

東京弁護士会所属。新潟県上越市出身。
労働問題は、一歩対応を誤れば損害賠償だけでなく、企業の信用失墜や従業員の士気低下、ひいては経営基盤を揺るがす重大なリスクとなります。
私は、野村證券をはじめとする金融機関で10年以上にわたり、リテール営業からコンサルティング、金融庁との折衝やリスク管理まで、多方面の業務に従事してまいりました。これらの経験から、企業の数字と法務は密接にリンクしており、労働問題を「点」ではなく「経営の一部」として捉えることの重要性を痛感しております。
経営者側の立場に立ち、財務分析や資金調達の観点も含めた戦略的なアドバイスを行うことが私の強みです。単に紛争を解決するだけでなく、組織の持続的な発展を見据えた強固なガバナンス構築のお手伝いをいたします。経営者の皆様の良き相談相手として、誠実かつ論理的にサポートさせていただきます。

この記事でわかること
従業員からパワハラで訴えられた場合、初動対応のミスは、その後の会社のリスクや責任に深刻な影響を与えます。
数百万円に及ぶ損害賠償請求や、企業名の公表による社会的評判の低下等、取り返しのつかないリスクに発展しかねません。
こうした事態を防ぐために、ポイントを押さえた初動対応や、状況に応じた出口戦略の検討が重要です。
この記事では、パワハラを訴えられたときに会社がやってはいけない行動と適切な初動対応を整理します。
あわせて、会社に生じるリスクや費用、出口戦略の考え方から、トラブルを防ぐために平時から取り組める社内体制まで解説します。
目次
従業員からパワハラを訴えられたとき、対応を誤ると問題は一気に深刻化しかねません。
特に次のような行動は、会社の責任を重くし、紛争の長期化や損害拡大を招きやすいため、注意が必要です。
ここでは、それぞれの対応の危険性について解説します。
従業員からパワハラの訴えを受けたにもかかわらず、対応の先送りや放置をしてはいけません。
会社には、従業員が安全に働ける環境を整える義務(労働契約法第5条[注1])があり、パワハラへの対応もその一部に含まれます。
そのため「個人間の問題」と判断して無関心の姿勢を続けると、違法と評価される恐れがあります。
対応が遅れるほど、被害が長期化・拡大化し、結果として損害賠償額が増えるリスクも高まるため、注意が必要です。
訴えの内容を十分に確認・調査しないままでパワハラを否定、即座に反論する行為も望ましくありません。
社内担当者の個人的な見解に基づく感情的な反論は、二次被害につながる恐れがあり、会社の責任が問われやすくなります。
調査が不十分な段階で、個人的な判断や思い込みに基づく対応は避け、加害者をかばう発言も控えましょう。
申告者に対する異動や降格等の、不利益な取扱いは法律で禁止されている行為です(労働施策総合推進法第30条の2第2項[注2])。
異動等に業務上の必要性や、パワハラ被害の拡大化を防ぐための配慮する意図がある場合は、申告者に誤解を与えない丁寧な説明を心がけましょう。
報復的な対応と受け取られた場合、会社の法的責任が拡大する可能性があります。
[注1]労働契約法/e-Gov
労働契約法第5条
[注2]労働施策総合推進法/e-Gov
労働施策総合推進法第30条の2第2項
パワハラで訴えられた直後の対応は、その後に会社が負う責任の重さにも直結します。
適切な対応を行うために、次のチェックリストに沿って対応しましょう。
ここでは、それぞれのチェックポイントについて詳しく解説します。
はじめに、申告者、行為者、目撃者等の関係者それぞれに丁寧にヒアリングします。
先入観を持たず、公正な姿勢で発言内容や時系列を整理しましょう。
この段階で収集したヒアリング記録や、メール・チャット履歴、防犯カメラ映像等は、後の法的手続きでも重要な証拠となります。
単なる事実認定の調査にとどまらず、将来の紛争を見据えた記録化と証拠管理を意識して対応しましょう。
メール、チャット履歴、防犯カメラ映像等の証拠は、入手段階で適切に保全する必要があります。
対応の遅れや不十分な管理は、データの削除や改ざんの恐れがあり、事実認定にも悪影響が生じかねません。
原本の保管、データへのアクセス権限を制限する等、担当者以外が不用意に触れられない体制整備の構築が、有効な証拠確保のために重要です。
調査方法や対応の進め方に不備があった場合は、事実認定を誤る原因となり、かえって問題をこじらせる恐れもあります。
