この記事でわかること
コロナ禍を経て、近年急速に定着してきたリモートワーク。
ワークライフバランスの改善につながるため、政府は2025年度までにリモートワーク普及率25%を目指す目標を掲げています。
より柔軟な働き方が可能になった一方、労働法の適用範囲については注意が必要です。
リモートワーク導入時には労働者の権利を保護しつつ、企業の法的リスク軽減に努めるようにしましょう。
この記事では、労働法が適用されるリモートワークの種類や、導入時に注意すべき労働法、企業に求められる対応を解説します。
リモートワーク・テレワーク・在宅勤務は、いずれもオフィスや店舗など所定の勤務地以外の場所で働くことを指します。
ほぼ同じ意味ではありますが、実際に勤務する場所に違いがあります。
リモートワークとは、「remote(遠隔)」と「work(働く)」を組み合わせた言葉です。
実際に働く場所には自宅の他、社外のサテライトオフィスやコワーキングスペース、カフェなどが含まれます。
労働者は出勤する必要はありませんが、働く場所が指定されるケースがあります。
テレワークは、基本的にリモートワークと同じ意味です。
国や自治体では主に「テレワーク」を用いています。
在宅勤務とは、労働者が自宅で仕事をすることです。
働く場所が「自宅」に限定されている点で、リモートワークやテレワークと異なります。
リモートワークは就業形態によって、「雇用型」と「自営型」の2つに大別されます。
両者の違いを大まかにまとめると次の通りです。
雇用型リモートワークは、企業が採用した労働者に対して、遠隔地での作業を許可して実施します。
雇用契約を結んでいるため、オフィスで働く一般的な労働者と同じ扱いになります。
一方、自営型リモートワークを行う個人事業主は企業に雇われているわけではないため、自由に勤務地を選べるのが特徴です。
近年では、インターネットを介して不特定多数の個人(フリーランスなど)に業務を発注する企業が増えてきています。
雇用型リモートワークは、企業と労働者が雇用契約を結んでいる点で、オフィスなどで働く一般の労働者と立場は変わりません。
このため、雇用型リモートワークで働く労働者にも労働法が適用されます。
一方、自営型リモートワークは雇用契約下にないため、労働法の適用対象となりません。
ただし、業務委託契約を結んでいるつもりでも、実質的な働き方が雇用契約と同等であれば、労働者と認定される可能性があります。
一言で労働法といっても、「労働法」という名称の法律があるわけではありません。
この言葉は、あくまでも労働に関わる様々な法律を総称したものです。
リモートワーク導入時に、企業が特に押さえておくべき労働法は「労働基準法」「労働安全衛生法」「労働災害補償保険法」の3つです。
法律名 | 概要 | 具体的な内容 |
---|---|---|
労働基準法 | 労働者の基本的な労働条件を定めた法律 | 労働時間の規制や有給休暇の取得、時間外労働手当など |
労働安全衛生法 | 労働者の健康を守るための法律 | 健康診断実施の義務など |
労働災害補償保険法 | 労働に起因する疾病や労働中の災害に対する補償制度を規定した法律 | 労災保険の認定基準など |
リモートワークにおける労務トラブルを防ぐためにも、導入時には労働法に基づいた取り決めをしておくようにしましょう。
リモートワークの導入時に注意すべき労働基準法の規定は、次の通りです。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
企業は雇用契約を締結する際に、労働者に対して労働条件を明示する義務があります(労働基準法第15条)。
明示すべき労働条件には、賃金や労働時間、就業場所が含まれます。
つまり、リモートワークを予定している場合には、就業場所として自宅やサテライトオフィスなどを明示する必要があります。
一定の場所ではなく流動的な働き方をしてもらいたい場合には、より柔軟な運用ができるよう「使用者が許可する場所」のように規定できます。
また、リモートワーク時に就業時間の変更を認める運用をする際には、就業規則に記載するようにしましょう。
リモートワーク時には使用者の目が届きにくく、正確な労働時間を把握しづらい課題があります。
プライベートと就業時間の境目がなくなると、過度の長時間労働を招き、結果として労働者の健康を害する恐れがあります。
このため、使用者はリモートワーク時にも労働時間を把握するよう努めなければなりません。
特に残業時間を管理していないと、時間外労働の手当を支給する際に問題になるリスクがあります。
労働時間を記録する方法としては、一般的にパソコンの使用時間の記録が用いられます。
自己申告による労働時間の把握も可能ですが、パソコンの使用時間と著しく乖離が生じる場合には注意が必要です。
なお、リモートワーク中にはいわゆる「中抜け時間」が問題になりがちです。
具体的には、次のような内容を定めておくようにしましょう。
リモートワークを導入すると、労働者の働き方が見えにくくなり、評価の正当性が問題となります。
リモートワーク導入時には、従来の評価制度や賃金制度が妥当かどうか、改めて確認する必要があるでしょう。
