この記事でわかること
- 一人親方が従業員を雇用する際には届け出が必要なことがわかる
- 従業員を雇ったときに社会保険の手続きが必要な場合があることがわかる
- 雇用保険に加入する際の手続や必要書類について知ることができる
独立して一人親方として仕事をしている人が、事業拡大により従業員を雇用しようか検討することがあります。
はじめて従業員を雇用する際には、これまで必要なかった手続きが必要となるため、忘れないようにしなければなりません。
このような手続きは従業員のためでもあり、また雇用した事業主のためにも重要な意味があるものです。
どのような手続きが必要となるのか、前もって確認しておきましょう。
建設業の個人事業主=一人親方?一人親方とは
「一人親方」という言葉が一般的によく使われます。
この一人親方とは、建設業などに従事する人によく見られる事業形態のことです。
一人親方という場合、建設業などの業種に携わる個人事業主を指します。
個人事業主であるため、会社に雇用されている従業員や労働者とは異なります。
そのため、一人親方は雇用保険に加入することができず、また最低賃金や労働時間などの保護を受けることもありません。
ただ、実態としては元請け会社の指示のもと、仕事を請け負っているだけというケースもあります。
そのため、完全な個人事業主とは言い切れない場合もあり、労働組合法など一部の法律では労働者として扱われることもあります。
一人親方自身やその従業員に関して、労働保険や社会保険の環境整備を重視する流れが強まっています。
一人親方が従業員を雇用したときには、必ず労働保険に関する手続きは必要となるため、忘れてしまうことのないようにしましょう。
従業員を雇ったときには届け出が必要
従業員を雇った時点で、従業員を雇用保険に加入させなければなりません。
この場合、従業員というのは年間100日以上勤務する人をいいます。
100日以上勤務するのであれば、アルバイトやパートでもこの手続きをしなければなりません。
また、雇用する事業主は個人であっても法人であっても、その手続きには違いはありません。
そのため、一人親方が従業員を雇用する際にも、この手続きが必要になるのです。
雇用保険に加入する手続きは、公共職業安定所(ハローワーク)で行います。
そのため、原則的には事業主が自らハローワークに出かけて、その手続きを行うこととなります。
ただし、中小企業や個人事業主の場合、雇用保険に関する手続きを労働保険事務組合に委託するケースが多いと思います。
これは、労働保険事務組合に事務処理を委託すると「労働保険の特別加入」が認められるためです。
労働保険の特別加入とは、労働者ではない一人親方や中小企業主、法人の役員についても労災保険の対象とする制度です。
労働保険という名称のとおり、労働保険は本来労働者、つまり従業員を対象とした制度です。
そして、業務上や通勤途上の負傷や疾病に対して保険給付が行われます。
しかし、小規模な事業者については、労働者と同じように働いている雇用主が大半です。
そのため、労働者に準じて保護する必要がある事業主については、特別に加入が認められているのです。
ただ、この特別加入をするためには、労働保険事務組合に事務処理を委託しなければなりません。
一人親方の場合、従業員だけでなく自身も労災保険の対象とする方が望ましいというケースが多いと思います。
また、雇用保険を含む労働保険に関する手続きを自分でしなくてもいいというメリットもあります。
そのため、従業員を雇った場合には、労働保険事務組合に手続きを依頼するところから始めてみてはいかがでしょうか。
社会保険への加入が必要なケースも
一人親方が従業員を1人でも雇うと雇用保険に加入する手続きが必要になることはわかりました。
ところで、従業員が加入する公的保険制度には、他に社会保険(健康保険・厚生年金)があります。
これらの制度への加入義務は、どのような場合に発生するのでしょうか。
一人親方が個人事業主として事業を行っている場合、従業員を5人以上雇用した場合に社会保険の加入義務が生じます。
一方、法人として事業を行っている場合には、社会保険は強制的に適用されます。
そのため、個人事業として事業を行っている人の多くは、社会保険に加入する義務はないこととなります。
ただ、個人として国民健康保険と国民年金には加入しなければなりません。
従業員を雇用し、事業主として社会保険に加入義務がある場合はその手続きを忘れないようにしなければなりません。
もちろん、社会保険への加入義務がなくても、国民健康保険や国民年金への加入は必須です。
労災保険や社会保険、国民健康保険への加入番号などを、現場入場必要書類に記載しなければならない場合があります。
これらの加入手続きを怠ってしまうと、請け負った仕事ができない状態となる場合もあるため、注意が必要です。
雇用保険の加入方法と必要書類
従業員を雇用した事業者は、雇用保険と労災保険をあわせた労働保険に加入する手続きを行う必要があります。
手続きの流れとしては、まず労働基準監督署で労働保険加入の手続きを行います。
その後、雇用保険に関する手続きをハローワークで行います。
特に、初めて従業員を雇用する場合はこの順番が重要なので、間違えないようにしましょう。
労働基準監督署での手続き
初めて従業員を雇用した事業者は、「労働保険保険関係成立届」を労働基準監督署に提出しなければなりません。
また、事業形態を確認するため、自宅で開業している人は住民票、自宅以外で開業している人は事務所賃貸契約書の写しが必要です。
これらの書類を提出することにより、従業員を雇用する事業者であることを国に届け出たこととなります。
この労働保険保険関係成立届は、初めて従業員を雇ってから10日以内に提出しなければなりません。
初めての従業員を迎え入れて慌ただしい中での手続きとなるため、前もって準備しておく必要があります。
また、従業員を雇用してから50日以内に「労働保険概算保険料申告書」を作成して提出しなければなりません。
このとき同時に、概算の保険料について納付する必要があります。
ハローワークでの手続き
労働基準監督署で労働保険の開始に関する手続きを終えたら、ハローワークで雇用保険に関する手続きを行わなければなりません。
まずは「適用事業所設置届」を提出し、雇用保険加入対象者を雇った事業所であることを届け出ます。
これは、事業所として初めて従業員を雇用したことを報告する内容のものです。
この届け出は、従業員を始めて雇用してから10日以内に提出しなければなりません。
このとき、労働基準監督署にも提出した住民票か事務所賃貸契約書と、労働保険保険関係成立届の控が必要となります。
また、税務署に提出した開業届の控え、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿かタイムカード、雇用契約書を一緒に提出します。
また、雇用保険の対象となる従業員に関して、「被保険者資格取得届」を提出します。
これは、従業員を雇用した後、翌月10日までに提出する必要のあるものです。
2人目以降、新たに従業員を雇用した際には、その都度届出を行う必要があるのです。
まとめ
一人親方として事業活動を行っている人の中には、労働保険や社会保険に関する手続きを重視していない人もいます。
しかし、現実的に仕事を続けていくため、そして万が一の保証のためには、これらは欠かせないものなのです。
特に従業員を雇用した場合、その処理を適切に行わなければ、後から罰則が適用されるリスクは高くなります。
問題を従業員から指摘されることのないような状況にしておきましょう。