調査結果を踏まえ、パワハラに該当するかの判断を行う場面も、法律の知識や裁判例の理解が必要であるため、容易ではありません。
そのため、できるだけ早い段階で使用者側専門の弁護士に相談し、調査の進め方や今後の対応方針を整理しましょう。
専門家が関与すれば、不要なリスクを避けつつ、適切な解決方針の検討が進みやすくなります。
事実関係の調査中であっても、パワハラの訴えがあった時点で、被害の拡大を防ぐ配慮が求められます。
被害者と加害者の座席変更や一時的な業務・配置の調整等、被害者の意向を踏まえて暫定的な隔離措置を検討しましょう。
こうした対応を怠ると、被害が継続・拡大し、会社の管理責任がより厳しく問われる可能性があります。
パワハラ問題が起きたとき、「労働基準監督署から注意(是正勧告)を受けて終わり」と考えてしまうのは大きな間違いです。
もし被害者から裁判を起こされ、会社側が負けてしまった場合、会社は多額の慰謝料や賠償金を支払わなければなりません。ここでは、会社が法律上どのような責任を問われるのか、3つに分けて解説します。
パワハラが業務の延長線上で行われたと認められる場合、その雇い主である会社も一緒に責任を負わなければいけない可能性があります(民法第715条)。
会社は、従業員の業務活動によって利益を得ているため、従業員が他人へ与えた損害についても責任を負うと考えられているためです。
使用者責任が認められた場合、パワハラの加害者本人だけではなく、会社にも損害賠償責任が及ぶ点について、理解しておきましょう。
会社には、従業員が安全に働ける職場環境を整える安全配慮義務があります(労働契約法第5条[注4])。
パワハラ問題を把握しながら十分な対応を取らなかった場合、安全配慮義務違反による債務不履行責任が問われる可能性があります。
たとえば、相談窓口の不設置などパワハラ防止措置が十分でない場合や、訴えを無視する行為は、安全配慮義務違反と評価されやすいポイントです。
初動対応の遅れや体制の不備が、法的責任の重さにつながる点を理解しておく必要があります。
パワハラが原因で従業員がうつ病などのメンタルヘルス不調に陥ったり、最悪のケースとして自殺に至ったりした場合、会社は労災(労働災害)としての補償を求められます。
特に注意したいのが、会社側にたとえ明確な「悪意」がなかったとしても、業務が原因で病気になったと認められれば補償を免れないという点です。また、国の労災保険だけでは賄いきれない損害分(慰謝料など)については、会社が自腹で支払う「上乗せの賠償」が必要になるケースがほとんどです。
[注3]民法/e-Gov
民法第715条
[注4]労働契約法/e-Gov
労働契約法第5条
パワハラで訴えられた場合、最終的な解決の形について明確な方針を持つ必要があります。
解決の方向性を定めないまま、場当たり的な対応を続けると、最終的に時間・金銭コストが増大しかねないためです。
経営リスクを最小限に抑えるためには、会社への影響を十分に検討した上で、出口戦略を決定しましょう。
主な選択肢として「示談による早期解決」と「裁判で徹底的に争う」2つの方向性があります。
事実関係に大きな争いがなく、紛争の長期化による負担が重い場合は、示談による解決が現実的な選択肢となります。
裁判に比べて解決までの期間を短縮しやすく、社内外への影響を抑えられる点が大きなメリットです。
また、裁判は原則公開されるため、会社の評判低下リスクがありますが、示談ではこういったリスクを避けられます。
示談で弁護士が介入する最大のメリットは、感情的な言い値ではなく、過去の裁判例に基づいた「適正相場」で交渉をまとめられる点にあります。
さらに、弁護士が「口外禁止」や「追加請求の禁止」を盛り込んだ法的拘束力の強い示談書を作成することで、将来の蒸し返しを完全に防ぎ、早期に幕引きを図れる可能性がたかくなります。
不当な請求に安易に応じてしまうと、他の従業員に会社のパワハラ対応について不信感を与えかねません。
そのため、調査の結果からパワハラの事実が認められない場合等では、裁判で「事実無根」として争う判断も考えられます。
しかし、裁判を選択する場合は、勝敗の見通しだけでなく、時間やコスト等の経営面への影響も慎重に検討する必要があります。
早い段階で弁護士に相談し、日報やメール、周囲の証言から法的に有効な証拠を組み立てた上で方針を決定しましょう。