リモートワーク時の評価制度や賃金制度を変更する際には、就業規則に記載し、労働者の理解を求めなければなりません。
評価制度や賃金制度は、労働者のモチベーションに大きく関わります。
リモートワークを利用する労働者と、利用しない労働者の双方が納得できるような制度を設定するようにしましょう。
労働者がリモートワークをする際には、通信費や光熱費、情報端末の購入費などの一部費用が増加する可能性があります。
リモートワークによって増加した費用については、企業が補填するのが原則です。
オフィスで働く場合における光熱費やオフィス用品などと同様、仕事をする上で必要不可欠な費用と見なされるためです。
なお、リモートワーク時の費用を労働者に負担させるためには、就業規則に定める必要があります(労働基準法89条)。
もっとも、自宅でリモートワークをしていると、経費と経費以外の線引きが難しいケースもあります。
あらかじめ労使間で話し合いを行い、不公平感のない取り決めをするようにしましょう。
リモートワークの導入時に注意すべき労働安全衛生法の規定は、次の通りです。
リモートワークで働く労働者に対しても、健康確保のための措置を行う必要があります(労働安全衛生法66条)。
具体的な措置としては下記のような内容が挙げられます。
リモートワークは仕事とプライベートの境界が曖昧になり、長時間労働を招きやすいとされています。
過重労働の傾向がある場合には、医師による面談指導や産業医への情報提供を行い、労働者の健康を確保するよう努めましょう。
また、孤立感やコミュニケーション不足によるメンタルヘルス不調の予防対策のため、定期的なストレスチェックの実施も重要です。
自宅やサテライトオフィスなどでリモートワークをする際には、仕事に適した環境かどうか確認しましょう。
具体的には、下記のような項目がチェック対象となります。
リモートワーク環境に不十分な点があれば、必要に応じて環境整備のアドバイスを行い、適切な作業環境の確保に努めましょう。
リモートワーク中に生じた事故や災害についても、企業側が補償責任を負います。
業務上の災害として労災認定がされると、労災保険の給付の対象となります。
ただし、業務と直接関係のないプライベートな行為を原因とした事故や災害は、労災保険の範囲外とされます。
たとえば、自宅で就業時間内にパソコン作業をしていた場合を考えてみます。
資料を取りに行くために椅子から立ち上がった際、コンセントなどに足を引っ掛けて転倒したとします。
これは業務に関連する事故であり、プライベートな行為ではないため、労災保険が適用される可能性が高いでしょう。
リモートワークは、労働者の柔軟な働き方を実現する制度です。
導入にあたっては労働法に従いつつ、生産性を維持する仕組みを整える必要があります。
ここでは、リモートワーク導入時に企業がすべき3つの対策を解説します。
リモートワークを導入する際には、労働法に従って労働者を管理しなければなりません。
事業所で働くことを前提にした古い就業規則では、リモートワークにうまく適用できない可能性があります。
最悪の場合には、労働者とのトラブルに発展するリスクが考えられます。
トラブル防止のためにも、リモートワーク導入時には就業規則を見直す必要があります。
労働条件や評価・賃金制度がリモートワークに適しているかをよく検討し、必要に応じて就業規則を変更します。
リモートワークにより就業規則を変更する際は、労働者への周知をして理解を得るよう努めましょう。
リモートワークの導入にあたっては、生産性を維持するための工夫も重要です。
従来とは働き方が大きく変わるため、労働者が混乱してしまわないよう、研修制度の拡充をおすすめします。
特に、入社や異動のタイミングでリモートワーク導入となると、通勤型では行いやすいOJT(On the Job Training)による教育が困難になる恐れがあります。
リモートワークの基本的なルールを理解し、必要なスキルを獲得するためのサポート体制が必要になるでしょう。
リモートワーク時には、コミュニケーション向上や業務効率化を図るためのITツールの導入が不可欠です。
リモートワークは労働者が別々の環境で働くため、どうしてもコミュニケーションが取りづらくなります。
労働者間の情報共有や進捗管理にも、問題が生じがちです。
ITツールをうまく利用して、離れた場所であってもスムーズな共同作業ができるよう工夫しましょう。
なお、情報漏洩や不正アクセスを防止するため、セキュリティ対策を行ったITツールを選択する必要があります。
雇用契約を結んでいる労働者にリモートワークを導入する場合、労働基準法や労働安全衛生法などの労働規定が適用されます。
就業規則に記載する労働条件や評価制度などについても、リモートワークの実態に合わせて見直すようにしましょう。
就業規則の内容や労働者の理解が不十分だと、リモートワークを導入した後に労働トラブルが発生するリスクがあります。
労働法を遵守しつつ、労使関係の悪化を防ぐためにも、弁護士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。