この記事でわかること
- 経営事項審査とはどういうものなのかについて理解できる
- 令和4年における経営事項審査の改正内容がわかる
- 経営事項審査の改正に向けての対策がわかる
令和4年に改正された経営事項審査は、令和5年8月14日以降を審査基準日とする申請においてすべての改正が適用されています。
令和4年の改正に関しては、担い手の育成・確保や環境への配慮、災害対応力の強化に重点が置かれたことにより「その他の審査項目(社会性等)(W)」の加点項目や対象範囲が増えました。
今回は、経営事項審査の意義について改めて確認し、既に施行されている改正点や今後の対策について考えていきます。
経営事項審査とは
経営事項審査とは、国や地方公共団体等の公共工事に元請として入札参加する際に必ず受けなければならない審査です。
公共工事の競争入札に参加する場合には、各発注機関の資格審査に申請しなければなりませんが、その前提として経営事項審査が必要となります。
各発注機関は「客観的事項」と「発注者別評価」の審査結果を点数化して格付けしますが、そのうちの「客観的事項」に該当するのが経営事項審査です。
発注公共工事の発注規模等は、各発注機関が定めた格付けによって決まります。
そうした意味で、格付けの重要な指標となる経営事項審査の評点はとても重要です。
経営事項審査は建設業者の通信簿
経営事項審査の内訳は、以下の経営規模(X)、技術力(Z)、その他の審査項目(社会性等)(W)、経営状況(Y)に大別されます。
- 経営規模(X)
1年間の完成工事高や利益額、自己資本によって経営規模を数値化します。 - 技術力(Z)
技術職員数や元請完成工事高により、技術力を数値化します。 - その他の審査項目(社会性等)(W)
各種社会保険加入の有無や建設業の経験年数、防災活動などの社会性を数値化します。 - 経営状況(Y)
登録経営状況分析機関が、財務諸表をもとに売上高経常利益率や純資本売上総利益率などの客観分析を行います。
総合評定値(P)は、経営規模等評価(X、Z、W)の結果と経営状況分析(Y)の結果により算出され、結果は「経営規模等評価結果通知書・総合評定値通知書」として通知されます。
経営事項審査は決算報告のタイミングで行う
経営事項審査は、直前事業年度の決算報告を行った後に申請します。
申請時には登録経営状況分析機関による「経営状況分析結果通知書」が必要となりますので、あらかじめ経営状況(Y)の分析を済ませておかなくてはなりません。
経営事項審査の有効期間は、経営事項審査の審査基準日から1年7か月です。
有効期間が過ぎてしまうと公共事業の受注ができなくなるので、重複期間を設けて切れ目なく継続していくことが求められます。
【令和4年】経営事項審査の改正内容
令和4年の改正では、社会性等(W)の項目新設や範囲の拡大がメインとなっています。
今回の経営事項審査改正の背景には、建設業における「担い手の育成・確保」や「環境への配慮」「災害対応力の強化」といった3つの意図があります。
- 担い手の育成・確保
下請負人の従業員に対する処遇改善など、積極的な取り組みを経営事項審査の加点に反映させることが背景としてあります。
また、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の取り組みも、担い手の育成・確保に資するものとして評価することとしています。 - 環境への配慮
脱炭素を含めた環境問題への取り組みを適切に評価する観点から、環境マネジメントに対する国際的な認証であるISO14001だけでなく、中小企業でも取得しやすい「エコアクション21」の認証取得状況も加点対象に追加することが検討にのぼりました。 - 災害対応力の強化
現行の加点対象の6種類の建設機械の他にも、災害の現場で活躍している建設機械もあるとの声もあることから、種類の拡大が検討されました。
ワーク・ライフ・バランスに関する取組の新設
ワーク・ライフ・バランス(WLB)に関する項目は、令和5年1月1日以降の申請から適用されており、女性の活躍、子育て、若者の雇用や育成の3分野から成ります。
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく認定の状況」
「えるぼし」とは、女性の活躍推進の取組が優良であることを厚生労働大臣が認定する制度です。
- 「プラチナえるぼし」配点5点
- 「えるぼし(第3段階)」配点4点
- 「えるぼし(第2段階)」配点3点
- 「えるぼし(第1段階)」配点2点
「次世代育成支援対策推進法に基づく認定の状況」
「くるみん」とは、子育てサポート企業であることを厚生労働大臣が認定する制度です。
- 「プラチナくるみん」配点5点
- 「くるみん」配点3点
- 「トライくるみん」配点3点
「青少年の雇用の促進等に関する法律に基づく認定の状況」
「ユースエール認定制度」とは、若者の採用や育成に積極的な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度です。
- 「ユースエール」配点4点
各配点のうち、最も配点の高いものが加点されます。
就業履歴の蓄積のために必要な環境を整備
CCUC(建設キャリアアップシステム)を用いて工事現場情報等を作成し、CCUCと連携した工事現場の就業履歴蓄積装置を整備した場合に加点評価されます。
「建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況」の項目として、令和5年8月14日以降を審査基準日とする申請で適用されています。
CCUCは、技能労働者の資格や社会保険加入状況、就業実績などを横断的にデータ蓄積することによって、労働条件改善に寄与する仕組みです。
加点対象は、以下のとおりです。
- 審査対象工事のうち、民間工事を含む全ての建設工事で該当措置を実施した場合には評点15点
- 審査対象工事のうち、全ての公共工事で該当措置を実施した場合には評点10点