専門知識を駆使して「パワハラではなかった」と論理的に証明することで、不当な請求を退け、会社の正当性を公的に勝ち取れる確率が格段に高まります。
パワハラで訴えられた場合、会社にとって大きな関心事の1つが費用負担です。
実際には、次に挙げる複数の費用が発生する可能性があります。
ここでは、それぞれの費用について発生条件や相場を解説します。
損害賠償や慰謝料の金額は、パワハラの内容や継続期間、被害の大きさによって異なります。
比較的軽微な事案では10~30万円程度が相場です。
一方で、被害者が退職や休職に追い込まれた場合は、未払い賃金や休業損害が加わり、数百万円規模に達する可能性もあります。
しかし、慰謝料の請求額について、裁判所が認める金額は過去の判例や被害状況に応じて変化します。
請求額と支払額が必ずしも一致しない点は、理解しておきましょう。
示談は、会社が一定の金額を支払う形で、裁判に進まずに紛争を終結させる方法です。
金額は慰謝料相当額をベースに、早期解決のメリットや、将来的なリスクを避ける目的を加味して決まります。
紛争が長期化した場合に、時間や費用のコストが膨らむリスクを避ける選択肢として、示談が有効となる場面もあります。
パワハラを訴えられた場合、弁護士に対応を依頼する企業は少なくありません。
費用体系と金額は、弁護士事務所により異なるため、見積もり等で個別に確認しましょう。
一般的に想定される費用と相場は次のとおりです。
弁護士に対応を依頼すれば、請求内容を法的観点から精査し、根拠が不十分な主張や過大な請求を整理できる可能性があります。
その結果、不当な高額請求を退け、解決のためにかかる支払総額を適正な範囲に抑えられるメリットがあります。

パワハラ問題は、発生後の対応だけでなく、普段からの防止体制が重要です。
日頃の防止策を適切に整備すれば、トラブル自体の発生を防ぐだけではなく、訴訟リスクや万が一の際の会社の責任も軽減されます。
具体的には、次の取り組みがあります。
ここでは、それぞれのポイントを詳しく解説します。
労働施策総合推進法[注5]により、すべての企業にはパワハラ防止措置を講じる義務があります。
具体的には、会社として「パワハラを許さない」という姿勢を、経営トップによるメッセージ発信・社内規程への記載を通じて、明確に示します。
一度きりではなく、継続的に周知する取り組みも重要です。
あわせて、相談窓口の設置や、全従業員を対象としたパワハラ防止研修を実施します。
形式的に終わらせず、定期的な見直しを行い、職場全体に意識を根づかせる姿勢が重要です。
パワハラ対策の実効性を高めるためには、就業規則等の社内規定の整備が欠かせません。
パワハラを懲戒事由として位置づけるためには、規定による明確な根拠の存在が大前提です。
また、処分基準が曖昧なままでは、処分の妥当性を損ない、法的手続きにおいて会社に不利益がもたらされる恐れもあります。
既に規則が存在する場合でも、現場で実際に運用できる内容になっているか、定期的な見直しが重要です。
パワハラは、早期に相談・対応できれば深刻化を防げるケースも少なくありません。
そのため、相談があった場合の調査手順や役割分担を事前に明確にする体制が重要です。
特に、ヒアリングや調査を担当する者は、対応次第で二次被害を生じさせるリスクがあります。
対応マニュアルの整備や、担当者向けの研修を行い、適切な対応を取るための支援を行いましょう。
また、パワハラと認定されなかった場合でも、社内で事例を共有する再発防止措置も重要です。
このとき、相談者や行為者等のプライバシーに十分配慮すれば、従業員が安心して相談できる職場環境につながります。
体制構築に不安がある場合は、弁護士などの専門家の支援を受け、実効性の高いしくみを整えましょう。
[注5]労働施策総合推進法/e-Gov
パワハラで訴えられた場合、初動対応の判断ミスひとつで、会社が負うリスクや負担は大きく変わります。
事実確認が不十分なまま対応を進める、または感情的な判断は、紛争の長期化や想定外の損害に発展しかねません。
訴えられたときは、まずは迅速かつ公正に事実関係の調査を行い、法的対応を見据えて証拠の確保、被害者の保護措置を適切に行いましょう。
トラブルになる前に弁護士へ相談すれば、会社のリスクや損害を軽減するためのサポートを得られます。
パワハラ対応や労務トラブルでお悩みの場合は、VSG弁護士法人へお気軽にご相談ください。