用に不安を感じた場合は、無料相談もあるため、お気軽にご相談ください。

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