ただし、日本国内以外の工事、建設業法施行令で定める軽微な工事、災害応急工事は除きます。
建設機械の加点対象の拡大
建設機械の所有及びリース台数の項目において、災害時の復旧作業に使用される建設機械の種類が拡大されました。
令和5年1月1日以降の申請から適用されています。
これまで加点対象となっていた建設機械
- ショベル系掘削機(特定自主検査)
- ブルドーザー(特定自主検査)
- トラクターショベル(特定自主検査)
- モーターグレーダー(特定自主検査)
- 移動式クレーン(つり上げ荷重3t以上)(製造時検査又は性能検査)
- 大型ダンプ(土砂の運搬が可能な最大積載量5以上)(自動車検査)
令和5年1月1日から加点対象となる建設機械
- ダンプ(土砂の運搬が可能な全てのダンプ)(自動車検査)
- 締固め用機械(特定自主検査)
- 解体用機械(特定自主検査)
- 高所作業車(作業床の高さ2m以上)(特定自主検査)
審査基準日から1年7か月以上の使用期間を有することが評価対象となり、台数に応じて15台まで加点されます。
エコアクション21の認証取得状況も加点対象に
環境への配慮に関する取り組みとしては、これまでISO14001のみが加点対象でしたが、エコアクション21も加点対象に加わることになりました。
エコアクション21は、ISO14001規格を参考としながらも、中小事業者にとって取り組みやすい環境省が定めた環境経営システム規定です。
ISO14001では加点5に対して、エコアクション21は加点3です。
同時に登録している場合は、ISO14001の加点5になります。
令和5年1月1日以降の申請から適用されています。
監理技術者講習受講者の期間調整
これまでは「監理技術者講習受講から5年間加点可能」となっていた規定が「監理技術者講習を受講した日の翌年の開始日から5年間加点可能」に改正されました。
建設業法上専任の監理技術者として配置可能な期間と、経審上加点可能な期間にずれが生じていたのを是正するのが目的です。
令和4年8月15日以降の申請から適用されています。
総合評定値算出係数の改正
その他の審査項目(社会性等)(W)に項目が増えたことにより、W点のウェイトが大きく増加しました。
各項目間のバランスを維持するため、総合評定値を算出するための係数変更です。
技能労働者等の適正な評価の新設に合わせ、令和5年8月14日以降を審査基準日とする申請から適用されています。
総合評定値算出係数の改正
令和4年の経営事項審査改正は、令和5年8月14日以降を審査基準日とする申請以降から、すべてにおいて適用されています。
今回改正されたのは(W)点のみです。
(W)点は、全ての業種の評点に関わってくる項目なので、取りこぼしのないよう追加された建設機械について入念にチェックしていきましょう。
ワーク・ライフ・バランスへの取り組み
女性活躍推進法に基づく認定の「えるぼし」、次世代法に基づく認定の「くるみん」、若者雇用促進法に基づく認定の「ユースエール」のうちの高い点数が加点されます。
認定取消又は辞退が行われている場合は加点対象とはなりません。
各サイトの一覧で審査基準日現在において認定を受けていることを確認し、各認定の「基準適合事業主認定通知書」「基準適合一般事業主認定通知書」を提示します。
CCUS上の現場登録及びカードリーダー設置
CCUSに関する評価については、元請けとして加点に必要な措置を講じているとの誓約書を提出します。
加点の要件は、以下の3点全てを満たしていなくてはなりません。
- CCUS上での現場・契約情報の登録
- 建設工事に従事する者が直接入力によらない方法※で、CCUS上に就業履歴を蓄積できる体制の整備
※直接入力によらない方法とは、就業履歴データ登録標準API連携認定システムにより、入退場履歴を記録できる措置を実施していること等を指します - 経営事項審査申請時に様式第6号に掲げる誓約書(建設工事に従事する者の終業履歴を蓄積するために必要な措置を実施した旨の誓約書及び情報共有に関する同意書)の提出
審査基準日以前1年以内に発注者と請負契約を直接締結した工事(軽微な工事や災害応急工事を除く)が対象です。
たとえば審査基準日が令和5年8月14日の場合の対象期間は、令和4年8月15日から令和5年8月14日となります。
追加する建設機械の洗い出し
これまでは加点が認められていなかった建設機械も対象になりますので、取りこぼしのないように入念にチェックしましょう。
今回の追加分は、以下のとおりです。
- ダンプ(土砂の運搬が可能な全てのダンプ)(自動車検査)
- 締固め用機械(特定自主検査)
- 解体用機械(特定自主検査)
- 高所作業車(作業床の高さ2m以上)(特定自主検査)
それぞれの車両ごとに裏付け資料が異なりますので、あらかじめ準備しておきましょう。
審査基準日から1年7か月以上の使用期間を有することが評価対象なので、売買契約書やリース契約書、各種検査証を準備しておきましょう。
公共事業で高まるエコアクション21の評価
各都道府県の競争参加資格審査では、エコアクション21を加点対象とする動きが広がっていることに加え、今回の経営事項審査での加点もあることから、今後はますます重要度が増してくると予想されます。
ISO14001とエコアクション21双方の認証を取得している場合には、ISO14001の評点で加点されます。
まとめ
今回は、令和4年の経営事項審査改正について、意義の再確認から改正点、今後の対策について解説いたしました。
令和5年度より、あらゆる工事におけるCCUSの完全実施を目指すことが原則とされ、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みを評価する自治体も増えてきています。
そして、今回の経営事項審査の改正。
今後は雇用や環境といった社会的な動きに配慮しながら、どのような施策を講じるべきかについて検討を進めていくこと、特に専門家との連携が重要になってくるでしょう。